第118話 虫の魔神
イオスディシアンはルディール達を空から見下ろし話しかけたが、その言葉にはかなりの怒気が含まれていた。
「そこの角付き、よくもやってくれたな。私を蹴飛ばし虫をぶつけた事は死を持って償え!」
(虫の魔神イオスディシアンじゃな、ゲーム中のモチーフがアオバハゴロモとかあの辺りの害虫じゃったな……顔の辺りをアップで見た光の国の超人と宇宙警備隊の隊長ぐらい似てて別物なんじゃろか?それならまだ見分けはつくが……どうなんじゃろか?)
等と考え込んでいるとルディールは肩をトントンと叩かれ現実に帰ってきた。
「ちょっと、ルディ。魔神と対面してる時にどうしたのよ……」
もしかしたらカーディフの知らない魔法でいつの間にかルディールが攻撃されたのでは無いかと心配していたが考え込んでいただけなのでルディールは素直に謝った。
「はあぁ……心配して損したわ。あの魔神かなり怒ってるわよ……前にカタコンベ行った時もそうだけど、ルディってそういう所あるわよね」
「少し考え事をしておったからのう、何か重要な事を言っておったか?」
「この虫けら風情が!」
無自覚に魔神を煽っているといきなり逆上し、ルディールに高速で接近し襲いかかって来た。
が、鋭い爪がルディールに届く前に魔神の顔面に上段回し蹴りを決め、先ほどよりは近いが樹都ウェルデニアの外に蹴り飛ばした。
「さすがに街の中で戦う訳にもいくまい」
そう言ってすぐにルディール達は蹴飛ばした魔神を追いかけた。
ルディールが空を飛び、カーディフとコピオンは飛ぶ様に木の枝を飛び渡っていると少しだけ開けた場所で風の刃が襲ってきたが、ルディールが魔法障壁を唱え難なく防いだ。
魔法が飛んで来た方向を見ると顔にヒビが入った魔神がいたが、ゆっくりと再生していき怒りながらルディールに名を尋ねた。
「そこの角付き!良くも私を二度も足蹴にしてくれたな!あの世へ送る前に名乗れ!」
「名乗る訳ないじゃろ……名前も一つの情報じゃぞ?相手がどんな能力を持っているかも分からぬのに名乗る訳ないわい」
ルディールがそう言うと魔神は血管をピクピクと動かし怒りを我慢している様だった。
「ならばこちらも名乗りはしない!名前も知らぬ内に死んでゆけ!」
「虫の魔神……イオスディシアンじゃろ?間違えておったらすまぬが……お主も召喚された口か?」
ルディールがそう言うと、正解だった様で動きが止まり虫の複眼がルディールを観察し、少し冷静になり警戒度を引き上げた。
「どうして知っている?」
「わらわの質問に答えたら答えてやるかもしれぬぞ?」
「私は自ら人間界に来れる強者だ!召喚される様な弱い魔族ではない!」
イオスディシアンがそう言ったので、コピオンに習った様に適当に褒めるとルディールの質問に気持ちよく答えてくれたので、ゲームの世界でイオスディシアンがいた場所などを問いかけたが、まったく通じなかった。
(う~ん……見た目だけが一緒なんじゃな。なんでなんじゃろな?意味不明過ぎるのう……)
「角付き!どうして私の事を知っている!私が表立って現れたのは千年前だ!……もしやその時の記録が残っていたのか!?」
説明する義理もないので、ルディールはとりあえず便乗してそうじゃと答えた。
「なるほどな、世界樹の番人ならその頃の記憶が残っていてもおかしくは無い!私の姿なら後世に受け継がれていてもおかしくはないな」
「うむ!そういう事じゃ!さすがイオスディシアン!よくわかったのう」
ルディールの顔を見て嘘をついているのが分かったカーディフは頭を抱え軽くため息をつきコピオンは苦笑していた。
「本に書かれてあった通りじゃとお主は回復方法がないじゃろ?どうやって回復したんじゃ?」
褒められた事により調子に乗ってイオスディシアンは語り出し、焼けた世界樹から生命力を吸い取りその力で自身を回復させていると話した。
「枯れかけているとはいえ、さすが世界樹!体に力が漲っている!」
「なるほどの~それでダメージが回復したんじゃな」
「ふん、角付きだけあって魔族の端くれ。ある程度の理解はできているな」
とルディールとイオスディシアンが話していると魔神とか魔族の事が少し分かってなかったカーディフがルディールに尋ねていた。
