第181話 細雪
ローレット王国からの願いと、本人は絶対に友人とは認めない人物の頼みで、スノーベインの前女王のミューラッカは城門を氷漬けにし魔物達の侵入を防ぎ、十にも及ぶ魔神を屠ったが劣勢に追い込まれ地面に膝をついていた。
「あはっ……氷おばさん。どうする?私達につくなら命は助けてあげるけど?」
「はっ、その娘の体を人質にしていてずいぶん甘い事だな」
ミューラッカは強がり睨み返したが連戦に連戦を重ね魔力も底をついていた。
(周りの魔神だけでもキツくなってきたが……この魔神、強い……ルディールの話では寄生された者の限界を引き出すと言っていたな……)
そう考えながら少しだけ隣に視線を動かすと先ほどまで一緒に戦っていた守護竜は壊れた城壁の瓦礫に下敷きになっており微かに息はしている様だが動く気配はなかった……
「他の魔神だけなら君と守護竜の相手は大変だけど、千年前の大戦を経験してる連中からしたらまだまだかな?その竜もいたけどね」
「世間話のつもりか?このミューラッカ、舐めてもらっては困る」
「お母様!」
ミューラッカはもう一度立ち上がり、残った魔力を解放するともう一度辺り一面が全て凍り付き、前が見えなくなるほどの雪が降り始めた。
その大雪で極度に視界が悪くなり魔力も帯びているので索敵魔法なども無効化されアトラカナンタ達、魔神は一時的にミューラッカとノーティアを見失った。
その隙にノーティアがミューラッカを抱えその場を離れたが、ミューラッカが止まれと言ったので瓦礫の影に隠れた。
「お母様……大丈夫ですか?」
これだけ弱っているのをノーティアは見た事がなく、自分達が不利なのはわかりきっていたのでここから逃げようと提案した。
「ここでお母様が亡くなる事があったら私は……」
そう言ってからノーティアは目に涙を溜めたのでミューラッカは笑いながら頭を撫でて話しかけた。
「ノーティア。お前だけは逃げろ。お前がいればスノーベインは大丈夫だ」
「お母様もお逃げください!友好国とはいえ前女王が命をかける事はありません!」
「ふっ、私はな人間が出来ていないからな……そこまでは考えていないさ、ここで魔神達を止めておかないとスノーベインに来る……ただそれだけの事さ」
そう言って笑うミューラッカにノーティアは子供の様に泣きじゃくったが、ミューラッカの意思は変わらなかった。
「お前は私を超える女王になるだろう。ルディールにも技術提供をしてもらったからな国はもっと良くなっていく。お前の世代の未来は明るい……ここで死ぬ事はない」
「お母様がここで戦うと言うなら私も戦います!」
「変な所だけ私に似たか……最後に女王として言葉を贈ろう。わがままを通すなら力を付けよ。ノーティア」
そう言ってミューラッカが魔法を唱えるとノーティアが氷の塊に飲み込まれた。
中からノーティアが何度も破壊しようと叩いたり攻撃を繰り返したがびくともしなかった。
そしてミューラッカは瓦礫のそばにノーティアを隠しその上に周りと同じ様に雪を積もらせた。
「これで大丈夫だろう……」
ミューラッカは一人でも多くの魔神を倒す為に空へと飛び上がった。すると魔神達も気がついたようでミューラッカを取り囲む様に現れた。
「乱れ雪の女王よ。魔王軍にくだれ」
「女を落とすつもりならもう少し気の利いた事でも言う事だな」
アトラカナンタの姿はその場にはなかった。魔神達と戦闘になったが弱っていたミューラッカが地面に叩き付けられすぐに決着がついた。
「アトラカナンタ様から許可はもらっている投降しないのであればその命もらうぞ」
「ごほっ……好きにしろ」
ミューラッカは自分の命がここまでだとわかり最後に家族の事と最近出来た小生意気な友人の事を考えながら目を瞑り意識を手放した。
そして魔神達が一斉に攻撃を仕掛けようとした所でこの場にそぐわない声が届いた。
「これ……。日頃ネチネチ言われてるのをやり返す千載一遇のチャンスなのでは?そこの魔神さん達どう思いますか?」
なんの気配もなくいつの間にかミューラッカを守る様に現れたスノーベインの魔導師と思われる存在に魔神達は少し慌てたが、強者の気配を感じなかったので余裕が戻り話しかけた。
「お前は誰だ?乱れ雪の女王の知り合いか?」
「増援だと思ってもらえればいいですよ。私は知っていますが性悪ミューミューは知らないと思います。どうします?本当は駄目ですが……割とスカッとしたので魔界に戻りたいなら送ってあげますよ?この戦い……貴方方の負けは確定なので」
そう言うと頭にきた魔神達は一斉に炎や風の魔法で一斉に攻撃を放ったがその攻撃が届く前に全て凍らされ砕け散った。
「何?魔法を凍らせるだと!?」
