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第103話 雪の上の足跡

 ルディール達は応接室に行くと、何処へも行かずにミューラッカ達は待っていた。


「さて、ルディールよ決まったか?」


「うむ、お主がわらわの事を考えてくれておるのは分かっておるから今回は真面目に返すが、ノーティアとの婚約は断らせてもらう」


 ルディールがそう言うとミューラッカは大きくため息をつき理由を尋ねた。


「……まさか断るとは思わなかったよ。理由は?」


「わらわはこの世界と元の世界の謎が解けて、帰られる方法が見つかったら帰るつもりじゃからな。最後は笑って行けるように楔などは打ち込みたくない」


 その言葉を聞いて周りは戸惑ったがミューラッカだけはかまわず話を続けた。


「だが、それでもノーティアと一緒になる事はメリットはあるぞ?」


「かも知れぬがわらわの考えは変わらぬよ」


「ふぅ……スノーベインの元女王として実力行使に出るがいいのか?」


 ミューラッカがそう言ったのでセニアが発言の許可をもらい話し始めた。


「ミューラッカ様、ルディールさんほどの人をスノーベインにお渡しする事は出来ません。婚約の件を解消して頂けるのであれば、まだ公表してないリノセス家の魔法の権利をお譲りします」


「リノセス家か……最近、公爵になったと聞いたな。その娘が勝手にその様な事を言い出して良いのか?」


「はい、私はまだ若いですが、リノセス家の次期当主ですので問題ありません」


 そうか、ではその魔法の有用性を話せとセニアに怒気を含み命じたが、セニアは気にする事無く話し始めた。


 その魔法はルディールが考えた足場を作り、セニアと一緒に夜空で踊った魔法の事で、ミーナが言った様にこの魔法があれば飛空艇の上に防壁が張れ、冬でも運用が可能な事や応用を利かせれば農業などにも使えると説明した。


