第106話 友人の特訓
スティレが身体強化魔法をかけてもスナップとバルケに吹っ飛ばされたので、三段階目を唱えまた突撃していった。
「訓練であそこまでやってええんじゃろか?」
「ん~まぁ本番でどれぐらい使えるか分からないからいいんじゃ無いの?」
などと話ながら、次はカーディフ用に考えていた魔法を教える為にアイテムバッグから魔法が書かれた二枚の羊皮紙を取り出し説明を始めた。
「こっちが身体強化なんじゃが主に筋力と視力じゃな」
「この前のお酒で魔力は増えたけど人よりかなり少ないから、消費が激しいと使えないわよ?」
そう言いつつもスティレと同じように二枚の羊皮紙に血をつけるとカーディフにも魔法が流れ込んだ。
身体強化の方を唱えてみると、ほとんど魔力を消費せずに使用する事ができ、魔眼で魔力の流れを見ていたソアレがルディールに尋ねた。
「……ん?かなり魔力消費が少ないですけど、どういう裏技を使ったんですか?」
「かなーり無駄を省いたからのう、それでその消費で使える感じじゃな。長くは続かんがのう」
カーディフは自分のアイテムバッグの中から背丈ほどある大型の弓を取り出して引いてみると、楽々と引けかなり驚いていた。
「うわっ、この弓が楽々引けるなんて。これソアレにバフかけて貰ってようやくって感じなのに……凄いわね」
それからカーディフはもう一つの魔法を唱えると、自分の体の半分ぐらいの大きさで湾曲した薄い水の膜の様な物が現れその魔法に心当たりがあった。
「もしかして望遠の魔法?」
「うむ、正解じゃな。元からある魔法にアレンジしてかなり細かく調整出来る様にしてあるから使えそうなら使ってみると良いぞ」
そういうとすぐに調整してかなり遠くを見たりしていた。
「魔力消費も少ないし大きいけどかなり使えるわね」
ルディールは大きいのには理由があると言い説明しようとすると、邪魔する様にスナップが吹き飛ばされてきたが何事もなく立ち上がりパンパンと服を払った。
「スノーベインに行った時から思っていた事ですが、今のわたくしではルディール様のお役にたってるとは思いませんわ」
と言ったのでルディールは訂正しようとしたが全く聞こえていなかったようだった。
「ルディール様に頂いた賢者の緋石のおかげでエアエデンのエネルギーは有り余っておりますわ!それをわたくしに回せば!」
ルディールが止める間もなくスナップの綺麗な黒髪は燃えるような綺麗な赤色になり、近くのソアレ達が熱がるほどの高熱を発してからバルケ達の元に飛んでいた。
「訓練じゃよな?」
「……九割の人は殺し合いと言うと思いま」
ソアレが言い終わる前に盾が融解したスティレが吹き飛ばされてきて、ペッと血を吐き出して屈伸した後に四段階目まで身体強化をあげて突撃していった。
「どこまで話したっけ?」
「……たしか今日の夕飯の話だったと思いますよ?」
「違うわよ!この望遠魔法が大きいのには訳があってって言った所よ」
そう言い終わった所でエアエデンに大きな警報が鳴り響き機械的なアナウンスが流れた。
「エアエデン内に施設に異常をきたす戦闘を確認。排除に移ります」
「スプリガン起動」
そしてハッチが開き、ルディールが前に戦った時よりも少し武装が増えたスプリガンが現れモノアイが動き、戦闘しているバルケとスナップとスティレを制圧対象と認識し戦闘に加わった。
その事でスイベルが、姉がご迷惑をかけて申し訳ありませんと謝っていると、遠目から見ていたルディールが止める間もなくスティレが五段階目の身体強化を調子に乗って使用しスプリガンの腕を切り落とした。
その事でスプリガンも本気になり先ほどのハッチの中から小型のスプリガンが大量に射出されスプリガンと連携を組み攻撃を開始した。
止めるのを諦め優雅にお茶をのんでいるとルディールがカウントを開始しだした。
「5・4・3・2・1」
「……ゼロ?で何かあるんですか?」
ソアレがそう質問した所で戦闘している方からブチッ!と何かが消える音がして、スティレの叫び声が聞こえた。
