第127話 良き思い出
やった!やった!とミーナとセニアが二人で手を組んで飛び跳ね、対照的にスティレは膝から崩れ落ち言葉を無くしていた。
「ルディール殿とソアレの弟子とはいえ……がっ学生に負けた」
「ミーナちゃんとセニアちゃんが凄いのか……油断したステ子がダメなのか……難しい所だな」
「バルケ、ミーナとセニアが凄くてスティレがダメダメなのよ」
二人に責められゴフッと言ってからスティレは地面に倒れ込んだ。
「ミーナもセニアもよくやったのう。今の感じを忘れんようにな」と言ってルディールは二人を褒めた。
セニアが自分の師であるソアレを探したがまだ片付けから戻って来ていなかった。
「それで、ルーちゃんは何してるの?小さな部品がいっぱいあるけど」
ルディールはテーブルの上で壊れた通信の魔道具をバラして中の構造を見てスイベルとスナップに意見を聞いている所だった。
「わらわが出来る範囲で世の中を少しだけ便利にしようかと思ってのう……魔法のエキスパートの意見を聞きたいが掃除中じゃから待ちじゃな」
そういうとバルケが大剣を担ぎルディールに一戦やろうぜと誘った。
「ルー坊は接近戦が好きって言うからな。俺は剣士だから少しは練習になると思うぞ」
「魔法に比べて接近はかなり弱いからのう……うむ。バルケよ、よろしく頼むぞ」
そう言ってルディールはバルケと向かい合ったがミーナとカーディフはバルケをとても心配した。
「ミューラッカ様とノーティアさんを投げ飛ばすぐらい近接戦できるのに……」
「イオスなんとかを接近戦で圧倒してたでしょうに……」
海神の羽衣をイスにかけ、バルケがいつでもいいぞと言ったのでカーディフにコインを投げてもらい、落ちた瞬間に殴りかかった。
バルケとルディールの距離はそこそこ空いていたが一瞬でルディールが距離を詰めたのでミーナ達学生は見失うほどの速さだったが甲高い音が鳴ったと思ったらバルケが剣先を地面に突き立て剣の腹で受けていた。
「ぬ?今ので決めてやろうかと思ったが……流石はバルケじゃな」
「おまえな……前の剣だったら折れてたぞ……」
そのままバルケがルディールの顔面に蹴りを入れようとしたが、軽く受けその力を利用しくるくると回りながら距離を取った。
確実に入ると思って放った蹴りを簡単にあしらわれたのでバルケの雰囲気が一気に変わり、ルディールに話しかけた。
「ルー坊、俺じゃ相手にならないっぽいから本気で行っていいか?」
「いいが……後でちゃんとわらわの接近戦の悪い所を教えてくれよ?」
「ああ、分かった」と言って馬鹿でかい大剣を軽々と持ち上げルディールまでの距離を一気に潰し斬りかかり戦闘が始まった。
「わっ!バルケさんってあんなに強かったんだ……」ミーナがそう言うとセニアも言葉を無くし頷くしか出来なかった。
「ソアレもそうなんだけど単体でAクラスに行ける連中って凄いわね……強化スティレ並に動けるのって凄いわ」
「4段階目以降だったら私の方が動けるぞ?」
「それ使ったら後が動けないでしょうが」とカーディフに弱点を突かれ、またぐふっと声を上げまた膝から崩れ落ちた。
二人の特訓で小さな衝撃波が発生していたのでスイベルが細かな部品などが飛ばないように片付けていると姉のスナップが楽しそうに「今のは横から蹴れば入ってましたわ!」等と叫んでいたので、とても嫌な予感がした。
「姉さん、駄目で……」
「スイベル!少し行ってきますわ!」
スイベルが言い終わる前に戦闘に乱入しルディールがバルケの剣を受けた所で背後からルディールにロケットパンチを放った。
それをルディールは上手く躱し一度距離を取った。
「……スナップも参戦するのか?」
「はい、バルケ様ではかなり荷が重いと思いまして。ルディール様なら一対多数でも余裕ですわ」
ルディールがそうでも無いと言おうとした所でバルケがまた斬りかかってき、スナップの髪の色が変わりいきなり本気に変わった。
「おっお主……模擬戦でそこまでするか?」
「普通のままでしたら相手にもなりませんわ、強化と調整をしたので一時間程度なら余裕で戦えますわ」
「そこは三分と言ってほしかったのう!」と言いルディールはもう一度、気を引き締め戦闘を再開した。
「ルディールさん大丈夫でしょうか……」
「ルーちゃん強いけど魔法無しだしバルケさんとスナップさんだから負けないとは思うけど苦戦はするのかな?」
ミーナとセニアが心配しているとカーディフはそれは無いと二人に話した。
「いやいや。あの二人がいくら強くても、あの程度で苦戦してたらSランクよ。それより上のXランクの吹雪の女王にもルディって勝ってるんでしょ?余裕よ余裕」
「さてと準備完了だ。カーディフ、行くぞ……」
その声が聞こえた方向を見ると学生にも負けましたと書かれた服から着替えたフル装備のスティレがおり、いつの間にか世界樹に登ったカーディフが弓でルディールを狙っていた。