 ミューラッカは少し考えてから、その魔法に何処までの価値があるか分からないので、一度見せて見ろと言う話になった。


 そしてノーティアの転位魔法で全員を連れ外へと向かった。


 ミューラッカが私が雪を降らすから、その魔法を使えと命じたので、セニアはルディールに頼んだ。


「では、ルディールさんお願いできますか?」


「うむ、分かったのじゃ、少し見えやすいように半透明にしておくぞ」


 そう言って魔法を唱えると背丈の二倍辺りの場所に半透明な足場ができたので、それを確認してからミューラッカは指をパチンと鳴らし、自分達の周辺に大雪を降らせた。


 雪はみるみる内に積もっていきすぐに人の背丈を超えたが、ルディールの張った足場は雪が積もっても高さも変わることなくその場に維持し続けた。


「ほう……障壁魔法より圧倒的に魔力消費が少なく空中に停滞するか。確かにこれなら飛空艇の運行に使えるかもれんな。この魔法は障壁の代わりに使えるのか?」


「いや、わらわも試したがそこまでの強度は無い、一点に力がかかれば魔法でも剣でも抜けてくるぞ。人が上に乗ったりするのは余裕なんじゃがな」


「なるほどな、しばらく色々と試す。そのまま魔法を張っていてくれ」


 その魔法を性能を試すように、みぞれを降らしたりあられを降らしたり、様々な雪を降らした。


「何かこうあれじゃな。見てるだけで寒いのう……やはりあれだけの種類を降らそうと思ったら難しいのか?」


「僕も降らせますが、粉雪と球雪ぐらいしかできませんね。お母様は一通りできるとおっしゃっていましたよ」


 そう言ってノーティアも雪を降らした。


「なるほどのう……ノーティアが雪を降らすとロマンチックな感じがするが、ミューラッカが雪を降らすと災害って感じがするのはなんでなんじゃろな?」


 と、また余計な事を言っているとルディールに向かってバスケットボールサイズの雹が大量に降ってきた。


「ミューラッカよ!何をする」


「ああ、すまない。当てる気だったが当たらなかったようだ」


 ルディールが文句を言おうとしたが、ミーナやスナップに今のはルディールが悪いと言われ、味方から撃たれたので少し落ち込みノーティアに慰められた。


 そしてようやく検証が終わったようでミューラッカはセニアに話しかけた。


「確かにこの魔法は吹雪の国には役に立つ魔法だ、教えてもらう価値はある」


 その一言にセニアは安心しほっと息を吐き出したが、ミューラッカの話は続いていた。


「だが、お前はルディールが魔神だと言う事を知っているだろう?その事で討伐される事があったらどうする?」


 そう言って全てを凍てつかせる様な殺気をセニアに飛ばした。


 その殺気の恐ろしさにセニアは座り込み泣き出しそうになったが、歯を食いしばり何とか耐え反論した。


「そっそれでも、ルディールさんをスノーベインに行かせる訳には行きません!」


「それがお前のわがままでもか?」


「はい、それが私のわがままでもです。それにローレット王国には確かに角狩り信仰の様な迫害はありますがそれでも国は良い方向に向かっています」


 ミューラッカはそれ以上言うのをやめセニアを睨み付けたがセニアも視線を一切そらさなかった。


 その短い様な長い時間が続き、とうとうミューラッカが折れ大きくため息を付いた。


「ふぅ……よかろう。セニア・リノセスよ一つ貸しだ。今回は私が折れてやろう」


 その一言をもらったので丁寧に礼を言ったが、セニアの緊張の糸が切れ膝から崩れ落ちぺたんとその場に座り込んだ。


「では、お前がローレット王国に戻ったら、その魔法を書いた書物などを送るか、持ってこい」


「分かりました。早急に手配します」


 後の事は現女王のノーティアに任せると言って応接室から出て行った。


 そして座っているセニアをルディールが抱き抱えソファーに座らした。


「セニアよ。ありがとうかっこよかったぞ」


「セニア、かっこよかったよ!」


 などとルディールやミーナに褒められセニアはかなり照れていた。


 母の恐ろしさを知っているノーティアがどうしてあの殺気を向けられて耐えられたのかが不思議だったのでその事をセニアに尋ねた。


「セニア様はお母様が怖くは無かったのですか?横で見ていただけの私でも怖かったのに……」


 その言葉通りミューラッカの殺気を身近に感じ少し震えていた。


「いえ、本当に怖くて泣き出しそうでしたよ。それでも譲れない事だったので頑張って耐えました」


「そうですか……セニア様はお強いですね。先ほどの話ですが今日、明日すぐにはと言うのは無理なので少しゆっくりしてください」


 ノーティアはそう言って執事を呼び皆に飲み物等を入れさせ話し始めた。


 ルディールはすこしだけミューラッカが気になったので執事に頼んだ。


「わらわは少しミューラッカの所へ行って来るからお主達はゆっくりしておれよ」


「わかりましたわ、ルディール様。喧嘩しては駄目ですわよ」


分かっておるわ、とだけ言って執事に案内してもらいルディールはミューラッカの所に向かった。


 ミューラッカの所に行くと静かに外の景色を眺めていたので、ルディールは邪魔にしない様に静かに横に並んだ。


「ミューラッカよ。ありがとう」


「ああ、気にしろ。今回は折れてやったが次は無い」


「……そこは気にするなじゃろうに。なんで折れたのか聞いてもよいか?」


