第104話 暖機運転
ミーナ達の夏休みが終わり、学校にまた通い初めての週末の事、世界樹のツリーハウスに一枚の手紙が届いた。
無駄に光るマジックポストからメイドのスナップが手紙を取り出し、家の庭で麦わら帽子を被り魔法で水やりをしている主に届けた。
「ルディール様、お手紙ですわ。王家の封蝋がされておりますわ」
「なんじゃろな?スノーベイン関係は大方片付いたと言っておったから別の事とは思うがのう……」
そういうと爪で器用に蝋を取り、ルディールは読み始めた。
そして読み終えると表情に出やすいルディールだったが、今回に限ってなんとも言えない表情をしていたのでスナップは素直に尋ねた。
「なんとも言えない顔をされていますが、どうされたんですの?」
「う~ん。王女様がセニア家でお茶会するから集合とか書いてあるんじゃが……世間話とかそういう感じ雑談なのになんで封蝋とかするんじゃろな?とか思ってのう」
「ローレット王国の王女様はお茶目ですからね……それはそうとスノーベインのノーティア様は名前で呼ばれていますのに、ローレット王国の王女様は王女様なんですのね?」
「うむ、王女様と言うのが名前みたいなもんじゃからな」
「なるほどですわ。……まさかとは思いますが名前を知らないとか言いませんわよね?」
「さすがに普段から世話になっておる恩人にそれはないじゃろ。さてと、読み終わった本を図書館に寄贈してスイベルに声かけとくかのう」
「わかりましたわ、わたくしは今日は図書館でガキンチョーズに勉強を教える日なので、申し訳ありませんが一緒に行けませんわ」
そう話しルディールは農具などを片付けスナップと二人でスイベルがいる図書館へ向かった。
特に急ぎもせずゆっくりと向かって、その途中にあるミーナの実家の前を通ると夏休み中に宿の増築をしたにもかかわらず宿は満室で忙しそうだった。そしてちょうど女将さんが出て来たのでルディールは少し世間話をする。
「あら、オントさん。おはようさん」
「おはようございます。相変わらず忙しそうじゃな」
「ほんとだよ、飛空艇の発着所が出来てから人が増えただろ?さらにスノーベインからも船が来だしたからね~お客さんが多いよ。増築もしたんだけどね部屋も満室だよ。ミーナのおかげで増築できたんだけど」
ルディールとミーナがスノーベインから戻ってきてから、ミーナの両親が宿の増築をするという話をしていたので、ミーナがじゃあ私が出すよーと言って気前よくライフイーター亜種の魔石代を両親に渡したので、宿はかなり立派になり部屋の数もかなり増えていた。
「移住者も増えて空き家もなくなったと村長も言っておったしのう」
その言葉通り、村の空き家はなくなり人が増え始めたので新しく家が建ったり、パラメト商会が宿を建てたりしていた。
「従業員も雇ってるから三人でやってる時よりはましなんだけどね~。オントさんが男性ならミーナを嫁にやって私の代わりに働かせるんだどね」
「その時はわらわの料理は微妙じゃから、その辺りはミーナに任せてお金の管理とか魔法で掃除でもするかのう。女将殿は旅行にでもいくと良いぞ」
などとあり得ない話をしばらくしてからミーナの母親と別れた。
そして図書館に着くと受付にはスイベルがいたのでルディールは読み終えた本を寄贈する。
「という訳でこの本を寄贈するので任せたのじゃ」
スイベルは畏まりましたと言ってルディールが持って来た数十冊の本を奥へと持って行きすぐに戻って来る。
「それでルディール様は今日の夕飯はどうしますか?」
「そうじゃな~。王女様の話が見当もつかなくて長くなるかも知れぬから適当に向こうで食べてくるから良いぞ」
「分かりました。お気を付けて」
などと話していると二十人近くの子供達が図書館に入ってきて、ルディール達を見かけると挨拶をしてきた。
「魔王先生だ、おはようございます」
「うむ、おはようじゃな」
「今日の先生って、どっちのメイド先生だったけ?」
「たしか、美人じゃないほう」
その言葉に今日は子供に勉強を教えるスナップはこめかみをひくひくさせたが、子供の言う事だからと頑張って耐えた。
「……ちなみに今日の授業は小テストですわ!点数が低いと宿題を倍と今決めたので頑張ってくださいですわ!」
スナップの提案に子供達からは批判の嵐だった。授業まで少し早い時間だったがスナップはルディールに頭を下げてから子供達を連れて勉強を教える部屋へと向かった。
「なんかガキンチョーズ増えたのう……」
