第182話 ナイト
魔神が召喚した魔物が城壁内に多数侵入し、魔法学校から避難してきた生徒達と戦闘になり、その指揮を生徒会長のリージュが取っていた。
城内なのである程度の王宮騎士や護衛の騎士もいたが召喚された魔物は数が多く強かったので学生達には荷が重い相手だった。
(お父様やお母様の事は気になりますが……城の精鋭達を抜けて城内まで侵入するような相手だったら私が行った所で足を引っ張るだけですからね……この魔獣達だけでもここで倒しておかないと……)
そう思いながら城の方に目を向けると多数の魔獣が城の外壁にへばりつき窓から侵入しようとしていた。
その少しの油断が不幸を招き魔物が放った火球がリージュのすぐ近くに着弾しその体が宙を舞った。
リージュ様! と学生や護衛の者達が叫びその華奢な体が地面に叩き付けられそうな所で優しく抱き留められた。
「大丈夫ですか?」と自分が好きな人によく似た声がしたのでリージュが目を開けると、そこには顔は見えなかったが神鉄で出来たフルプレートに身を包んだ騎士がいた。
「ハイヒール」
その騎士がリージュに回復魔法を唱え、怪我などが無いかを確認してからゆっくりとリージュを立たせた。
「大丈夫ですか?」
「はっはい……ありがとうございます……もしかしてルディールさんですか?」
フルプレートの鎧で顔も隠しておりシュラブネル家の紋章が入った盾もアイテムバッグに仕舞っていたのだが、言い当てられた事で別の未来から来た騎士のルディールは少し戸惑った。
(この変に鋭いのはどこの世界でも同じか……それがリージュと言えばリージュなんだが……)
等と考えていると黙った事で目の前の騎士が不機嫌になったと勘違いしたリージュが少しおどおどし始めたので騎士ルディールは少し笑いながら説明をした。
「そうですね……昔のルディールの事はよく知っていますので、親戚みたいなものですね」
「……そうですか……ルディールさんの親戚の方ですか」そうリージュは言ったが、その瞳は明らかに怪しんでいた。
「そうです親戚ですよ……ルルルナイトとでも呼んでください。さてと援軍として来た訳ですからささっと殲滅して帰りましょう」
(このままいたら絶対にバレてこっちの世界の私にも迷惑がかかるからな……)
その言い回しがルディールさんっぽいですよね……とリージュがボソッと言ったが騎士ルディールは無視して学生達や騎士を守る様に前に出た。
「えっ援軍か……ありがたいが一人来た所で……」
「私も君達の立場だったらそう思うし、上には上がいるが……そこまで弱くは無いさ」
そう話し少しおどけてから剣を地面に突き立て魔法を唱えると、その場を中心に巨大な十字の光が辺りを包み込みその場にいた魔獣達を一瞬で消滅させ学生達や騎士達の怪我を一瞬で治した。
その事で周りは驚き声を上げたが、騎士ルディールは妙な胸騒ぎを感じ空を見上げるとリージュが近づいてきて話しかけた。
「それで、ルディールさんのそっくりさん?どう言う事か説明してもらえますか?」
「……まだ終わってないから近寄らない方が……いいっ!キャッスル・オブ・イージス!」
その妙な胸騒ぎは当たり、全てを凍てつかせる気配を感じたので即座に自身が使える最高の防御魔法を唱えた。
防御魔法と絶対零度の魔法が衝突し激しく発光し辺りを昼のように明るく照らした。そしてようやく光が落ち着くと防御魔法の強度が勝っていたようで、驚いて腰を抜かした者もいたが怪我人なども無く全員が無事だった。
「これ絶対に雪の奴だな……魔神より身内の方が遙かに怖いか……リージュ。今ので隠れていた魔神が出て来たので少し下がっていてください」
騎士ルディールがそう言って何も無い方向を見ると魔獣達を召喚したと思われる魔神達が影の中から這い上がる様に出てきたのでリージュは少し距離を取り騎士達の後ろに隠れた。
「ホーリークロス程度では倒せない魔神か……別の世界だから少し悩むが倒しておくか」
そう言ってゆっくりと腰の剣を抜き散歩に行くように歩きだすと、魔神達は明らかに怯え一斉に攻撃を始め騎士ルディールは炎や氷に包まれたがダメージが入っている感じは全くせずに距離を縮めた。
そして魔法が駄目なので魔神達が近接攻撃に切り替え接近すると、脳が認識した頃には魔神達の頭が胴体から離れ、魔石も切られ何が何か分からないまま消滅した。
「これでこの辺りの魔神はいないが……ルゼアの方はまだ残っているようだが……後は大丈夫だろう」
そう呟いてから騎士達や学生達に声をかけその事を伝えると喜びの歓声が上がった。
