第102話 理由
ミューラッカの一言にミーナ達は驚きの声をあげ、当の本人のノーティアも驚きかなり慌てたが、ルディールが一周回って冷静に話しかけた。
「ミューラッカが今回の一件でわらわの事を高く評価してくれているのはよくわかったが……お前、馬鹿じゃね?」
と、言った瞬間に謁見の間の壁が綺麗に吹き飛び澄み渡った初夏の空が見えた。
「私が冗談を言っているように見えたか?」
「すまん……昨日の戦闘で頭でも打ったようじゃな……脳は大丈夫か?」
そう言ってルディールが煽ると謁見の間が全て吹き飛び、また戦闘が始まった。
そして城の屋根が吹き飛んだり、外壁に穴が空いたり、氷の塔が崩れる等はしたが、怒っているミューラッカをさらに煽り冷静さを無くさせていたので、ノーティアやミーナ達を守りながらでも比較的に楽に対処していた。
そしてようやくミューラッカは落ち着いたが謁見の間は消滅したので、また応接室へと向かった。
「さて、ルディールよ先ほどの話だが私は冗談を言っているつもりは無い」
「では、あれか?ノーティアは実は男の娘とかそんな感じで、実はおティムティムが生えておるのか?」
ルディールがそう言うとノーティアは顔が真っ赤に否定したが、この世界には男の娘という文化が無かった様なので全員が頭に?マークを浮かべていたので分かる範囲で説明すると皆になんとも言えない顔をされた。
「ルディールよ、お前は馬鹿か?ノーティアは女王だ。性別を偽ってどうする……」
「馬鹿でも良いが、わらわもノーティアも女じゃぞ?それを婚約者などと……頭おか……んぐ!」
言い終わる前に、ルディールの言いたい事が分かったミーナとセニアはルディールの口を塞ぎ注意した。
「ルーちゃん!また喧嘩になるから、まずは話を聞こうね」
「わっ私もそう思います。まずは聞きましょう」
と、二人に説得されとりあえず何も言わずに話を聞こうとすると、今度はノーティアがミューラッカを注意した。
「お母様、ルディール様は他国のお方です。丁寧に説明しないと分かりませんよ」
「ほう……婚約は拒否はしないか。ふっ、仕方ないから説明してやろう」
ミューラッカがそう言うとルディールはその声を真似て煽った。
「ふっ、仕方ないから聞いてやろう」
いつもの事なのでミーナ達は驚かなかったが、ミューラッカはこめかみをヒクヒクさせたが、何とか耐え説明した。
「吹雪の国スノーベインは過酷な環境というのもあるが、同性での婚約が認められている」
「ん?説明してくれている時に悪いが……ノーティアは王族じゃろ?仮にわらわと結婚したとして世継ぎはどうするんじゃ?」
「ああ、ローレット王国とはその辺りが違うか、スノーベインには子宮さえあれば同性でも子を宿せる魔法がある。人の血の中にはその人間の記憶が入っていてな、この国ではそれを血識というがそれを使うのだよ」
ミューラッカにその事を詳しく聞くと血識とは元の世界で言うDNAとかその辺りの事だった。
「そう言うのってどうなんじゃ?自然の摂理に反しておるが……子は大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だ。お前の目の前にいる私もノーティアも両親は両方とも女だよ」
ミューラッカの言葉にその場にいた全員が驚き戸惑い、皆思い思いに意見をいいあったりして少し落ち着いてからまた話を続けた。
それでミューラッカは脳に異常があって戦闘狂なんじゃなと言おうとして止めたが、思いっきり顔に出ていたのでスナップとスイベルに頬を引っ張られ顔の形を変えられた。
「ルディール様、お顔に出ていますのでお許しを」
「だいたい何を言いたかったか解るが……まぁいい。話を戻すぞ」
スノーベインの女王は、国で魔力が高く相性がよい人間をパートナー迎える事がしきたりらしく、ノーティアの母もアイスブロックにいるかなり魔力の高い人だと話した。
「ほー。という事はアイスブロックにいる方の親がノーティアを産んだって感じなんじゃな?」
「そういう事だ。本人が希望すれば城に迎えるが、あやつはアイスブロックが好きだと言って向こうにいる」
「なるほどのう……ややこしい国じゃな。あまり引き延ばしても悪いから先に言うがわらわの答えはノーじゃな」
