第108話 森の異常
ルディールは、さてどうするかのう?と呟いた所でソアレが確保と言って後ろから抱きついてきた。
「……カーディフ、スティレ。ルディールさんをゲットしましたよ」
「ナイス!ルディ悪いけど一緒に行動してもらいたいけどいい?」
「わらわもお主達とバルケを探しておったからよいぞ」
そう言っているとバルケもルディール達を見つけ近くにやって来た。
「ルディール殿、簡単に説明すると回復が使える人は毎回かなり貴重で……学生達はいいんだが同業者同士だと金品を要求されるからな」
「なるほどのう……同業者と言うよりはライバルという感じじゃったな」
そしてルディール達は付近の警備をする為にマジックテントを設置している生徒達から少しだけ離れた森へと入っていく。
「あのマジックテントとはどういう代物なんじゃ?」
そう尋ねると数年前は生徒だったソアレが答えてくれ、魔除けの結界などが発動する代物だといい、簡単な温度調整もついていると話した。
「あれば便利の良い代物ですが魔物や魔獣が出る所では怖くて使えないのが本当の所ですね。仮眠ぐらいにしておかないと」
そして森の中に入って行きソアレとルディールは一定の距離を取り索敵魔法で周りを調べながら移動し始めるとかなりの魔物や獣が索敵に引っかかった。
「でっかいのは今の所おらぬが……多くないか?こんなものか?」
「……私の索敵にも引っかかりましたが、多いですね。前に護衛に参加した時は魔眼のみでの索敵でしたが」
そう話しているといつの間にか木の上に登って辺りを警戒していたカーディフも降りてきて、少し離れた場所でも魔物が多いと話した。
「どうする?わらわはこんな感じの護衛は初めてなんじゃが……一度、報告しておくか?先ほどの連絡用の魔道具もあるしのう」
「そうね、何かあってからだと遅いからルディ悪いけど連絡しといてくれる?その間に何匹か間引いておくわ」
そう言ってカーディフが木の上に登って何匹かの魔物に狙いを定めたがスティレとバルケから待ったがかかり、理由を聞くとまずは報告が先なのと血の匂いに釣られて集まって来るかもしれないと話した。
二人の言いたい事も分かったので、望遠魔法を唱えどんな魔物がいるか観察だけに止め、その間にルディールは借りた魔道具で教員達に連絡を入れ魔物等が多い事を伝え、指示を仰いだ。
「うむ……どこでもこんなもんじゃな」
「ルディール殿、どうだった?」
「学生達に危険が無い程度に狩ってくれみたいな感じじゃったな、狩って集まるかも知れないと伝えたがそちらの判断に任すとじゃと」
ルディールがそう伝えるとバルケが頭を掻きながら、まぁ、しゃーねーわな奴さんも冒険者をやってる訳じゃ無いしなといい、この集まりの実質的なリーダーになっているスティレに尋ねた。
「いや、いつから私がリーダーなんだ?」
「俺は基本的に単独だから勝手に動くのは得意だが集団行動は苦手だ、勝手に動くとやらかしそうで怖い。ルー坊も指示された方が動きやすいだろ?」
「その通りじゃな、頼んだぞ指揮官殿」
「自分より強い二人にどう指示しろと……」
「人として考えるより武器で考えたらええわい。剣にしろ魔法にしろ使い方しだいじゃろ?」
「じゃあ、俺が剣ならルー坊は危険物か?」
「うむ!使い方を間違えたらその辺りが消し飛ぶな!そんな訳ないのじゃ!」
スティレは盛大にため息をつき、わかった、指示は出すがおかしい所があれば遠慮無く言ってくれとルディール達に頼んだ。
そして少し考えてから指示を出そうとすると、少し離れた所で戦闘音が聞こえ始め、冒険者達の間引きが始まったのでスティレが皆に考えを伝えた。
「確かに狩ると他の魔物が集まるかもしれないが、仕事だから狩らないと言うのは無理だ……が、もう少し学生達の近くで流れて来た魔物を狩るぐらいにしておこうと思うがそれでいいか?」
その意見に反対意見は無かったので学生達が見える範囲に行く事になった。
「王女様や上級の貴族達の近くにはAランクやSランクが確実にいるから安全だが、村や町から出て来ている子達の守りを少しでも厚くしておこう」
「うむ、それでいいじゃろな。ミーナ達も見かけたら魔物が多いと忠告しといてやろう」