そしてルディールは大きくため息をついてスティレに近寄るともだえ苦しみうめき声を上げていた。
だから言ったのに……といって世界樹の祈りを目覚めさせてからスティレの体に触れ回復魔法をかけたが、体の腱や筋肉がズタズタになっていたのでルディールの回復魔法程度では回復しなかった。
「お主、本当に何をやっておるんじゃ……」
次はアイテムバックの中から残り二本まで減ったロードポーションを取り出し飲ませた。
するとスティレの断裂した筋肉や腱は綺麗に治り、ようやく冷静に考えられるほど回復するとルディールに凄まじい勢いで謝った。
「すっすまない!ルディール殿の忠告も忘れ調子に乗って五段階目まで上げてしまった!しかも貴重なロードポーションまで使わせてしまって!」
と謝ったが仲間のソアレとカーディフの目は冷たくルディールに少し待ってと頼み、殴ったり関節技をかけていた。
戦闘が終わったのでスプリガンはルディールに親指を立てるポーズをしてから量産型と共にまた格納庫へと戻って行き、スイベルがスナップの元へ向かった。
「さて、姉さん。精密検査しましょうか?」
「いえ、大丈夫ですわ。今ぐらいなら体も持ちますし特に異常はありませんわ」
そう言って明らかに検査を拒否していたのでスイベルが目でルディール様お願いしますと頼んだ。
「スナップよ、嫌かも知れぬがお主がいないとわらわが困るからのう。なにも無いと思うが頼まれてくれぬか?」
その言葉と日頃の感謝を伝えると嬉しそうにしかたありませんわと言って他のスイベルと供に精密検査に向かって行った。
「ルディール様ありがとうございます。姉さんチョロいですね」
「本音を言うのも大事じゃぞ。お主達には世話になっておるからのう」
バルケも大怪我はしていなかったが所々に小さな怪我があり、ルディールに回復してもらい少し中で寝てくるわ!と言って室内に向かった。
それから少し経って整った顔が殴られて台無しになったスティレを加えてまた話の続きが始まった。
「ルディール殿、申し訳ない……」
瞼は青く腫れたらこ唇になったスティレを見ると笑ってしまい、まともに話せなかったのでルディールは回復魔法をかけとりあえず治した。
「ひっ、久しぶりにこれだけ笑ったかも知れぬわい」
「……ルディールさん。馬鹿リーダーは治さなくていいですよ」
「そうよ、ルディが忠告したにもかかわらず、使って自傷してロードポーションでしょ……スティレ何やってるか分かってるわよね?」
「はい、すみません。自分が強くなった様な気がして見失ってました……真に申し訳ありませんでした」
「じゃが、今回使っておいて良かったかも知れぬのう。感じ的には三段階のところでは感情も増幅された感じじゃな、そこで怒ったままだと自分で自分を止められんって感じになるんじゃな。すまぬ、そこまでは制御できてなかったようじゃな」
「ルディが謝るのが間違いよ、冷静な時に使えばもっと冷静になれるってことでしょう?」
「感情は難しいからのう。簡単な足し算引き算で答えが出るものでは無いからなんとも言えぬのう」
「……それはそうですね。馬鹿リーダーはしばらくそこに正座していてください、初めて使ったのが魔物がいない所で良かったですね。私達なんて運がいいんだろう」
スティレは皮肉もたっぷり言われ小さくなった体をさらに小さくした。
「と、言うかスティレもだけどソアレ、アンタもルディにロードポーションを使わせているし、火食い鳥としては頭が上がらないわね……」
「今回はスティレが調子に乗っただけじゃからその内請求するが、ソアレに関してはこの世界の事や魔法の事を教えてもらったりしておるからチャラじゃぞ」
「……そうですか?それならありがたいですが、妹分の子も魔眼に目覚めたので正直かなり焦っているので、三人で脱ぐしか無いかと思っています、一名ほど板ですが」
そう言った直後に立ち上がりいつもの様にカーディフがソアレの頭を鷲掴みにしたが、今回は少し様子が違い掴んだまま片手でソアレを持ち上げた。
「カーディフ!シャレになっていないぐらい痛い!本当に痛い!」