「スノーベインから飛空艇が出てアイスブロックによって来るらしいのですが、この図書館の勉強会を知った様で少し裕福な家庭の子は週に数回来ていますね」
「そういえばわらわが魔法の勉強の時も結構おったのう……村のガキンチョーズばっかりだったのに」
図書館の勉強会ではルディールが魔法や計算など、スナップが理科、スイベルが読み書きや作法などを週に数回の割合で時間がある時に教えており、村長も時間がある時は元冒険者としてサバイバル術など教えていた。
「私達が趣味でやっている様なものなので不思議ですね。ルディール様のおかげで教える為の書物は困りませんが」
それから少し雑談をしたりしてから、ルディールはスイベルにそろそろ行くと言って転位魔法を使い王女様から呼び出しがかかったリノセス家へと向かった。
影の中を通り目的地で吐き出されるとそこは見慣れた王都にあるリノセス公爵の屋敷でルディールが貸して貰っている部屋だった。
いつもの様にベルを鳴らしメイド達を呼ぶとセニアが迎えに来てくれた。
「ルディールさん、ようこそおいでくださいました」
「出迎えありがとうじゃな、王女様に呼ばれたんじゃが何か聞いておるか?」
「いえ、特に聞いていませんが……何かこうノリノリで今日は集合とか言っていましたよ」
「ろくな事では無さそうじゃな……」
セニアは否定も肯定もしなかったが苦笑いをしてルディールと応接室に向かい、その途中で話を聞くとまだ誰も来ていないと教えてくれた
そして応接室に行き待っているとルディールに紅茶を入れてから、アイスブロックの夜に相談した話を始めた。
「ルディールさん、アイスブロックの村で相談した事ですが……一昨日ですが相手の方とお話をして断りました」
「……なにかひどい事はされなかったか?王都丸ごと泥沼に沈める魔法もあるし、隕石の衝突や火山の噴火に匹敵する魔法ならいつでも撃てるぞ?」
「いやいやいや大丈夫ですから、もしそんな事があったとしても無関係な人を巻き込まないでください」
「うむ、お主が無事ならそれで良いわい」
「凄い勇気がいりましたけどね……」
「何を言っておるんじゃ。お主、ミューラッカの殺気を飛ばされて耐えておったじゃろうに」
ルディールはそう言うとあの時は必死でしたからと少し慌てながら答えて二人で少しゆっくりしていると、呼びつけた張本人が馬車に乗って、ミーナ、リージュ、ソアレを連れてやって来た。
そして応接室に全員が集まったので挨拶を交わしたが、ソアレとリージュはぐったりしていたので元気そうなミーナと王女様に理由を聞いた。
「ミーナよ、この二人はなんで疲れておるんじゃ?」
「王女様が私を最初に迎えに来てくれて、その後にリージュさん、ソアレさんって迎えに行ったんだけど、私が会った時はそんな感じだったね~」
「きっと夏休みの貴族を回った疲れが取れて無いんだと思いますよ。ローレット王国の貴族をほとんど回りましたからね」
ルディールがなるほどの~と言うと、ソアレもリージュもガバッと起き上がり、大きく首を左右にぶんぶんと振りそんな事無いそれぐらいじゃ疲れないと声を上げた。
「……ルディールさんお久しぶりです。私も冒険者ですのでそれぐらいでは疲れません、行き道も帰り道も暇さえあれば、王女様の猥談ですよ?疲れませんか?疲れますよね?」
「そういう事です、ルディールさんお元気でしたか?ほんとにソアレさんが言う通りですよ……暇があれば愚痴か下ネタですよ」
ルディールはご愁傷様と言うとミーナもセニアも苦笑いを浮かべていた。
「で?猥談王女様が今日は何の用なんじゃ、国王陛下やリージュのおやっさんがスノーベイン関係は片付けてくれたんじゃろ?」
王女が立ち上がり、それでは猥談王女なのでスノーベインで何があったのかを詳しく聞きたいと言い出した。
「バイコーンに乗ってドラゴン助けて女王と喧嘩した感じじゃな?」
「いや、ルーちゃんあってるけど……はしょり過ぎだからね」
「そんな事は聞いていません。今日は呼びましたけど来られなかった、ノーティア様とどういった関係で?上手く聞き出したので婚約者になっていたと聞きましたが?」
王女様の表情は新しいおもちゃを見つけた子供の様にキラキラしていた。
「それを、お主がやると誘導尋問ではないか?ミューラッカが勝手に言った事じゃしな。セニアのおかげで撤回してもらえたしのう」
「でも、ノーティア様にルディールさんの話題を出すとちゃんと乙女の顔になっていましたよ?」
今の王女様の顔はそういう話が好きなおっさんの顔じゃな……と呆れているとリージュもソアレもウンウンと頷いていた。