自分の仕事が終わったとばかりに騎士ルディールは自分の世界に帰ろうとしたが、リージュに呼び止められ礼を言われたので少し話がしたくなり思いとどまった。
そして話をしていると上空に凄まじい気配を感じ見上げるとその人物が話しかけてきた。
「帰るにはまだ早いぞ……恥ずかしい話だが身内がやらかしているからな。お前が守ってやらぬと流れ弾でこの辺りが消滅するぞ」
その気配に数人の学生は腰を抜かしたり失禁し気絶したりし訓練された騎士でさえ恐怖のあまり体を震わせ鎧をガチャガチャと鳴らしたので、騎士ルディールは恐怖に打ち勝つ魔法をかけてあげてから味方なので安心して欲しいと伝え少し離れた場所で話し始めた。
そして何故かリージュも付いて来て怯えた様子も見せずに魔王ルディールを何回も上から下まで眺めた後に話しかけた。
「えっっと?自分でも言ってておかしいと思いますが、貴方もルディールさんですか?」
「ああ、そうだが……お前は誰だ?」
そう大人の姿のルディールに聞かれたので何か変な違和感を覚えながらもリージュは自己紹介を始めると魔王は心当たりがあった様だった。
「シュラブネル……ああ、ガマタヌキの娘か、呪いで死んだのだったな……」
「えっ?生きてますけど?」
会話が明らかにかみ合っていなかったので一緒にいたルミディナが小さくため息をつき、流石に説明しないと分かりませんよと少し呆れていた。
騎士ルディールは騎士ルディールでルミディナをもの珍しそうに見つめ話しかけた。
「騎士さんどうかしましたか?」
「いえ、私は君のお母さんに出会って無いので何か不思議だなっと思ってね」
「えっ?そうなんですか?リベット村で大牙猪から助けてもらったと聞きましたけど……」
ルミディナがそういうと騎士ルディールは頭を左右に振り、「私が飛ばされて来た時は何日も森の中を彷徨い出会ったのがリノセス侯爵の姉妹でしたね」と言った。
そう話すとルミディナの顔がどんどんと暗くなっていったので、場の雰囲気を和らげる為にリージュがわざとらしくポンと手を叩き話した。
「言ってる事はおかしいと自分でも分かりますが……もしかして別の世界のルディールさんですか?」
その場にいた者は動きが止まり一斉にリージュの顔をみてから、騎士ルディールが魔王に話しかけた。
「こう言う時ってなんて言えばいいんだろう……」
「君のような勘のいいガキは嫌いだよとでも言っておいてやれ。先ほども細雪がミューラッカの娘に話したが驚きはしたが納得していたぞ。私やお前がルディールでもこの世界のルディールとは違うからな困った事にはならないさ」
「そうですか……」と少し納得したので騎士ルディールはまだ嫌な予感がするのでもう少し落ち着いたら話すとリージュに伝え先ほどの話を魔王に尋ねた。
「それで先ほどの話ですが……この辺りが流れ弾で消滅するとか言ってませんでしたか?」
「ああ、細雪もそうだが妻や友人達に出会って興奮している連中がいるからな……またか!ルミディナ!騎士子!魔法防壁を張れ!来るぞ!」
魔王がそう叫ぶと大気が震え出したので、言われた通りにルミディナも騎士ルディールも城をとり囲む様に巨大な防壁を張った。
するとその直後に雷が落ちた時より大きな轟音が何度も鳴り響き、雷を纏った瓦礫で出来た弾が何十発も飛来し民家を軽々と貫通しルミディナや騎士ルディールが作った魔法障壁に突き刺さりなんとか止まった。
「……はい?時間を止めてる防壁を騎士さんの防壁に混ぜて強化してるのに何でヒビが……」
ルミディナの言葉どおり騎士ルディールも自分の世界ではヒビすら入った事無い最強の防御魔法だったが、ヒビが入った事にとても驚いていた。
「まさか……これほどの魔神がこの世界に?」
「魔神には間違いないが身内だ……あの馬鹿が……」
その声が聞こえたのか、次は魔王を狙う様に同じ様に轟音と共にまた何発かの雷弾が届き、そしてとうとう防壁を砕き魔王に数発着弾した。
「お母様!?」
「……こういう訳だ。その娘を死なせたくなかったら守ってやれ」
そう言ってこめかみをひくひくさせながら、口元に流れた血を拭ってから空へと飛び上がった。
そしてルミディナに壊れた城壁を直すのと死んだ魔神達を生き返らせて魔界に送り返す指示をしてから先ほどの攻撃を仕掛けてきた者に向かってゆっくりと飛んでいた。
「すみません……騎士さん。ささっと直して止めに行ってきます」
ルミディナもそう言って離れて行ったので、リージュが先ほどの攻撃で城内に破片が飛んでいったので、お母様の事が気になるので騎士ルディールに一緒に行きましょうと誘った。