「ねぇねぇ、悪魔とかたまにでるから分かるけど、魔神族とかってどういうのを言うの?」
「そうじゃな~。全部まとめて魔族で小分けして悪魔、魔人、魔神って感じじゃな。人型では無いのは悪魔じゃが、人と変わらなくて角や鱗があるのが魔人。ここが一番多い所じゃな。魔神は人型じゃが他の生物の特性が色濃く出てたりする奴じゃったかな?羽やら角生えてたり虫っぽいとかじゃな」
「それだと、あまり分ける意味なくない?」
「うむ。甲殻類で例えたら、悪魔がカニで魔人がエビで両方の良い所を持った魔神がザリガニって感じじゃからのう~。興味があれば細かく知っても良いが、知らなくても困らぬからそれぐらいの認識で良いぞ」
「今の説明で納得した自分が悔しい……」
「だからそこのイオスディシアンも人型で虫っぽいから魔神じゃな」
そう言ってイオスディシアンの方を見ると誰がザリガニだ!と怒っていた。
「小娘共!悪魔や魔人と魔神の決定的な違いを教えてやろう!それはこの圧倒的な魔力だ!」
後はあんな感じに見た目が普通でも魔力が多いと魔神だとカーディフに伝えた、イオスディシアンの魔力はカーディフにしてみれば確かに強大な魔力だったが、時間があれば深樹に顔を出しているコピオンやスノーベインでミューラッカと戦ったルディールからしてみれば大した事は無かった。
「魔神と言うから恐怖の象徴かと思えばそうでも無いか……確かに正面からやり合えば負けるが隣にいるルディールの方が遙かに恐ろしいな」
「どっからどう見たらわらわが恐ろしいか!……魔神といえどもミューラッカとかに比べれば遙かに弱いのう」
その言葉を引き金にイオスディシアンはウェルデニアを襲わせていた虫を百近く召喚しルディール達を襲わせた。
「虫の餌になって死ね!薄汚い人間共!」
「汚いって思うんじゃったら部下にやらんでもええのにのう?召喚された虫じゃし意思はないんじゃろな」
「感想おかしいわよ!」
そう言ってカーディフとコピオンは木の上に飛び、そこから虫を狙撃し、ルディールは範囲魔法を使わずに簡単な魔法や蹴りで無理なく仕留めていく。
「さすがに二度も私を蹴り飛ばしただけの事はあるな!角付き!」
(範囲魔法で消滅させてもよいが全部まとめてってなると森も巻き込むからのう……狭間の世界に引きずり込んで仕留めるのもありじゃが、もう少し情報を引き出したいしのう)
「よく回る口はどうした!防戦だけで手が一杯か?おかわりだ!」
ルディールが考え事をして黙っているのを勘違いしたイオスディシアンはさらに大量の虫を召喚した。
召喚された虫は数は多かったがルディール達からすればただそれだけだった。
「イオスディシアンよ、そういえばどうしてエルフの国を襲ったんじゃ?」
虫を爪や蹴りで戦い一撃で仕留めながらルディールがそう尋ねるとイオスディシアンも律儀に答えた。
「ふんっ、いいだろう冥土の土産に答えてやろう」
「うむ、ありがとうじゃな」
魔界には人間に対して敵対する魔族と、関わらないと方針をとっている魔族がいると話し、新たなる魔王が現れ人間に対して敵対する魔族を纏め、人間界に侵攻する準備を進めていると話した。
「魔界は広い、人間に対して滅びようがどうでも良いと思っている連中もいるが、その三つの勢力がある」
「なるほどのう、お主もスノーベインに出たカエルも斥候で来たという感じなんじゃな?」
「あのクソガエルも見たのか……あいつの仕事は乱れ雪の女王を仲間に引き込むのと邪魔な三首竜の討伐だ」
「人間に対して友好的な魔族はおらぬのか?」
「探せばいるだろうが友好的なら人間界に住むだろう。貴様や角が生えた人間をたどっていけばいつかは魔族にたどり着く、そういう連中が友好的な奴らと言う事だ」
いつの間にか虫の攻撃も止み、ルディールとイオスディシアンは世間話をするように話をしていたのでカーディフは呆れながら祖父に話しかけた。
「何であいつは誰とでも仲良くなるか……気難しいお爺ちゃんとも仲良くなってるし」
「カーディフ。ルディールが良い例だ。ああいう奴が他にいたら気をつけろ」
「ん?何が?」
