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第120話 新たな魔神

 狭間の世界から元の世界に戻ってくるとルディールは大きく息を吐き出し、連れてきたイオスディシアンに尋ねた。


「のうのうデシヤン……さっきの魔神どっち側じゃ?ぶっ殺す派か、穏健派か、我関せず派か?理想は我関せず派なんじゃが……」


「アレをご存じで……残念ですが人間を滅ぼそうとしている私達の陣営です、私はあいつが嫌いなので仲間と思った事はないですが、魔王様と仲が良いようなので連れてきたと言っていました」


 ルディールが大きくため息を付いたのでカーディフは少し心配になりその事を尋ねた。


「ねぇルディ、さっきのも魔神なの?」


「うむ。名をアトラカナンタと言う魔神じゃ……魔神だから人型なんじゃがあれは只の殻で……中身というかなんというか寄生虫の魔神じゃな」


「……気持ち悪い奴って事は分かったわ……強いの?」


「能力がウザすぎる。相手の体を乗っ取ってその体の限界まで能力を引き出すし、取り込めば自身が強くなるとかそんな感じじゃな。本体だけでもデシヤン並に強かったはずじゃ」


「いえ、私では負けますね。圧倒まではされないと思いますが」


「だっそうじゃ……追いかけて来られてこっち来たらどうしよう……樹都ウェルデニアの事など気にせずこっちで戦っておけばよかったか?」


 ルディールが頭を抱え悩んでいるとコピオンがすぐには追いかけて来ないと言い説明した。


「さっきの奴ならしばらく動けんだろう、矢に霊薬を塗って四肢を貫いたからな。今頃は矢が木になりあの場に射止めている筈だ」


「さすがコピオン殿!ナイスじゃ!」


「だが言う様に側が只の殻なら手足を切り落として来るかも知れんぞ?」


 そういうとイオスディシアンがその問いに答えた。


「それは大丈夫ですね、手足を切って人間界に来るとしても出入り口の場所は決まっていますから、すぐにその場に来れないのと殻の中に中身が詰まっているので手足を切れば流石にダメージを負います」


「ダメージは負うが痛み無かった様なきがする……わかり合えない者として今のうちに倒すのも全然ありじゃな。逃げたのはミスったかのう……」


「いえ、他の魔神も動いているので、あの場にいたら鉢合わせしますよ」


「あれで良かったとしておこう……カーディフやコピオン殿が乗っ取られたら最悪じゃしな、デシヤンだったらそのまま葬るが、さてとわらわの勝ちじゃから色々教えてもらうぞ」


「殺されなかっただけ良しとしましょう。真の魔王様、先に一つ……お名前は?」


 そういうといつも通りるるるの花子と答えたが、カーディフから待ったがかかった。


「ルディ、いつもの事だからそれでもいいんだけど……ここはちゃんと名前を教えておいてあげなさい。ここで間違ったら何か駄目な気がするわ」


 カーディフのその顔がいつも以上に真剣だったしコピオンも頷いたので、ルディールはイオスディシアンに嘘をつかずに名前を教えた。


「ルディール・ル・オントじゃ」


「ありがとうございます魔王ルディール様。私でよければお答えしましょう、そこのエルフ達、礼を言う」


 そう言ってイオスディシアンはカーディフとコピオンを複眼に映し頭を下げ礼を言った。


「さてとまずは聞く前に言っておくが、強制出来ぬ事じゃができたらわらわの事は他の魔界の連中には黙っておいて欲しい」


「理由をお聞きしても?」


「お主が勝手に魔王と言っておるだけで、わらわは魔王ではないからのう、確かに魔神族ではあるがな」


「なら殺して黙らせては?」


「それも実際考えたが……人の話を聞かぬ奴は別じゃが、意思疎通が出来る奴を殺すのは抵抗あるからのう。わらわのお願いじゃな」


 その言葉にイオスディシアンは肯定も否定もせずルディールの質問を待った。


「色々聞く前に一つだけ言っておくか、イオスディシアンよ。お主にはお主の考えがあって人間界を潰そうと考えておるんじゃろ?わらわは今の所は友人や知り合いがおる人間側の味方じゃ、お主がどんな恨みがあって人間界を潰そうと言うのかは知らんがその事は覚えておくが良いぞ」