そういうとミーナ達は安心し息を吐き出しノーティアは少し落ち込んだが、ミューラッカだけはクックックと不気味に笑った。
「では、ルディールよ。どうして断るか理由を述べよ」
「ノーティアの気持ちもあるじゃろうし、わらわにメリット無いしそもそも結婚とかする気ないしのう……お主が義理の母とか嫌すぎるのじゃ」
「ノーティアの気持ちか、お前への好意は低く無いと思うぞ?それに国の為だ。私もそうだったしな」
少しだけ昔を懐かしむ様な表情をしてから、ルディールとノーティアが結婚した時に出るメリットを伝えた。
ルディールが探している繋がりを国の人間を使い人海戦術の様に探せる事や、ディスフィオラ等にいつでも会いに行き話を聞ける事や、王族になるから他の国へ行った時などにその国の情報などを簡単に手に入れる事が出来るなどかなりのメリットがあった。
「ディスフィオラはいつでも来いと言っておった気がするぞ?」
「国の守護竜だぞ?許可無く会わせられるとおもうか?」
「色々と言いたい事はあるが、わらわの答えは変わらんよ。お主達がわらわの事を評価してくれているのも解るし無下にもできぬがな」
そういうとミューラッカは少しだけ笑い手札を切ってきた。
「どうしても断ると言うなら、お前が起こした色々な問題をローレット王国に提出し国としてお前を捕らえる事もできるが?私と戦闘をし城を破壊しているしな」
「……ミューラッカよ。そこまでするか?」
「ああ、この国やノーティアにはお前が必要だ」
ルディールは少し考えた後に皆と相談させてくれと頼み、別の部屋に移って行ったのでノーティアはミューラッカに少し怯えながら話した。
「お母様、強引なのでは?」
「ああ、嫌われ役は一人で十分だ。お前も私の娘だ、強い奴が好きだろう?」
「お会いしたばかりなのでなんとも言えません……」
「婚約の話は置いておいても、ルディールは私と同じ魔神族だ」
母のその言葉にノーティアは目を見開き驚いたが、母を倒せるほどの人物なので簡単に納得できた。
「でしたら、ルディール様はこの国にいるべきですね」
「ああ、他の国は魔神だと分かれば国から狙われ、迫害も受けよう。魔神を受け入れられる国は少ない、ローレットには角狩り信仰や聖女もいるからな」
「そうですね……ルディール様がこの国に来てくれればいいんですが……」
「ああ、本当はお前の魅力でつなぎ止めておくぐらいはして欲しい所だ」
「がっ頑張ります」
と女王の会話と言うよりは親子の会話をしながらルディールの答えを待った。
「さてと、困ったのう……」
「でも、ミューラッカ様どうしてあんな事言ったんだろうね?」
「わたくしはルディール様が怒って戦闘になるかとハラハラしましたわ」
「よし、あまりミューラッカ達が悪く言われても可愛そうじゃしな、ミーナとセニアよ。そこに座るのじゃ」
ミーナ達が座ったのを確認してからルディールは姿勢を正し話し始めた。
「ミーナもセニアにも言って無かったがわらわはこの世界の人間ではない、種族も人では無く魔神じゃな」
「えっと、前にどこかで話してた異世界って所から来たって感じなのかな?」
「うむ、そういうことじゃな」
「はー。びっくりしましたよルディールさんお強いですし、少しずれてると思っていましたが世界がズレてたんですね」
二人はルディールの告白に驚くかと思ったが、あまり驚かず態度もいつもと変わらなかったので逆にルディールの方が驚いた。
「うむ、もっと驚くかと思ったが、あんがい普通なんじゃな?」
「ルーちゃんに驚かされてばかりだし、異世界って言われても想像つかない……なんて言うのかな?」
「ルディールさんが何処の人でもルディールさんはルディールさんですからね、魔神と言われても私は人間の方が怖いと思っていますから」
「そうそう、私もそんな感じかな。……真っ赤なお目々のルーちゃんは怖いけど」
その言葉に二人を抱き寄せルディールは少しだけ涙を流し、受け入れてくれた事に礼を言った。スナップやソアレ達は伝えてありルディールが図書館で調べ物をよくしているのは、元の世界との繋がりを探す為だと話した。
「戻ったら詳しく話すが、そういう事もあってミューラッカはああ言ってくれたんじゃろうな」