そして身体強化魔法のレベル3をかけスティレもルディールに斬りかかり、何か言おうとした瞬間にカーディフが矢を放った。
「バルケ殿、火食い鳥も援護する!」
「頼む!気抜くなよ!瞬き一つで潰されるぞ!」
そして冒険者組とルディールの戦闘が始まりミーナ達学生は混ざる事も出来ないのでスイベルに流れ弾から守ってもらいながら観戦しお互いに意見を述べていた。
「ルディールさんって魔法使いですよね?」
「すみませんリージュさん……弟子ですが自信ないです」
「ルディールさんって本当に強いんですね……魔眼でも見ていますが身体強化も使ってないと思いますし……」
ルディールがバルケとスティレの猛攻を凌ぎ、距離を取るとカーディフが狙撃し、バルケ、スティレのどちらかが蹴り飛ばされると即座にスナップがカバーに入りルディールに一切休憩をさせない戦い方をしていた。
ミーナ達が関心して見ていると後ろから声がかかった。
「ミーナさんはスナップさんの戦い方をよく見ておくと良いでしょう。貴方の場合は何でも出来るので誰でもよいですが、スナップさんとルディールさんが近いですね。リージュさんはうんこ」
「あの~……頭にバケツ被って杖の代わりにモップをもった魔法使いが何を言っていますか?」
「一割冗談ですよ、本来ならルディールさんが影魔法を使うのでルディールさんを参考にするのが良いのですが……今は接近戦していますからね。セニアと一緒に私を見ておくと良いでしょう」
「あの~ソアレ姉様?」
セニアがそう言った瞬間にルディール目がけて稲妻を放ち、いつもの帽子と神鳴りの杖を装備して火食い鳥に合流した。
「ソアレまで来るか……魔法を使ってよいか?」
「駄目です。ルディールさんが魔法を使ったら相手になりませんので私達を鍛えると思って接近戦でお願いします」
「……それ、お主とカーディフが一方的に攻撃できぬか?」
身体強化も使用せず近接攻撃だけだったので少しキツそうだったのだが、ふとルディールはゲーム終了時に友人達や残ったプレイヤー達と戦った事を思い出した。
あの時もこんな感じじゃったな~と思いだし気持ちの良さそうなルディールの笑い声が響いた。
その様子に皆は呆気に取られたがバルケとソアレがルディールの雰囲気が変わった事を感じとり注意を促す。
「皆さん、注意してください。ルディールさんの魔力の流れが変わりました」
「なんか変なスイッチ入ったな……」
「うむうむ。わらわは果報者じゃな……さてと前衛組は気合いを入れるんじゃぞ?」
それから後は語るに及ばず……
終わった頃にはルディール以外は動けなくなっていた。
「すまぬ!やり過ぎた!」
「ルディ……あんた、手加減しなさいよ……」
その言葉を最後にカーディフも意識を失い部屋のベッドまで全員運ばれ、ルディールによって回復魔法をかけられた。
「ルーちゃん、途中からご機嫌だったけどどうしたの?」
「うむ、昔を思いだしてテンション上がったと言うヤツじゃな。まぁ、今はやり過ぎて下降気味じゃが……」
「ルディールさん的には誰が一番強敵でしたか?私が見た感じだとバルケさんかな?と思いましたが……」先ほどの戦闘を熱心に見ていたリージュが意見を尋ねる。
「そうじゃな~……全員自分が出来る事出来ない事が分かって連携して戦っておったから全員じゃなと言いたい所じゃが……バルケ、スナップ、ソアレの攻撃はわらわに通ったからのう……そうなるとソアレじゃな」
そう言って手を見せると少し深めの切り傷と火傷の跡が何カ所かあり簡単に理由を説明した。
「わらわは魔法使いじゃからな、接近戦が苦手というのもあって攻撃が通ったと言うのもあるが、同じ魔法使いで攻撃のタイミングが分かるのに当てて来たからのう……」
「最近、残念な魔法使いになってる様な気がしましたが……なんというか流石は雷光なんですね」リージュがそう言うとセニアは頷きそうになっていたがなんとか耐え誤魔化していた。
ミーナ達と話しているとそれを見ていたアコットがルディールにすごいすごい!言って肩によじ登り、リノセス夫人が話しかけてきた。
「ルディールさん、本気でリノセス家に来ませんか?」
「いきません。頼まれれば護衛にいくのでそれで十分でしょう……」
「……今の所は諦めますが着いて来て本当によかったです。バルケさんや火食い鳥が思った以上に強いので今なら指名したい放題ですね」
リノセス夫人の言葉に戦ったルディールは人一倍感じており、前に国王陛下の前で戦った連中や黒点達とは少しは劣るが友人達がSになるのもそう遠くは無いなと思っていた。
それからルディールはスイベルから通信用の魔道具を受け取り家の中へ戻り、ミーナとセニアとリージュはリベット村の図書館に行くといい、アコットは子供達と何処かへ遊びに行き、リノセス夫人は村長の所に向かった。