学生達がテントを張っている所まで戻ろうとすると、巨大な木の根が地面に出ている所にモゾモゾと動く何かを見つけ、ルディールが確かめに行き手に取った。
そしてソレを捕まえて戻って来て皆に自慢した。
「見よ!でっかいダンゴムシじゃぞ!」
ルディールが持ってきたダンゴムシに似た生き物はバスケットボールより大きく殻もかなり固くルディールが叩くと金属音を発した。
そのダンゴムシが何か解った火食い鳥は顔色を悪くしバルケが説明した。
「ルー坊。それは魔虫の砲弾子虫だな、説明するより見た方がはやい」
そう話しルディールの手からその虫を取り、遠くへ放り投げた。
ルディールが何をするのじゃ!と言った直後にその虫が木に当たり爆発をおこし、二、三本の木を吹き飛ばした。
「とっ、まぁそんな感じだな」
「おおう……ナイス爆発……おっ!あの爆発でも無事なんじゃな」
「おう、あの硬い殻で自分を守ってるんだとよ。糞が可燃物になってて殻の裏に溜めていて、爆発させて逃げるって教えてもらったな」
「ほー。図書館の図鑑では見た事無い虫じゃったな」
「……ルディールさん、ほー。ではないですからね」
と、ソアレやスティレに色々注意をされたが、カーディフだけはその虫を見ていた。
「なんじゃい、欲しかったのか?」
「いらないわよ!……いやあの虫って滅多に見ない虫でバルケが知ってたのも凄いんだけど、こんな浅い森にはいないのよね」
「それで図鑑に載ってなかったんじゃな?」
「そうなのよ、エルフの国でもたまに見るぐらいで、そこより奥の深樹が生息地ってお爺ちゃんに教えてもらったわね」
カーディフがなんでだろ? と悩んでいるとバルケが笑いながら冗談で生息地を荒らす何かが出たか? と言った。
「バルケよ、もし何かあったらお主はわらわの家のフラグメイドと同じでフラグ剣士にするからな」
止めてくれと言ったが、今回の依頼に参加していないスナップ達を少し気にしていたので、こないだの戦闘で無理がたたって休養中だと教えると、今度はスティレが頭を下げ謝り出して収拾がつかなくなりそうだったので早急に話を切り上げ学生達が目につく所に向かった。
学生達の所に戻るとテントをすでに設置し終え、周りでは話をしたり少し離れた所で剣を振ったりして遊んでいる生徒もいれば、装備やアイテムの点検をしている生徒もいた。
「これ、弟子が遊んでいる方の分類じゃったら、わらわ泣いておったかもしれん」
「泣く前に怒りなさいよ」
「……私だったら雷を落としますね」
そう話しながら装備や持ち物の点検をしている学生達の所に向かい声をかけた。
「ミーナよ。おやつは銅貨三枚までじゃぞ。」
「持って来てないから!ってルーちゃん、と皆さんお揃いでどうしたんですか?」
ミーナと同じように荷物の確認をしている生徒達は火食い鳥やバルケの登場に少し驚きながらこちらを見ていた。
「ミーナはまだパーティーを組んでおらぬのか?」
「テントが張り終わったから、もう少したったら集合して上級生1、2名と私達下級生3人でPT組むんだって」
「なるほどのう。合宿じゃから森に入って戦うと思うが、かなり魔物や魔獣が多いからかなり気をつけるんじゃぞ、こちらでも目の届く範囲におるがな」
「うん、わかった。セニア様と王女様達にも声かけておくね」
それから世間話やミーナの持ち物検査をしたりしていると、教師陣達からPT分けの呼び出しがあったので一度別れてからルディール達はテントを張られている場所の近くで何があってもすぐに対応出来る様に準備を進めた。
「全体的にちょっと心配じゃな~。その分、冒険者達も多いがのう」
「王女とか貴族とか近くには高位の冒険者がいるだろうが、俺も大丈夫そうには思えないな」
「じゃよな……ちょっと目を増やしておくか」
そう言ってルディールは魔法を唱え、影の中から十数匹のネズミを出現させ合宿場を囲むように配置し数匹ほど森の中へ向かわせた。
「一度に全部のネズミの視点は無理じゃが、切り替えである程度はカバーできるじゃろ」
「その魔法、使い方間違ったら普通に捕まるわね……」
その場から少し移動して、ルディールが空からカーディフが木の上から辺りを確認しスティレ、ソアレ、バルケで周辺を索敵し、なにかあれば即座に空に魔法を撃ち知らせる事になった。
