第136話 坑道
「油断しておる訳ではないが、歴戦の冒険者と魔神が前衛をやってくれると応援以外やることないのう」
「応援するにしても気が散るかもしれませんから、おとなしく周囲に気を配るのが正解だと思いますわ」
スナップとそんな感じに世間話をしバルケとイオスディシアンを方を見るとバルケは巨大なムカデと、イオスディシアンは鉱石を鎧の様にまとったヤドカリの様な魔物と戦っている。
ルディールの言うように二人とも苦戦する事は無かった。バルケはムカデの体の節をその大剣に似合わず繊細に振るいバラバラに刻み、イオスディシアンは逆に魔力を纏った剣で力任せに鉱石の鎧ごとヤドカリを真っ二つにして戦闘は終了した。
バルケもイオスディシアンも素早く剣を振り付着したムカデやヤドカリの体液を飛ばし歩き始め、「先ほどのムカデとヤドカリが職員が言っていた魔物か?」とルディールはバルケに尋ねた。
「ああ、洞窟ムカデと鎧ガザミだな。ムカデは毒も無いが少し動きが速くて、ヤドカリの方が硬いだけって感じだな。デシヤンは軽々切ってたが」
「人間にあだ名で呼ばれるほど親しくはないが……ルディール様のご友人だ。特に何も言わないでおこう」
バルケもスナップもイオスディシアンの事をルディールが言っている様にデシヤン、デシヤンと言っているのが少し不服そうだった。
目的の場所まではまだ遠いので、ルディールはバルケに剣士について尋ねた。
「バルケは生粋の剣士なんじゃよな?スティレやデシヤンの様に魔法剣士の様な技は使わぬのか?」
「魔力は人並みにあるからやろうと思えば出来るが、正直向いてないから出来ないってのが正解だな……ルー坊は分かってそうだから……スナッポン、魔法剣士ってどう思う?」
急に話を振られて少し驚いていたが少し考えてからスナップは答えた。
「悪く言う訳ではありませんが、器用貧乏な感じがしますわね……どっち付かずと言うか何というか」
「まぁ大方そんな感じであってるが、魔法剣士とか聖騎士とかは二つの事を別々に考える事ができねーと無理だからな」
バルケはそう言って背中の大剣を持つとイオスディシアンがやっている様に魔力を剣に纏わせ近くの岩を切った。
「こんな感じで今なら出来るが戦闘中にってなると無理なんだよな。ずっと剣士だったから剣士として動いちまうからな」
「なるほどのう、魔法で受けたら無力化できる場合でも避けてしまうとかそんなのじゃな?」
「そんな感じだな。今更魔法剣士の真似事するより筋力強化のほうに魔力使った方が戦いやすいから、よほどの時以外は魔力とか使わねーな」
「デシヤンはこれからじゃが、スティレとか魔法剣士やる!と言ってすぐに出来るのが異常なんじゃな」
「王宮騎士やってたって言ってたからそういう特訓とかあるんだろうな。奴さん達は真面目にエリートだから何でも出来るんだろうよ」
世間話をしながらルディール達は坑道の中を地図を見ながら進んで行った。
途中からはさらに道が複雑になり地図無しでは確実に迷う迷路の様な構造になっており、分かれ道がある度にバルケが丁寧に確認している。
「もう少し行った先に鉱夫達が休憩に使っていた小屋がある少し開けた場所に出るからそこで長めの休憩をとるか?」
「ふむ、そこから水が溜まってる所までは近いのか?」
「地図に書いてもらった範囲だと相当広いから小屋から一時間も歩けば水が溜まってる所にはつくな。目的の場所はそこからまだまだ遠いが……」
「それ以降は休憩できそうな所は無さそうじゃな」
そういう事だとバルケが言って歩き始めたのでルディール達も後に続いた。体感で三十分もしない内に小屋がある開けた場所が見えてき排煙の為の穴も上に向かって空いていた。そして辺りに魔物がいないかを確認しはじめる。
「索敵にも引っかからぬし、この辺りには特におらぬ感じじゃな」
ルディールがそう言うと他の三人も同じ意見だったようで小屋の近くで休憩する事になった。
「どうする?仮眠ぐらいはするか?」とバルケが尋ねる。
「うむ、特に急ぐ事も無いじゃろうから無理なく行く方がいいじゃろな」
「その方が良いですわね。それとルディール様、小屋の近くに温泉が湧いているようですわ」
スナップがそう言ってその方向を指さすと湯気が確かに上がっていたので、ルディールが確認に行こうとするとイオスディシアンがバルケに戦い方について尋ねていた。
