第150話 魔都の夜
「ルミディナ様はもう少し甘えてもいいのでは?本当に小さい時でしたから覚えていないのでしょう?」
「別にいいですよ。お母様とも会えましたし、少しというか……かなり怖いですからね」
「お優しい方ですけどね。私が子供の頃は良く膝の上にのせて、お話を聞かせてくれましたから……それは良いですがミーナ様をお母様と呼んだ時は焦りましたよ」
スバルはそう言いながら小さくため息をつくとルミディナは謝りながら階段を降り、一階にいる店主にルディールの行方を尋ねた。
するとその辺にいた魔神達と飯食いに行ったぞと言われたので、何かあってはいけないと急いで隣の酒場に向かった。
「おっ!……ルディールさん!大丈夫ですか!」
ルミディナが大きな声をあげ中に入ると、そこにいた魔神や悪魔や獣人はほとんどが酔い潰れており肝心のルディールは給仕服を着た酔っ払い人型ドラゴンに酒をつぎ愚痴を聞いていた。
その光景が理解出来ずにルミディナもスバルも固まってしまった。
「お前の……お前のせいで私がどれだけ苦労したか!分かっているのか!」
「うむうむ。大変じゃったなー」と酒を飲みながら泣く人型はかつてルディールがちょいちょい滝に流したガイアロックドラゴンだった。
死手の大滝から魔界に入ると魔都ファボスの近くには出るが、人型のままでは魔界の魔物に手も足も出ず、かと言ってドラゴンの姿になると目立つのでさらに凶悪な魔物に襲われ、命からがらファボスにたどり着いたのだと教えてくれた……
「知っているか!草原地帯のような開けた場所はな!射線が通るんだぞ!私が認識出来ない所から狙撃されるんだぞ!分かっているか!」
「うむ大変じゃな!射線が通るから狙撃されるんじゃな!」と言いながらルディールはまたガイアロックドラゴンに酒をどんどんと注いでいく。
「そうだ!分かっているじゃないか!」と叫びルディールが入れた酒を一気に飲み干した。
そしてタイミングを見計らって人型ドラゴンに魔界に来て何かいい事は無かったのか?と尋ねると酔って顔が赤いのとは別に赤くなりいきなりのろけ話に突入していった。
「そうなんだよ、角付き聞いてくれよ……隣の宿の大将がさぁ~一緒に暮らさないと誘ってくれてさ~」
等と言い出したのでルディールはもう一度滝に流してやろうか? という気持ちをぐっとこらえて話を聞いた。
すると一度目も二度目も魔都ファボスに来た時も宿屋の店主に衣食住を提供してもらい働く所を紹介してもらって金が溜まったら転移の魔石を買い人間界に戻ったと勝手に話していた。
「それでな、もう金が貯まったからお前を倒す為にもう一度魔石を買って、村に復讐に行こうと考えていたんだが……」
「お主もなかなか懲りんのう……」
帰ろうとしていた時にここで一緒に暮らさないかと誘われて悩んで居るとの事だった。
「それでお前はどう思う?」
「それはお主自分より弱い奴の相手をするより自分の幸せを取った方が良くないか?わらわと猿が勝てたのはたまたまじゃぞ?それが分からぬお主ではあるまい?」
「そうなんだが……」
「お主はドラゴンなんじゃぞ?もっとどんと構えい。雑兵にかまわぬ様にした方がかっこよいじゃろ?そういう所に店主殿は惹かれたのではないか?」
等と嘘をつきながらルディールはまた酒を注いでいく。
「そうだよな!お前の様な奴の相手をしてるより自分の幸せだよな!」
「うむ!復讐は何も生まぬとは言わぬが、自分が幸せになれる方法が別にあるのならそれを選ぶべきだと思う!」
ルディールはアイテムバックの中から黒硬貨を二枚ほど取り出し人型ガイアロックドラゴンの目の前においた。
「結婚祝いじゃ。取っておけガイアロックドラゴンよ」
