第199話 火食い鳥 (ソアレEND)
校内戦の決勝戦はミーナとセニアになったがお互いに相打ちとなりリージュも途中で棄権したので優勝は野外合宿の時にいたリージュの友人の生徒となった。
校内戦も終わり先生達が魔法で作ったキャンプファイヤーに集まり、ある者は親友と一緒に踊ったりある者は友人を讃えたりして穏やかな時間を楽しんでいた。
ルディールもそんな光景を邪魔しまいと校舎の屋上から楽しげに眺めていた。
すると背後に気配を感じたが良く知っている気配だったので振り向かずに話しかけた。
「どうしたんじゃ?」
「はい。屋上に美女を発見したのでナンパしに来ました」
「では、一緒に眺めるか?」
「ナンパしに来たはずがナンパされましたか……」
そして二人でしばらく何も話さずに炎を見つめていたが、ふとルディールが視線に気がつきソアレをみると、いつの間にかソアレはルディールを見ていた。
「ルディールさん、一ついいですか?」
「うん?どうしたんじゃ?」
「今から狭間の世界に行って一戦しませんか?」
「今からか?」
「はい。今からです。キャンプファイヤーはまだ続きますし。魔法使いが何時間も戦い続けるのは不可能ですからどうですか?」
その案に少し悩んだが、ソアレの瞳の奥に何かが見えたのでルディールは了承し、狭間の世界に繋がる道を作り二人で飛んだ。
相変わらずその世界は昼も夜もなくただ白と黒で彩られた世界だった。
「ありがとうございます。では手を出して頂けますか?」と言われたのでルディールが右手を出すとソアレが手首にリボンの様な物を丁寧に巻き始めた。
「これは?」
「はい。流石に私ではまだルディールさんの足下にも及びませんので……すみません私にも巻いてもらえますか?」
言い終える前にソアレが右手と同じリボンを出したのでルディールも同じ様に丁寧に結び始めた。
「これで準備は完了です。このリボンがほどけた方が負けというルールで良いですか?」
「うむ。良いが……接近戦もありでもいいんじゃよな?」
「はい。ソールさんに鍛えられたので瞬殺される事は無いと思います」と行ってルディールから距離を取り自分達の身長より少し高い所に小石を浮かせた。
お互いに魔力を解放させ、ルディールの背中には翼と尻尾が生えソアレの背中にも翼が生えた。
お互いの視線が交差し準備が整った瞬間に小石が落ちた。
その瞬間にルディールは即座にソアレに接近し、強くなった親友を確かめようと背後に回り込み意識を刈り取る勢いで蹴りを放つ。
「さすがにこれでは倒れないと思うが!」
「ルディールさん……少し私を舐めすぎでは?」
ルディールの蹴りがソアレの横腹に当たったと思った瞬間にすり抜けそれと同時にルディールの体に並の人間なら絶命するほどの電気が流れた。
「ぐっ!」
「せっかくのチャンスなのでこのまま押し切ります。エレクトネット!」
ソアレを中心に雷がクモの巣のように張り巡らさせ、ルディールに絡みつき自由を奪いそこから一気に放電し目が眩む程の電撃を発生させた。
そしてその光が収まるとそこにはルディールの姿はなく少し離れた所からソアレに話しかける声が聞こえた。
「正直、すまんかった。舐めておるつもりはなかったが……舐めておったのかも知れん」
「今までの私なら相手にもなりませんでしたので……でもまぁ今ので決められ無かったのはこちらのミスですね」
「まさか……ソールが使っておった魔法を使うとは思わんかったのう」
「はい。私の上位互換ですが見れば似せる事くらいはできますよ」
「やはり、お主はかっこいいな」
「いや~ルディールさんには負けますがそれほどでも」
そう言ってから二人でひとしきり笑うとお互いの顔つきが始まり本気の戦いが始まった。
短い様で長く、長い様で短い時間をお互いが本気で戦った。
そしてようやく決着がつき倒れたソアレがルディールを見上げていた。
「わらわの勝ちじゃな。と言うか強くなりすぎじゃろ」
と言ってルディールが倒れたソアレを起こそうと右手を差し出すと、ソアレは手を握らずにその手に巻かれたリボンを掴み取った。
「あっ」とルディールが声を出した時にはすでに遅くそのリボンはソアレの手に収まっていた。
「私の勝ちですね」と言うソアレにルディールは毒気を抜かれ笑いながらわらわの負けじゃなといってソアレに手を差し出した。
その手を取ると強く引き寄せ、ルディールも思っていた以上に強く引かれたのでバランスを崩しソアレに向かって倒れ込んだ。
ソアレは魔法使いとは思えない身のこなしで体を翻すとルディールの上に馬乗りなった。
ルディールが呆れてお主な……と言おうとしたがソアレに顔が近づいてきて唇を塞がれ何も言えなかった。
