第131話 武器屋
ルディールはいつものように朝早く起き、枕をよだれで濡らしているスナップに朝食に行くとメモを残し部屋を出た。
バルケも誘おうかと部屋の前に行ったが、まだ寝ている様だったのでそのままロビーに行き食堂の場所を訪ね新聞を買ってから向かった。
ルディールの理想は窓辺に座りながら優雅にコーヒーを飲み新聞を見る事だったが、食堂がバイキング形式で料理はどれも美味しそうだったのでとりあえず一品づつ皿に乗せるとかなりの量になっていた。
宿も安いとは言え裕福な層が泊まるので見た目だけなら魔界の何処かの貴族かお偉いさんなのだがルディールの行動は色々と足りていなかった。
そして某Z戦士並の勢いで全てを平らげ周りに変な目で見られようやくコーヒーを入れ静かに新聞を読み始める。
(うむ。こっちの世界に来て料理が美味しいのはありがたい事じゃな。コーヒーの味が似たような感じなのもありがたいわい)と考えながら新聞を読んでいると一つの記事が目に付いた。
大昔の坑道に溜まっている水に注意!とても澄んでいて綺麗ですが体に付着すると長くて数週間、回復魔法等の回復手段が無効になります。鉱山で働く皆さんは十分にお気を付けください。本日もご安全に!
「……何かあれじゃな?古の腐姫の能力みたいな水じゃな」
その記事が気になったので読んでいると現在は使われていない場所だがヘルテンで一番深い場所だと書かれており鉱夫達が近道で使う程度の事だと書かれていた。
「その程度じゃと特に関わらんでもよさそうじゃな~」と言って食堂の大きな窓から外を眺めると朝早い時間にもかかわらず色々な所から蒸気が出たり鉱夫達が大きなトカゲの様な生き物の背中に何人も乗り鉱山の中へ入って行ったりしていた。
(たしかにここから見ても分かるが悪魔や魔神も普通におるのう……本当に魔界と交流があるんじゃな)と考えてながら外を眺めていると、ようやく起きたバルケとスナップがやって来てルディールに声をかけた。
「おはようございますルディール様、そうやってお静かにされているととても絵になりますわね」とルディールが朝からどれだけ食べたか知らないスナップはそんな事を言い隣に座り、バルケは前に座った。
「何か面白い記事でもあったのか?」
「ん?小さな違いはあるんじゃが何処の世界でも大きな違いはないのうと思ってな、それはそうと、今日は武器屋とか防具屋巡りにいくんじゃろ?」
「ああ、とりあえず飯食ってからだな」と言ってバルケもスナップと朝食を取りに行き、ルディールもデザートにケーキの様な物を取りに行ったので周りからまだ食べるんだと言う様な顔をされていた。
「ルディール様、何かなさいましたか?少し珍しい物を見るような目で見られていますので」とスナップが席に着き尋ねた。
「ん~?どうじゃろな?裕福な感じの所で新聞読んでおったから珍しいのかものう」
「剣士とメイドと魔族っぽいのが一緒にいるのが珍しいのかもな?」
少し気になった鉱山に水が溜まっていると言う話をしてからバルケに新聞を渡すとパンを加えながら読み始めた。
その姿が妙に似合っていたのでルディールは笑ってしまい二人に不思議そうな顔をされた。
それから三人で他愛も無い話をしながら朝食を食べ終わりルディール達は宿から外に出た。
そしてバルケが付いてこいと言うのでルディールとスナップは背中の大剣を目印に追いかけた。
「武器屋はどの辺りにあるんじゃ?」
「この場所の反対側の下辺りだな」そう言ってその方向を指さすと蒸気が一番上がっている場所だった。
歩いて行くには少し遠い距離だったのでその事を尋ねるとバルケがこっちだと言って崖に近づいていった。
「おっ丁度きたぞ。これに乗るんだ」そういうと目の前にモノレールの様な何両かに連結された乗り物が停まりそれに乗り込んだ。
「おお!すごい物じゃな!」
「ああ、ドワーフの国ヘルテンはこういう鉄とかそういうのが盛んな国だからな魔法とかよりこういうのが発達してるのが特色だな」
速度はあまり速くは無かったがゆっくり力強く進む未知の乗り物にルディールは心躍らせた。
「昨日買った本に書いてあった感じじゃと魔石や魔力で動いておると書いてあったが、この辺は大量に魔物が出るんじゃろうか?」
「エアエデンのように賢者の石を使っているかも知れませんわ」
「どうなんじゃろな?魔力を電気に変換すればモーターの類いは使えると思うんじゃが……」
「ですが、モーターの類いを作って人が乗る乗り物を作るよりはウマに強化魔法や魔道具を付けた方が楽だとお父様は言っていましたわ。なにより理解してもらうのが一番大変だと言っていましたし」