そう言うとお金に困っていたようで目を輝かせながらいいのか? と尋ねた。ルディールもそれ以上は何も言わず頷くとガイアロックドラゴンはそれ懐にしまった。
「お前良い奴だったんだな!」
「うむ!わらわは良い奴じゃぞ!」そう言ってさらに酒を注ぐとドラゴンといえども容量を超えたようで酔い潰れ寝てしまった。
「さてとこれで良いじゃろな……犬、鳥、猿も酔い潰れておるしそろそろ戻ろうかのう。なかなか良い収穫はあったしのう……っとお主らも来ておったのか?というかその顔はなんじゃい」
ガイアロックドラゴンとルディールのやり取りを途中から見ていたルミディナとスバルは少し呆れこの人は何をしに魔界に来たんだろうと言う顔をしていた。
二人に何か食べてから戻るか? と尋ねるとルミディナは作ったお弁当が残っているからと断り、ルディールは酒場で酔い潰れた連中の酒代を全部払ってから宿へと戻って行った。
宿に戻り三人でルミディナが作ったサンドイッチを食べ終えると、スバルが自分の部屋に戻ったので二人ともシャワーを浴び、ルミディナが先にベッドに入った。
ルディールは酒場で手に入った情報をまとめるのにアイテムバッグから羊皮紙と筆記用具を取り出し書きはじめた。
「ルディールさんはまだ寝ないのですか?」とルミディナがベッドの中から頭を出して座っているルディールに話しかけた。
「先に寝ると襲われそうじゃからな……眠れないのか?」
「襲いませんよ!……魔界に来て少し気が立っているのかなかなか寝付けませんね」
「なるほどのう……何か話をしてやろうか?」
ルミディナは少し考えてからお願いしますと言ったので、一人の魔法使いが村の少女を助けて色んな所を旅する話をしてあげた。
話の途中でルミディナが何処かで聞いたような話ですねと言っていたが真剣に話を聞いていた。
「最後はその魔法使いは自分の国に帰りましたとさ」
そう言ってお話を感想をもらおうとルミディナの方を見ると静かな寝息を立てていた。
「何というか……寝顔はお主のかーちゃんとそっくりじゃな……未来のミーナの旦那さんは誰なんじゃろな?」
そう言ってルディールは少し乱れたルミディナの布団をかけ直してあげ、椅子に座りルミディナとスバルの事を考えた。
(スバルの方はたぶんスナップとバルケの子じゃな。スイベルかとも思ったが知らぬようじゃったからのう……別の世界からこっちに来れるぐらいじゃから過去に来るぐらいは出来るんじゃろな……)
ルミディナやスバルと話していると友人達との会話で聞いた事がある台詞や表情に面影があったのでルディールは二人の正体をなんとなく察していた。
(この世界の未来から来たというよりは似た世界の未来から来たと言う感じなんじゃよな……リージュも知らぬし……嘘かもしれぬがのう……何が理由で来たかなんじゃよな?誰かを探しておると言っておったじゃろ?)
そう考えながら魔界にいると思われる魔神の名前等をルディールが知っている範囲で書いていき、アトラカナンタの名前に円を付けさらに深く考える。
(う~ん……アトラカナンタを倒すとかそんなんじゃったら適当に嘘をついてこやつが標的と言えばええんじゃよな。それが無いならアトラカナンタが目的では無いんじゃろな?)
先ほど酒場で悪魔や魔神に聞いた話を思い出しながらさらに深く考えていった。
魔族達の噂ではアトラカナンタが各地を回り、近い内に本当の魔王様が現れるから興味がある奴は魔都ファボスに来いと、飲ませて吐かせた数人の魔族がそう言っていた。
(新しい魔王と言うのはわらわの事じゃと思う……ソアレを助けに行くタイミングでルミディナが来たんじゃから、各地から魔神が来るこのタイミングを知っておってと考えて……となるとルミディナの標的は他の魔神と言う可能性もあるんじゃが……もしかしてわらわかソアレが標的か?)
