第114話 焼けた世界樹
「ここに入ってから空が全然見えぬから時間が全くわからんのう。もう夜なんじゃな」
そう言ってルディールは上を向いたが見えるのは大木の枝や蔦ばかりで一欠片の空も見る事は出来なかった。
「疲れていないならこのまま世界樹まで行くつもりだ。行けるか?」
ルディールもカーディフも休憩したいほどは疲れていなかったのでコピオンの言葉に頷き後に続いた。
「一カ所にずっと留まっておると、生きておっても苔やキノコが生えたりするのか?」
「いや、場所によっては生きたまま体の自由を奪う菌類も確かにいるが……ここに長く留まりたいのか?」
コピオンはあごをしゃくって指すとつがいのパンツァービートルと先ほどみた雷を纏った虎が戦闘を始め、その勝者から漁夫の利を得ようと宙に静止した半透明の山椒魚の様な魔物など図鑑でも見た事のない魔物のバーゲンセールだった。
「自然豊かな森じゃな」
「ルディ……感想間違ってるわよ」
「この森がもし無くなってあれらが森から出る事になれば、どのランクになるかは気になる所だな」
その魔物達に気付かれないようにルディール達はさらに奥へ奥へと進んで行くと、コピオンの耳が何かを捉えた。
「……人がいるな、かなりの人数だ、どうする?様子を見に行くか?遠回りにはならない」
ルディールも索敵魔法でその方向を調べると確かに数人の人がいた。
「ん~この感じじゃとこないだのエルフ青年と黒点辺りじゃな~。コピオン殿よ、気づかれずに確認出来そうか?怪我をしておるなら助けてやらねばなるまいし元気なら放って置けば良かろう」
「元気で迷子だったらどうするのよ」
「見られないように背後から自由を奪って合宿所辺りに転移させればええじゃろ」
コピオンがそれぐらいなら出来そうな相手だなと言い、立ち止まっている集団の様子を確認しに向かった。
そしてそこにはルディールが言った様に数人のエルフと黒点ともう一つ別のパーティーがいた。
「少し遠いがここが限界だろうな、この場所より近づくと気付かれる」
「ちょっと遠いわね……でも見た感じは怪我とかしてる様子は無いわね」
カーディフがそう言うとルディールが会話をよんだかの様に、ここから半日あれば世界樹につきます等と、途切れ途切れに話し始めた。
「あれ?ルディって読唇術使えるの?毎回思うけどアンタって凄いわね……」
「ふっふっふ……まったく使えんが場の雰囲気に合わせてそれっぽい事を言えば騙されるかと思ってのう。お主もミーナももう少し……いたたた!」
ルディールが言い終わる前にカーディフが頬を思いっきりつねったがコピオンが少し訂正した。
「いや、あながち間違ってない。俺は読唇術を使えるから読んだが連中も世界樹まで行くようだ」
そう言うとカーディフは片手でルディールの頬をつねっていたが、さらに片腕を追加し両手で頬を引っ張ったりした。
「カーディフよ!何をする!」
「いや……こう何かむかつく!」
二人でじゃれていると、コピオンがそろそろ行くぞと言ったので痛めた頬をさすりながら進んで行く。
「特に何もしてないが世界樹で連中と会いたく無いのう。色々と勘ぐられても面倒じゃしのう」
「大丈夫だ、あの人数でそう易々とこの森は進めん」
なるほどのう、とルディールは納得しまた気を引き締めた。
それからできる限りの戦闘をさけ、長い時間歩いているとルディールは見慣れたが、カーディフとコピオンにしては珍しい生物がおり隠れるように言われた。
「ほぉ、珍しい森の智者か……ルディールもカーディフもよく見ておけ。死ぬまでに数回見られれば良い生き物だ」
「うわっ……本では見たことあっけど本物は初めてね」
「おおぅ。あやつ達か、この深樹にもおるんじゃな~」
ルディールは特におかしな事を言ったつもりも無かったが、流石のコピオンも驚きルディールの顔をまじまじと見た。
「ルディ何言ってんのよ……あれは森の智者って言う生き物で滅多に見れないわよ」
「前に我が家の庭に種を持ってくる二足歩行の鳥っぽいのがおると言っておったじゃろ?あそこにおるのとそっくりじゃぞ」
「確かに言ってたし、アンタの庭は凄いんだけど……流石に……」
