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第128話 始動

 皆が寝静まった頃部屋に防音の魔法をかけソアレと通信器具について話し合い、リージュの意見を聞きたかったので呼んだのだが、その姿は明らかに落ち込んでいた。


「わらわはちゃんと説明したと思うんじゃが?」


「その通りなんですけどね……ワンチャンあるかな~と思って来たらド腐れ魔導までいますし」


「……ミーナさん、セニア辺りが呼ばれたらかなりの危機感を覚えますが、貴方ごときはワンチャンなどありませんよ」


「ソアレさんも所詮は雑兵ですもんね」


 いつもの様に二人の間に火花が飛び散っているのを見て少しため息を吐き、二人にハーブティーを入れリージュに昼間の事を説明した。


「あの~ルディールさん?さらっととんでもない事を言うの止めてもらえませんか?」


「どう思う?ローレットに提供した方がええんじゃろか?」


「そうですね……ローレットに提出すると間違いなく爵位が貰えます。ルディールさんも貴族デビューになりますし、歴史に名前が残りますね」


「そういうのは勘弁して貰いたいんじゃが……」


「後は直せるだけでも一生ご飯食べて暮らせるぐらいには稼げますよ。壊れると直しようがないのが現状で、我が家の倉庫にもありますが皆さん捨てないので」リージュがそう言うとソアレも頷き現状は直せる人が本当にいないと教えてくれた。


「……元からそこまで数は多くなく紛失したりしていますがそれでも貴重なことは間違いありません」


「なるほどの~スナップもスイベルも直せると言っておるからノイマン系の魔道具の修理をするのも良いかもしれぬのう」


「本当は他国に渡すのはダメですし、父に報告もしないとダメなのですが……ルディールさん達が言う様にスノーベインに提供しておくのが一番かと思いますね、ろくでもない貴族が開発したとかになるとそれはそれでかなり面倒ですし」


 リージュもソアレと似たような事を話し、スノーベインの現状やローレットの事などについても説明してくれた。


「リージュの家も魔道具やら魔法の開発とかやっておるんじゃろ?通信器具は作っておらぬのか?」


「通信関係だけはダメっぽいですね、他は割と好調でローレット軍に卸したりしていますが……」


「なるほどのう……軍用から色々いじってグレードダウンさせて市民に行き渡る感じなんじゃな?」


「そういう事です。農家とかが使う農薬の魔法も元までいけば魔虫を倒す専用の魔法で開発されましたし、悪用されないように魔方陣の構造が分からない様にして販売したりする訳です」


「なるほどのう。じゃったら通信魔法より通信の魔道具の方が間違いないのう、分解しても構造が分からんじゃろうし」


「……注意する事もかなりありますが、その辺りはスノーベインの方々に任せましょう。声を聞くだけでかかる呪いとかもあったりしますので」


 三人で雑談を交えスノーベインに提供する事を決め、その際に有償か無償にするかという話になったが、ソアレ以外は特にお金に困っていなかったので条件を付けての提供になった。


「ミューラッカが了承してくれるかどうかわからんが、条件的にはわらわの名前を出さないぐらいでええじゃろ?」


「……後、ローレットに何かあったら援軍で来てもらいましょう。ルディールさんがいないときに魔神が数体でもきたらと考えるとゾッとしますからね」


「事が事なだけに口約束だけではと言う感じはしますが……最後は真心なので言えば分かってくれますよ」


 リージュの口から似合わない単語が出て来たのでルディールもソアレも固まっていると、何ですか?と言う様な顔をされたので二人は何も言わずに、そうですねとだけ言った。


 後は設計図や修理方法が書き終わったらスノーベインに持って行くと伝え話は終わったはずだった。


「……さて、リージュさんは部屋に帰りましょう。よい子も悪い子も寝る時間はすぎてますよ?」


「何をしれっとここに居座る気満々ですか……ソアレさんも帰りますよ」


「……ここからは大人の時間です。ガキンチョはとっとと帰りましょう」


 と喧嘩を始めたのでルディールは先に遅くまで二人に付き合ってもらった事に礼を言ってから睡眠魔法をかけ、静かに二人を部屋まで運び布団をかけてその日は過ぎて行った。




 次の日はルディールが起きて少しするとミーナも起きて来て今日の予定を尋ねた。


「ルーちゃん、今日はどうするの?」


「そうじゃな、今日の夕方にはお主達は王都に戻らんとダメじゃからな~お主達が何かやりたい事があったら手伝っても良い感じじゃな」


 そんな事を話していると冒険者組も起きて来て、食堂で騒がしく朝食を取っているとマジックポストに何かが届いた様でスナップがそれを取りに行きリージュに手渡した。


「リージュ様、ご実家からお手紙ですわ」


 スナップに礼を言い封を切り読み始めると少しだけ面倒くさそうな顔をしてから、スティレにその手紙を渡した。


「スティレさん、父からお仕事の依頼です」


「シュラブネル公爵からだと?」と少し驚き手紙を読み始めるとソアレが内容を聞く前に反対したのでカーディフに怒られていた。


「しばらくリベット村で休養すると言ったでしょう。休む為に働いているんですよ?十年くらいは断りましょう」


「スティレ、ソアレは無視していいわよ、どういう依頼だったの?」


「ああ、魔神が出たからしばらくリージュ様に付きっきりの護衛の依頼だな。一週間後には外交でリージュ様もウェルデニアに行くと書いてありその時も同行して欲しいと書かれている」