すぐにルディールが放ったネズミから危険を知らせる信号が届いた。
「カーディフ、ちょっと片目塞がるから任せた」
わかったわと言ってルディールが片目を閉じた側に周りカバーする
ルディールは危険を知らせたシャドーラットと視覚を共有し、その場を確認すると、戦闘は終わっていたようだったが、学生達の護衛に来たと思われる冒険者のPTが怪我をしたり数人倒れていた。
「カーディフよ、冒険者達が怪我して何人か倒れておるから少し行って来る」
「了解、ルディだけ行っても参加した冒険者かどうかわからないから、スティレ連れて行きなさい。参加した全員を覚えてるわよ」
わかったのじゃと言って近くにいるスティレに説明し即座に冒険者達が倒れている現場に向かった。
ルディールは木々を縫う様に飛び、スティレも身体強化魔法を一段階目まで使用して走り、すぐにその場所に着き倒れている冒険者達に回復魔法を唱えた。
「サークルハイヒール!」
冒険者達を回復させ、スティレが冒険者達に何があったのかを尋ねた。
「Bランクの冒険者達だな?ここで何があった?私はAランクの火食い鳥のリーダーだ」
「すまねぇ、助かった。浅い所だと思って油断してたら、深い森にしかいねぇ筈の紅姫蜘蛛がいやがった……」
冒険者たちがその方向をみると綺麗な白と紅色をした人の大きさほどあろう蜘蛛が横たわり絶命していた。
「なるほどな……確かに珍しい魔虫か。ルディール殿どうする?この冒険者達の命を助けた訳だから金品を要求できるし、その蜘蛛を貰ってもいい」
冒険者達はこの蜘蛛を倒すのに回復薬を使ったからそれは勘弁して欲しいと言った。
「うむ、わらわは冒険者ではないからのう。その辺りの事は解らんからまけといてやるわい。ただし今みたいに変わった魔物を見かけたらすぐ教えて欲しいのう」
冒険者達は何かを請求されると思っていたので、少し呆気に取られ何度も確認したが、ルディールも特にお金には困って無かったので、情報を共有してくれたらそれで良いと言った。
「あんた達がそれでいいならこっちは助かるが……いいのか?」
「うむ、魔物がかなり多いからのう。情報は共有したいのでな」
そう言って納得してもらい、ルディールは自分達が護衛している辺りの場所も教え、冒険者達の合宿中の護衛の位置なども聞きお互いに礼を言って別れ仲間の場所に戻った。
「ルディール殿、あれでよかったのか?」
「ええじゃろ、揉めた所でじゃしな。それよりさっきの蜘蛛は強さ的にはどんなもんなんじゃ?」
「もうすぐAに上がれるぐらいの冒険者達なら倒せるが、Bに上がりたてだと負ける事もある魔虫だ、学生達では到底無理な相手だ。」
「なるほどのう、ならば先ほどの対応はあれで良かったのう」
ルディールもスティレも警戒のレベルを一段階あげ仲間達の元に戻った。
戻ってくると木の上で見張っていたカーディフも降りていたので、先ほどあった事を皆に説明した。
「なるほどね~。こっちの方もバルケが知り合いの冒険者達から話を聞いたんだけど魔物のレベルがかなり高いって言ってたわよ」
「その冒険者達も教師陣には説明しに言ったが中止にはならないって言ってたからな」
そう話しながらルディール達は護衛に戻ると、やはり魔物の数は多く何度か戦闘になり、すこしずつ日が暮れていき夕方になり、一度合宿場へ戻り教師達にあった事を報告した。
合宿場に戻ると何人かの冒険者達も戻って来ており、先ほどの冒険者達もいてルディール達を見かけると頭を下げていた。
学生達もPTが決まったようで、夕飯を作る生徒もいれば魔法を上級生に教えて貰っている生徒もいた。
その光景を見ていたソアレがここからが本当の護衛です、ルディールさん回復頑張ってくださいと言った。
「と、言う事はもう学生達は、森の中に入っていく感じじゃな?」
「……はい、守られてる安心感もありますし、目立ちたい子もいますからここからが護衛ですね。まぁ到着してから冒険者がかなり間引いていますから大丈夫とは思いますが」
気を引き締めてまた索敵に戻ろうとすると、ルディール達を呼ぶ声があった。
次回の更新は明後日になります。
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