等とスナップとヘルテンを走っている乗り物について話しているとバルケが少し補足し説明してくれた。
「来た時に魔界に繋がってる話をしただろ?ヘルテンで使われている燃料はほとんど魔界から採れた魔石って話だな。魔界までは行った事はないが向こうで出てくる生き物は魔物で魔石を落とすって聞くからな」
「なるほどのう。全部の燃料が魔石では無いじゃろうから蒸気をつかったり魔力を使ったりしておるんじゃろうな」
「この辺りまで来るとスノーベインほど寒くねーし、これだけ蒸気とか出てると冬でも普通に暖かいらしいぞ」
「ウェルデニアも面白い所じゃったがヘルテンも面白いところじゃな~」
そんな事を話していると目的の場所についた様でバルケが降りるぞと言って降りたのでルディールとスナップも付いて降りた。
その場所は見るからに武器! 防具! が売っていますよと言うような所で店の前に大量の剣や槍、鎧や盾などが飾ってありそんな感じの店が大量にある場所だった。
そしてその場所には冒険者や傭兵の様な風貌の人達がいた。
「うむ!良い場所じゃな!一週間はここで観光できるのう!」と子供の様にルディールは目を輝かせた。
「どうする?先にルー坊がみたい武器とかみるか?」
「いや、それは悪手じゃな。このような所なら時間が足りなさそうじゃからな。まずはバルケが行きたい所に行ってからでよいのう。お互いに自由時間も欲しいのう」
「ルディール様は本当にこういう所がお好きですわね。わたくしも人の事は言えませんが……」
「わかった。じゃー行くか」とバルケが行く予定だった店に向いて歩きだす。
その場所は先ほどの本通りよりは少しそれた場所で、周りの店は何というか少しマニアックな武器が置いてある通りだった。
「お?ガリアンソードが置いてあるのう……っと仕込み杖とかもあるぞ」
「ん?ああ蛇腹剣か。ルー坊の国だとそう言うのか?この辺は少しマイナーな武器が多いな。ジャマダハルとかな……っと。ここだここ」
バルケは目的の店に着いた様で中に入って行き大声で叫んだ。
「おーーい!ガンテツさんいるかーーー!」
中にその人物はいたようで奥から返事が返ってきた。
「いねぇーーから!帰れ!」
「おっ、いたいた。よしルー坊とスナッポンいくぞ」
と言って武器や防具が大量に並んだ店内を我が物顔で奥へと歩いていったのでルディールも付いていった。
奥に行くと溶鉱炉とは少しちがったが似たような物があり数人のドワーフが仕事をしておりバルケは目的の人物の所に歩いていった。
「ガンテツさん、悪いけど前に見てもらった剣を研ぐのとパンツァービートルの素材が手に入ったから採寸してくれ!」
「いねぇ!って言ってんだろ!……はぁ、おめーは昔っから人の話きかねーな。ちゃんと金はらえよ。先に大剣見せなって、お前……少し前にお前に合わせてやっただろーが!」
ガンテツと呼ばれるドワーフとバルケは昔からの知り合いだったらしく、口調はきつめだったが仲よさげに話していた。
「いかにも職人さんって感じじゃな~」
「ですわね」
ガンテツはバルケから大剣を受け取り軽々と持ち上げチェックしていくと顔色が変わり大剣の腹でバルケの頭を殴り叫んだ。
「うらぁ!バルケ!武器だから仕方ねーが、大事に使え!このドアホウが!なんでオリハルコンとミスリルの合金が凹むんだよ!」
「俺じゃねーよ!そこの角の生えた魔法使いに言ってくれ!」
「ああん?」とその手の人を思わせる顔つきでルディールの方を見たが、睨まれた等の本人は気にもせずバルケ達を見ていた。
そしてルディールを上から下まで何度か見てから大きくため息を付きバルケに謝った。
「あーすまね。この嬢ちゃんならできそうだな……」
「どこからどう見ても華奢な女子じゃろうに……何処が基準なんじゃ?前も似たような感じで見破られたが……」
「あーそれ王都にいる奴だろ?あれは俺の弟だ。そういや前に手紙ですげー装備の角付きが酒造る魔道具を買っていったとか言ってたが…お前さんの事か?」
「たぶんわらわの事じゃな。というか世間は狭いのう……」
「装備もあるがお前さんは魔神だろ?この辺りには多いから毎日みてると見分けがつくってもんだ」
「なるほどのう……ガンテツ殿よ。このたまにしか仕事をしない不実の指輪を改造せぬか?」
ルディールがそう言って拳を突き出すと改造した所で分かるわなと言いまたバルケに向き合った。
バルケの方もルディールとガンテツが話している間にアイテムバッグの中からパンツァービートルの素材を机の上に並べていた。
「ほーなかなかいい素材だな……何を作ったらいいんだ?」