「……なるほど、断る以外の選択肢はありませんね。仮に魔神が出たら私達ではどうしようもありません、変に引き受けてはシュラブネル家にも迷惑がかかります」


 いかにもそれっぽい事をいっている様だったがその顔はすごく嫌そうだった……


「その辺りは大丈夫らしい、シュラブネル家のお抱えのSランク相当の傭兵達もくるそうだ」


「なるほど……だったら余計に行かない方がいいですね。ある程度は私達も戦えますが、Sランクと比べれば遙かに劣ります。足を引っ張ることを思えば断るのが英断でしょう」


 カーディフがそれも一理あるけど、どうしてシュラブネル公爵から直々に依頼が来たのだろうと悩んだが、娘のリージュもよく分からなかったようで少し頭を悩ませた。


 するとリノセス夫人が自分も親なのでわかるような気がしますがといって話し始めた。


「前にリージュさんが火食い鳥に護衛の依頼をしたのでしょう?その時にリージュさんと火食い鳥が仲良さそうに見えたのではないでしょうか?冒険者と護衛対象が仲が良いのはいい事ですからね」


「確かに話はしていましたが……父がそういう事を気にするでしょうか?」


「リージュさんが結婚して子供が生まれたらわかりますよ」とセニアとアコットを見ながら夫人は答えたのでリージュは少し恥ずかしそうにしていた。


 その話を聞いてスティレもカーディフも依頼を受けるつもりだったが約一名はすさまじく反対していた。


「くっ……前回の護衛の時に十発ぐらい殴っておけば良かった。ルディールさん!何かありませんか!こう打開策は」


「……ソアレ姉様」


「そもそも、冒険者やっておって大公爵の依頼を断るのはあり得るんじゃろうか?」ルディールが横にいたバルケに尋ねると依頼中だと断る事もあるが普通は貴族からの依頼は断らないと言った。


「ソロでやってる俺でも指名が入ると行くからな。面倒くさい奴は多いが冒険者やってて貴族の依頼を断るメリットはほとんどないからな~」


「だっそうじゃぞ。ソアレよ」


「くっ!一人の時なら断ったのに……スティレもカーディフもいますからね……仕方ありません……行ってあげましょう」


「なんで、アンタが上から目線か……というかソアレってリージュさん嫌いなの?」とカーディフが尋ねるとかなり考えてから答えた。


「……ウザいとは思っていますが嫌いではありませんよ?自信はないですが。……もしリージュさんが貴族でなく冒険者か平民だったりしたら」


「したら?」


「街中でも蹴り飛ばすぐらいには仲良しだと思いますよ?」


 その場にいた全員がこいつ何言ってんだと言う顔をした後にスティレがリージュに一言謝り、護衛を受けると言った。


「リージュの平民はまったく想像できんのう……」


「そうですか?私なら中央都市辺りで喫茶店の看板娘とかやってそうですよ、でもセニアさんの方が想像出来ないのでは?」


「セニアはこうパン屋さんとかやってそうじゃよな?かーちゃんと二人で看板娘やってそうなイメージあるしのう」


 ルディールがまた変な事を言い出したので全員がセニアの方を見ると確かにそんな感じだった。


 それから護衛の事もあるので昼過ぎには王都へ戻る事になったが、それまで少し悪乗りしたリノセス夫人が娘に平民の服を買って来て着させたり、リージュに着てもらったりして穏やかに時間が過ぎていった。


 皆が戻る前に火食い鳥とリージュに少し話があったので、ルディールの自室まで来てもらった。


「来てもらってすまぬ、今渡しておかぬとタイミングが無いと思ってのう」と言ってルディールは火食い鳥のリーダーのスティレに手渡した。


「詳しい事はソアレかリージュに護衛中に聞けば良いが、通信用の魔道具じゃな」


「へぇ~ルディってこんなの持ってたんだ」


「ルーちゃんが夜なべをして~……それは良いが、何も無いと思うがもしもの時は遠慮無く連絡して良いぞ」


 ルディールがそう言うとソアレが、では私が預かりましょうとスティレから奪い取ろうとしたが、リージュがそれを阻止しスティレがルディールに礼を言ってからアイテムバッグの中にしまった。


