第184話 空
中央都市に到着したAirは科学と魔法を融合させた技術で作られた回復薬を、瀕死で意識のないスナップ、スイベル、バルケに注射をして強制的に体を癒やし、粉々にされたスプリガンには小さな機械の集合体で出来たナノマシンを散布し修復をおこなった。
「私も弱いわけではありませんが……世界は広いですね」
Airのレーザーブレードで切り裂かれ膝をつくセルバンティスがそう言ったが聞く気が無いのか聞こえていないのか、宙に浮かび出たパネルを操作しスナップ達の怪我の状況を確認していた。
自身とは全く違う世界のスナップやスイベルに懐かしい気配を感じていたが、戦闘中だったのでその気持ちを押し込みセルバンティスの方を向き話しかけた。
「……一身上の都合により、魔神セルバンティスを排除します」
「アトラカナンタ様に気を付けろとは言われていましたが……まさか貴女の様な方が来るとは思いませんでしたね」
そう言ってから身体のダメージをすぐに回復させて、地面を力強く殴るとその衝撃で砂埃や塵が舞い上がりAirの視界を塞いだ。
その隙に急接近し背後から手刀でAirの首を跳ねようとしたが青白いバリアの様な物が展開され甲高い音と共に衝撃波が発生し舞い上がった砂埃を全て吹き飛ばし、セルバンティスの攻撃は届く事が無かった。
そして次は自分の番だとAirがセルバンティスを視界内に納めて手を横に振ると、何もない空間から多数のレーザーが発射される。
セルバンティスに当たる事はなかったが、そのレーザーが当たった建物や地面は融解し高熱を発していた。
「勝率を98・76%から96・85%まで下方修正します」
セルバンティスはそう話すAirの指についている真なる王の指輪に気がつき感想をもらした。
「真なる王の指輪……別の世界のルディール様と言う事ですか。これは中々骨が折れますね……」
どうして知っているのかとセルバンティスに少し興味を持ったが倒してから記憶を抜き取れば良いと判断しAirは言葉や呪文とは少し違う音を口から発すると周りに無機質な機械の様な物が現れる。
宙を漂う機械の中心には加工された魔石の様な物があり美しく輝き、Airが命令すると意識を持った様に動き出し、一斉に先ほど放ったレーザーと同じ物が四方八方からセルバンティスに攻撃を始めた。
その攻撃にセルバンティスは隙をついて反撃するのは無理だと判断し避ける事だけに集中すると何とか躱す事ができたが……その行動パターンを読み取り何体かの形状を人型に変え、Air自身も攻撃に参加しセルバンティスを追い詰めていった。
「ふぅ……私も歳ですかね……」
「その問いに私が答える必要はありません」そう言ってからAirはセルバンティスを思いっきり蹴りあげて近距離転移で追いかけ追撃しさらに高威力のレーザーで地面に叩き付けると、かなりのダメージをおったようで肉体の再生が追い付かずにその場で空を見上げていた。
そしてAirがとどめを刺そうと降下すると、スイベルとバルケが治療により意識が戻りゆっくりと立ち上がり辺りを見渡した。
「痛たたた……どうなってるんだ……スナップは大丈夫か?」
「はい、何者かに治療された形跡がありますね。意識は戻っていませんが、姉さんも無事な様です」
二人がそう話すとゆっくりとAirが二人の前に降り立ち少しだけ懐かしむ様に話しかけた。
「……治療による不具合はないと思いますが、どこか問題はありませんか?」
そう尋ねるAirにバルケとスイベルは戦闘態勢を取り構えたが、その姿がスナップによく似ていたので少し警戒を緩め話しかけた。
「っと……お前が助けてくれたのか?スナップに似てるが本人はそこに寝ているしな?」
「義兄さん、似ているのは顔だけですよ。数値だけで見れば攻撃力など全てにおいて姉さん……いえ、ルディール様と比べてもこの方の方が上です」
「……嘘だよな?」
「正確には2、34倍上です。この世界のルディール・ル・オントはまだ発展途上なので抜かれる可能性も存在します」
「ルー坊より強いって……意味不明すぎるな……それでお前の名前は?」
