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第177話 鳥と狼

 ルディールと別れて、ソアレ達火食い鳥は寮の学生達を保護する為に街に出ようと城門に差し掛かると、燃え上がる真っ赤なローブとマグマの様に輝くサークレット身につけたリノセス夫人に出会った。


「リノセス夫人……その姿は……数百年ぶりですか?」とソアレの口からこぼれ落ちたので夫人は笑いながらソアレに近づき頬を思いっきり左右に引っ張り話しかけた。


「数年ぶりですが……なにか?」


 顔は笑っていたが声と魔力がまったく笑っていない夫人に火食い鳥達は恐怖を覚え、スティレやカーディフも仲間の失言を丁寧に謝った。


「はぁ……アコットもですが貴女もかなり変な事を言う様になりましたね……」


 リノセス夫人は大きくため息をつき、もう一度ソアレの顔を引っ張ってから手を離す。


「いたたた……それで夫人はこれからどうするのですか?」


「はい、ここで主人と娘を守る為に戦います。と言っても魔法が使えないので現状は民間人と変わりませんが……」


 そうリノセス夫人が言ったので過去に何度か修行を付けてもらった事のあるソアレは……魔法が使えないぐらいで民間人とはなんだろうと難しそうに考えたが余計な事を言うと、また頬をつねられそうなので言うのを止めたのだが、リノセス夫人はまた大きくため息を付き何処かの魔法使いさんと同じで顔に出ていますよと呆れてきた。


「昔はもっと何を考えているかわからない子だったのに……」


「それを言い出したら夫人の昔は凄まじかったと母に聞きましたが?」


「貴女が見ていないので捏造ですよ捏造。他人が言う百の嘘より自分が見た一つの真実を信じなさい。どこからどう見ても夫と娘に優しい母にしか見えないでしょう」


 リノセス夫人が威圧的な態度で言ったので、流石のソアレもそれ以上は何も言わず諦めてそろそろ行きますとだけ声を絞り出す。


 そしてリノセス夫人はもう一度ソアレに近づき次は優しく頭に手をのせ話しかけた。


「貴女も私の娘のような物ですからね……気を付けて行きなさい。セニアやアコットも貴女の帰りを待っていますよ」


「大丈夫です。夫人もお気を付けて」


 そして夫人はスティレやカーディフにもソアレを頼むと頭を下げ火食い鳥は城門をくぐりお外へと出る。そしてカーディフが空を見上げ、あそこと指を差すと少し離れていたが金色の髪に角の生えた魔法使いが城壁から飛び降り屋根の上を飛ぶ様にかけていた。


