第175話 開戦
最近、海賊のFPSみたいなゲームで遊んでいますがマイナーなのかアジアサーバーが過疎っている……次回の更新は土曜日の朝になると思います。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
自身の分裂体から最後の手札がそろったと意識内に連絡があり、ラフォールファボスを取り込んだアトラカナンタは新たな魔王として玉座から動いた。
「あはっ!ここまで強い体とは思わなかったね!これは良い誤算だ!セルバンティスいる?」
アトラカナンタがその人物を呼ぶと音も無く背後に現れた。
「魔王様、お呼びですか?」
「準備は整ったから今すぐ仕掛けるよ、人間界は夜だし少しおとなしくしていたから人間達は気が緩み始めてるね。皆をここに呼んでくれる?」
畏まりましたと言って初代魔王の執事であるセルバンティスは音も無く消えて行った。
そして本当にすぐルディールが建て直した魔王城の玉座の間に五十を超える多種多様な魔神や悪魔が集結した。
「あはっ!よく集まってくれたね!これだけいれば勝てるかな?すぐに仕掛けるよ。まずはローレットの主要都市に君たちを送る。王都、中央都市を先に落とす、まぁ王都がメインだけど何人かはリベット村にも行ってもらうね」
そう言うと狼の姿をした魔神が手をあげ質問した。
「アトラカナンタ一ついいか?ラフォールファボスを倒した本物の魔王は人間側についてるんだろ?出て来たらどうするんだ?」
「私と最上位クラスの魔神の五人で仕掛ける。ネルフェニオン、君はどうしたい?」
アトラカナンタが面白そうに尋ねると狼の魔神ネルフェニオンは顎に手を当て少し考えてから答えた。
「人間共には恨みもあるからな……お前か新しい魔王がどちらが強いか見届けさせてもらおう。俺は王都だ」
「まぁ君の能力を考えても王都が妥当だね、前の体が復活して魔神並になってるから君に任せよう」
わかったよと言って手を上げ奥にいき猿の魔神や鳥の魔神と話し始めた。
それから魔神達の質問に答え、ほとんどの魔神が王都に、十体近くは中央都市、それと同じくらいリベット村に侵略する事が決まった。
その事を少し不思議に思ったセルバンティスは周りに聞こえない様にアトラカナンタに尋ねた。
「アトラカナンタ様、辺境の村を襲う意味は?」
「あはっ。無いけど命令を聞かないヤツはいらないだろ?本人達は虐殺したいだけだから村に行けば安全に殺せると言って死地に送り込んだよ。前の体の持ち主の表面上だけ記憶を読んで分かったけどやばいのがいるからね。処分してもらおうかと」
「そうですか……私からは言う事はございませんが勝てる見込みはありますか?」
「そうだね。倒す必要はないから勝てるかな?人質も手に入ったからね。よほどの事が無い限りはいけると思うよ?まぁ思った以上に人間側は強いから不安材料も多いけど」
「分かりました。では私は何処にいきましょう?」
「セルバンティスも出てくれるなら王都だけど……君、ルディールと戦うの嫌だろう?」
セルバンティスは目を数回パチパチとした後に大きく笑い、勝てない戦はしない主義ですのでお断りしますよと言った。
アトラカナンタもセルバンティスとは短い付き合いでもなくそう言うと思っていたので、仕事だけはしてねと言って中央都市に行くように命令した。
「中央都市ですか?」
「うん。空から凄いのがくると思うからセルバンティスにはその相手を頼もうかな?初代魔王様と互角と言われた君だからルディールの相手を任せたい所だけど……さてとそろそろ攻めるよ」
そう笑ってから目つきが変わり、魔王アトラカナンタはソアレから学んだ転移魔法を唱えると巨大な門が現れ、その扉がゆっくりと開くと玉座の間にいた全ての魔神がユックリと進み始めた。
王都でミーナ達との通話が終わり、ルディールはスナップは窓から月を眺めていた。
その表情から何も読み取れなかったのでスナップはルディールに質問した。
「ルディール様、一つ聞きたい事があるんですがよろしいですか?」
「ん?なんじゃ?」と空をぼけーっと見ながら答えた。
「ルディール様はまだ自分の世界に帰りたいとお思いですの?」
そう聞かれたのでルディールは長い時間考え、ようやく答えた。
「そうじゃなー悩む事は増えたのう……帰らねばならぬと思うし帰りたく無いとも思うが……わらわははきっと帰……ん?」
言い終わる前に空に妙な気配を感じルディールとスナップが即座にその方向を見るとそこには巨大な転移門が現れた。
「転移門?ソアレに教えたやつじゃが……大きすぎるか?」
そう言った直後に門が開き中から圧倒的な気配を持つ者が大量に出現した。
