第159話 帰る場所
ルミディナが休学届を出し、約一年後……スバルと共に空き部屋で時魔法の実験の最終段階に入っていた。
「未来からの実験結果の手紙が届く様になりましたから……もう成功と言って間違いないですね」
嬉しそうなルミディナとは別にスバルの表情は不安を隠せないでいた……
「ルミディナ様、止めませんか?過去を変えても私達の今は変わらないとルディール様に聞きましたよ?それこそその世界では私やルミディナ様が生まれない可能性もあると思いますが……」
「行きます。私は過去に行ってソアレ・フォーラスを殺しその世界の未来を救います。貴方が行かなくても私は行きますよ」
その決意の強さにスバルは何も言えず自身も覚悟を決めた。
「はぁ……誰に似たんでしょうね。分かりました。ルディール様に頼まれたとはいえ、貴方は私の妹の様な人ですからね。お付き合いしますよ」
スバルがそう言うとルミディナは誰が見ても分かるぐらい喜びスバルに礼を言った。
それからの二人の行動は早く屋敷の事は一番仲が良いメイド長に頼み、帰ってこない時は貴方がこの屋敷の主ですと言ってその日の内に過去へと飛んだ。
「そこまでが今回の事の経緯です」といつの間にか起きていたルミディナがスバルに変わって話を締めた。
「ルミディナよ、大丈夫か?……すまぬな」
「克服したつもりでしたが……普段は思い出せない記憶なのに、こういう大事な所で出てくると困りますね」
「トラウマとはそういうもんじゃしな……その日記は何処かの国の言葉だったんじゃろ?スバルも読めたから内容を知っておったんじゃよな?」
ルディールがそう尋ねると次はスバルが答える。
「私も見た事が無い文字でしたね。ルミディナ様に内容を書き写して頂いたので確認できました」
「なるほどのう……」
「お母様。ソアレ・フォーラスの命を頂いてもいいですか?」
「お主の境遇には同情するし甘えさせてほしいと言うなら甘えさせてやるが……それだけは絶対に無理じゃな。お主の世界の過去とこの世界の今は違い過ぎるし、ソアレはわらわの親友じゃ」
そう答えられると分かっていた様でルミディナはソアレを諦めると言ってからルディールの胸に飛び込んだ。
「甘えさせてください」
「うむ。よかろう」
「抱きしめてください」
「うむ。これで良いか?」
「今から泣くので慰めてください」
「お主のかーちゃんほどわらわは立派では無いが……それで良ければ慰めてやろう」
その言葉を最後にルミディナは声にならない声をあげ、小さな子供の様に泣きわめきルディールは泣き止むまでずっと頭を撫でてやった。
それからしばらくして泣き止みルディールに頭を下げた。
「お恥ずかしい所をすみません……」
「気にするでないわい。わらわも人前で泣くしのう……」
ルディールがそう言うとスバルは未来のルディールは人前で弱い所を見せる事が無かったので意外だと驚いていた。
「カーディフとスティレが助かった時も泣いたし、リージュの時も泣いたし……お主等の境遇を聞いて泣きそうじゃし、わらわはそこまで強くないわい」
「私はほとんど記憶がないので……どうともいえませんが」とルミディナが言うと、スバルが自分が子供時はルディール様はそのお姿で今の話し方で自分を怖がらせないように良く相手をしてくれていたので、優しく強い方だったと言った。
「ですが大人の姿のルディール様はお美しいですが、かなり怖いですからね……」
そう言うとルミディナはため息をつきスバルは小さい子が好きですからねと軽蔑した瞳で見ていた。
もうソアレの事は大丈夫とルディールは実感したが、もう何点か聞いておきたい事があったのでソアレに謝り、次はルミディナに尋ねた。
「時魔法は完成しておったんじゃろ?自分が過去に戻るという選択肢はなかったんじゃろうか?」
「そうですね……それはお答え出来ますが、お母様は過去に戻られたら戻りますか?」
真剣な表情でルミディナに尋ねられたのでルディールは少し考えてから自分の答えを伝えた。
「ん~戻らんじゃろうな……うむ。戻らんのう」
「理由をお聞きしても?」
「うむ、良いぞ。自慢じゃがわらわはあまり賢くないからのう……戻った所で同じ事を繰り返す自信はあるし、もっとひどい方向に行く確率が高いからのう。その度に過去に行っておったら未来に進めんじゃろ?」