アトラカナンタの思惑の方はまったく分からないがルミディナ達の目的はなんとなく見えてきたので少し難しい顔をしながら寝ているルミディナに近づいた。
「う~む。かわいい顔してなかなか策士じゃのう」と言いながら頬を突いた。
「おっお母様ごめんなさい」とルミディナが身動ぎしながら寝言いったのでルディールは苦笑しながらミーナの夢でもみておるんじゃろなと言った。
「でもルミディナじゃからルディールとミーナと言う可能性もあるんじゃよな?吹雪の国にそういう魔法あると言っておったしのう……」
そう呟き、ルミディナの顔を見るとそれは絶対にないなと首を横に何度もふった。
(ミーナは賢いから大丈夫じゃが……わらわの子じゃぞ?絶対にアホの子になるぞ。ルミディナは普通に賢いし礼儀がなっておるしのう……しかも昼間の戦闘でも接近戦しておらんし。ミーナと誰の子なんじゃろな?)
それ以上は考えても答えが出そうに無かったので何があってもソアレだけは無事に連れて帰ると心に決めた。
(アトラカナンタやルミディナ達の思惑はあるじゃろうが他の事に気を取られる余裕はないのう……ルミディナ達と戦う事になるかもしれんが……)
ルディールは大きくため息をつき、メモした羊皮紙などを片付け一度、ルミディナの頭を撫でてからベッドに入り目を瞑ると心地よい眠気に誘われたので意識を手放した。
そしていつものようにルディールが一番はやく起きると、母親と同じ様にルディールのベッドにルミディナがいたので起こさない様に一階にいくと昨日一緒に飲んだ鳥の魔神がいた。
「お?鳥か、おはようじゃな」
「昨日の角付き様か、夕べは奢って頂きありがとうございました」
「こちらも面白いを色々聞けたからありがとうじゃな、それと少し聞きたいがアトラカナンタは魔都におるのか?」
「ほぼ確実に何処かにいますよ。お探しですか?」
そう聞かれたので、特に隠さなくても良いと思いルディールは普通に答えた。
「うむ。一発蹴ってやろうかと思ってのう」
「貴方に蹴られると痛いでは済まないでしょうね」
等と話し隣の酒場に朝食を二人分頼み届けて貰い、魔都ファボスの事について教えて貰った。
二つある城の新しい方はラフォールファボスが立てた城だと話し、古い方は先代魔王の城だと教えてくれた。
「先代の魔王城はたしか開放されていたはずなので誰でも入れたと思いますよ。特に用事もないなら行く必要もないですが……」
「王達の墓があるとか知り合いから聞いたんじゃがまだあるのか?」
「ああ、ありますね。謎の記号ばかりで書かれているので本当に墓かどうか分かりませんが」
等としばらく話をしていると朝食ありがとうございましたと頭をさげて宿から出ていった。
その光景をいつから見ていたか分からないがルミディナがなんともいえない顔をして見ていた。
「……お知り合いの魔神ですか?」
「ん?昨夜一緒に飲んだ仲じゃな。微妙に知らん」
「どっちなんですか……と言うかどうして魔神と仲良くなってるんですか」
「ん?優しさを失わない事、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。と教えて貰ったからのう。実践しておるだけじゃな」
「はぁ、そうですか……それと間違えてルディールさんのベッドに潜り込んでしまったようですみませんでした」
「ん?別にかまわんが……まぁ良いか、女の子じゃし言うのは止めておいてやろう」
「いやいやいやいや途中まで言って止めたら逆に気になりますからね!?」
その姿が誰かとそっくりだったので、笑いをこらえきれず笑ってしまったのでルミディナに不思議そうな顔をされ今日は魔王城に向かうと伝えた。
次回の更新は明後日予定。
はじめの方の話の誤字脱字を今になって報告してもらえると過去が改変されたのか!?とちょっとなりません?いつも報告ありがとうございます。