その瞬間にルディールは魔神だと分かりスナップにすぐに王女に連絡するように叫んだ。
「スナップ!王女と中央都市のスイベルに連絡じゃ!」
「分かりましたわ!」
「あはっ!何人かは気づいた感じだけど少し遅いね!ネルフェニオン!任せたよ分裂体と一つになるから」
狼の魔神ネルフェニオンがあいよと言って周りの空気が無くなりそうな勢いで息を吸い込み、そして音と判断出来ない程の甲高い遠吠えを放った。
「ビースト・オブ・ハウリング!」
街から灯りや結界が消え去り、魔神達は夜の街へ降りて行き、ある者は攻撃を始めある者は闇に潜んだ。
「ちっ!ビースト・オブ・ハウリング!じゃと!?先手を打たれたか!スナップよ!通じたか!?」
「はっはい!中央都市の妹には通じましたがかなり慌てていて話が出来る状況ではないようです!王女様やリージュ様には通じません!」
「あの咆哮の効果は聞こえる範囲の魔法無効化じゃ!効果時間は十分ぐらいだったはずじゃが……まずはリノセス公爵達の所に行くぞ」
通信魔道具も魔力を使っている為に使用できず、ルディール自身も魔法を使えなくなっておりその事を伝える為に素早く公爵の元に向かった。
公爵の執務室には夫人も一緒におりかなり慌てていた。
「どっどうしたんだ!」
話をしようとするとリノセス家に泊まっていた火食い鳥達がセニアとアコットを保護しメイド長と共にやって来た。
「セニア!アコット!無事か!さすが火食い鳥ナイス!」
「魔法が全くつかえません!ルディールさん何かしっていますか!」
普段冷静なソアレが慌てていたのでその事で少しルディールは落ち着きを取り戻し深呼吸してから話し始めた。
「魔神達が仕掛けてきた。先ほど空に巨大な転移門が現れたのを見たから間違いない!魔法が使えないこの状況は、狼の魔神の能力じゃ!」
リノセス夫人は幼いアコットを抱き抱え、公爵はすぐにメイド長に街の状況を調べる様に指示をだしルディール、スナップ、火食い鳥はすぐに戦闘態勢に入った。
「公爵こういう時はどうするんじゃ?指示があるなら動くが、無いならこちらで動くぞ?」
と、ルディールが尋ねた瞬間に王都のあちこちから火の手が上がり暗くなっていた街を明々と照らした。
皆がその光景に言葉を無くしたが、スナップとスイベルから連絡があった。
「スイベル!無事ですの!?」とスナップが叫び、耳に手をあて明らかにほっとした後に頷いてから今は狼の魔神のせいで王都に連絡出来ないと言う事を伝え、スナップに中央都市でも同じ様に襲撃があり魔法等は使えるがあちこちで火の手が上がっていると話した。
「分かりましたわ。わたくしもルディール様が魔法が使える様になればすぐにそちらに向かいますわ。全てのスイベルを中央都市に集合させておきなさいですわ!」そう言ってから通信を切った。
リノセス公爵は大きく息を吐き出しルディール達に指示を出した。
「……ルディールと火食い鳥。すまないが城までの護衛を頼む……道中で戦闘になると思うが避難する人達を助けながら行こうと思うがどうだ?」
「わかりました。送り届けてから怪我人等の救助に向かいます」
そう話してリノセス家の使用人達も連れてルディール達は城に向かい歩き出した。
いたる所から火があがり人の叫び声などもそこら中から聞こえ、さきほどまでの平和だった王都が嘘の様だった。
「ひどいな……」とリノセス公爵が街を見ながら呟くと近くで叫び声が上がり曲がり角から追われる様に人がルディール達の方向に逃げ込んできた。
「助けて!」と言って走って来た人達の後ろにはあざ笑い弄ぶようにルディールが知らない魔神がいた。
「おいおい~これからが楽しい所、ぶべ!」
「もう聞こえてないじゃろうが……明らかな敵にはわらわは容赦せぬぞ」
魔神が言い終わる前にルディールは即座に接近し頭を蹴り飛ばし、魔石を引き抜き一瞬で消滅させた。
ルディールの強さを目の当たりし、少しの間言葉を無くしたが今助けた人達と知り合いだったらしく一緒に城へ向かう事になった。
そして瞬殺したとはいえルディールを心配したスナップや火食い鳥達がすぐに近づいて来た。
「ルディール様!大丈夫ですの!?」
「うむ、わらわも知らぬ魔神じゃがそこまで強い奴ではなかったのう……あの程度の奴ばかりじゃと良いが……先を急ごう」
「ルディールさん……私も貴女も魔法使いです。魔法が使えない間はあまり無理をしないでくださいね」
「うむ。ありがとうじゃな」
ソアレに心配されながら周りを警戒し城に向かって進み、その道中で魔神が召喚したであろう魔物や魔獣を倒し逃げる人達を助けながら進んで行くとようやく城の城門にたどりついた。
リノセス公爵が門番に話しかけると何か合図をしてから城門が少し開かれ中へと入れた。
