第169話 雷光の魔女
ルディールとソアレが魔法の事で話があると二人で話し、追い出される様に学食に向かったミーナとセニアはその事を少し気にしていた。
「魔法の事って言ってたけど二人とも大丈夫かな?」
「ルディールさんもソアレ姉様も魔法に関してはエキスパートだから大丈夫だと思うけど……」
セニアがそう答えるとミーナは難しい顔をしながら、どう説明したらいいんだろうと悩んでから言葉に出した。
「ん~何ていうのかな?二人とも凄い人なのは間違いないんだけど……悪乗りしすぎると言うか何というか……講堂の水晶を見た時にルーちゃん魔法を撃ちたそうだったじゃない?二人が悪乗りしないか心配で……」
「たっ確かに……ミーナの言いたい事は分かるんだけど、二人とも大人だから場所は弁えるんじゃないかな?ルディールさんもお父様の前ではちゃんと敬語で話すし……」
「そっそうだよね!悪い風に考え過ぎだよね!止める人がいなくても大丈夫だよね!?」
二人は不安をかき消す様に笑いながら食堂へと向かっていった。
ソアレが距離を取り杖を構えたので、ルディールもいつでも魔法を唱えられる体勢を取ったのでソアレは不思議に思い話しかけた。
「断られるかと思いましたが……」
「あのな……仮にも親友というぐらいの仲じゃぞ?ある程度は考えも分かるし、お主もガス抜きは必要じゃしな。わらわからも質問よいか?」
「どうぞ、ちなみに胸囲は変わっていませんが少し体重が落ちました!」
「……おめでとうじゃな。どれぐらいの力で戦ってよいんじゃ?わらわと戦うというんじゃからSランク並にはなったという事か?」
そう言うとソアレは魔法を唱え自分を中心に周りの魔素を取り込み放電し始め魔力がはじけた瞬間にアトラカナンタに体が乗っ取られた状態によく似た雷の羽が背中に生えていた。
「後で詳しく説明します。まだ慣れていないので近距離は少し無理です。中、遠距離での魔法合戦はいかがですか?」
「わらわの一番得意距離じゃから気を抜くなよ。ソアレ」
「はい、私の得意な距離でもありますので気をつけてください。ルディール、ちなみにこの姿の限界は五分なので三分を目安で」
「大事な所で気が抜ける様な事を言う物では無いぞ、初手はもらうぞ!シャドウ・オブ・フェアリーズ!」
ソアレに向かって手をかざしその魔法を唱えると影から手の平より少し大きな黒い妖精が現れ自由に講堂を飛び回り、ソアレに向かって色々な属性の攻撃魔法を放った。
だがソアレは避けようともせずルディールに話しかけ仕掛けた。
「ルディール。様子見をしなくても大丈夫ですよ。ライジングサン!」
ソアレが反撃でその魔法を唱えると小さな光の球体が現れ一気に膨張し炸裂しルディールが作り出した黒い妖精を一瞬で消滅させた。
(今のを消すか……そこまで弱い魔法では無いんじゃがな……ソアレめアトラカナンタに乗っ取られた時に何か掴んだな?)
自分でも気がついていなかったがルディールは笑顔になっておりまた別の魔法を唱える。
「ダークネス・レイ!」
ルディールの影やソアレの影や建物の影という影が一筋の黒い光となりソアレに襲いかかった。
「リフレクション・ミラージュ!」
ソアレを守る様に半透明の分身が数体現れ、ルディールの放ったダークネス・レイを反射すると同時に透明にした。
ルディールが撃った魔法を透明化され威力そのままで跳ね返したので、さすがのルディールも回避行動を取らねばならず、講堂の壁や天井に直撃し防御用の水晶が全力で動き赤くなり始めた。
(魔眼で見ておるんじゃろうが、わらわが撃つ頃には対策を取られておるのう……しかも前に教えた雷の触覚でわらわの動きを読みながらじゃから……何というか流石じゃのう。時間制限が無ければその辺の魔神より強いじゃろな……っとあまり考えておるのも失礼じゃな)
「ソアレよ、隕石の衝突と火山の噴火どちらが良い?」
「そうですね……火山の噴火でお願いします、火事が怖いので嵐は発生させようと思いますが、どうでしょう」
「ではゆくぞ!ラーヴァ・オブ・バーミリオン!」
その魔法の発動と共に講堂内の水晶は限界を超えつつあるようでゆっくりと溶け始め、そして床を突き破り溶岩の柱が大量に噴き出し、まるで生き物の様にソアレに向かって襲いかかった。
「……感想は少し変かも知れませんが何か楽しいですね。嵐よ!捻れ巻け!ストームドライブ!」
学園の上に雨雲が現れ、講堂のドアや窓を全て吹き飛ばしソアレを中心に嵐を発生させ、生き物の様に動く溶岩を吹き飛ばしルディールの魔法を相殺した。
ソアレの実力は知っていたつもりだったが、自分の予想を遙かに超えていたのでルディールはとても驚き賞賛した。
「時間も惜しいじゃろうが……一つ言わせてくれ。ソアレよ、お主、強くなりすぎじゃろ」