「力が強い奴、魔法が強い奴、世の中には色々な強者がいるのはわかるな?その中で一番気をつけなければならないのは何かわかるか?」
コピオンの問いの意味は分からなかったが、ルディール達の話は続いていたので少し悩んでから答えた。
「ルディみたいに何でもできる奴かな?」
「正解は友好的な奴だ。自身が強すぎるから強者としての余裕があり、常にあるがままに誰かに縛られる事も無く生きていける」
「ん~それは分かるけど友好的な奴と関係あるの?」
「そうだな、もしお前がルディールと敵対したら獲物を狩るように殺せるか?私情を挟まずにとどめを刺せるか?戦いにおいて一瞬の油断が命取りになる……そういう事だ」
コピオンはそう言ったが、あれはどう見ても善人だからお前が友人だと思うなら仲良くしていいと言うと、カーディフはまた大きくため息を付いてからそれぐらいの見分けはつくと祖父にいい、またルディールの方を見た。
「侵攻するのは分かったが、今の話の感じじゃと今日明日という感じではないんじゃろ?」
「人のくせに頭が回るな、人の生は短いから人間の方は後回しだ。進行するに当たって驚異なのは長く生き知恵をもつエルフやドワーフまたは守護竜のような人の味方達だ。先にそういう連中から潰して行くという訳だ」
「お主、良い奴っぽいから悪い事はいわぬ。人間とは関わらないほうがよいぞ」
「なんだと?」
「まだ人間は魔界への行き方を知らぬのじゃろ?侵略するつもりが侵略される事も多々あるんじゃぞ」
「私達、魔神が人間ごときに負けるというのか!」
「お主の能力や強さならそうそう負けはせんじゃろうが……人の強みはなんじゃと思う?お主の能力ならわかるじゃろ?」
ルディールがそう問いかけるとイオスディシアンは腕を組み考え始め、少し経ってから答えを出した。
「数の多さと命の短さか?」
「うむ、正解じゃな。魔神の様に個々の能力が高く長生き出来るのはかなりのメリットじゃが、進化出来る可能性が少ないんじゃ、命は短いが数が多く交配を繰り返すものはいつか対応する者が出てくるじゃろ?」
「そうだな、虫でも餌に毒を混ぜておけばいつかその毒を克服した種類が出てくる」
「そういう事じゃ、お主や新しい魔王がいくら強いと言えどそれが毒じゃったらそれに対応する人間が出てくると言う事じゃ」
その言葉に思う所があったのかイオスディシアン腕を組みまた悩み始めルディールに問いかけた。
「お前の考えは分かるが、だからと言って千年前に魔王様を殺された煮え湯を飲み込めと?」
「千年経っておるんじゃろ?煮え湯からぬるま湯になっておるかも知れぬし、水自体腐っておるかもしれん、その恨みが本当に自分が心から願っておるか聞いて見るのもいいかものう。実際、人からミューラッカや聖女の様な強者が生まれているのも間違いないじゃろ?」
「……お前自身が大切な仲間を殺されてようやく反撃のチャンスがあったのが千年後だったらどうする?」
「ん?わらわは人間できてないからのう……お主の様に姿は現さず井戸に毒入れたり、作物がそだたない不毛の大地にしたりするじゃろな。姿を出さなかったら他国のせいにできるしのう。むしろお主の能力ならそっちじゃろうに。」
イオスディシアンは思う所があったのか何も言わずにその複眼はどこも映してはいなかった。
「わらわが偉そうな事をいうのはちゃんちゃらおかしいが一言アドバイスじゃな。熱くなって恨みを晴らすなら止めておいた方が良いし、冷静に復讐出来るならやってもよいとは思うが、お主、周りが見えておるか?」
ルディールがそう言うとイオスディシアンは大量に召喚していた虫達を一度消した。
そしてルディールと向かい合い、今更そんな事が出来るか!!と力の限り叫び魔力を解放した。
「お前が気に入った。私が勝ったら配下になれ角付き」
「わらわが勝ったら、わらわの事は同僚に内緒にするのと魔王について聞きたいのと魔界について教えてもらうのと……」
「注文が多いな!」
「それで良いなら受けてやるぞ?」
ルディールがそう言うとイオスディシアンは自分の強さに自信があったので了承し、いつでも戦闘に入れる態勢をとった。
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