セニアは分かった様だったがミーナはどういう事? と頭を傾げていたのでセニアが簡単に説明した。
「ローレット王国には角狩り信仰とかそういうのがあるし、大昔にも魔神の脅威とかあったから、バレると少し大変だからね。その分スノーベインは過去に女王様にも魔神がいたって聞くからその辺りは寛容なんだよ」
「そんな感じじゃと思う、わらわの事を思って言ってくれてるからのう。悪くも言えぬ」
「えっと、じゃあルーちゃんはノーティア様と結婚した方がいいの?」
「ルディールさんの事を考えるとそうなんだけど、異世界の知識とかそう言うのを無しにしても、Xランクのミューラッカ様と戦える人をおいそれと他国には行かせられないって話にもなるんだよ」
「なっなるほど……同い年なのにセニアが大人に見える」
「さてと、どうするかのう……逃げても良いがローレット王国に迷惑がかかるのも嫌じゃしな~」
考えているとスナップとスイベルが、お父様はそういうのが疲れてエアエデンに引きこもりましたのでルディール様さえ良ければそれもありだと伝えた。
「それでも良いんじゃがな転移魔法があるから何処へでもいけるしのう、最終候補じゃな~ミューラッカはスノーベイン大好きっ子じゃから国益になりそうな事を出せば引いてくれそうなんじゃがな……」
「ルディール様、いっその事一騎打ちして勝った方の言う事を聞け!とかでいいのでは駄目なんですの?」
「それは無しじゃな。喧嘩売られたら別じゃがなんでもかんでも暴力と言うのはのう」
「ルーちゃん、万能薬とか命の滴とかだして守護竜さんを治したのにね」
「あれを今更言うのものう……ディスフィオラからの話はわらわ的にはかなりの価値があったからチャラじゃな」
「ルディールさん、そういう所真面目ですよね。国益か~」
それから五人で国益国益と言い案が出ないまま考えていると、ふとミーナが思いつき意見を言った。
「ルーちゃんの魔法で交渉したらいいんじゃないのかな?」
「ん?どういうことじゃ?」
「授業で習ったんだけど、新しい魔法とか作るとギルドとか国に提出すれば国が買い取ってくれるとかそういうのがあるんだよ」
「そういえば本で見たことあるのう、生活で使えそうな魔法とかは国が買い取って学校の勉強で使ったりとかじゃったよな?」
「そうそう、個人でも魔法使いさんだと魔法作って魔道書にして売ったりしてるとか聞いたよ?」
「攻撃魔法とか売ったら危なく無いか?」
そういうとミーナは違う違うと言ってルディールがアコットの為に作った魔法とかスノーベインに来る時にバイコーンの雪よけに宙に作れる足場の魔法とかと言った。
「浮く方は、全然魔力使わないから凄いんだけど、足場の方も魔力ほとんど使わないし上に雪が積もるから使い勝手よさそうだな~っと思って」
「確かに雪よけに使ったしのう」
「そうそう、何処まで広げられるかは知らないんだけど、それこそ飛空艇の上に張れたら冬でもスノーベインから飛べるかな~っと思ってたんだけど無理かな?」
ミーナがそう言うと、全員が感心したようにミーナの顔を見ていた。
「どうしよう、弟子が独り立ちしそう……もしかしてお主に教える事ってもう無いか?」
「えっ?どうしたの?って普通にいっぱいあるよ!」
「ミーナが大人に見える……」
スナップやスイベルもミーナを褒めると、ミーナは照れながら否定したがルディールの役に立てそうな意見を言えた事を喜び、そしてその話を詰めていった。
「では、その魔法を教える代わりに婚約の件を解消してもらう感じで行くかのう」
そういうとセニアがルディールさんはリノセス家の護衛ですから、リノセス家が開発した魔法という事にして話を進めましょうと提案してきた。
「わらわが作ったとか言ったら結婚したら手に入るとか屁理屈をいいそうじゃしな」
「そういう事です。お父様やお母様もいませんが私がミューラッカ様とお話しますね」
「うむ、わらわも手伝うが頼んだ」
セニアは可愛く任されましたと言い、全員でミューラッカ達が待つ部屋へと向かった。
次回の更新はたぶんきっと明日!次回で五章は終了です。
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