「バルケよ、スナップと小屋の近くにあるらしい温泉を見てくるのじゃ」
「ああ、わかったデシヤンに簡単にだが剣の戦い方を教えておくから先に行っててれ」
ルディールとスナップが湯気の方向に向かって歩き始めると背中から金属と金属がぶつかりあう音が聞こえた。
「何というか元気じゃな」
「バルケ様も自分の力が魔神相手に何処まで通用するか知りたいのでしょうね。わたくしも後で一戦いって参りますわ」
「最近わらわとやり合ったじゃろうに」
「ルディール様とデシヤン様を同じ分類に入れてはデシヤン様が可愛そうですわよ」
「戦闘だけならわらわの方が上じゃろが、総合的にみたらデシヤンもかなり強いと思うがのう」
「それを言い出したら私のマスターでスプリガンに命令権限がありローレットの貴族王族と知り合いでミューラッカ様とご友人で等々のルディール様ですわよ?後、お猿さんのボスですし……森の智者様達もいますし」
「……そう考えたら色々とやっておるのう」と笑いながら話し小屋というには少し大きな建物に入って行くと鍵はかかっていなかったが思った以上に綺麗でこの坑道が使われていた時の中継地点の様な場所だった。
そして簡単にだが中を調べ目的の湯気がある所に行くとやはり温泉で入り口に注意書きがあった。
効能!
小さな傷を治したり体の調子を整える効果あり!定期的にドワーフが巡回して建物の悪い所は修理していますので不用意に壊したりしない様に!
「それでここの建物はまだ綺麗なんじゃな」
「水が溜まる前までは新しい方の鉱山から帰りによって入って帰っていたのかも知れませんわね」
「新聞に近道とか書いてあったしのう……さてバルケに報告じゃな」
スナップがですわねと言ったので小屋からでると、先ほどより激しくなった斬撃音がルディール達の元まで届いた。
「良い感じに熱が入ったんじゃろうな……というか頭に血が上ったか?」
ルディールはそう言って音の方向を見るとバルケとイオスディシアンが誰が見ても分かるぐらい本気で戦っておりバルケはかなり押されていた。
その光景を見てスナップも戦いたくなったのか、メイド服の何処かに隠してしたルディールに買ってもらったガントレットを装着し行って参りますわ!と言って突撃しそうになったがルディールに首根っこを掴まれ阻止された。
「ルディール様!何をなさいますの!」
「二つ忠告じゃ。一つバルケのプレゼントはアイテムバッグに仕舞ってから行く事。二つ、まだまだ先は長いんじゃから赤い髪の本気モードにはならない事」
「はぁい。分かりましたわ」
少し髪の色が変わっていたので本気で戦う気満々だったがルディールの言う事が正しかったので諦め、バルケにもらった猫のブローチを丁寧にアイテムバッグの中に仕舞ってから、大きく踏み込んでイオスディシアンに向かってロケットパンチを放った。
なぜか威力、速度と共に上昇しており剣で受けたイオスディシアンを後退させ、その間にスナップはバルケの近くまで行き共闘する事を伝えていた。
「勇気とか愛で強くなる辺りスーパーなロボットなんじゃが……誰かを愛していればそれは生きてるって事じゃと遠くの国から来たお方に教えてもらったから、スナップは手が飛ぶ人でええんじゃろな」
そして特訓の邪魔にならない様に食事の準備をしたり本を読んだりして応援をしていた。
それから約一時間ほど戦っていたスナップとバルケは善戦はしたものの勝つまでは至らなかった。
「今の攻撃は入ったと思った所が何回もありましたのに……」
「そうそう、絶対に死角からだったのに見えてたのか?」
「私の様な虫型は複眼だからな、視覚がほぼすべて見えるから人間と同じように考えない方がいい」
三人が先ほどの特訓の反省会をしている間にルディールは食事の準備を終わらしていたのでバルケ達を呼び寄せた。
「スナップ達が準備するよりは遙かに劣るがこんなもんでええじゃろ」と言ってヘルテンで買った食材でサンドイッチなどの軽食を作って皆に振る舞った。
「ルー坊って料理とかできるんだな」
「ミーナとかスナップやスイベルに比べたら悲しいが人並みには出来るぞ」
バルケが意外だと驚きイオスディシアンも追従して頷いているとスナップが失礼ですわよと二人に注意していた。
食事も終わりルディールが先に温泉から上がり、下だけ履いて首にタオルを掛けた状態でヘルテンで買った飲み物を飲んでいるとスナップとバルケがやって来てスナップは固まった。