「ふっ、人の恋路は邪魔する物ではないからな。お前が誰を選ぶか楽しみにしているよ」


「うむ。話す気が無いと言うのはよく分かったわい」


 などと年来の友人の様に二人は冗談を言いながら長い間話し続けた。




 そして氷城の書庫などの本を読ませてもらい二、三日ゆっくりしてからルディール達は魔法提供の事もありローレット王国へと戻る事になった。


「ではノーティアよ。世話になったミューラッカにもよろしく言っておいてくれ」


 ルディールの転位魔法で帰っても良かったのだが、雪も積もっていなかったのでバイコーンの馬車でゆっくり帰るといい馬車に乗り込んでいた。


 見送りにはノーティアだけでミューラッカは姿は無かった。


「はい、それとルディール様、アイスブロックに立ち寄るのでしたら母に手紙を届けて頂けますか?」


 アイスブロックでルディール達は一泊する予定だったので、ノーティアから手紙を受け取り、皆様またお会いしましょうとずっと手を振ってルディール達を見送ってくれた。


 そしてルディールが氷城に目をやると城のテラスに立つミューラッカが見えたので手だけ振ってローレット王国まで馬車を走らせた。


「来た時はあれだけ雪があったのに今は全然ありませんね」


 ルディールが馬車の手綱を引いているとその隣でセニアが周りをみて静かに感想を言った。


「これが本来の気候なんじゃろな~。まぁ色々あったが行ってよかったわい」


「ルディールさんも喧嘩友達できましたしね」


 あやつは冗談通じんからの~などと世間話しながらゆっくり進んでいったが、雪も無く穏やかだったので夕方にはアイスブロックにたどり着いた。


 そしてノーティアから聞いた場所に行くと、そこは前に泊まった宿とは別の宿で中に入るとノーティアによく似た女性が出て来たので確認すると母だったようで事情を説明し手紙を渡した。


 ノーティアの母はルディール達に礼を言い、すぐに手紙を読み始めた。


「はぁ……もっとなかよく出来るかと思ったけど妙にあの二人は似ているから……」


「あー確かに変な所が似ておったのう。初めてあった時よりはましになっておったぞ」


「オントさん娘をありがとうございました。オントさん達に対する感謝の言葉も書かれていましたよ」


「うむ、どういたしましてじゃな」


「それと一つ聞きたいのですが、ノーティアはまだ自分の事を僕って言ってました?」


「言い直そうとはしておったが言っておったぞ」


 ルディールはそう言うといつまで言っても直らないと母親はため息を付き、苦笑しながら僕と言い出した時の話を教えてくれた。


 ノーティアは覚えていないらしいが、子供の頃はミューラッカがよくお忍びでノーティアに会いに来たりしていたと話した。


「子供の頃のノーティアが大きくなったら、僕がミューラッカ様を守るんだ!とか言い出してから僕って言い始めたのよね……」


 その後、少し経ってから夏でも雪が降り出し、ミューラッカも忙しくなり来られなくなったと教えてくれた。


「なるほどの~母上殿が言うみたいに似ておるな……城を抜け出す辺りとか」


 とミューラッカかノーティアの事で話が盛り上がりルディール達はその宿に泊まる事になった。


 そして次の日は無事にリベット村へとたどり着き村長に礼を言ってバイコーンを返したが、出発時の無茶な運転をして馬車が傷んでいたので修理に金貨七枚コースだった。




 それから少し時間が進み、リノセス家からスノーベインに魔法が手渡され、実験的な運用なども含めてスノーベインから近いリベット村を中継地点として週に数回、スノーベインから飛空艇が飛ぶ様になった。




  そんな目まぐるしく時が過ぎていき、ミーナとセニアの夏休みが終わった。


「あっという間に夏休みが終わった……」


「本当だね……」


 などと学校が始まり机に倒れ込むミーナにセニアが宿題やった? と追い打ちをかけて来た。


「宿題をやらないと先生がどういう反応するか?という感じの観察結果を宿題で提出したらいいと思うけどどうかな?」


「ミーナ、素直に怒られようね」


 は~いとミーナが落ち込んでいると、チャイムがなり先生が教室に入って来た。


「あーお前等。座れ、授業前に報告だがスノーベインから来て頂いた留学生だ」


 クラスの先生がそう言って、その留学生を呼び寄せ自己紹介をさせた。


「ノーティア・ヴェルテス・スノーベインです、形はスノーベインの女王ですが、見習いですので肩の力を抜いて話しかけてくれると助かります」


 その人物の登場にミーナとセニアは大きく声を上げ驚いたので二人とも先生に怒られた。

これにて五章は終了です。お読み頂きありがとうございました。次回の更新から六章になるので遅くても木曜には投稿出来ると思います。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
暴力上等と平和主義が交渉したら、暴力上等が上位で決着するという皮肉に過ぎる展開。 まぁ、こういう場面で強気に出ないのが主人公のチャームポイントですかねぇ。
[気になる点] 国を救って貰った恩人に本人が望んでいないことを無理やり押し付けた挙句、 それを解消するために出さなくてもいいはずの未知の魔法を提供されておきながら 「貸しだぞ」って かなり頭おかし…
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