「後、一分ぐらいなら余裕があるので次の攻防で最後になるかと。友人が世界最高峰なので追い付こうと必死です、ですが貴女に強いと言ってもらえると何か報われますね」
そう言ってからお互いに笑い合い、次はソアレから仕掛け講堂の外壁を切り刻んだり吹き飛ばしたりし戦いようやくその楽しい時間に終わりが迫ろうとしていた。
もうすぐ時間が来ますので私が使える最強の魔法をいきますよとソアレがいいルディールが受けてやろうと自身がもつ最高の防御魔法を唱えた。
「わらわも少しは成長しておるからのう!オーロラ・ナインズ・ウォール!」
ルディールは七枚までしか張れなかったがルミディナとの戦闘で見た魔法なので、自身が覚えていたオーロラ・セブンス・ウォールを昇華させ七枚の防壁を九枚に強化する事に成功していた。
九枚の七色の防壁がルディールを包み込むと次の瞬間ソアレが魔法を唱えた。
「いきます。言祝」
ソアレがその魔法を唱え発動するとルディールは大きく目を見開き驚き叫んだがその瞬間にルディールを囲むように鳥居が現れ、竜が上るかかの如く空に轟音と共に雷が上って行った。
講堂を更地に変え舞い上がった砂煙が晴れていくとソアレはほっと息を吐き出し話しかけた。
「少しぐらいはダメージが入ると思いましたがやはり無傷ですか……怪我をしてない事にも安心しましたし、私程度ではまだまだと言う意味でも安心しました……っと時間ですね」
ソアレがそう言うと雷で出来た羽と、纏っていた雷は消えいつものソアレの姿に戻り、少し無理をしたのかふらつきその場に倒れそうになったのでルディールがすぐに支えた。
「まさかお主が言祝を使うとは思わんかったから肝が冷えたわい……大丈夫か?」
「はい、魔力の使いすぎですので少し休憩しておけば治ります」
そういったがルディールはアイテムバッグの中から魔力回復薬を取り出しソアレの口に突っ込んだ。
「なにも言わずに飲んでおけ、少し言祝の魔方陣が間違えておったから後でちゃんと教えてやるわい」
「……そうですか。ルディールさんありがとうございます」
「ん?なんじゃい。さっきはルディールと呼んでおったのにまたさん付けか?別に付けなくてよいぞ?」
「……そうですか?少し気が立っていたのか……ではお言葉に甘えてルディール……さん。……すみませんまだ慣れていないので無理っぽいです」
そう言ってソアレは顔を赤くしたのでルディールは笑っていたが、周りが騒がしくなり始めたので辺りを見渡すと多数の生徒や教師達が集まっておりミーナとセニアは言葉を無くし大きく口を開け講堂があった場所を見ていた。
リージュとノーティアはとても呆れた様な顔をしていたが少し笑っており、王女様は一人で大笑いし自分の魔法の師匠の青ざめている宮廷魔導師の肩をバンバンと叩いていた。
「ソアレよ……逃げるか?」
「……しばらくエアエデンに行きますか?」
そう言って辺りの凄惨さに目をそむけ二人で現実から逃避しようとしていると、怒気を含んだ少ししゃがれた叫び声が届いた。
「ソアレ・フォーラス!また貴女ですか!冒険者になって少しは落ち着いたかと思いましたが!何も変わっていませんね!」
そう叫ぶ声の方を見ると手に持った杖を大きく振り上げ魔女という言葉よく似合う老婆がそこにおり顔を真っ赤に激怒していた。
ルディールがどちらさんと尋ねるとソアレは魔法学園の最高責任者の学園長ですと教えてくれた。
「ソアレ・フォーラス!とそこの角の生えた魔法使い!話があります!付いてきなさい!逃げれば国中に指名手配しますよ!」
鬼の形相で怒られたのと流石に講堂をぶっ壊したので逃げる訳にも行かないので怯える教師達に連行されてルディールとソアレは学長室へと向かって行った。
「セニア……私達の先生は絶対に二人だけにしたら駄目だね……」
「ミーナの言う通りだったね……誰かストッパーがいないと……」
優秀な弟子二人を呆れさせていた……
ようやくルディールとソアレが解放される頃には日が落ちておりゆっくりと夜になり始めていた。
講堂があった場所は立ち入り禁止の看板が張られていたが、教師や生徒がもの珍しそうに見物に来ていた。
隠れるようにルディールとソアレが校門に向かうと遅い時間にもかかわらず、ミーナとセニアが待ってくれており、スナップ、スティレ、カーディフも一緒にいてくれたのでセニアの家に歩いて向かいながら内容を話した。
「お主達、待ってくれておったのか?」
「ルーちゃん……待ってくれておったのかじゃないよ……」
「ソアレ姉様も本当にそうですよ……」
「「はい、ごめんなさい」」ルディールとソアレは同時に頭を下げ謝った。
スナップ達も呆れていたので尋ねるとミーナ達から話を聞いたと教えてくれた。
