第110話 使者
「カーディフよ済まぬ!ちょっときて欲しいのじゃ」
ルディールは倒れている耳の長い青年を確認してもらう為に、パンツァービートルを解体しているバルケの手伝いをしていたカーディフを呼び寄せた。
「どうしたの?って……エルフ!」
「耳が長いからもしかしてと思ったがやはりエルフじゃったか、先ほどの戦闘に巻き込まれたようなんじゃが……」
等と話しているとスティレとソアレも集まって来たので、バルケの意見も聞きたかったが、解体するのが先だから決まったら教えてくれと言って解体を続けてくれた。
そしてルディールが倒れているエルフに回復魔法をかけ傷を癒やしたが、まだ目を覚まさなかった。
「う~ん……エルフか~。一応ここも古代の森だからいても不思議じゃ無いんだけど、どうしてここにいるんだろ?」
「そういえば封鎖的な所とか言っておったな」
「まったく周りと交流がない訳じゃないんだけどね、ソアレやスティレもエルフの国に行った事あるし」
なるほどのうと言ってからルディールは探知魔法で他にエルフがいないか探ったが、相変わらず魔物が多数と森にいる冒険者や学生がいるだけだった。
「一応周りを探ってみたが、他にはおらぬような感じじゃな」
「流石にここに置いておく訳にも行かないな……バルケ殿の解体が終わり次第、合宿場に連れて行って休んでもらい教師の判断を仰ごう」
「……それがいいと思います。この辺りで合宿をしているのはエルフ達に伝わっている筈なので、遊びに来たと言う訳では無いでしょう」
「そうじゃな、起きたら起きたで事情を聞けばええ訳じゃしな。上の判断を聞くのがええじゃろな」
話しが決まったので、パンツァービートルの解体をしているバルケを手伝いに戻った。
「よし、こんなもんかな?ルー坊、悪いが残った肉や使えない殻は燃やすか消滅させてくれるか?」
「うむ。それは良いが殻と羽とか以外はほとんど使えんのじゃな」
「頑張れば食えなくもないが、筋が張ってて硬いしな……あと加工前だから嵩張るからな、ルー坊が魔石だから大丈夫だろうが、四人でこのサイズを分けたらアイテムバックに入らないかも知れないからな……」
火食い鳥達もそれで問題が無かった様で頷いたので、ルディールは炎の猫の魔法を唱え、一匹だけ召喚し解体されたパンツァービートルの残りを燃やした。
火が消えるまでの間にエルフがいた事などをバルケに説明し、ようやく火が消えたのを確認してからバルケがエルフを背負いルディール達はまた合宿場に向かった。
合宿場に着くと夜も更けていたが、生徒達はまだ起きており戻って来たルディール達をまじまじと見ていた。
「ん?なんじゃさっきより変な目で見られておるのう」
「……まぁ先ほどの学生達が戻ってその話が伝わったのでしょう、私達もバルケさんもAランクですがSランク初期が受ける魔虫を簡単に討伐しましたからね」
「なるほどの~話題提供にはなったと言う感じじゃな」
そして教員達の場所に向かっているとルディールが突然、少し王女様に相談があるから起きておったら声かけてくれるか?と誰もいない木に向かって話しかけた。
特に誰かがいた雰囲気はなかったのでスティレがルディールに話しかけると、王女直轄の暗部の顔見知りがいたので伝言を頼んだと伝えた。
「あー……。私が王女様のそばにいた頃に連中が最近すぐ見つけてくる魔法使いがいるとか言っていたがルディール殿の事だったのか……」
「うむ、影やら闇の魔法はわらわの得意分野じゃからな、影に隠れた所で一発でわかるわい。と言うかバルケがおるのに言ってよかったのか?」
「ああ、最近はよく仕事も一緒にするし、私はもう冒険者だからな。ルディール殿がいない時に簡単にだが説明しておいた」
「おう、教えてもらったぞ。まぁ聞いた所でって話しだけどな。冒険者は色々いるからな~元が貴族とかは結構いるぞ」
「ほ~冒険者も面白そうじゃな、報告がかなりめんどくさそうじゃが……」
「……そういう時は私達のようにPTを組んでスティレみたいな有能な人物を探して投げましょう」
話していると教師達がいる魔法で作り出したと思われるコテージに着いたので、詳しい事は王女様が来てから説明すると話し、エルフの青年をベッドに寝かせ、簡単にだが出会った魔虫などの事を説明した。
驚く教師達に説明しているとノックがあり王女がやって来た。
