新第6話 舞台完成
ルディールとスナップに近づく気配が記憶にあったので作業を一旦とめて、その方向を向き声をかける。
「おお、アバランチの隊長殿に雪山先生。お久しぶりじゃな」
そこには隣国スノーベインの親衛隊の隊長とスノーベインでは吹雪の女王の次に強いと言われる老魔法使いがいた。
隊長は親しげにルディールに軽く挨拶をし老魔法使いは丁寧に頭を下げ挨拶をする。
「雪山先生は月一ぐらいで来るからわかるんじゃが……隊長殿はどうしたんじゃ?」
「ノーティア様がリベット村に遊びに行くと言い出したので、護衛と言う名のサボりですよ」
「お主な……まぁ、ミーナも休みでおるし火食い鳥もおるからのう遊び相手にはこまらんじゃろ。と言うか親衛隊なのに遊んでおって良いのか?」
「私が一人かけたぐらいで落とされる城ならもうないですよ」と言って豪快に笑い次は雪山が話す。
「私の方はいつもの湿布を頂きに来たのと隊長と同じノーティア様の護衛ですね。リベット村の村長様に聞くとこの辺りにいるとの事でしたのでこちらに来ました」
「雪山先生の腰もなかなか治らんのう」
「いえ、ルディール様のおかげでほとんど治っていますが歳のせいもありますし、まだ寒い時期ですからね」
「スノーベインに温かい時期があった記憶がないんじゃが?」
ルディール臨時講師の仕事を始める前に雪山がちょうどリベット村に来ていたので、その時にお互いに講師の事や腰の事を相談し合い、試しに庭に生えている世界樹をすりつぶして湿布を作ったのがよく効いたようで腰痛が悪化すると取りに来て魔法談義をする仲になっていた。本人はそれが世界樹と知ってか知らないでかは分からないが。
スナップが家にいるスイベルに通信用魔道具で連絡し世界樹湿布を用意するように頼んでいると隊長がルディールに何か面白い事をやっているなと聞いた。
「ん?ノーティアに聞いたのか?」
「はい。リベット村の祭りの目玉で武道会を開くと聞きましたよ。ノーティア様が楽しそうにミューラッカ様と話していたので耳にしました」
その光景を想像すると楽しそうに話すノーティアの横で少しだけ口元を緩めたミューラッカが、そうかと言ってる場面が簡単に想像できルディールを笑わせた。
「その場面が簡単に想像できるのう……まさかとは思うがミューラッカは出んよな?」
「ルディールさんが出ないと分かると一気に興味を無くしまして……半分拗ねた様になってましたね~。当日はお忍びでノーティア様の晴れ舞台を見にくるようですが」
今の話に聞き捨てならない台詞があったのでルディールは即座に聞き返す。
「なんで地方の祭りにミューラッカがくるんじゃ、スノーベインのトップじゃろ……国際問題にならぬか?」
ルディールの言葉が面白かったのか隊長は一人で大笑いした後に雪山にたしなめられてから質問に答える。
「ルディールさん何を今更……スノーベインのトップはノーティア様ですよ?ノーティア様が参加するのでミューラッカ様が遊びに来ても問題無いですよ」
「あっ……そうじゃったな。スノーベインはそんな国じゃったな……って納得する訳ないじゃろ!国のトップ1、2が来るんじゃからローレット王国にも報告とかせんといかんじゃろ!」
「じゃあ、それをルディールさんがしますか?とてもめんどくさいですよ?問題なんて起こらないのでよく似た人が来たぐらいに思っておく方が楽ですよ?」
その言葉を聞いたルディールは報告すると絶対にめんどくさい事になるのは分かっていたので隊長の手を取り世の中にはそっくりな人が三人はいるからのうと肩を組み笑い合った。
「絶対に後で問題になりそうですわ……」
「大丈夫じゃ!問題を起こすのはミューラッカぐらいじゃ!」
「そういう事です。まぁ大丈夫とは思いますがミューラッカ様が切れたらルディールさんお願いします」
「問題を起こすのが分かっておるんじゃから氷都から出ないように言っておいてくれ」
「言うと喜んで出て来ますからね~。雪崩のような災害と思って諦めてください。あと、私と雪山先生も出ようと思いますのでよろしくお願いします」といって隊長と雪山はルディールに頭を下げる。
ルディールも二人の強さは見た事は無かったが聞いた事はあったので参加するのは少し意外だった。
「聞いた話じゃがお主も先生も相当な実力者じゃろ?出てどうするんじゃ?優勝して酒代でも稼ぐのか?」
「はい。部下と飲みに行こうかと。と言うのは冗談でノーティア様を優勝させないのが目的と後はバルケの強さを久しぶりに見てやろうかと」