「答える必要もありませんが、それでは不便なのでAirと認識してください」
「エアーね……それで悠長に話しているが……戦闘中だったんだろ?大丈夫か」
バルケがそう尋ねると先ほどの攻撃に古の腐姫の力を乗せて攻撃したので先ほどの魔神はもう回復しないと答える。
ルディールと同じ力を使えたのでバルケもスイベルもかなり驚いたが、辺りを見渡すとその攻撃力の高さを目の当たりに出来たので少し呆れながらその話を信じた。
「嘘ついてた所で俺達じゃ束になっても無理だな……」
「そうですね……」
そしてまだ起きないスナップに先ほど攻撃させたビットを護衛につけ、セルバンティスに止めを刺す為に三人はまだ熱が引かない融解しできたクレーターへと向かった。
Airは何も言わずにバルケとスイベルを浮かび上がらせゆっくりと中心に向かうとそこにセルバンティスはいたが四肢は消滅していたがまだ生きていた。
「止めを刺すなら……早くして欲しいものですね。流石にここは熱いので……」
セルバンティスがそう言うとAirは分かりましたとだけ静かに言ってレーザーブレードを取り出した。
そして止めを刺そうとした瞬間にバルケが少し待ってくれといいその行動を止めた。
「Air、すまねぇ……少し待ってくれ……もしかして師匠か?」
バルケは倒れているセルバンティスにゆっくりと近づいてもらいその顔を確認してそう言った。
「顔は少し違うが師匠か……あんた、こんな所で何やってんだよ……」
「これは、懐かしい……立派な剣士になっていたので気がつきませんでしたよ。おひさしぶりですねバルケさん」
二人が知り合いだった事にAirは少し興味をそそられた。そしてセルバンティス程度ならいつでも殺せるので融解し高温を発している地面を瞬時に冷やし二人の会話の為の時間を作った。
「お優しい事で……」
「今の貴方程度では相手になりません。もしそこの二人を殺したとしてもすぐであれば復活させられますので」
そう言って髪の先が注射器の様な形状に変化しバルケとスイベルに突き刺し何かを注入するとセルバンティスに落とされたバルケの腕がゆっくりと再生していった。
「うおっ!また腕が生えた……剣士の止め時かと思ったが……もしかしてロードポーションか?」
「違いますが、貴方の頭では説明しても理解出来ないので凄い薬と思っておけばいいです」
そうAirがいうとバルケが笑顔で殴りかかりそうになっていたのでスイベルがその腕を引っ張り止めていた。
「それで師匠はどうしてここにいるんだ?」
「どうしてもなにも私は魔王の執事ですから……命令があれば動きますよ」
「義兄さんの剣の師匠の方ですか?」
そうスイベルが尋ねたのでバルケは頷き自分が子供の頃から冒険者になってもしばらく剣や戦い方を教えてくれた人物だと話した。
「子供の頃はヘルテンにいたからな……その時に縁があって剣を教えてもらったって訳だ」
バルケが簡単にだがAirとスイベルに説明すると次はセルバンティスがバルケに気になった事があるようで質問をした。
「私が魔界に帰る前にスノーベインの女王と婚約されたと言っていましたが……なぜ冒険者を?」
セルバンティスがそう尋ねるとバルケがかなり気まずそうに顔を背け、しばらくしてからようやく話した。
「ミューラッカも俺もお互いに子供だったって事だな……」
短くそうバルケが言ったのでセルバンティスはそうですか……と呟いた。
「私はこれで思い残す事はあまりないですね……立派に成長した弟子も見られましたし」
セルバンティスがそう言うとAirは分かりましたと言いもう一度レーザーブレードを構えた。
するとバルケが待ってくれ!と言ってAirを止めた。
「甘いですがそういう所も貴方でしょう……ですが倒しておかないと不利益になる事もあると進言します」
「それはそうなんだが……今は敵だが恩人だしな……」
そう言ってバルケや悩みはじめ大きな隙が生まれるとどうやったのかセルバンティスの体がいつの間にか再生しており三人から距離を取った。
「バルケさん。命を奪う事も大事ですよ。ですが貴方の優しさに助けられたのも事実……この借りはまたいずれ」
