第160話 居場所
ルディールが狭間の世界から王都のリノセス家の庭に転移するとスティレとカーディフが特訓してしていた。
スティレの頭の上にリンゴを載せ、今まさに射ろうとする瞬間だ。
「話かけてええんじゃろか?どこの世界でも頭に乗せるのはリンゴなんじゃな……」
「あのね……それぐらいで狙いはずれないわよ……って!ルディ!帰ってきたの!……あっ」
帰ってきたルディールに驚き、矢を離してしまった……そしてその矢はスティレの眉間に向かって飛んでいく。
うわ!っとスティレの潜在的な何かが一瞬だけ目覚め奇跡的に躱した様に見えたが、目の横からこめかみにかけ切れており血が流れ始め周りを青ざめさせた……
「ソアレが帰って来たからと言ってお主がかけて良い訳ではないぞ……」と呆れているとカーディフが飛び着いてき、血まみれになったスティレも飛びついて来た。
「ルディ!大丈夫だった!?ソアレは!?」「ルディール殿、ぶじか!?ソアレは!?」
カーディフとスティレの二人に似たような事を聞かれたので、苦笑しながら背中のソアレを見せると二人は胸を撫でおろした。
「はぁ~……ルディに任せたから大丈夫だとは思ってはいたけど、こうやって顔を見ると安心するわね……」
「そうだな……ルディール殿、本当にありがとう……それでそのお二方が今回の協力者か?」
スティレがルミディナとスバルを見てそう尋ねたのでルディールは簡単にだが二人の事を紹介すると、スティレもカーディフも丁寧に二人に頭を下げ礼を言った。
「魔界で何があったか、ルディール殿にくわしく聞きたい所だが……先にベッドまで運ぼうリノセス家の方々やスイベル殿も心配している」
「うむ、そうじゃな。それがよかろう」
そう言ってからルディールはスティレに回復魔法をかけてやりリノセス家の屋敷へと向かった。
その途中でカーディフがルミディナとスバルを見ていたのでルディールが話しかけた。
「どうしたんじゃ?美男美女のコンビじゃろ?」
「ん~それはそうなんだけど……なんかこうその二人って」
「なんかこうどうなんじゃ?」
「ルディとミーナを足して二で割ったのとスナップとバルケを足して二で割った様に見えるのよね」
とカーディフが核心を突くような台詞を言うとスティレも言われて見れば確かにそうだと言っていた。
その台詞に事情を知っている三人は、驚きのあまり声を上げそうになったが本当の事を言える訳でもないので笑って誤魔化していた。
「まぁ……ルディールなんて一人みれば三十人はいると言うからのう。見た目が似てるだけなら多いじゃろな」
「ルディが三十人……一人もらっても世界が滅びるわね」
「滅びぬわ!わらわは邪神の類いではないわ」
スバルが似たような者だと思いますけどねと笑いを誘い、屋敷にいたメイドにソアレを連れて帰って来た事を伝えると、それから先は慌ただしかった……
ベッドに寝かされ医者に診て貰ったソアレは特に体に異常も無く寝ているだけと言ってもらえたのでルディールが安心していると、メイド長からリノセス公爵がお呼びですと言われたので執務室へと向かった。
執務室に着くとルミディナとスバルは先に話があったようで丁度、部屋から出て来た所だった。
ルミディナとスバルが会釈をしルディールは手をあげ別れ、ルディールとメイド長は執務室へと入っていった。
「リノセス様。ルディール様をお連れしました」
「ああ、ご苦労。ルディールに茶でも入れてやってくれ」
リノセス公爵はメイド長に紅茶を入れさせ、ルディールに座る様に言ってから大きく頭をさげ礼を言った。
「ルディール・ル・オント。ソアレをよく連れて帰ってきてくれたありがとう」
「いえいえ、私もソアレを助けたかったですから大丈夫ですよ……危ない所はありましたが、ルミディナとスバルのおかげでかなり楽に魔界を進めましたからね」
「あの二人にはもう一度礼をいっておこう。詳しい話は王女様やリージュ様が来られてからでも良いが……先に聞いておこうと思ってな」
「そうですね……特に面白い話や変わった事はないですが……お話しましょう」
ルディールはそう言って魔界に入った事から順々に話していくと最初の内は面白そうに聞いていたリノセス公爵も途中からは顔色が変わり頭を悩ませた。
ルディールはルディールやスバルが未来から来たとか魔王城が壊れた等は言っていないので何か悩む事があるのだろうかと頭を悩ませた。
「今の話で悩む所がありましたか?」
「魔王が死んだんだろ?そこだよ……魔界の情勢はわからないが人間だと王が死んで後を継ぐ奴がいないと俺が俺がと自分が王様になりたい奴が出て来て国が荒れる。その魔王を倒したアトラカナンタとかいうのが次の魔王で穏健派ならいいが……」
「使節団を襲いソアレの体を奪い魔王を倒す様な魔神ですからね……」
ルディールが魔王を倒したとはいえないので、軽く嘘を混ぜてリノセス公爵に伝えていた。
「この前まで田舎の侯爵で魔王とか気にしなくて良かったのにどうしてこうなった?王女様や大公爵の一人娘まで遊びにくるし」
「心中お察しします……」とルディールがそう言うと、公爵はため息をつき誰のせいだ誰のせいと非難の眼差しでルディールを見ていた。