その答えがピント来なかったルディールは頭にハテナマークを浮かべていると雪山が笑いながら説明する。
ミューラッカも大昔はとても静かで優しい王女だったが自分の周りに強者がほとんどおらずに色々あって今の様な性格になったのでノーティアも天狗にならないように敗北を教えておくとの事だった。
「ノーティアは大丈夫な気もするがのう」
「私も大丈夫とおもいますよ。孫のような子なので成長を自身の目で見たいと言うのが本音ですね」
「なんというか流石は雪山先生じゃな。隊長はバルケと酒飲み友達じゃしな。あやつもかなり強くなってるから油断しておると負けるぞというか隊長とバルケの力量差はどんなもんなんじゃ?」
「そうですね~、昔のバルケが1バルケだったら私は3バルケぐらいですね。私も亀の歩みで特訓してますからなかなか強いですよ?たぶん」
その強いか弱いか分からない隊長の発言にルディールとスナップが困っていると、雪山がルディール達の後ろに積み上げられた石畳に気がつき質問する。
「ルディール様、それが舞台の石畳ですか?」
話の流れを変えるついでに魔法のスペシャリストが目の前にいたので、強度的に少し脆いと思ったので相談する。
すると隊長も雪山も少し失礼と言ってからその石畳を一枚ずつ取り、簡単に割り魔法で粉々に砕いた。
「どうじゃ?わらわとしては少し脆いと思うんじゃが……」
隊長はこれはこれで有りだと言い、理由を聞くと簡単に割れるので、割れた所から地面に落とせば勝ちになるだろうから戦いの幅が広がると話した。
「そういうのもありじゃな」
雪山の方はその戦い方もありだが舞台そのものを壊れにくくする方法もあると話した。
「魔法で固める方法も考えたんじゃがあまり硬くしすぎると危なく無いか?」
「大丈夫ですよ。本気ではありますが殺し合いではありませんし、それに私が思っていた方法はスノーベインの城を作る技術と同じで永久氷壁を作ってからその上に石畳を置くだけですから」
ルディールはスノーベインにある氷の城で戦った時の事を思い出しその魔法を使えないので雪山に頼むと喜んでと言ってくれたのでルディールは礼を言って手伝ってもらう事にした。
石畳の数は足りていたのでルディールの魔法で全てを浮かせてから四人で舞台を設置するリベット村の中央まで運んで行く。
村に近づくに連れ子供達に絡まれたりするハプニングもあったが何とか目的地までたどり付く。
「この辺りが舞台になるんじゃが、雪山先生どうしたらいいんじゃ?」
「設置したらもう終わるまでは移動させませんか?」
「うむ。村長にも確認を取ったが大丈夫と言っておったから大丈夫じゃな」
雪山はではもう舞台にしてしまいましょうと言って、ルディールが持って来た石畳を魔法で綺麗に一度並べて舞台の形にする。
「何というか熟練の技の様に魔法を使いますわ」
「うむ。なんというか流石はミューラッカの先生じゃなと思うのう。無駄が無いというか何というか」
魔法の使い方に二人が感想を言っていると雪山が魔法を唱え始めた。すると辺りの気温が下がり石畳ど地面の間に霜柱ができて石畳を持ち上げ飲み込み凍りつく。
そしてゆっくりと下がった気温が戻って行くと石畳を地面から膝ぐらいの高さで凍り付かせ持ち上げ舞台が完成していた。
完成させた舞台は特に大きなうねりもなく測ったかの様に水平を出しておりルディールが軽く殴ったぐらいではビクともしなかった。
「流石は雪山先生じゃな。もう作ってくれたと言う事はこの氷は当分持つんじゃよな?」
「はい。激しい戦闘が無い限りは軽く一年は持ちますよ。祭りが終わったら魔法も解きますので大丈夫ですよ」
舞台が完成したのでルディールは丁寧に雪山に礼を言ってから、もう一度問題が無いかを確認する。
特に問題もなかったので舞台から降りると物珍しさに村人や子供が集まり始めたので簡単に説明し上って遊んでも問題無いと告げると子供達は喜んで舞台にのぼり遊び始めた。
「う~ん。ルディールさんとお手合わせをと思いましたが無理な様ですね」と隊長が変な事を言い出したのでルディールは呆れながら返事をする。
「お主な……そんなキャラではあるまい」
「優勝する気満々なので少し鍛えておこうかと思いまして」
ミューラッカに相手をしてもらえとルディールが言うと流石に死にたくありませんのでと笑っていたが、その目は完成した舞台を見て少し高ぶっているようだった。