ルディールがそう言うとルミディナはそういう事ですと頷き、スバルは笑いながら未来のルディール様も同じ事を言っていましたよと言い少しだけ付け加えた。
「未来のルディール様が時魔法の開発中だったと思いますが、一度だけ魔法が暴発し巻き込まれて私達と同じ様に似たような過去に飛ばされたらしいのですが……」
「ですが?」
「もっと悲惨な世界だったと聞きましたよ。そして向こうで時魔法を完成させ帰って来たと言っていました」
「お主の世界より悲惨なのが想像できんが……」
「まぁ多分、嘘ですけどね……その時の顔は嬉しそうでしたし、度々何処かへ行かれるのか、消える様にいなくなっていましたからね」
「わらわっぽいのう……じゃが過去に戻る気が無いなら何で時魔法を作ったんじゃろうか?時間を止めてナイフを投げたり、路面の締め固めを行う車両だ!とか言いたかったんじゃろうか?……その可能性の方が多いが……」
ルディールがそう悩んでいるとルミディナが一冊の古びた分厚い本を取り出しルディールに手渡した。
「どうぞ、お母様の日記です。理由はここにありますよ」
読んで良いのか?とルディールが尋ねるとこの世界と私達の世界は違いすぎるので……と言ってくれた。
「これを読むとしばらく立ち直れんと思うから、時魔法とかそうのが書いてある所を教えてくれるか?」
ルディールがそう言うとルミディナは分かりましたと言ってページを探してくれた。
「確か……落書きがあって魚の絵が描かれていたページだったと思いますが……」
「ルミディナ様……あれは猫だと何度言えば……」
「魚です。っと、ありました。本人に聞けばいいですね」
と言ってルディールに指定のページを見せるとそこには日本語で書かれた文字と落書きで確かに何かが書かれていた。
「お母様どちらですか?」
「ルミディナ、スバルよ一つ覚えておくのじゃ。目に見えるを追いすぎぬ事じゃな。猫に見えたなら猫じゃし魚に見えたら魚じゃ。人の意識も水と同じで器で形を変えるものじゃぞ」
「なっなるほど……さすがお母様……落書きにそういう深い意味があったのですね」と二人が納得してくれたのでルディールは安心しながら読み始めた。
わらわが魔王になった次の日、セルバンティスに頼み王達の墓に連れて行って貰った。
そこでようやくこの世界に来た事などがわかった。良い迷惑といえばそれまでだが……わらわは感謝している。
墓の前で古の腐姫が作った死者を一時的によみがえらせる魔法を使えば、全てを答えようと書かれていたが……自分の体がまがい物で無い事が分かっただけで十分だったので王達はそのまま静かに眠らせておこう。
ラフォールファボスとの戦闘で戦女神の指輪の能力がわかった……面白いが危険すぎる。まぁ色々と教えてもらったが……
連中いわく指輪の力と時魔法が使える様になれば元の世界に戻れるらしい……時魔法か……ロマンが広がるのう
そのページを読み終えるとルミディナが少しページが飛びますと言って、そのページまで飛んでくれた。
ようやく時魔法も完成し、指輪の力も全て扱える様になった。
人間達や魔族と大きな戦いがあり何度か戦女神の指輪の力を使用したが……危険すぎるのは間違いないが……あの力は本当に面白い。
時魔法と真なる王の指輪の力を使って、ようやく元の世界に帰られる扉を出現させる事ができ、扉の向こうには元いた世界が見えた……一歩踏む込めば帰られたが……私はそれをしなかった。今日はミーナとの結婚記念日だ。それにミューラッカのおかげで子供が出来た……慕ってくれる友人も多い、いつのまにかこの世界に居場所が出来ていたようだ。
私の最後は見えたが……ここが私の居場所だろう。ただ……けじめは必要だ。
向こうの世界の家族とお世話になった人達に手紙を送ろう。私は元気で幸せにやっていますと……長い時間が経っているが覚えているものなんだな。
そこから先は時魔法に関する事はなく戦争の事やミーナが結晶化した事などが書かれているとルミディナが教えてくれた。
「……途中から一人称が私になっておるんじゃな」
「ルディール様……読み終わった感想の一言目がそれはどうかと……セルバンティス様に矯正させられたと言っていましたよ。もう少し威厳ある話し方でと言われたようで」
「わらわは死ぬまでこの話し方でいってやるわい」
ルディールがそう言うと頑張ってくださいとスバルは笑った。そしてルディールは丁寧に日記を閉じルミディナに礼を言って日記を返した。