「いや、本当じゃぞ。と言うか……あそこに歩いている奴は同一人物じゃと思うんじゃが……麦わら帽子被っておるし」
そう言って一匹を指さすと確かに帽子を被っていた。
「ルディール、お前の家に来て森の智者達は何をしているんだ?」
「庭の野菜や果物を取っていく代わりに畑耕したり世話をしておるのう。じゃが我が家はリベット村じゃし流石に遠すぎるのう」
ルディールがそう言うとコピオンは少し考えてから、森の智者は森渡りと言う森から森へ転移する魔法を使えると話した。
「いや、だが……庭にあれがでるのか?」
「違っておったら逃げるだけじゃし呼んでみるか」
脅かさないように森の智者達の目に付く所に立ちおーいと言って手を振ると、数人は驚き隠れたが帽子を被った者が隠れた者達に説明しぞくそくとルディール達の元に集まって来た。
「おお、やはりお主達じゃったか。その帽子は気に入っておるようじゃな」
特に言葉は発しなかったがルディールは獣の王の指輪のおかげで意思疎通ができたので、コピオンもカーディフも驚き目を見開き声を出すのも忘れていた。
「うむ、こっちはわらわの仲間じゃな。ふむふむ、コピオン殿のほうは何回か見た事あると、なるほどのう」
仲の良い友人と話す様にルディールと森の智者達が話しているのを見て、コピオンは少し笑い長生きはする物だなと言った。
「お爺ちゃん、ルディがおかしいだけだからね」
「ふっ……そのおかしな奴を友人というんだ、カーディフも似たようなものだろう」
ルディールが森の智者達と情報交換を始めたのでカーディフとコピオンは周りを警戒しながら少し腰を下ろし一息ついた。
話を聞いていくと気になる情報がいくつかあったがその中でも魔神という単語にルディールは反応した。
「ここにも出たのか?どんな感じの奴じゃった?」
「ルディ何がでたの?」
「うむ、数週間ぐらい前に世界樹の付近に魔神が出たらしいのじゃが、遠目から見ていたらしくて何をしていたかは分からなかったらしいぞ」
その姿を一番近くで見ていた者が手をあげルディールに説明すると、二足歩行の虫の様な姿で枯れた世界樹に何かを突き立てていたと教えてくれたのでカーディフ達にもその事を伝えた。
「その頃か、少しずつ森の外へ魔物達が出始めたのは……人型の虫か、その説明だとアラクネやレイブンアントでは無いようだが……余所からきたのか?」
「う~ん、見てないから決めつけは良くないが、そやつが何かしたのか?とはなるのう。吹雪の国でも守護竜に魔神がちょっかいかけたと言っておったし」
まずは世界樹まで行かないとどうしようもないと言う話になり森の智者達と別れて向かおうとしたら少し待てと言われ、付いて来てとジェスチャーされたのでルディール達はその後を追った。
森の智者達の後を追うと不思議な事に木々がよける様な動きをし、何の障害もなくルディール達は進む事ができた。
カーディフが呆れながらルディールと話していると、目の前に苔に覆われた断崖絶壁が姿を現し、そこで森の智者達も止まった。
「この苔の壁を上ったら世界樹があるのか?」
ルディールはそう言ってその壁を見上げたがコピオンはそれを訂正した。
「その目の前に見えるのが世界樹だ」
そう言って苔をむしると確かにしたから樹皮が現れ、ルディールを驚かした。
「はぁ?流石に大きすぎるじゃろ!上も横も端がみえぬぞ!」
「私が初めて世界樹に来た時とルディの反応が同じね。流石に千年ほど経ってるけど全部が全部燃えた訳じゃないわよ」
「そういう事だ。地形もあるが一周まわるのに一時間は優にかかる」
凄まじい木じゃな、等とルディールが感想を言っていると森の智者達がある方向を指さし、そちらに向かって進み始めたのでルディール達も付いて行く事にした。
そしてその場所につくと何もなかったが、この場所で魔神が何かをしていたと伝えた。
「なるほどのう、この辺りで魔神が何かをしておったらしいぞ」
コピオンが少し調べると言って辺りをくまなく調べ始めると足跡や世界樹に何かを突き立てたような後が見つかった。
「お爺ちゃん、どう?何か分かった?追うの?」
「足跡は見た事が無いタイプの虫だな……所々に足跡はあるが途中で消えている、転移したかのようだ……」