 そう言ってルディールは魔界の事に尋ねると人間界と同じほどの広さがあり魔族達が村や町をつくりほぼ人間界と変わらない生活をしていると話し、次は魔王の事について尋ねると少し表情を曇らせた。


「今の魔王様は指輪を持っていません……ですから私は一度、魔界に戻りどちらが本当の魔王様か見極めようと思います」


「うむ、自信持って言おう!わらわはそれっぽい指輪を持っているだけの魔神じゃから向こうが本物じゃぞ!というか戻って大丈夫か?エルフの里を潰すの失敗しておるし」


 ルディールがそう言うとイオスディシアンは笑いながら今の魔王様は全く逆の事を主張していたと言い自身の事は大丈夫だと答えた。


(魔神と指輪の持ち主はこっちの世界にもゲームの世界にもおったんじゃよな……なんでなんじゃろな?魔王はいなかったからこっちの世界産か?ほかの魔神が魔王を名乗っておると言う可能性もあるが……)


 そしてコピオンが少し質問があるとイオスディシアンに尋ねたのでルディールは魔王の事などに悩んでいるとカーディフが話しかけてきた。


「何か、大変な事になってきたわね……」


「頭が痛い事ばかりじゃな……魔王の方は会う事もないじゃろうからどうでも良いが、わらわが魔王とか言われるのが一番困るわい」


「まぁ戦闘とか見てたらどこからどう見ても魔王なんだけどね……今回も加減して戦ってたって言ってたし」


「しっかしわらわは異世界人なんじゃがの……はぁ」


「それも謎よね。まぁその辺りは一度おいておくしかない訳でしょ?まずは他の問題から片付けましょう」


「問題が山積みすぎて泣きそうになってきた……デシヤンがウェルデニアを攻撃してなかったらまだ楽だったんじゃが……色々と見られておるしのう」


「黒点達を圧倒した魔神とやり合った訳だしね」


 ルディールとカーディフが悩んでいると索敵魔法に引っかかる何かが大量に現れたので、ルディールはイオスディシアンに話しかけた。


「ふう……ここまでじゃな、デシヤンよ。エルフ達が来たから引いてくれると助かるし、ついでにお主の上司の魔王の名を教えてくれるとありがたい」


 そう尋ねると少し悩んでから、魔王の名はラフォールファボスだと教えてくれた。


「全然知らぬ名前じゃな……ではデシヤンよ。また会うかも知れぬが出来れば敵対せぬ事を祈っておくぞ」


 ルディールがそう言って背を向けると、少しまってくれと声がかかり振り返るとイオスディシアンが自分の足を二本ほど引きちぎった。


「お主!何をしておるんじゃ!」


「エルフ達が来たらお使いください、追い返したと伝え足を見せればある程度は信じるでしょう。エルフは長く生きているだけあって思慮深いので」


「共犯と思われる可能性もあるんじゃな…なるほどのう」


 ルディールは礼をいってからイオスディシアンに回復魔法を唱えると足は生えなかったが肉が盛り上がり血は止まった。


「私も虫の魔神なのでその内生えて来るので大丈夫です。ではルディール様、また何処かで」


 そう言ってイオスディシアンは森の中に入って行くように消えていったので、ルディールは礼を言ってからシャドーラットを放った。


「敵じゃし放っておいてもいいんじゃが……よいじゃろう」


「ネズミに追いかけさせたけど魔界の行き方でも突き止めるの?」


「ん?わらわの世界じゃとミスしたらがっつり殺されるからのう……色々教えてもらったから、一度は助けてやろうと思ってな。デシヤンの影にシャドーラットを忍ばせておいた感じじゃな」