騎士ルディールは頷き一緒に付いて行き城の中に入ってから兜を取り話しかけた。
「先ほどの話ですが……リージュ、貴方の考えであっていますよ。私は別の世界のルディールです。こちらの世界のルディールの魔法で呼ばれました。よく分かりましたね?」
「恥ずかしい話ですが私はルディールさんにぞっこんですからね……さすがに好きな人を間違えませんよ。それにルディールさんは異世界から来たと言ってましたから似たような世界があってもおかしくは無いかと」
そう自分では冷静そうに話していたがリージュの顔が真っ赤になっていたので騎士ルディールは微笑んだ。
「そこまで話しているのならこちらの世界の私も貴方の事が好きなようで……」
「そうですか?負け戦の様な気がしているので……諦めはしませんが、どうせなら一番好きでいてやろうかと思いまして……」
「そんな事はないですよ。まだまだチャンスはあるので頑張ってください」
「……別の世界の私は幸せですか?」
そうリージュに聞かれたので騎士ルディールは少し腕を組み悩んでから話し始めた。
「それは難しいですね……私からは何ともいえませんが……周りの貴族の友人達からは笑顔の絶えない夫人と言われていますよ」
「えっ?もしかして私は誰かと結婚とかしましたか?」
「その辺りは言わない方が面白いので言いませんよ。ですが少し面白い物を見せましょう」
そう言って騎士ルディールは胸の辺りから大事そうにペンダントを取り出し蓋を開けると、美しく幸せそうな女性と二人の男の子が写っていた。
「この女性が貴方でその二人が息子さんです」
さすがのリージュもその事に驚き声を上げたが自身の特徴と写真の女性の特徴がよく似ていたのでそれが自身だと納得できた。
「あの……未来のルディールさん?指のせいで旦那様?が見えないんですが?」
「見せる気がないので見せませんよ。……未来は未定なので楽しんでください」
「そんなケチケチしないで見せてくださいよ!減る物じゃないですから!」
と二人でじゃれ合いながら人の気配が少ない壊れた城内を進んで行くとシュラブネル家の護衛が立っている部屋が見えたので、ルディールはもう一度兜を装備しペンダントを大事にしまった。
「お願いです!後生ですからみせてください!」
と騎士ルディールにしがみつく姿を見て護衛達は戸惑ったがリージュが母親に会いに来たと伝えるとその扉をあけ中へと招き入れた。
中に入ると執事に守られるようにシュラブネル夫人がおり少し静かになった王都を窓から眺めていたがリージュに近づき抱きついた。
「おっお母様……もう大丈夫ですよ。ルディールさんの親族の方が護衛の方も学生達も助けてくれましたから」
リージュがそういうとシュラブネル夫人は離れ、涙を拭ってから騎士ルディールに深々と頭をさげた。
シュラブネル夫人の姿を見た騎士ルディールは昔を思い出し考え事をしていたので、執事が夫人は言葉を話せませんので……と少し申し訳無さそうに頭を下げた。
「いえ、大丈夫ですよ。美しい方でしたので少し見とれていただけですよ」
と余計なことを言ったのでリージュがフルプレートの隙間を思いっきりつねりながら話しかけた。
「いたいいたい!ほんとに痛いから!」
「後でお父様に言いますよ?……それでなくてもルディールさんが眠らせて無理矢理連れて来たので絶対にやり返すと息巻いているのに……わかっていますか?」
その事が少し気になったので騎士ルディールはつねられたまま理由を聞いた。
「はぁ……なるほど。仕方ない……ルディールの為に一肌脱ごう。シュラブネル夫人。少し魔法をかけますので驚くと思いますが動かないでくださいね」
急に話を振られシュラブネル夫人はキョトンとしていたが自分の娘が懐いていたのでその言葉を信じ頷いた。
(夫人……新種の病気……あと数年で発症して……貴方のおかげで今の私があります。私の世界で返せなかった恩を今返しますよ)
そう思いながら魔法を唱えるとシュラブネル夫人の体が淡い緑色の光りに包まれそして心臓と喉の辺りに集まり発光しゆっくりと消えて言った。
「あのルディじゃなく騎士さん今のは?」と心配そうにリージュが尋ねると騎士ルディールは言った。
「シュラブネル公爵に恨まれると後が大変なのでルディールの味方をしてあげてください」
そういうとシュラブネル夫人が喉に手をあて唇を動かした。
「……リ……ジュ……」
次回の更新は木曜日予定です。
最近、PSO2 NGSを始めました。いつも誤字脱字報告ありがとうございます。