それは痛いでしょ。ルディに教えてもらった身体強化をかけてあるからね。と言ってこのまま気絶するか、スティレと正座するか選びなさいと選択肢を出した。
そしてスイベルがルディールとカーディフに紅茶を注ぎまた強化魔法の話が始まった。
先ほどの話に戻るんじゃがと言ってルディールはカーディフに望遠魔法を唱えてもらい中に水の望遠魔法を出してもらった
「そのレンズはお主の矢を水で纏って威力を増幅させる効果もあるぞ、試して見るのじゃ」
カーディフはレンズごしに弓を引き、そのまま空に向かって放つと、レンズに触れた瞬間に水を纏い加速して飛んで行った。
自分の放った矢の事なのでどういう状態かが分かりかなり驚き戸惑ったが、その望遠魔法の性能に感謝した。
「この魔法も凄いわね……並の硬度だと今ので貫通するわよ。あともしかしてあのレンズ抜けたら水属性になってるの?」
そこまでは説明しては無かったが、見ただけで自分の矢の状態をすぐに把握したカーディフの技量に今度はルディールが驚いた。
「お主、今ので分かるのか?凄いもんじゃな~。その通りレンズを通れば水属性と貫通強化じゃな。貫通の方は良いかもしれぬが水の方はデメリットにもなり得るからおまけじゃな」
「おまけって何だろうって言いたくなるレベルだけどね。水属性になっても射程距離が凄い事になるから障壁を張る前に倒せるわよ、張ってても並のなら貫通するわね……」
「うむ、立派な狙撃手になるのじゃな」
「う~ん……身体強化の方もそうだしこの望遠魔法もそうなんだけど、私から返せる物が無いのが問題よね……一方通行の関係って好きじゃないのよね」
「じゃったら冒険とかに出て怪我などをせぬのが一番のお返しじゃな。友人に死なれたりしたら悲しすぎるからのう」
「わかったわ。ソアレやスティレの事もあるから何かルディの役に立つ事を考えておくわ」
と真面目な話をしていたのだが蚊帳の外で正座しているソアレとスティレが乱入してきた。
「……カーディフ、もう脱ぐしか無いですよ」
「いや、脱いだ所で板があるだけだからルディール殿は喜ばないのでは?」
「……洗濯板ぐらいにはなるでしょう、ルディールさんの装備でも洗うと良いです」
ルディールは何も言わなかったが、カーディフはいい的発見♪ と言って身体強化魔法をかけ先ほどの背丈ほどある大弓を出しさらに望遠魔法を設置し二人をロックオンした。
「……カーディフ、冗談ですよ冗談。お互いに冗談が言い合える仲でしょう」
「私もそう思う。まずは弓を下ろした方がいいと思んだが?」
「あら、しらないの?冗談も過ぎたら冗談ではない」
目がマジだったのでスティレもソアレもその場から即座に走り出しルディールに助けを求めた。
「ルディール殿!すまない!カーディフを止めてくれないか!」
そう頼まれたのでスティレに聞きたい事があったのを思いだしたので尋ねた。
「そういえば、王女様が護衛が一人止めたと言っておったがスティレが辞めたのか?」
「ああ私だ。家の復興など色々とあったのだが、私の人生だしな。好きな様に生きてみようと思って辞めさせてもらって冒険者一筋になったよ」
「なるほどのう、言葉だけみたら良い事を言ってる風に聞こえるんじゃが……射線を切るように立っておるとなんとも言えんのう」
ルディールとスティレの会話が終わった事を確認してからカーディフは現在自分が持ち得る最大火力で弓を放つと、矢がレンズを抜けた瞬間に影が置き去りになるぐらいの速度でスティレの前髪を数本飛ばした。
「うん、ルディありがとうね」
「どういたしましてじゃな」
「さてとスティレにソアレ、仲間として言っておくわ。まだこの魔法になれてないから死ぬ気で逃げなさい」
「……撃たなくてもよ」
言い終わる前にソアレの帽子が空に舞い、その後の惨劇はカーディフの魔力が切れるまで続いた。
王女様に頼まれた護衛の日まで新しい魔法の使い方や、スノーベインであった事などを相談し、ようやくその日を迎えルディールは王都のリノセス家へと向かった
次回の更新は明後日、月曜日になると思います。
誤字脱字報告ありがとうございます。