「私は戦闘狂では無いですから……どうします?やるなら戦いますが?」
そう別の世界のルディールが煽ると自力でミューラッカの氷牢から出て来たノーティアがお母様と叫び飛んで来た。
「わっ若い……ノーティアが若い……そうか十数年前だから……学生の頃か」
雪ルディールがそう言うとノーティアが不思議な者を見る目でその声の人物に声をかけた。
「えっと……ルディール様?ではないですよね?親族の方ですか?……それとどうしてスノーベインの紋章が入ったマントをしているのですか?僕は……私はミューラッカの娘のノーティアと言います」
「親族の様な者ですよ……ルルルの雪子とでもお呼びください。どうしてスノーベインの紋章が入ったマントをしているか?ですが、今は非常事態なのでスノーベインが好きなのでと言う事にしておいてください」
「はっ、はぁ……声も良くルディール様に似ていますね」
雪ルディールがこの頃は僕っ子で可愛かったな~等と考えているとノーティアがミューラッカに近づき抱き抱えた。
雪ルディールが魔力が無くなって意識がないですが命に別状はないので大丈夫ですよとつげるとほっと安堵の息を吐き出した。
「さてと……どうしようかな」と雪ルディールが声をだして呟くとノーティアが何を勘違いしたのか私も戦いますと立ち上がり魔神達に向き合った。
魔神達も魔法を凍らせた事に驚き警戒していたがノーティアが戦闘態勢を取った事で我に返った。
「いえ、舐めプしている訳ではありませんが……もうあの魔神達の命は手のひらの上なので……まぁ将来的に本家が魔王さんっぽくなる可能性もあるから魔界に送り返しますか」
「あの……雪子さん?ミューラッカお母様が負ける様な魔神達ですから……もう少し気を引き締めて頂いた方が……」
そのやり取りを見ていた魔神達が怒りだし一斉に襲いかかってきたので雪ルディールはその魔力を解き放った。
「見逃してあげようと思いましたが……ノーティアに攻撃するなら話は別ですよ」
そう言った次の瞬間には周りの全てが凍り付き真っ白な世界に覆われた。
「あっやべっ……若き日の嫁を見て調子に乗り過ぎてしまった……」
その声に反応し魔神、家、橋、など全てのものがガラガラと音をたて砕け始め、最後は風に舞う雪の様になって消えていた。
「……よし。ミューラッカのせいにしておこう。ノーティア様。助けてあげたのでそういう事にしておいてください」
「何を言っているんですか!たっ確かに助けて頂きましたけど!お母様でも今の一瞬でここまで街を破壊出来ませんよ!」
両手を挙げてノーティアが子供の様に抗議したので雪ルディールは反応が初々しいと言ってから抱きつき頭を撫でた。
しばらく慌てるノーティアを満喫した後に横たわるミューラッカに回復魔法と起きたら面倒くさいのでしばらく起きない魔法をかけておいた。
「今の魔法は?」
「はい、回復魔法と精神を安定させる魔法(主に私の)ですね。少し副作用で眠くなってしまうのですが……寝ているので丁度いいでしょう」
「……お母様にここまで出来る人はルディールさん以外にはいないと思いましたが……いるものですね」
「世界は広いですからね。それで守護竜の気配もしますがどちらに?まだ生きている様なので回復魔法をかけておこうと思いまして」
「こっこちらです」
そう言ってノーティアが守護竜がいる方を指さしたので、雪ルディールはミューラッカを魔法で浮かび上がらせてから背負ってからその場所に向かった。
その場所はすぐ近くだったのでミューラッカを下ろしてからノーティアと共に守護竜に近づいた。
そして雪ルディールが回復魔法を唱えると真なる王の指輪が反応し双子の聖女が現れ守護竜の大きな体を瞬時に回復させた。
「すっすごい」とノーティアが驚いていると守護竜が目を覚まし雪ルディールを見つめ話しかけた。
「……ルディールか?その姿は」
守護竜も変わった者を見る目で雪ルディールを見ているとノーティアがルディールさんの親族の方で援軍に来たと伝え、魔神達を一瞬で倒した事を何故か自慢げに話した。
『守護竜殿よ、聞こえていますか?』
『これは念話か……今、ノーティアが親族と言っていたがお前は誰だ?』
『別の世界のルディールですよ。戦女神の指輪の能力ですね、千年前の大戦を経験した貴方なら分かると思いますが』
雪ルディールがそう説明すると守護竜は大きく目を見開き鼻息を荒くした。
『何!?戦女神の指輪の力だと!?……使用者によっては驚異にならないのか?天使共はその力で壊滅したはずだが』
『それでほぼ合っていますよ。この世界のルディールが呼んだ中にも危ないのがいましたからね……詳しい事は後で伝えますが、ある程度の事が分かる貴方なので混乱しないように念話で伝えておきました』