「まぁいいか……ソアレの奪還の報酬だが何か欲しい物はあるか?魔界まで行って帰って来たから、それ相応のものがいると思うが……いっそのこと、セニアかアコットを嫁にやろうか?男がいいなら侯爵あたりなら多数いるがどうだ?」
「セニアやアコットの気持ちを考えて言ってあげてくださいね……特に欲しいものはないですが、何か頂けるのであればリベット村の開発にご協力頂ければと思います」
「娘達の気持ちを考えたらお前とくっつけてリノセス家に来てくれれば我が家も安泰なんだが……はぁ。お前本当にリベット村が好きだよな、ドワーフの国から魔列車を引こうという計画が出ているからそれに賛同しておく」
「ありがとうございます」
あと、ルディールが魔界に行っている間にシュラブネル家から何度もリノセス家の護衛を譲ってくれないかと丁寧に話があったと伝えた。
「そう言えば、私はリノセス家の護衛でしたね……仕事をした記憶はあまりないですが……」
「俺もないな……まぁ見る人がみればお前は凄いらしいから、娘が護衛にしたのも正解だったんだろうな。俺は凡人だからわからんが……」
凡人が公爵と言うのが意味不明ですがと三人で笑い、話が終わったので部屋から出ようとすると公爵が思い出した様にルディールを引き留めた。
「ああ、そうだ。ルディール。お前、絶対に落書きでも何でもるるるの花子って名前を金輪際書くなよ」
そう言って机から破った一枚のページを取り出した。
それはルディールがアコットに書いてあげた魔法書の一ページだった。
「吹雪の国で通信用の魔道具が開発したと言う話……そこにもこの名前があったからな」
「そっそれは……リージュ様にも言われましたね」
「何も言わなくて良いし聞く気もないが、ほんとに気をつけろよ」
「ありがとうございます……もし私だったらどうなります?」
「もしの話で話すが……国家反逆罪クラスの罪になるな。実際、あと二、三年もあればローレットでも開発に成功すると貴族の間では言われていたし、かなり金をかけてやってたからな」
その事でルディールがリノセス公爵に礼を言うと、礼を言うなら魔法書を破って次女に嫌われそうな父親を救ってくれと懇願されたので、別の魔法を書く約束をして応接室をでた。
応接室を外にはスイベルが待っておりソアレはまだ目覚めていないと教えてくれた。
「ルディール様、お疲れ様でした」
丁寧に頭を下げるメイドを見て、ルミディナ達がいる世界ではスイベルはいないんだなと考えると悲しい気分になり、その事を心配された。
「どうかしましたか?」
「ん?無事に帰ってこられて良かったと思ってのう。スイベルは自分がいない世界は想像できるか?」
「はい、簡単ですね。ルディール様に助けて頂け無ければあそこで終わっていましたから。ライフイーターの亜種に寄生されていた時の記憶はありませんので……ありがとうございました」
「なるほどのう……」
「ソアレ様は無事に帰ってきましたが、あの二人は信用に足る人物でしたか?」
スイベルはまだ二人を信用していなかったので、ルディールは軽く笑い周りに人がいない事を確認してから二人の事をスイベルに話した。
「スイベルよ、魔界であった事は後で詳しく話すが絶対に言うでないぞ」
「分かりました。姉さんにもですね」
「スバルは未来からきたバルケとスナップの子じゃ」
「はい?……はい?……はい?……すみません言っている事の可能性は存在しますが私が理解出来ません」
普段が凜々しいスイベルの顔が面白い感じに崩れたのでルディールは笑ってしまったが、事の経緯をスイベルに説明すると難しい顔をしてようやく納得してくれた。
「はい、そうですか。とはすぐには言えませんが……可能性があるので否定しきれないですね」
「ん?可能性があるってことじゃからスナップとバルケに進展があったのか?」
「毎朝起こしに行っているぐらいですが……未来ではお父様の魔法が完成したのかと思いまして」
ルディールはその事が気になったので尋ねるとエアエデンの書斎には大賢者ノイマンの過去や未来に行く為の完成していない魔法の設計図などが残っているので、それを完成させて過去に戻って来たと思ったとスイベルは伝えた。
「ほー……墓荒らしになっては嫌じゃからほとんど読んでなかったが、一度読んでみるのも良さそうじゃな」
「だから気にせず読んでくださいと何度も言っていましたよ……そうですか、スバルが姉さんとバルケ様の子ですか……こう、何か面白いですね」
スイベルは知らない振りをしておきますのでルディール様も言った言わない等は言わなくて大丈夫ですよと言い、広いリノセス家を歩き皆がいる部屋に向かった。
テラスがある部屋に案内されるとカーディフとルミディナはボードゲームで遊んでおり、スティレとスバルは外で戦闘訓練をしていた。
「平和じゃな……」
「ソアレ様も寝ているだけですし、お医者様やメイド達がいますから」
その光景が嬉しくなりルディールはルミディナとカーディフに近づき話しかけた。
「ルミディナは引きこもりなのに、ちゃんと人付き合いできるんじゃな?」
「だれが引きこもりですか!誰が!」
「ほれほれ~ルミー。早くしないと時間切れで負けるわよ~」
「ぐぬぬ……ルディールさん!ここから逆転の一手はないですか!?」
娘にそうい言われたの親の威厳を見せなければと思い、ボード上を見て戦局をすぐに判断しルディールは駒を動かした!