「お主達の世界のわらわはこの世界と元の世界の謎も解けて、帰られる方法も見つかったんじゃな……その日記に書かれている文字はわらわが元いた世界の言葉じゃな」
「そうでしたか……これがお母様がいた世界の言葉ですか」
ルミディナはそう言ってもう日記を優しく撫でた。
(……う~ん、魔都ファボスに行った時に王達の墓を見ておけばよかったか?……じゃが、魔王を倒してたしのう敵地じゃし何があるか分からぬし。ソアレの命が優先じゃしな……日記の中で連中とあったが……誰の事なんじゃろな?また考える事は増えたが、解決策が見えたから気分的には楽じゃのう)
「……ま…………さま…………お母様、大丈夫ですか?」
「ん?……すまぬ。少し日記の内容に付いて考えておった。その日記に書かれている戦女神の指輪の力があるじゃろ?危険とはよく聞くが、何が危険なんじゃろな?連中と書かれてあったが召喚系なんじゃろか?」
そう尋ねるとルミディナは日記にも詳しい事は書かれておらず、自分も戦女神の指輪の力は使えないので何かを召喚するという事しか分からないと話した。
「スバルは何か知りませんか?」
そうですねと考えると、自分が子供時に何度か戦があり、その内の一つにルディール様が一人で戦いに行って壊滅させた戦いがあったと聞きますが、後から追いついた魔王軍も魔王様に協力する人影を見たと言っていたので、お二方が言うように誰かを召喚する物だと思うと話した。
「イオスディシアンも危険と言っておったんじゃよな……気にはなるが試すのは怖すぎるのう……邪神とか出たら嫌じゃし」
「戦女神の召喚かも知れませんしね」
「触らぬ髪に抜け毛なしか……千年前の大戦もそれで天界は壊滅したらしいのう」
そう言ってからルディールは何も無い空を見上げるとスバルがさっき私達を殺そうとして魔都ファボスを消滅させようといていましたけどねとルディールの黒歴史になりそう傷をえぐった。
「王達の墓と戦女神の指輪はひとまず置いておくとして……時魔法か」
そういってルディールがルミディナの方を向くと何かを悟った様で、すぐに日記をアイテムバッグの中に仕舞った。
「……何も言っておらんじゃろうが」
「娘ですから分かりますよ。日記の時魔法から過去や未来へ行く方法を学ぼうとしていますよね?もしくは私に聞こうとしていませんか?」
「よくわかったのう……ならば話は早い!ルミディナよ、教えるのじゃ!」
「悪用はされないとしてもこの世界からいなくなるのでしたら教えませんよ。この世界では私が生まれなくなりますし……」
「そうかも知れんが選択肢は多い方がいいじゃろ?」
「そうですが……では一つ聞きますがお母様は、この世界を置いて帰りたいのですか?」
ルディールはそう尋ねられたので言葉につまり、少しの間考え込んでから答えた。
「そうじゃな……アトラカナンタの事や指輪の事、王達の墓で謎が解けたら帰るかのう……この世界は旅の途中で寄った様な所じゃからな……家があるなら帰らねばな」
その答えに思う所があったのかルミディナもルディールと同じ様に考え込み、そうですかと答えた。
「この世界の人に恨まれるのも嫌なので答える事は出来ません。ですがヒントはお母様が知っている時魔法と似たようなものですよ」
「なるほどのう……ありがとうじゃな」
(と言う事はわらわは使えぬがゲーム中の時魔法の系列の進化型か?ルミディナが使った魔法もわらわが使う魔法の進化型と強化型っぽかったしのう。聞きたい事は聞いたのう」
「ソアレよ、この様な所で長い時間、寝かせてすまなかったのう」
そう言ってルディールはソアレを優しく背負った。
その姿を見てスバルが後で私からルディール様に頼んであげますからとあやしていると、ルミディナが怒りまた石を投げ始めた。
「よし、ルミディナ、スバルよ。帰るのじゃ!戻ったらわらわの事は母と呼ばぬ様にな」
ルディールがそう言うと二人は元気よく返事をし、狭間の世界から友人達がいる世界へと戻って行った。そこに隠れていた者の存在に気がつかないまま……
書いたら終わったので更新しました~次回の更新は未定
後二話ほどで八章は終わります、ささっと九章にいってもいいんですが、もう少しルミディナを動かしたいのでお付き合いくださいませ。いつも誤字脱字報告ありがとうございます。