「小手と臑当と胸当てと腰当でいいけどできるか?」
「これだけ素材がありゃーもっとできるが、それでいいのか?」
「おう、全身鎧はがらじゃねーしな。余った材料はガンテツさんにやるから少しまけてくれよ」
ガンテツは頭を掻きながらわかったよと返事をし、バルケも少し採寸してもらうから表の店で待っててくれとルディール達に言った。
特に断る理由も無かったのでルディールは分かったと言ってからスナップと店内へと戻った。
そして二人で武器や防具を見ていると小柄だががっちりとした女性のドワーフがやって来て、試着したい物や手に取って見たい物があれば声をかけてくださいと言ってくれたので礼を言ってからまた見始めた。
するとスナップが少し相談がありますと言ってルディールに装備について尋ねた。
「いつも素手で戦っていますので何か武器を持とうと思うのですがルディール様はどう思いますか?」
「う~ん。じゃったらスナップはロケットパンチもあるし投げも使うから、変に武器を持ってはだめじゃな。魔法は使わぬがわらわに近いからのう……」
そう言って辺りを見渡すとメリケンサックやガントレットの様な武器が置いてある場所があった。
「お主が使うならこの辺りじゃと思うんじゃが、剣とかハンマーとかトマホークもありじゃがどうじゃ?」
「何か偏った武器になっていますが……ルディール様が言うように手を使うのが主体ですからこういうのが良さそうですわ」
そう話し真剣に悩み始めたのでルディールも付き合いアドバイスをしたりしてようやく、二つまで絞られた。
「この二つが良いと思うのですが……どう思います?」
「じゃったらこの金色の方じゃな、こっちを買っておけば間違いあるまい」
「お値段が倍ほど違いますわ……後、どうして金色の方ですの?」
「ん?お主が戦闘モードに入ると髪が赤くなるからのう……まさに赤いたてがみ金の腕じゃな!」
などと話していたが値段の事もあり決めかねているとルディールはそのガントレットを手に取って店員さんの所に持って行きさっさとお金を払いスナップに渡した。
「ボーナスというヤツじゃな。お主にもスイベルに世話になりっぱなしじゃからのう。気にせずもらってくれる方がわらわは嬉しいのう」
ルディールからにプレゼントに戸惑いを隠せなかったが、受け取れないと言った所で困るのは主だと言う事も分かっていたのでスナップは素直に礼をいい受け取った。
「これで、後はエアエデンが巨大なハンマーの形に変形してスナップがそれを装備したら完璧じゃな」
「プレゼントもらった後に変な事を言われましても返事に困りますわ!」
そんな事を話しながらルディールも無駄に仕込み杖や使えないのに蛇腹剣を買ったりしていると採寸が終わったバルケが戻ってき背中には代わりの大剣を背負っていた。
そしてスナップの新しい装備をみて褒めこれからどうするかを尋ねてきた。
「これからどうする?バルケカリバーの方は夕方には出来上がるみたいだが……昼飯にいくか?」
ガンテツの工房にいる時間が思った以上に長かった様でいつの間にか太陽も真上付近に来ていたのでバルケの提案にのりルディールとスナップはまたバルケに付いていき近くで食事を取ることになった。
「バルケカリバーは夕方なんじゃろ?軽鎧の方はいつぐらいなんじゃ?」
「遅くても三日後って話だから明後日には出来るんじゃねーかな?」
「仕事が速いのう……さっきのガンテツ殿のお店がバルケのオススメか?」
「ああ、と言ってもヘルテンの職人は王都とかにくらべて遙かに技術が上だからな。何処に行っても最上位には仕上げてくれるぞ、あそこは槍が得意とか剣が得意とかはあるがな」
「ふむふむ。さすがはドワーフの国って感じじゃな」
「で、俺の大剣が出来るまでなんだが俺は少し見たい物があるから別行動していいか?」
なんの変哲もない会話だったがほんの少しだけバルケの態度が怪しかったがルディールがそれを見落とす訳もないので快く了承した。
「……うむ、それで良いぞ。スナップもわらわに着いて来なくてよいからスイベルのお土産とかたまには羽を伸ばして色々見てきてよいぞ。わらわも色々と見たいしのう」
「わかりましたわ。ではお言葉に甘えさせて頂きますわ」
そしてバルケにこの辺りの地図を描いてもらい一枚目をルディールが破ってしまい、夕方にガンテツの工房に集合という事になりルディール達は別れ思い思いの場所に向かった。
次回の更新は金曜日予定です。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。