「ルディール様、少しよろし……」
「うむ。どうしたんじゃ?」といつもの様に話しかけたがスナップが慌て、すぐにバルケの目の塞ごうとしたが慌てて上手くいかなかった。
「バルケ様!見てはだめですわ!」
「なんと言うかあれだな……」
そう言って悪びれた感じもせずに半裸のルディールを上から下まで何回か視線を往復させた。
「別にかまわぬが……バルケよ。そういうのはあまり関心せぬぞ」
「ルー坊は服を着てる方がエロいというか女て感じがするよな?出てるとこはちゃんと出てて、凹むとこは凹んでスタイルは良いのになんでだろな?」
「このたわけが!謝るのが先じゃろうが!」と言って魔力の球を造りそれを指で弾きバルケの眉間に直撃させ意識を奪った。
「ルディール様、申し訳ありませんでしたわ……まさか家にいるような感じでウロウロしているとは思わなかったので……」
「覗かれた訳でもないから別にええわい。見られて困る様な事でもないしのう」
ルディールがそう言うとスナップがポンッと手を叩きそういう所が女性らしく見えないのだと思いますわとルディールに意見した。
「起きたらバルケお兄ちゃんのエッチ!とか言ってやろうかのう」
「ルディール様……その前に服を着た方がよいですわ……」
そしてルディールは言われた通りに服を着て、バルケに回復魔法をかけてから空き部屋に置いておいた。その後にスナップも温泉に入ると言ったので、ルディールは外に出て剣の手入れをしているイオスディシアンに話しかけた。
「戦ってみてどうじゃった?」
「はい、学ぶべき所はかなり多いですね。基本的に魔神と言うのは魔力の多さを使って力押しな所が多いので人間のような技と呼べる物があまりないので」
「なるほどのう……わらわもそうじゃが身体能力も高いから気をつけぬとすぐに力押しになるからのう……」
「魔王様……いえ、ルディール様の場合は力押しでも余裕で殲滅出来るのでそれでいいかと思いますが……」
「そんな事もないがのう……ミューラッカとか普通に力押しだけじゃと無理っぽいしのう」
「ああ、乱れ雪の女王ですか……あれもルディール様と同じで人間界が好きな様で」
「デシヤンはまだ人間界ぶっ壊すマンか?」
ルディールがそう尋ねるとすぐには答えなかったが自分の剣を眺めながらゆっくりと答えた。
「そうですね……どちらかと言えばそうですが、この剣にしろ先ほどの剣士とメイドの戦い方にしろ学ぶべき事は大量にあるのですぐには行動は起こしませんよ」
「なるほどの~。好きになってくれれば良いがお主等魔神も色々あるじゃろうしな」
「ははっ、魔神や悪魔など自分の私利私欲の為に生きていますからそこまで大層なものはありません。それにルディール様ともう一度戦うのはあり得ませんからね」
「うむ。褒め言葉と思ってもらっておこう。じゃがお主なら自称魔王には善戦できるのではないか?能力的にはお主やアトラカナンタの方が上じゃろ」
能力だけ見れば確かに私達の方が上かも知れないが魔力の多さや戦闘面での事を考えるとどうやっても現魔王には勝てないと話した。
「ルディール様、いっその事魔界に行って統一しませんか?魔界に行けば旧魔王城も残っており、指輪の謎もとけますよ?指輪の王達の墓もありますからね」
「魔界か……その内行った方がよさそうじゃが、またあの姿になったら嫌じゃしな~」
「そうですか?とても威厳あり素敵なお姿でしたよ」
二人で冗談を交えて話していると温泉の方からスナップの叫び声が上がり何かを殴る様な音が聞こえた。
ルディールとイオスディシアンの索敵を抜けるほどの何かが現れたのかと二人はすぐにスナップの元に駆け寄った。
その場には顔を真っ赤に染めたスナップが座っており、顔面に拳の跡が残った裸のバルケが気絶し倒れていた。
その光景を見て何があったか悟ったルディールはなんとも言えない顔してスナップにバスタオル掛けてあげて、バルケにも回復魔法とバスタオルを掛けておいた。
「ルディール様、何があったのでしょうか?」とイオスディシアンがルディールに尋ねたのでルディールは世の中には気にしない方が良い事もあると伝えておいた。
次回の更新は日曜日の予定で、もうちょっとで七章終了。
3500~4000字辺りが書きやすいと思う今日この頃。5000字超えると何故か劇的に誤字脱字が増えます……誤字脱字報告ありがとうございます。