「なるほどね~。しっかしルディって誰とでも仲良くなるわね」


 ルディールがそうでも無いぞと話しているとコピオンがせっかく魔神が足をくれたんだ、戦闘をしたにしては俺達は綺麗すぎる少し汚しておけといって自身の殻に泥やすすを付け始めた。


 ルディールとカーディフも同じように体をよごして、少し経った頃に黒点とガザニアが兵士を引き連れてやって来た。



 

 イオスディシアンがルディール達と別れ、森の智者達と同じように森から森へ飛ぶ転移魔法を使い人間界に数カ所だけ残っている狭間の世界に行ける場所まで来ていた。


「ルディール様か……こちらが本物の魔王様だろうが人間側の味方と言っていたな」


 等と考えながら魔界に行く為に狭間の世界に行き、背中の羽を羽ばたかせ白黒の世界をとんだ。


 そしてある程度の距離をとび先ほどルディール達と戦った辺りを通るとアトラカナンタの気配がまだあった。


 虫の目がアトラカナンタを捉えその姿を確認すると、さきほどの老エルフが言ったように矢が木になりその場に打ち付けられていた。


 陣営は同じだがアトラカナンタの事を仲間だと思った事が無いイオスディシアンはそのまま通り過ぎようとしたが、触手の様な物が足に絡まり地面に叩き付けられた。


 が、イオスディシアンも足に触手が絡んだ直後に虫を放っており、拘束を解かないように頭だけを爆発させた。


「あはっ?今、見捨てて行こうとしたよね?」


「ああ、助けてやる義理はないからな」


 そう言ってお互いに魔力を解放し一触即発の雰囲気になった。


「姿までは見てないけど、君と一緒にいたのは新しい魔王様かな?」


「さて、どうだろうな?不用意に情報を与えるべきではないと習ったからな。お前に話す事は無い」


 その言葉に無いはずの目が光り、あたり一面に大量の触手の様な物が現れイオスディシアンを襲ったがイオスディシアンも大量の虫を召喚し反撃に出た。


 触手の相手は虫達にまかせイオスディシアンはその場から動けないアトラカナンタを風の魔法で攻撃し確かにダメージは入っているようだったが、魔法に関してはアトラカナンタの方が上だった様でイオスディシアンもダメージを受けていた。


「あはっ?やっぱり虫は弱いね、わたしは一歩も動いてないよ」


「ああ、そうだな。私は弱い。それはすでに痛感した。煽ってもその拘束を解くような魔法は撃たないから安心しろ」


「あはっ残念。じゃあ君を殺してその体をもらおう」


 いままでの戦いが遊びだったかの様にアトラカナンタがさらに魔力を解放させ、イオスディシアンに攻撃しようとした所で、後ろからそこまでだと言う声がかかった。


 そしてイオスディシアンとアトラカナンタが振り返るとそこには自分を魔王と名乗る男と護衛の魔神達がおり、イオスディシアンは膝をつき頭を下げた。


「イオスディシアン、アトラカナンタ。仲間同士で何をやっている?」


「はい、私は仲間だと思っていないのでこの場で消してしまおうかと」


「あは、虫ごときにわたしは負けない、偽物がなにかよう?」


 その言葉にラフォールファボスは眉をひそめ不快感を表したが、側近の魔神達がアトラカナンタに魔王様に向かって偽物とは何事か!と声を荒げた。


「アトラカナンタよ、我が偽物とはどういう事だ?友人のよしみだ。答えてくれぬか?それとお前ほどの者が拘束されるとはどういう事だ?」


 魔王はそう言って炎の魔法を放ちアトラカナンタを拘束していた木を全て焼き払った。


「あははっ。友人に嘘をつくのは友人とは言わない、拘束はその虫にやられた。ばいばい」


 そう言ってそれ以上は答えず、ルディールと同じように影の中へ消えた。


「さて、イオスディシアン。どういう事か説明できるか?」


「はっ……樹都ウェルデニアの陥落に失敗しおめおめと逃げ帰った所にアトラカナンタと戦闘になりました」


「……お前もアトラも使えんな、陥落しに失敗し世界樹を復活させられたと言う事か」


 イオスディシアンはその言葉の意味が分からず聞き返すと魔王の側近の魔神が魔法を唱え、世界樹を映すと青々と葉は茂りイオスディシアンが生命力を抜いた時より一回りほど大きくなっていた。