「魔法使いってなんだろう……」


「まぁ……ルディール殿だしな。体を使って戦う様な職業でもあれはなかなか大変だとおもうぞ」


 カーディフとスティレは呆れていたがルディールの姿を見たソアレはもう一度気合いを入れ直して炎の街の中を歩いた。


 そしてすぐにソアレ達が見た事も無いような魔物に出くわしスティレが前衛を務め戦闘が始まった。


 馬より少し大きなトカゲの様な魔物だったがスティレが盾で攻撃を受け流しそのまま流れる様に魔物の四肢を切り払うと一本の矢が眉間を正確に射貫き絶命させる。


 スティレやカーディフも死地をくぐり抜け甘さが抜け強くなっているのでソアレが魔法を使えなくてもまだまだ余裕があった。


「このぐらいならまだまだ余裕はあるが……ソアレが戦えないのは辛いな」


「今ぐらいの魔物だけだったら楽でいんだけど……召喚したか呼んだ奴がいるって事だからね」


「……魔眼で見ていましたが、スティレもカーディフもかなり強くなっていますね」


「あんたが言うなあんたが……講堂を破壊した時も思ったんだけど、ソアレはもうXランクでいいんじゃないの?って思うわね」


「私もそう思うが今で何分ぐらい持つようになったんだ?」


「そうですね……30分持てばいい所ですが……あとの事を考えると20分ぐらいですね」


「20分、伸びたわね……その時間ルディとか魔神とやり合ったら地形が変わるわね」


「ルディールさんが言うにはミューラッカ様と良い勝負が出来ると言っていましたが、個人的にはルディールさんに軽くあしらわれていたので実感が湧きません」


「まぁ、あれと一緒にすると世界の生物が可哀想になるわ」


 等と少し冗談を言ったり、何度か戦闘をするとようやく学生達の寮が見えてきて、入り口にバリケードの様な物を築き立てこもっているようだった。


 そして火食い鳥が近づくとSランクの冒険者の採光のテラーが顔を出し寮の中へと招きいれた。


 案内されるがままについて行くと一つの部屋が作戦部屋の様に改良されており黒板には城までの道順や怪我人等の数が書かれていた。


 ソアレ達が部屋に入った事で黒点のタレスやノーティアがおり手を上げたり頭を下げたりして近くに来るように呼び寄せた。


 そしてスティレが王女様からの命令で学生達を保護し城まで連れてくるように頼まれたと言い、簡単にだが現状を伝え魔法が使えない原因も伝えた。


 寮の学生達の戦力を把握し実質上のリーダーの様な立ち位置になっていたタレスは分かったと頷き少し考え、もう一度火食い鳥がきたルートなどを尋ねてから一人の学生にあと十五分でここを出て城に向かうから用意するように伝えた。


 その学生は慌てたが力強く返事を足早に部屋を出て行った。


「さてと……俺達も準備だが、あの角付きは来ているか?」とタレスに聞かれるとノーティアが少しうつむいたので気になったがスティレが私達と同じで王女の命でシュラブネル家を助けに向かったと伝えた。


「ふう……そうか。だったらいいが……伝えておくに越した事は無いか。テラー頼めるか?」


 そうタレスが言ったがノーティアが、私が話しますと言い火食い鳥に学生ではくスノーベインの王女の気配に切り替わったので少しソアレ達は気圧された。


「ノーティア様……何があったんでしょうか?」ソアレが心配そうに尋ねるとノーティアが話し始めた。


「はい。私の友人でもある……ミーナさんがアトラカナンタに乗っ取られた後に行方不明になりました」


 その事を聞いて火食い鳥もよく知っている少女の事を思い出し言葉を無くしたが……その事を詳しく聞かないと駄目だと自分に活を入れソアレは尋ねた。


「そっそれはどういうことですか?」


 時間もないので採光のテラーがお前が乗っ取られた時と同じ魔力の痕跡が残っていたので間違いないと少し混乱している火食い鳥達に話した。


「丁度、私が寮のお風呂に入っていた時を狙っていたようです……すみません」


「……そればかりはどうしようもありません。ノーティア様が謝る事ではありません」


「ですが、ルディール様にどう説明すれば……」


「ノーティア様が手引きしたのだったら間違いなく消滅させられますが、そうで無いのなら笑ってお主が悪い訳ではないじゃろと言ってくれますので気にしては駄目ですよ。私の時の様にミーナさんも助かりますよ」


 そうソアレが笑いながら言うとノーティアはそうですか……と少しだけ元気になり私も城へ行く準備をしますと部屋を出た。そして黒点や採光も同じ様に部屋を出て少し間を開けてから火食い鳥達も部屋を出る。


 そしてソアレが少しまずいですねと呟くとその言葉をスティレが拾い話しかけた。


「ミーナ殿の事か?ルディール殿が周りを気にせず助けるという不安か?」


「ルディールさんはそこまで無謀に動く事はしないので大丈夫だとはおもいますが……ミーナさんにアトラカナンタが乗り移ったと言うのが不味いです」


「ん?と言うと?」


 スティレもカーディフも頭に?マークを浮かべたので二人にだけ聞こえる様に話し始めた、


 ルディールの家にある果実は神々の果実と呼ばれる物で、私達が強くなっているのもあの果物の効果がかなりあると説明し、あの果物を一番食べているのはミーナだと話した。


「ですからミーナさんは多分ですが人間の中では限界が一番高いです。そしてアトラカナンタは乗り移った人間の限界を引き出します」


「と言う事は……最高クラスの体を手に入れたと言う事か」


「はい……同時にルディールさんと言う最高の武器を押さえ込む盾にもなっています。ルディールさんがミーナさんを攻撃するのは考えられないです。それに私ですら乗っ取られた時にルディールさんにダメージが入る魔法を使えていたので、ミーナさんとなると……」