「ルディール様、流石に今回はやり過ぎですわね……」
「いや、強くなったソアレと戦うのが楽しくて……」
「ルディール殿もソアレも言いたい事はわかるが……」
「で?ルディもソアレもどうなったの?おとがめ無しは無いと思うから何か罰則あるんでしょ?」
と最後にカーディフが尋ねたので、ルディールとソアレは学園長と話した内容を伝えた。
今の所は王都にいられなくなる様な罰則はないが新しい講堂を建てる費用をルディール達が払わないと駄目だと言われ、ルディールとソアレで半々になったと話した。
「それで済んで良かったわね……下手したら牢屋行きかソアレなら冒険者剥奪なのに……いくら払えばいいの?」
そう聞かれるとソアレはとても小さな声で答えた。
「……黒硬貨500枚なので半分半分で250枚になります」
「はい?……ソアレごめん。もう一回言って?」
さっきより少し大きな声でソアレが言うとカーディフが小さくため息をつき、まぁ仕方ないわね。三人で一緒に冒険して頑張ってかせぎましょうと、とてもいい笑顔で言っていたが行動は違っていた。
「カーディフ!本当に痛い痛い!」
ソアレの頭にアイアンクローを決め片手で軽く持ち上げた。
「どーすんのよ!Aランクでがんばっても一年で黒硬貨50枚もいかないでしょうが!!」
その光景を見かねたスティレが切れているカーディフをなだめる為に近寄ったかと思ったらそうでは無く、カーディフ以上に切れておりソアレをカーディフから奪い取りアルゼンチンバックブリーカー決めながら話しかける。
「ソアレ、言いたい事はあるか?」
「ごっごめんあさい……」
「分かった。お互いに長い付き合いだ。これ以上は言わないがリノセス家まではこのままだ」
「しっ死ぬ……」
普段あまり怒らないスティレが本気で怒っていたのでミーナもセニアも止める事は出来ずにあたふたしているとスナップがルディールに話しかけた。
「それで、ルディール様はどうなさいますの?我が家にはあっても黒硬貨50枚くらいですわよ?家など売ってもそこまで行くかどうか……」
「うむ……校内戦の時に使うからすぐに新しく建てるから、学園側が立て替えておいてくれるらしいから借金という感じじゃな……他から借りた所で借りた場所が変わるだけじゃから……稼げる冒険者か傭兵にならねばならぬかのう……」
とため息をつき、全員でどうするのが一番いいかと考えていると、ルディール達の横に一台の馬車が止まり中から久しぶりに見る顔が出て来た。
「おや?オントさんも皆さんもお揃いで」
それと同じ時間に王城では夕食が始まろうとしており国王陛下と王女が先に席に着いていた。
「陛下、王妃様は?」
「ああ、少し遅くなるとの事だ……それとシェルビア。少し聞きたい事があるが良いか?」
普段、父親から話しかけられる事がなかったので不思議に思ったが、嬉しくなり笑顔で返事をした。
「はい、何ですか?お父様」
「ああ、学校でテストがあったと聞いてな。結果はどうだった?」
その言葉を聞いた瞬間に王女の頭は真っ白になり何を言おうとしたのかさえも忘れてしまい……あっあ、あ等と断片的にしか声を出せなかった。
「どうした?シェルビアは優秀だと聞いたぞ?食事中に見る物ではないがたまには良かろう。その返って来たテストを見せてくれ」
「わっ分かりました。部屋に行って取ってきますので少しお待ちを……」
あまりの事に全ての策を忘れ、国王からの頼みを断る訳にもいかないで静かに食堂を出た。
それからは王女とは思えない仕草でどうしてこうなった!と頭の抱えながら自分の部屋へと小走りで向かった。
「どうしようどうしよう……」と追い詰められもうすぐ部屋につくと言う所で王妃様と出会った。ここが運命の分かれ道と言わんばかりに。
「シェルビア?どうかしましたか?」
「おっお母様……」
その一瞬で王女の天才的な脳は自分が助かる為に何万通りの答えを瞬時に考え、一人の角の生えた魔法使いの行動を思い出した。自分の保身の為に仲間を売るという行為を……
「お母様……テストで凄く悪い点を取ってしまいました。それを今から国王陛下に見せなければなりません……」
「そうですか……怒られる事も大事ですよ」
「母親に言うには間違っていますが……もし私の味方をしてくれるのであれば、お母様のお茶会に私の友人を全員連れて行きますがどうでしょうか?」
「ルディール・ル・オントさんやミーナさんもでしょうか?」
「はい。後、セニアさんや冒険者の火食い鳥もです」
王女の案に王妃は少し悩んでから良いでしょうと頷いた。そして王女は自分の部屋にテストを取りに行き、国王陛下が待つ食堂へと向かった……
次回の更新は明後日になると思います。