中に入ると他にも避難してきた貴族や街の人々が沢山おり、怪我人も大量にいたようで回復魔法を使える治癒師達がそこら中を駆け回っていた。
「わらわが知っているものより効果時間が長いか……ようやく魔力が戻ってきたのう」
ルディールがそう言うと近くにいたソアレも確認すると確かに魔法が使える様になっていた。
そしてミーナやリージュ達の事も心配だったのでルディールはすぐに動きたかったが、無策に動いて場をかき乱す様な事は避けたかったのでリノセス公爵に指示を仰ごうとすると、周りの影が動き出し人の形になりルディールに話しかけた。
「ルディール様、王女様がお呼びです……すみませんが早急に火食い鳥達と共に来ていただけますか?」
ルディールは少し悩んだが城の中と言う事もあるのとリノセス夫人がもし何かあればルディールさんが戻るまで私が戦いますのでどうぞ行って来てくださいと言ってくれたのでルディール、スナップ、火食い鳥は王女様の所へ案内されすぐに向かった。
城内を慌ただしく騎士や冒険者達が走っていたので、王女直轄の暗部達に話を聞くと国王や宰相達がすぐに作戦室を作りその場所に冒険者達が集結しつつあると話し目的の部屋につくと暗部は部屋をノックし返事があったのですぐに中に入った。
王女は少しは慌てていたが思った以上に冷静で知ってる事を先にルディール達に伝え、そしてルディール達から知っている事を教えてもらった。
「……そうですか。分かりましたその事は私の方から国王陛下に伝えておきます。それとルディールさんと火食い鳥の皆さんには私の直轄の部隊と言う事で動いてもらいますがいいですか?」
「うむ。実際にわらわ達の中で一番周りを見ておるのは王女様じゃからな……任せたぞ」
「ルディール殿の言う通りだな……王女様。私達をお使いください」
ルディールとスティレがそう言うと、もう少し私が強ければ皆さんと一緒に戦えるのですが……と悔しそうにいっていた。
「あのな……お主が戦えたらそれこそ何でも出来る王女になるじゃろ。わらわは賢くないが力が強い、王女様は賢いが力は弱いでそれでええと思うぞ。それに指揮官は後ろでふんぞり返って冷静に命令するのが仕事じゃぞ」
「わかりましたよ……ルディールさんが賢くないとか意味不明ですが私は私で出来る事をしますよ」
王女がそう言ったのでルディールは良い子じゃと言って頭を撫でると少し照れていたがすぐにルディール達に指示を出した。
「ルディールさんとスナップさんはシュラブネル家に行ってもらい魔神がいれば殲滅をお願いしその後にシュラブネル公爵達の救出をお願いします。火食い鳥の皆さんは街に出て不用意な戦闘を避けつつ学生達の避難をお願いします」
「うむ。分かった。リージュ達を救出してくるのじゃ」
「ルディールさんはシュラブネル家を城に運んだ後は火食い鳥の皆さんの援護をお願いします」
「うむ。分かったが……スナップは魔法が使える間に中央都市に送るがよいか?」
そういうと今の作戦の内容を聞いた後だったので驚き主に意見した。
「ルディール様がいくらお強いとは言えどれほどの魔神がいるか未知数ですわ!さすがにお一人にする訳には……」
「心配してくれるのはありがたいが……中央都市にも魔神がでておるからのう。お主はバルケとスイベルの所に行っておくのじゃ、命令まではせぬがあの二人のわらわの大事な友人じゃからな頼んだぞ」
スナップ自身もバルケとスイベルを心配し中央都市に行きたかったがルディールの事も同じぐらいに心配だったのだが、主に背中を押されたので頷き了承した。
「またいつ無効化されるか分からんから先に送るぞ。スナップよ、エアエデンやスプリガンはお主の判断で早めにつかうんじゃぞ」
そう言うと分かりましたわと言ってからスナップは優しくルディールを抱き寄せ話しかけた。
「ルディール様、貴女の事は主とも思っていますが妹の様にも思っておりましたわ……ですからどういう事があっても姉を心配させる様な事をしては駄目ですわよ」
「うむ。戻ったら姉ちゃんと呼んでやろう。ふふっ、わらわが妹か……バルケが惚れるのも分かるのう」
「ええっ。楽しみにお待ちしておりますわ」
「スナップさんルディールさんは私達にお任せください」
「すぷりがん?……えあえでん?ってなんですか?また私に隠し事ですか!?」
友人達に見送られ、スナップは転移門へ笑顔で入っていったが、何故かルディールとはもう会えない様な気が少しだけしたが、その気持ちの悪い感覚を振り払い、妹と最愛の人が待つ戦場へと向かって行った。
そしてスナップが中央都市に着いたので転移魔法が消えるとすぐにまた狼の咆哮が聞こえ王都から魔法が消えた。