「ここじゃ!」と力強く動かした駒は……間違いなく致命傷の一手だった。
「……チェックメイト」そう言ってカーディフが駒を動かすとカーディフの勝ちが決まった。
「なんじゃと!?」
「ルディールさん、何をやっているんですか!」
「……ルディ、何やってるのよ」
カーディフの勝ちが決まったのでルミディナのおやつが奪われ、娘に非難の眼差しを受けたのでアイテムバッグの中からクッキーを出すとそれを巡ってまた試合が始まったので、今度はスティレ達の所に向かった。
木剣だが一度でもあたれば軽く骨が折れそうな剣圧で二人は攻防を繰り返していたが、スバルの方がかなり余裕があるようだった。
「スティレもスバルも妙になじんでおるのう……」
ルディールが来た事でスティレの気が一瞬そちらに向かった瞬間に隙を突かれスバルの勝ちが確定した。
「……参りました」と言ってスティレは小さく手を上に上げた。
「スティレからみてスバルはどうじゃった?」
「ん?そうだな。少し変な事をいうがバルケ殿の剣技に似ているな……強さの桁が違うが……似ている剣技など多いから似ているからと言ってどうと言う事は無いんだが……終始遊ばれていて若干凹み気味という感じだ」
そう言うとスバルは丁寧にお褒め頂きありがとうございますと頭を下げ、スティレももう何回か死地を抜ければ強くなりますよと笑っていた。
「Xランク相当の剣士か……スバル殿の名は初めて聞いたが、さぞ有名な剣士なのだな」
「いえいえ、私はルミディナ様の執事ですからね。無名ですよ。ルディール様と似たような者ですよ」
そう言われたのでスティレはルディールを見て妙に納得し頷いた。
「そう言えばルディール殿も無名だったな……世界は広い」
そしてもう一度、特訓を頼み小気味良い木剣が打ち合う音が聞こえ始めたのでルディールは椅子に座り、スイベルに飲み物をいれてもらってゆっくりし始めた。
「これぐらい平和なのが良いのう……ミーナ達は学校でスナバルも護衛なんじゃよな?」
「そうですね……姉さんも義兄さんもセニア様の護衛で学校まで一緒に行っていますからもうすぐ帰ってくると思いますよ」
「それまだ本人の前で言っておらんよな?」
「はい、今日から呼ぶ気満々ですね。二人の子供が見られましたので」そう言ってスイベルがスバルの方を向くとこちらに気がついて苦笑いしていたのでスイベルは手を振っていた。
そしてルディールが心地良い風に身を任せて目を瞑ると、玄関がある方向が騒がしくなり誰かが帰って来たようだったがそれを確認する事はできなかった
「ルディール様!お戻りになられましたの!?」とスナップが空を飛びすぐにやって来たがルディールは静かな寝息を立てていた。
「姉さん、駄目ですよ。ルディール様は疲れていますので」
「仕方ありませんわね……」そう言うと次はバルケが走ってやってきた。
「ルー坊!戻ったか!」
「義兄さん、姉さんと同じ事を言わせないでください」
「「誰が義兄さんだ!?ですの!?」」二人が声をハモらせたので、スイベルは何か色々と納得しスバルの方を見ると目にゴミが入ったと言って涙を拭っていた。
そして、セニア、ミーナ、リージュ達が学校から戻って来た様で寝ているルディールの代わりにルミディナ達が説明した。
次回で八章は終わります。更新は水曜日になると思いますのでお待ちくださいませ。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。