スイベルに相談しながら通信用の魔道具を分解して見ているとスイベルが辺りを警戒してから話しかけてきた。
「ルディール様……もしかして手応えありですか?」
「さっきバラした時にだいたい分かったんじゃが、夫人もおったからのう……変な事はいわぬ方がよいと思ってな」
「直して使うおつもりで?」
「う~ん、感じ的にそこまで難しくないからのう……少しいじれば一からでも作れそうじゃが……ちょいと相談したいからソアレ辺りが起きてくれればいいんじゃが」
ルディールがそう話しながら羊皮紙に分解した部品を事を細かく書いていると二階から「都合のよい女はいかがでしょうか」と声がかかりその方向を見るとソアレが立っていた。
「お?ソアレよ。もう起きて大丈夫か?」
「……はい、全然大丈夫ですよ?テンションが上がったルディールさんに投げられたスティレに巻き込まれて吹っ飛ばされただけですので」
少し棘あるようにも聞こえたが、その後に気を失いましたがもらった装備のおかげで思ったよりダメージは無いと言ったので、やり過ぎた事を謝り通信用の魔道具の事を説明した。
「……毎度おなじみの知恵と知識の指輪のおかげですか?そうですねー」
「細かい部品じゃからわらわが作るのは無理じゃが、そういうのが得意な人がおれば一から作れると思うが通信魔法とどっちがええかのうと思ってな」
「……どちらにせよ、通信関係になると国が関わって来ますよ?前に言った様に各国が開発してますし国の利益になる事は国が離しませんからね」
「魔法でもか?」
「……はい、仮に内緒で使うとしても街中で使って一人で話していたらどうなりますか?変な人がいると怪しまれますし魔眼でみれば多分分かりますよ。あと普通は名誉な事なので国に登録して国に買い取ってもらいますから」
魔法を国が買い取ってしばらく調べ使い勝手や危険が無いと判断されると国民が買えるように販売したり物によっては提供したりするのだと教えてくれた。
「……正直、そのレベルの魔法になってくると隠す意味はないですね、使うのが便利ですし」
「なるほどの~」
そういってソアレは回りに音が漏れない魔法を張りルディールに一つ提案した。
「……ルディールさんが世の中を便利にしたいと思って国に関わるのなら、本当は駄目ですがスノーベインに提供しましょう」
「ん?ミューラッカとは知り合いじゃからそれの方が楽じゃからか?」
「……はい、ルディールさん国に関わるのがすごい嫌そうなのでミューラッカ様なら国に拘束する事は多分しないでしょう」
「……この前、結婚させられそうになったんじゃが?」
「……その相手は後で殺るとして、通信用の魔法、魔道具が作れると言うのは国にとってかなりのアドバンテージになります。悪くいう訳ではありませんがローレットはスノーベイン、ウェルデニアに比べてかなり優位に立ちすぎています」
ウェルデニアは世界樹が復活したらしいのでまだよいのですが、スノーベインは本当に特産という特産がなく外交に使う武器がほとんど無いと話した。
「……バランスを取るという訳ではありませんが……スノーベインに提供して恩を売っておくのも良いでしょうね、スノーベインとリベット村は近いのでもしもの時は助けてもらえますよ」
「バレたらやばくないか?」
「……絶対にバレませんよ。無名の魔法使いとAランク程度の魔法使いがすげぇ!魔法開発したぜ!と言った所であーはいはいで終わります」
「利益の事を考えるんじゃったら魔法より通信器具で渡した方が良さそうじゃな、誰でも使えるし器具も売れるじゃろうしな」
「……ルディールさんが貴族になりたいとか金持ちになりたいとかならローレットで良いですが、そうでないのならスノーベインですね」
「なるほどの~構造はだいたい分かったから後は本当に作れそうかチェックじゃな、その辺りはスイベルとスナップにも相談じゃな」
そういうと静かに立っていたスイベルがお任せくださいと頭を下げた。
「……後はそうですね。リージュさんにも相談してみるのもいいですよ、シュラブネル家は公爵なので独自に魔法や魔道具の開発などもやっていて定期的に国に卸したりしているので、不本意ですが色々聞けますよ」
「相談に乗ってくれるじゃろうか?」
「……奴はわかりにくいですがセニア並にルディールさんラブなのでほいほいと話しますよ」
「その言い方はどうなんじゃろな……」と苦笑しながら三人で話を詰めたりしてその日は過ぎて行った。
次回の更新は金曜日になります。
ノートPC買いました、コタツに入りながら執筆できるって素晴らしい。
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。