そして順を追ってルディールが説明し、質問があれば答えながら王女や教師達の答えを待った。
「王女様、どうしますか?」
「あっルディールさん、先生達はいますがいつもの話し方で大丈夫ですよ。ルディールさんに敬語で話されると背中がぞわぞわするので」
「分かりました。ではこのままでお話しますね」
「嘘です、ごめんなさい……まずはこのエルフさんが起きないとどうしようも無いですが、国王陛下の指示を待ちましょう」
そう言うと教師達から紙とペンを受け取り、さっと手紙を書き教師達に渡した、聞くとこのコテージは毎年同じ場所に設置されるので、マジックポストがあり手紙のやり取りが出来ると教えてくれた。
「後は待ちって感じじゃのう、ではわらわ達は森の中に行くかのう」
そう言ってシャドーラットを一匹呼び寄せ、何かあったらこのネズミに連絡してくれと頼み外に出ようとすると、教師達にパンツァービートルの事が伝わっていた様で生徒達を助けてくれてありがとうございましたと頭を下げた。
ルディールもどういたしましてと言って仲間達と外に出ると何故か王女も付いて来て話しかけてきた。
「さて、ルディールさん何か忘れていませんか?」
と聞かれたが特に思い当たる節がなかったので聞き返すと、ミーナ達にはクッキーをあげたのに私には無いんですか?と言ってきたので一袋渡した。
「セニアと同じPTじゃろ?ちゃんと分けて食べるように」
かなり長い間があって王女が返事をしルディールに礼を言って別れた。
「絶対に一人で食べそうじゃな……」
それからまた森に入りにルディールとバルケが組み、火食い鳥達と三時間毎の交代で朝まで合宿場の付近の警備をした。
パンツァービートルの様な大型は出なかったが、それなりに魔物との戦闘があり朝を迎えた。
「あーたらしい朝が来た。きーぼうの朝だ」
朝日に向かって木の上で仁王立ちをしながら歌っていると、下からカーディフに呼ばれた。
「アンタは……凄い魔法使いなのに、何してんのよ……」
「ん?喜びに胸を開けて大空をあおいでおるんじゃが?」
もう何でもいいわと言われていると仮眠を取っていたソアレ達も起きて来たので、本日の予定について話し合った。
「エルフの方はまだ起きてないと王女様から連絡があったが今日はどうするんじゃ?」
ルディールがそう聞くとリーダーのスティレは少し考えてから答える。
「エルフの事で呼び出しがかかると思うからあまり合宿場周辺から離れず護衛でいいと思う」
「休憩はどうする?強いのは出なかったが夜通しだからな、一度戻ってもいいとは思うが」
「いや、バルケ殿やルディール殿が平気なら呼ばれるまでは戻らずに護衛しよう、休憩なら交代で取ればいいからな」
理由を聞いても?とソアレが聞くと、学生や冒険者達に恩人のルディールを馬鹿にされ、流石に次、馬鹿にされたら殴りそうだから用がない限りは戻らないと言った。
「黙ってたから気にして無いかと思ったがそうでも無いんだな」
「ああ、流石にそこまで人間出来てないからな」
わらわは気にしてないぞとルディールが言ったが、私が気にすると言ったのでそれ以上は何も言わずスティレに礼だけ言って、ソアレもカーディフもバルケも納得したので、昨夜に仕留めてバラしておいた獣の肉を焼き朝食を取り始めた。
「普段やってる冒険者ギルドの仕事にしたら楽よね。周りに同じぐらいの冒険者はいるし、ルディやバルケもいるからね」
「……ダンジョンとかだとまともにご飯も睡眠も取れませんからね」
「冒険者も楽ではないのう」
朝食を取り終え少し休憩をしていると、学生が動き出した様でそこら中から戦闘音が聞こえ始めた。ルディールが放っているシャドーラットにも学生達が写り始めたので、行動を開始しようとした所で連絡用の魔道具が鳴り響く。
そして通話を始めると王女様からでエルフが起きたのでこちらに来て欲しいとの事だったのですぐに行くと伝え通話を切った。
「皆よ、エルフが起きたようじゃから、来て欲しいと王女様から連絡があったぞ」
では向かおうとスティレが指示をだしたが乗り気ではなかったので、ルディールが木々より高くそらを飛び、シャドーステッチで空に引き上げ姿を消す魔法で全員の姿を消し、そのまま引っ張って教員達のコテージまで向かった。
そしてすぐにたどり着き、コテージの前で魔法を解除した。
「流石に学生で空を飛んで姿を消す魔法を見破られる奴はおらんじゃろ」