そしてまた世界樹の傷の所に行きもう一度調べ伝えた。
「この傷だが同じ奴は見た事はないが似てる奴はいる。樹木の液や魔力を吸う羽衣虫だ、ここに突き刺して世界樹から生命力を吸ったんだろう」
前に来た時よりもまた少し弱っていると言ってアイテムバッグの中から軟膏の様な物を取りだし気休めだがと言ってその傷に塗り始めた。
「害虫の類いの奴じゃな」
「あー小さいサイズの奴とかだと、害虫駆除の依頼あるわね。放って置くと麦畑とか壊滅するし、というかその魔神は何しに世界樹から生命力を吸い上げたのかな?」
「さあな、虫や獣の様に本能で生きているなら予想はつくが自我がありそこに意思があるならわからん」
(なんなんじゃろな~カエルにしろこの害虫にしろ、ゲームにおったんじゃよな魔神で……姿を見れば一発なんじゃが)
悩んでいるとカーディフが何を悩んでいるか知らないけど想像ならいくらでも出来るから見てから決めた方がいいわよと、アドバイスをくれたのでルディールは礼を言ってから考えを切り替え目の前の世界樹に向き合った。
「さてと来たのは良いがどうするかのう……魔神は一旦置いておくのが良さそうじゃな。コピオン殿、あの借りている本に書いてあったんじゃが大昔にも今みたいに世界樹は休眠しておったんじゃろ?」
「そこまで読んだか……その通りだ。だが私が読んだ頃にはそのページは破れていたからな、その薬の作り方は分からない」
ルディールは頷きながらもその本を取り出しページを開き確認したが、破れたページが戻っている訳も無くそのままだったが森の智者達も本をのぞき込んで来た。
お主達は字も読めるのか? とルディールは聞いたが首を左右に振り無理だと伝えた。
「この世界樹を治す薬が作れるらしいんじゃがお主達は材料をしっておるか?」
そう聞くと今度は縦に首を振り付いてこいと前を歩き始めた。
「ルディ、こっちは全然わからないから通訳してくれると助かるわね」
「この破れたページの材料がわかるから付いてこいと行っておるのう」
ルディールがそう言うとカーディフは驚き変な声を上げたがコピオンは冷静にまずは付いていこうと後を追い、少し歩くと世界樹の根を避ける様に穴が掘られておりその大きさは人が通れるほどだったので中へと入って行った。
中に入ると中には大きな空間があり光る苔がびっしりと生えていて明るく、森の智者達が作った思われる木や蔦で出来た祭壇がありそこには様々な果物が供えてあり、萎れてはいたがルディールの家の庭から取ってきた花や果物があった。
カーディフは物珍しそうにキョロキョロと中を見渡し、コピオンも観察するように周りを見ていると、一人の森の智者が祭壇に飾ってあった果物を指さしルディールに伝えた。
「アンブロシアの実、ソーマの実、イグドラシルの実じゃと?」
「それってルディの庭に生えてる美味しい実よね?前にお酒造ったし」
「うむ、そうなんじゃがこの植物は……隠すの面倒くさいからそのまま言うが、わらわがいた世界の植物じゃぞ?」
重要な事を言ったつもりだったがコピオンは特に気にした様子もなく、その実を手に取り調べ始めたのでルディールがお主の爺ちゃんじゃの~と言うとカーディフは少し嬉しそうだった。
「初めて見る果物だな……これで世界樹を治せるのか?」
コピオンがそう森の智者達に尋ねると首を左右に振り、言いたい事が伝わるルディールに説明した。
「なるほどのう。後一種類足りないのと自分達では薬に出来ないんじゃと、……ふむふむ、ふむ?」
「ルディ?どうしたの?」
「後一種類じゃが、わらわの家の庭に一時生えておったらしいが……そんなのあったかのうと思ってのう」
「……家庭菜園の意味が問われる庭よね」
「ルディール、竜と名がつく植物に聞き覚えは?」
「食竜植物……竜鱗華草ぐらいじゃな~」
ルディールが名を上げた後の方が正解だった様で森の智者達は大きく頷いたが、ルディールの家の庭にはもう竜鱗華草は生えていないと知っているので少し落胆した様だった。
次回の更新は火曜日予定。
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