「で、しかも乱れ雪の女王こと、あの気難しいミューラッカ様を呼び捨てですよ?こう人には言えない何かがあったのでは?」
ミーナとセニアは呆れていたが、確かに人には言えない事をしていたな~と、ルディールが雪だるまに向けてノーティアを投げ飛ばしたり氷の城を半壊させたりした事思い出して二人で納得していた。
「……ルディールさん、乱れ雪の女王は強かったですか?Xランクとはやはり次元が違いますか?私はお会いした事がないので」
「うむ、前に黒点とやり合った事があったと思うがSとXランクでは桁が違うのう……」
「……そうですか、ルディールさんと比べてどうです?」
「やり合ったが、ミスしたら腕の一本ぐらいは余裕でもって行かれるぐらいには強かったのう、わらわは魔力の多さや装備の良さに救われている事も多いのでな」
そうですか、肩を並べるのはまだまだ先ですねとソアレが落ち込んでいると、猥談王女はそんな話は後でしてくださいと怒っていた。
「お主、我が家のメイドの可愛い方と気が合うと思うから今度、派遣しようか?」
「ぜひ、では無く。そんな事はいいんです。ミーナもセニアも行っていたんですよ?こう燃え上がる禁断の恋みたいなのはなかったんですか?」
「小旅行じゃぞ……あるかい!」
「小旅行でドラゴン助けて前女王と喧嘩しませんよ?それに女たらしのルディールさんですよ?何かない方がおかしいのでは?」
と、王女様もルディール並に訳の分からない事を言い出したので、ルディールは大きくため息をつき一から説明したが全然信じてもらえなかった。
「というかミーナもセニアも寝取らないでどうするんですか!世の中寝取り寝取られて回っているんですよ?」
最近、王女様がそっち関係の本を買っているので、それに影響されたんだな~とミーナもセニアも冷静に呆れていた。
「なんかあれじゃな……普段は頭が回る分、今の様な感じじゃと際立つのう……」
「何が際立つのかが気になりますが良いでしょう。では率直に聞きます!ルディールさんこの中で誰が一番好きなんですか?私的にはミーナかセニアで、大穴でリージュ。胸で選ぶならソアレさんって感じだと思っていますが?」
ミーナとセニアは呆れていたが少し気になる様な表情をした。しかしルディール、ソアレ、リージュは目で会話をした。
『こいつ、ちょっとウザくね?やっちゃっていい?』
『ちょっとではなくかなりウザいです、やっちゃっていいですよ』
『……ルディールさん、援護します』
と、目で会話が終わるとルディールは静かに王女の横に座りその手を取り言葉を投げた。
「うむ、この際じゃな。わらわが本当に好きなのは王女様、いえシェルビア様、貴方です」
その言葉にミーナもセニアもぽかーんと魂が抜けたが、ルディールに見つめられた王女ことシェルビアはなれていないのもありすぐに赤くなり少し慌てた。
「えっつええ?ルディールなに、冗談をっているですか!」
「今の私の顔を見て冗談だと思いますか?」
そう言って顔を近づけていくと、よこから援護射撃が入る。
「……王女様、冗談ではありませんよ。私は仕事上ルディールさんとよく一緒にいますが、よく王女様の話をされていますからね……悔しいですが私には見せた事のない笑顔で」
「私もルディールさんと仲良くなってから、王女様の事を色々聞かれていたんですよ?人の気も知らないで……」
と二人の演技にも妙に熱が入っており、段々と王女を追い詰めていき顔が真っ赤になった所でルディールが追い打ちをかける。
「前に言いましたよね?強い者の味方だと。それは権力や力が強いと言う意味ではありません。心が強いの意味です、シェルビア様の強さは私の理想です、もし本当に嫌なら払いのけてくださいね」
ルディールがそう言って静かに目を瞑りシェルビアにキスをしようとして、ゆっくりと近づいていくと、シェルビアも顔を真っ赤にはしていたがかなり慌てていたが、最後は抵抗する事無く目閉じた。
そしてしばらくしてルディールのキスが来ないので目を開けると、ルディール、リージュ、ソアレがニヤニヤしながらその顔を見つめていた。
その事で全てを悟った王女は少し言葉をなくした後に、目尻に涙を溜めだしたので三人がやり過ぎた!と思った時は遅かった……
六章始まりました~。引き続きお肌に合いそうならよろしくお願いします。
六章からは二日に一度の更新で五千字で20話、十万時になると思います。最近お絵描きしてないのでお絵描きしたい。