『そうか……礼を言う。それと一つ聞かせてくれ』
『いえいえ、どういたしましてと、どうぞ』
『そのマントの紋章……もしかしてお前はスノーベインの女王になったのか?』
『はい……私の世界では嫁入り?婿入りして力を示したので、ノーティアから私に変わりましたね。今はルディール・ヴェルテス・スノーベインと言います』
『面白いものだな……世界が変わればそこまで変わるか……お前が女王ならスノーベインは安泰だろう』
雪ルディールと守護竜が視線を一切ずらさずにいたのでノーティアが一触即発の雰囲気だと勘違いし二人を止めに入ろうとしたが実際はそうではないので一頭と一人は笑っていた。
「それでこれからどうする気だ?まだ魔神共はいるのだろう?」
守護竜がそう尋ねると雪ルディールは腕を組み少し考えてから話し始めた。
「……正直、すでにやる事ないですね。ノーティアも助けましたし。魔神達は放っておいても大丈夫でしょう。ローレットの人達の救助でもしましょう。ミューミューが向こうを氷漬けにして更地にしたので」
「お母様はしていませんよ!」
「ノーティア。真実は受け止める側が作ります。この世界では無名の私がしたと言っても信憑性はないでしょう?だから姑ミューミューのせいにしておけば問題ないのです」
「姑ってなんですか!姑って!」
そして守護竜の背に三人は乗せてもらい雪ルディールがミューラッカの顔に落書きしようとして止められていると先ほど魔神と戦い更地になった辺りにたどりついた。
「……これ絶対に巻き込まれた人は死んでいますよ」
「たぶん大丈夫と思いますよ。市街地で戦うとこうなるので悪意の無い人は巻き込まない様にしていますので……」
などと話していると空からルミディナと魔王がゆっくりと現れ、雪ルディールに話しかけた。
「私が言うのもおかしいが……盛大にやらかしたな」
「ノーティアが私の良いとこ見てみたいとか言うので……」
「言っていません!ええっと……またルディールさんのご家族の方ですか?」
「ノーティアと守護竜か……懐かしい顔ぶれだな。それとミューラッカか……ルミディナ、何か書く物もってないか?」
「え?ありますけど、何に使うんですか?」
「ああ、ミューラッカの顔に落書きしてやろうと思ってな」
魔王も似たような事を言ったので私の母に何か恨みでも!?とノーティアが怒っていると笑いながら雪ルディールが今の戦闘の事を伝え説明した。
その話を聞きその魔神達に心当たりがあった魔王は腕を組み考えてからルミディナに頼み事をした。
「……ルミディナ。この更地になっている辺りを元に戻せるか?時魔法の使い手だろう?」
「それぐらいなら出来ますが……建物だけをですか?」
魔王は魔神達もだと言い、何かあれば私が倒すと言ってからルミディナに時魔法を使用させ更地になった一帯の時間を巻き戻す魔法を唱えた。
すると消滅した家など修復され魔神達も生き返った。
自分達が死んだ記憶がある魔神達が慌てていると魔王がその魔神達に話しかける。
「なぁ、お前達……この世界では関係ないが少し頭が高いな」
そういって魔力を少し解放すると魔神達は魔王ルディールには本能では勝てないと悟り、地面におり膝をつき頭を垂れた。
「それで良い。今はその命粗末にするな。アトラカナンタにつくのも良いがこの戦いお前達の負けだ。この場から退き魔界に帰れ」
圧倒的な強者の命令に魔神達は頷く以外の選択肢は無かった。そして一体の魔神が恐る恐る魔王に声をかけた。
「ごっご慈悲を感謝します……貴方様が本当の魔王様でいらっしゃいますか?おっお名前は」
「ルディール・ル・オントだ。世界は違うがな……詳しい事は終わってからアトラカナンタやセルバンティス辺りに聞くと言い」
魔神達は分かりましたと頭を下げてから消える様に魔界へと戻って行ったが、今の話を聞いて理解しようとノーティアは頭に?を大量に浮かべていた。
「おい……別世界の私よ。説明したか?」
「え?混乱を招くだけだし、その内帰るから別にいいかなと思うんですけど……」
「お前の世界ならお前が選んだ人だろう。世界が変わっても心までは変わらんさ、混乱している姿を見るのも一興だがな……」
雪ルディールがそれもそうですねと言ってからノーティアに向き合い自分達の事をノーティアに伝えると、まだ少し離れた所で戦闘音が聞こえていたがそれ以上に大きい叫び声が辺りに響いた。
次回の更新は水曜日予定。
ヒロインズに一話使ってええんやろか?少し話が長くなりそうなので一話に二人入れてもいい気もしますが……悩み所……ノーティアってギャルゲだとサブヒロイン的な位置になってしまった……いつも感想や誤字脱字報告ありがとうございます。