「……ルディールさんはこれからどうするおつもりで?」


「もう少しわかりやすい様に書き直してからスノーベインに行って休暇がてらにドワーフの国に行こうと思っておる」


「……また面白そうな所に、私がいれば転移させてあげられますが」と言ってくれたが、ルディールは知らない世界を旅するのは面白いと言って断った。


 それからあっという間に楽しい時間が過ぎミーナ達は王都へと戻って行った。


 スナップがまた静かになりますわ、と少し感傷にひたっていると、ルディールの通信用の魔道具が鳴った。


 何事かと思ってすぐに出るとソアレだった。


「ルディールさんの声が聞きたいという大変重要な事がありましたのでスティレのバッグからスリました」


「お主……まぁ良いか。何も無いかも知れぬし、何かあるかも知れんが気をつけてのう」


「ふっふっふ、ルディールさんの親友は伊達では無い事をおみせ……」


「あー……ルディール殿か?ソアレがすまない。また色々と迷惑をかけると思うがよろしく頼む」


「うむ、こちらはお主が思っておる以上に楽しんでおるから構わぬぞ」


 そう言ってもらえると助かるとスティレは苦笑してから通信を切った。


 リベット村に残ったバルケにスノーベインやドワーフの国に行く事を伝えると、俺も暇だから行くわと言い出した。


 そしてその日からルディールをスナップとスイベルが手伝い通信用の魔道具の作り方を丁寧に羊皮紙に書き記した。




 そして数日たって知恵と知識の指輪やスナップとスイベルのおかげで設計図が完成したのでバルケを連れてスノーベインに向かおうとした所でカーディフの祖父のコピオンが薬草を分けてくれとやって来た。


「ルディール、いくらだ?」


「ん?別にいいんじゃがとは言わぬ方が良いな……じゃったらリノセス夫人も今はおらぬし興味本位で聞いて良いか?」


 百毒と呼ばれたアーチャーと業火と呼ばれた魔法使いがどう知り合いだったのかが気になっていたのでその事を尋ねた。


「なんだ、そんな事でいいのか?」と言って昔を思い出すように話し始めたが、楽しいのは最初だけで胸焼けしそうな内容だったのでルディールは聞くのを諦めた……


「なんだもういいのか?ここからが面白いところだぞ?業火が村を蒸発させたりだな」


「とっとりあえず、コピオン殿がカーディフの両親を狙った時にリノセス夫人が護衛になって敵対したと言うのが分かっただけで十分じゃな……」


「あれが母親か……世の中は面白いものだな」


 そしてルディールはしばらくリベット村を離れる事を伝え、バルケとスナップを連れてスノーベインに転移した。




 雪は降っていなかったが相変わらずひんやりとした氷都に着くとバルケが宿で待ってるわと言った。


「ルー坊。悪いが宿で待ってていいか?」


「ん?構わんが隊長殿やミューミューと知り合いなんじゃろ?会わなくていいのか?」


「隊長の方には声かけといてくれ、ミューミューは面倒くさいから言わなくていいぞ」


 いつもと違うバルケの態度に思う所はあったが酒飲み友達の頼みなので快く了承し、先に宿に向かい部屋を手配した。


 流石にバルケと同じ部屋は駄目なのでルディールとスナップが同じ部屋でバルケが別の部屋で一泊する事になった。


 そしてルディールはスナップと一緒に少し観光しながらゆっくりと氷の城へと向かうと、城門を抜けた所にちょうどアバランチの隊長がおり部下に雪を降らさせ雪合戦をしていた。


「平和じゃのう……」


「ですわね……」


 二人がそう言うとすでに気付いていたくせに、わざとらしい態度をとりルディール達を出迎えた。


「魔法使い殿とそのメイド殿、ご無沙汰しています。今日はどういったご用件で?ノーティア様とご結婚の決意をされましたか?」


「されません。急で申し訳ないんじゃがミューミューことミューミューに会えるか?」


「言い直せてませんけどね。今は業務も落ち着いているのでふんぞり返っている筈ですよ。ご案内しましょう」


 数回しか城中を歩いていないはずなのに、すれ違う人達がルディールを見る度に丁寧に頭を下げていったのでルディールが不思議がっていると隊長がミューラッカ様と喧嘩できる人ですから、皆覚えますよと言い、あれ以降機嫌が良いとも教えてくれた。


「なるほどの~。そうそうバルケもスノーベインに来ているからお主には伝えといて欲しいといっておったぞ」


「了解しました。そう言えば前に会った時に魔法使い殿とは酒飲み友達と言ってましたね。仕事が終わったらいきますよ」


 等と話ながら玉座の間に行くとすでに連絡があったようでミューラッカが座って待っていた。


「久しぶりだなルディール。今日は何の用だ?」少し面倒くさそうな顔はしていたが声は少し嬉しそうだった。


「うむ、ミューミューも久しぶりじゃな!」


 ルディールが言った瞬間にミューラッカの顔色が変わり、前と同じように玉座の間が半分以上吹き飛んだ……

次回の更新は日曜日予定。


新作書きたくなる事もありますが、器用に書き分けられないのでまずは朝おきに全力投球。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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