スティレはキョトンとしていたが、少し笑いながら、確かにいないなと言ってからドアをノックし中に入って行った。
中に入ると数人の教員と王女と昨日のエルフがルディール達を待っておりすぐに話しが始まった。
「まずは助けて頂いた事に感謝を。名ですが性はありますが長いのでガザニアとお呼びください」
ガザニアがそう挨拶をすると王女も頭を下げ挨拶をしどうしてあの場にいたのかを尋ねた。
「はい、あの場所にいたのは強者を探す為です、エルフの里の奥にある深樹の魔物達がどういう訳か凶暴化しており、友好国のローレット王国に支援を求める為に向かう途中に戦闘に巻き込まれました。あの巨大なパンツァービートルが吹っ飛んできた時は焦りましたね」
事情を知っている火食い鳥たちはルディールの方をみたが、当の本人は特に気にした事も無く話を聞いていると、ガザニアがエルフの国の王からの親書を取り出し王女に手渡した。
王女はその親書を確認すると本物だったのでガザニアに王都に行こうと提案した。
「本物ですね……分かりました。ガザニア様は私と一緒にすぐに王都に向かい国王陛下にお会いしましょう」
「ありがとうございます、魔物の被害が増えていますので、先に何人か応援を送って頂けると助かります。パンツァービートルを軽々と倒せる方々もいるようですし」
そう言ってルディール達を見たが、国とか親書とかが見えて絶対に面倒になるのが分かっていたルディールは即座に断りを入れた。
「先に言っておきますが私は無理ですよ、今は学生達の護衛中ですし、私はリノセス家の護衛です」
「あの……ルディールさん、先手を打つのは止めてもらえませんか?」
「王女様の事ですから、自分がその親書を陛下に運び、ガザニアさんと私達を先にエルフの国に行って貰おうと今考えたでしょう?」
ルディールがそう言うと図星だった様で黙ってしまい、バルケも火食い鳥も、護衛の後に仕事を抱えているから無理だと話した。
「ルディールさん、友好国が危ないのであればすぐにでも応援を送らないと駄目なのはわかりますよね?昨日、陛下に送った手紙の返事が有り、ある程度は私に任すと書かれていましたよ?」
「でしたらそれこそですよ、火食い鳥もバルケもいくら強いと言ってもAランク、私に至ってはリノセス家の護衛と言う肩書きだけで無名ですよ?」
ルディールが無名だと知り、教師達もガザニアもかなり驚いていたが、王女はその事を思い出して軽く頭を悩ませた。
「そんな私達を国に関わらせてはローレット王国が笑われるのでは?エルフの国は友好国なのでしょう?」
「いくら無名とは言え、ルディールさん達は陛下が覚えておられるぐらいの強者です。増援を送るまでのつなぎとしては十分と思いますが?」
「今回は王女様には悪い条件がそろってます。Sランクが2PTも参加しているのに、私達を行かせたらどうしてSランクを行かせなかったとなりますよ」
「……ルディールさんが、今それを言わなかったらよかったのでは?」
「後からその事が友好国に伝わったらどうするおつもりで?」
それからガザニアの話を踏まえて議論したが話は平行線をたどった。
「私も行きたくないと言っている訳ではありません、この合宿が終わらないと無理です。この浅い所でかなり強い魔物が出ていますからね、他の冒険者達を信用していない訳ではありませんが友人達を手の届く範囲で守ってあげたいので」
そういうとガザニアは、ですが……と言った。
「ガザニアさん、わたしはエルフの国に行った事がないので適当な事は言えませんが、エルフの国も強い人は沢山いらっしゃるでしょう、ですからその方達を信じて行動されては?」
それ以上はお互いに言う事が無くなったので、王女は諦めて教師達に外にいるSランク冒険者を呼んでもらい、一度、ルディール達とコテージの外に出た。
「はあぁぁ……こういう時にルディールさんが無名だと困ります」
「友人を政治に使うのはよろしくないんじゃが?」
「そうなんですけど!そうなんですけどね……もういいです」
色々と諦めミーナやセニアを頼みますとルディールとスティレに言い、やって来たSランク冒険者達とコテージの中へ戻って行き、ルディール達も護衛へと戻って行った。
次回の更新は火曜日になると思います。
書いてて思う事は……サブタイトルが一番難しい、次回作書くときは絶対に数字にしようと思います。誤字脱字報告ありがとうございます。