 その事に驚いたが角の生えた少し変な魔神の顔が思い浮かんだので不覚にも笑ってしまった。


「何が面白い?」


「いえ、少し思い出し笑いを。一つだけお聞きしてよろしいでしょうか?ラフォール様は本当に魔王様なのでしょうか?」


「何が言いたい?お前やアトラごときが束になっても叶わないぐらいには強いぞ」


 魔王がそう言うとイオスディシアンは諦めた様にため息をつき、ラフォールファボスの陣営を抜けさせてもらうと伝えた。


「そうか。お前ごとき居ても居なくても大して変わらんが、他の魔神や他の陣営に人間の情報が伝わるのはさけたい。この場で死ね」


 そう言って魔法を唱えイオスディシアンを黒い炎をで焼き払おうとした。


 だが、小さい影が盛り上がり一匹の小さなネズミが変なポーズをしたかと思ったら魔王に急接近し蹴りとばし防御させると、その直後にまた影が盛り上がり先ほど消えたアトラカナンタが現れ、魔王の側近の魔神の首を即座にはねその体を飲み込んだ。


 イオスディシアンが呆気に取られると影の中から大量のネズミが現れ、イオスディシアンを影の中に引きずり込んで何処かに消えた。


「あはっ。君を食べてもいいんだけど、まだ少しわたしには早いかな?ばいばい偽物」


 そう言ってすぐに影の中に潜り、その場には魔王だけが残された。


「あの馬鹿共が!!!アトラカナンタめ!何が偽物だ!」


 大声をあげ叫ぶと、魔王の背後の影がまた静かに盛り上がり大量の触手が魔王を襲ったがその全てを焼き払った。


「一度去ったから油断してるかと思ったけどそうでもないね。今度こそばいばい」


「逃げられると思っているのか!」


「逃げられると思ってなかったら出て来ないよ、あまりかしこくはないね」


 その煽りに釣られ強大な魔力を爆発させアトラカナンタに襲いかかったが、また影に潜り今度こそ何処かへ消えた。


 魔王はアトラカナンタに逃げられた事で、地面を殴りその怒りを爆発させ叫んだ。その声はいつまでも狭間の世界に響き渡った。


 イオスディシアンがネズミの影に飲み込まれ、吐き出されるとそこは大きな滝が見える橋の近くだった。


「死手の大滝か……」


 そう呟くとまた影が盛り上がり後を追って来た様にアトラカナンタが現れた。


「お前が縫い付けられた事は私だと、どうして嘘をついた?」


「本物の魔王は私の獲物。あんな偽物にあげるのはもったいない」


「このネズミはお前の魔法か?」


「わたしも影魔法をつかうけどそれはつかえない。それは本物の魔王の魔法」


 そう言うとイオスディシアンはそうか……とだけ呟きアトラカナンタに今後の行方を尋ねた。


「私は魔界に戻りどちらの魔王についても調べようと思う。お前はどうするんだ?」


「いまのままじゃどっちにも勝てないからどこかで力をたくわえる。手始めに君を食べてもいいんだけど、本物の魔王を知ってるのは君だけだから生かしておいてあげる」


「そうだな、私やお前程度では相手にならないお方だったよ」


「だったらそっちが本物、偽物の魔王はそこまでは強くない。ばいばい」


 それ以上はお互いに何も言わずにそのまま別れ、イオスディシアンはそのまま死手の大滝に入り魔界へ行き、アトラカナンタも影に入り込む様に消えた。


 その様子を一匹の黒いネズミが見ており何処かの誰かの様に盛大にため息をついた。

次回の更新は金曜日の予定。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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