(なんだかんだいってもスノーベインで親衛隊の隊長をやっておるから戦うのが好きなんじゃろな~)
そしてルディールは舞台が完成した事を村長に伝えに行くと言うと、隊長はミーナの家の宿に飲み行くいくといい、雪山は図書館に行くと言っていったのでその場で別れた。
ルディールとスナップで村長の家に向かうとまた村長は体を鍛えているようで相棒のバイコーンと力比べをして押し合いをしていた。
もう見慣れたと言うか何といって良いかはルディールにもスナップにも分からなかったので、舞台が完成した事だけを伝える。
すると村長は丁寧に礼を言ってからその目にさらなる炎を灯した。
やる事が終わったのでルディールとスナップは世間話をしながら家へと戻ると、スイベルが出迎えてくれてミーナとノーティアがすりこぎ棒とすり鉢で世界樹の葉を潰していた。
その光景はとても微笑ましかったが……そこにいては確実にアウトな生き物も混じっていたので、ルディールとスナップは顔を引きつらせた。
「ただいまなんじゃが……ノーティアが来ておると聞いておったが我が家におったんじゃな……」
「ルーちゃん。おかえり~」
「ルディール様。おかえりなさい。ミーナさんがリベット村にいる時はルディールさん宅にいると聞いていたので遊びに来ました。お邪魔してます」
「あはっ。ルーちゃんおかえり~」
「のう……スナップよ。このまま昼寝してよいか?」
「現実から目を背けたくなるのも分かりますけど……寝て起きても変わっていないと思いますわ……ルディール様の気持ちも分かりますけど……できれば向き合って頂けると助かりますわ」
ルディールの右腕ともいえるメイドにそう言われたので現実と向かい合うと目の前には、美少女と言っても問題無い三人が楽しそうにしているが……どう考えてもおかしいのが混ざっているので諦めて話しかける。
「……で?魔王アトラカナンタ様が何でこんな所におるんじゃ?」
話しかけられた事でようやく作業をやめてルディールと向き合うと少し不思議そうに逆に質問する。
「あはっ。友達が友達の所に遊びに来るのは普通じゃないかな?」
「……一度会ったら友達で、毎日会ったら兄弟じゃとは聞くが絶対に友達では無いじゃろお互いに殺し合っておるんじゃし」
「あはっ。それは過去の話だね。今はお互いにビジネスパートナーみたいなものだし、あまり過去にとらわれない様にしないと」
アトラカナンタがいう様に確かに魔界の鉱山の採掘の事でたまに会う事はあったが、仕事の事で全く関係ないリベット村のしかも家に魔王がいるので流石のルディールも警戒していた。
妙な緊張感が二人の間に漂い始めたのでスイベルがそれを緩和させる様に紅茶の準備をし始め、皆に一旦座るように言った。
言われた通りに全員が一旦席に着き紅茶を飲んで落ち着いてからルディールはもう一度、魔王に質問する。
「それで?カナタンは真面目に何しにきたんじゃ?何か問題でもあったのか?もしくは宣戦布告か?」
「あははっ。何も問題は無いし、勝てない戦と無駄な戦はしない主義だからね。さっきも言ったように遊びに来ただけ」
「……本当か?」
「本当だね~。何か村で面白い事やるみたいだから見学がてらに遊びに来たって感じだね」
このクッキー美味しいねと言い紅茶を飲みつつ茶菓子を食べる仇敵にルディールもスナップももう色々と諦め大きくため息をつく。
「ミーナもノーティアももう少し危機感を持ってじゃな」
「えっ?そうなんだけど今のカナタンは怖い感じがしないから大丈夫かなって?」
「私は逆に何かあってもスノーベインからトップ3が二人来てますし、ルディールさんもいますから仕掛けて来てもどうにかなると思っていますので」
ルディールが頭を抱え始めるとスナップがスイベルに質問する。
「スイベルはどうして迎え入れたんですの?」
「はい。確かに敵対していましたが魔王様というのは、人間で言うところの国王様と同じ立ち位置なのでぞんざいに扱って良いとは思いません。それに戦いになったら私ではどうする事もできませんので失礼が無いようにしました」
「……まさに正論ですわ」
二人の頭を抱えるのとは対照的にアトラカナンタは妙にその場に溶け込んでいた。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
四時間ぐらいで一万時くらい書きたいと思う今日この頃。最近ビーバーが街を作るゲームにはまってます。