そうセルバンティスが言うと何もない空間にゆっくりと消えていった。
その事でバルケとスイベルが呆気に取られているとAirは小さくため息を付いてから全ての武装を解除した。
「……すまん。俺のせいで逃げられたか」
「はい。貴方のせいですが魔界に戻った様ですし王都の方も決着がつきそうなので問題ありません」
「容赦ないな……」
そう言ってバルケは少し落ち込んだがまだ起きないスナップが気になるのでそちらに向かいその体を優しく背負った。
「それで師匠を追っ払ったから中央都市にはもう魔神はいないんだとな?」とバルケがスイベルに尋ねるとエアエデンから確認されたのは全てですといったが、セルバンティスに攻撃で瓦礫の下敷きになったイオスディシアンの方を心配そうに見る。
するとAirが生命反応を確認したと言ったのでその場に駆けより、Airが瓦礫を浮かせると中から瀕死のイオスディシアンが出て来た。
そしてその姿をみたAirが懐かしむ様な表情をしてからバルケ達と同じ様に注射を突き刺し薬を注入すると意識は戻らなかったがゆっくりと再生していた。
「私の仕事はここまでです。後はこの世界の貴方達の仕事です」
そう言ってAirがバルケ達に背を向け何処かに行こうとしたがバルケとスイベルが呼び止めた。
「この世界……お前、もしかしてスナップか?」「もしかして姉さんですか?」
二人に同時に言われてたので無表情だったAirが笑いもう一度だけ振り返った。
「それは内緒ですわ。バルケ様はこちらの世界のスナップをよろしくお願いしますわ。スイベル、手を」
Airの表情や話し方がスナップと同じになった事に驚いたがスイベルは言われた通りに手を出した。
Airはその手を優しく握ると青白く発光し数値の様なものが100になると発光が止まりゆっくりと消えて言った。
「スイベル、今のデータを読めばかなりの事は分かりますわ。あと先ほど使用した薬の事も送っておきましたからお役に立つはずですわ」
「ありがとうございます。それで……姉さんはこれから王都に向かうのですか?」
スイベルがそう言うとAirは首を横に振り言った。
「もうルディール様に頼まれたお仕事は終わりましたから自分の世界へ先に帰りますわ」
「もう少しゆっくりして行けばいーじゃねーか」
「この世界は居心地が良すぎて駄目ですわ。ここが貴方達の居場所であるように私の居場所は元の世界ですわ」
その強い意志を秘めた表情に二人は何も言えずにいるとAirが笑いながら二人に頼み事ををした。
「バルケ様、こちらの世界のスナップをよろしくおねがいしますわ。スイベル、貴方は自慢の妹なので特に言う事はないですが……ルディール様に会えて嬉しかったとお伝えくださいですわ」
「姉さん……それぐらいなら自分で伝えてください」
「もう一度会うと帰れなくなりますわ」と言ってから自身が持つ真なる王の指輪に力を込めると空間が開きうっすらとAirがいると思われる世界が見えバルケとスイベルの二人は絶句した。
木々は変異し大地が紫色に染まり空は分厚い黒い雲に覆われ人が住むには向いていないそんな世界だった。
その世界に帰ろうとするAirを見て二人は顔が崩れたが、当の本人は笑顔になり二人の頭を優しく撫でた。
「この世界と比べると少し大変ですが……それでもまだ光はありますわ。昨日は男の子が生まれたと聞きましたし未来は明るいですわ」
そしてそれ以上は何も言わず笑いながらスナップの頭を撫でたり頬を突いてからゆっくりと振り返りまるで散歩に行くように自分の世界へとAirは帰っていった。
「俺達の世界は恵まれてたんだな……」
「そうですね」
そう二人がいうとバルケの背中にいたスナップがゆっくりと目を覚まし、スプリガンのメインカメラもゆっくりと動きだした。
「ここは……バルケ様?どうなったんですの?」
「ああ……よく知ってる奴に助けてもらったから、もう大丈夫だな。いまからリノセス家に戻るから寝てても大丈夫だぞ」
そう話しバルケ達はゆっくりとリノセス家へと向かった。
次回の更新は明日には投稿出来ると思いますが明後日になるかも?