「そっか……それに加えこっちは魔法を使えないし、アトラ何とかは聖女の力も取り込んだから……いくらルディが強いといっても万が一があり得るわね」


「そういう事です……早く学生達を城へ送り届けルディールさんと合流しましょう」


 ミーナが取り込まれて死んでいるという最悪の場合も三人は想定はしたが、その事は考えず学生達が集合する場所へと向かった。


 そして黒点が先頭を歩き採光達が中心辺りで周りを警戒し火食い鳥とノーティアがしんがりを務め城へと向かって歩き始めた。


 寮から城までは見える距離だったが学生達の数も多く辺りを警戒しながら、時に戦闘をしながらだったのでなかなか前には進めず足止めを喰らっていると背後に蛇の様な魔神が現れ話しかけてきた。


「初めての戦場だと思って気合いを入れたってのに人間は雑魚ばかりでつまらねーな」と言い巻き付けていた人間を大きな口で丸呑みにした。


「まぁ不味くはねーか。お前等なんて餌だしな。老害の狼や猿や鳥がいなくても相手にもならねーわな」


 魔神が現れた事で黒点と採光は即座に学生達を守る態勢を取り火食い鳥に話かけた。


「どうする?虫の魔神よりは遙かに弱い感じだな。俺達でもいけるが……何体かこちらの様子を見てるな……」


「こちらの手の内を晒す訳にも行かないだろう。タレス殿やテラー殿は学生達を頼む。あの程度なら私で十分だ」


 スティレがそう言うとタレスは分かった無理そうなら言いなと言って消える様に元の場所に戻った。


「スティレ。魔法が使える様になりました……いつ消えるか分からないので早めにお願いします」


「分かった。ソアレもカーディフも見ておいてくれルディール殿のおかげで完成した技だ。そこの魔神よ手向けだ。殺す気だったのなら声も出さずに不意打ちするんだったな」


「はっ!人間ごときに負けねーよ!」


 スティレは鞘から剣を抜きルディールに教えてもらった身体強化魔法の五段階目をほんの一瞬だけ使用し蛇の魔神の目には映らない速度で胸の中心にある魔石を綺麗に突き砕いた。


 そしてその直後にソアレはもしもの事を考え、即座に魔法を放ち蛇のような魔神を灰にして何の苦戦もなく勝利した。


「スティレ、大丈夫?」


「ああ、ほんの一瞬だけなら五段階目を使用しても負担にはならないと分かったからな、実戦では初めてだったが……使える技だ」


 その光景に学生達は歓喜し強くなっている火食い鳥にSランクの黒点や採光が驚き、言葉を無くしたが立派な後輩が育ってる事を喜んだ。


 だが、また話しかける声が聞こえてきたので気を緩める事はしなかった。


「ほー。なかなかいい突きだな。身体強化魔法を上手く使った訳か」


 その声がする方向をみると魔力も気配も感じなかったがゆっくりと歩いてくる狼の姿をした魔神が現れた。


 その姿を見た火食い鳥達は頷きタレスに先に行く様に顎を動かしてからスティレはその魔神に話しかけた。


「そういう訳だ。貴殿からは血のにおいを感じないが……味方と言う訳ではないな?」


「ああ。お前等人間に恨みはあるが……虐殺する気分でもねーしな。強者と戦いに来たのとルディールって角の生えた嬢ちゃんを探してるだけだ」


 そう言うと学生達の方を見てから邪魔だからどっか行けとシッシと追っ払うように手を動かした。


 そして黒点達と学生が城に向かって歩き始めるとソアレが狼の魔神に話しかけた。


「ルディールさんにどのようなご用でしょう?」


「ん?寄生虫の前の体か……もう会えた訳か。あいつがお前を助けに来た時に一緒に飲んだ仲だな。礼を言ってから拳で語り合おうとおもってな」


「あいつは何やってんのよ……」


「そうですか……私の名はソアレです。ルディールさんとは親友ですので、親友を殴りそうな奴を近づける訳には行きませんので覚悟してもらいます」


 そう言って即座に戦闘態勢を取りスティレもカーディフも先ほどの魔神とは比べものにならないと、肌で感じたのでここを死地と決めた。


「ほー……良い気迫だ。千年前を思い出す。俺の名はネルフェニオン見ての通り狼の魔神だ。どこぞ魔王には犬とか言われたがな……遊んでやるから魔法無効化は止めておいてやるよ」


「それはどうも!」とソアレが言ってから無数の矢のような細い雷を何本も放ち戦いが始じまった。

次回の更新は火曜日になると思います。今日はちょっとゆっくりしたいので!後、二~三話で十章に入ります。


いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

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