そしてようやく離れどうしたのか?と訪ねようとしたが、その顔が泣いていたので何も言えずにいた。
「ルディールさん……元の世界に帰るなとは言いません。ですが……私の事は忘れないでください」
「お主には隠し事はできんな」と言ってソアレが泣き止むまでルディールは優しく抱き留めしばらく二人で話をした。
それからの事は二人にしか分からないがルディールは帰る事を止め冒険者となり、火食い鳥に加入しソアレやスティレ、カーディフと世界を回ってから一年がたった……
「それで、スティレ?今回の依頼はなんなの?長期の護衛って聞いたけど?」
「ああ、ルディールやソアレの所に行けば分かるな。二人ともノリノリだからな」
「嫌な予感しかしかない……ルディが火食い鳥に入ってからXランクパーティーになるし、良い事ずくめなんだけど、また魔界に行ってドラゴンより強い魔獣の複数討伐じゃないでしょうね」
「それよりは楽?いや……面倒だな」
「う~ん?……いけば分かるか。と言うかルディもソアレもくっつくかと思ったらくっつかないわね」
「何を言い出すかと思えば……互いに尊敬もしているし認め合っているライバルに近い感じだな。ルディールの方がそう思っているの感が強いな……ソアレは知らないが」
「あ~そう言われればそんな感じね」
と言いながらスティレとカーディフが進んで行くと目的の扉がありノックしてから中に入ると制服を着たルディールがいて話しかけきた。
「ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさいって自己紹介で言えばいいと思うんじゃがどうじゃ?」
「いや、ルディールが異世界人だろう?宇宙人とはなんだ?」
「スティレ……違う!そうじゃない!」そう言って盛大にため息をつき何度か深呼吸してからルディールに話しかけた。
「で?ルディはなんでそんな格好してるのよ……」
「べっ別に貴女の為に制服を着て上げてる訳じゃないんだからねっ!」
カーディフは何も言わずにこめかみに血管を複数浮かび上がらせてからもう一度同じ事を尋ねた。
「で?ルディはなんでそんな格好してるのよ……」
「うっうむ。魔界のええとこの子が魔法学校に入学するから学校におる間だけ護衛依頼じゃな」
「そういう事だ。ルディールは背丈も小さいからな角を隠せば普通の人間と変わらないから生徒に紛れて護衛だ」
「ふっふっふ。そして私は教師役で護衛と言う訳です」そう言って現れたソアレは度の入ってない眼鏡をクイッとあげてカーディフにアピールした。
「……なるほど。でもルディって有名人だからバレるんじゃないの?」
「ああ。王女様や学校に行っている友人達には話してあるし手伝ってくれるだろうからバレないだろう。ルディールも手加減はできるから編入試験ときも目立たない様に真ん中より少し下ぐらいの点数を取ってくれたからな」
「そういう訳じゃな。どういうキャラで依頼を楽しもうかと思っての~」
「他にどんなのできるの?」
「あら?カーディフさんも気になりますか?こういう話し方もできますが……」
「どこの令嬢か……」
「ちょっとあんた!その反応は何よ!あんたがやりなさいって言ったんでしょうが!」
「ふふっ、カーディフの真似か確かに似ているな」
「似てないわよ!」
「と、ルデルはこんな感じで色々できますけど……先輩はどう思います?」
「はい、ルディールさん。全部いいので日替わりでお願いします」
国からの依頼なのに緊張が無いとカーディフが呆れて、依頼について仲間達と話し合った。
「ルディが学校か……新しい出会いとかありそうね」
「はっはっは!カーディフ。ルディールさんには私がいますからね、他人には興味ありませんよ」
そうかな~?とカーディフは言ってからスティレと依頼について話してるルディールに近づきキスをした。
その瞬間に周りは凍り付いた。
「おっお主何をしておるんじゃ!」
「いや、変なのに取られる前につばをつけておこうと思ってね」と言って赤くなったルディールにウィンクした。
そしてその瞬間に雷が本当に落ちその辺り一帯が吹き飛んだ。
「カーディフ……殺す」
「進展させないあんたが悪い。というかソアレ、ルディを見なさい赤くなってるわよ」
「ソアレの攻撃からリーダーやお主を守ったら赤くもなるわ!」
「……これで前回の依頼の稼ぎが飛んだな」
そしてソアレとカーディフが戦い始め、スティレが頭を抱え始めたのを見てルディールは少しだけ呆れたが、自分の居場所はここなんだっという雰囲気を感じ空を見上げると一羽の鳥が飛んでいくのが見えた。
おしまい




