第101話 戻る季節
ミーナ達が雪だるま等を作ったりしてノーティアと遊んでいると、守護竜がいた辺りに巨大な灰色の渦が現れ、地響きと共にディスフィオラが倒れ込む様に姿を現し次にミューラッカを背負ったルディールが現れた。
ミューラッカとディスフィオラは気絶していた様だったが、ルディールは無事だったので、待っていた全員がルディールに近づき話を聞きに集まった。
「あー!しんど!ノーティアよ!すぐに戦闘を仕掛けてはいけないとかそんな感じの法律を作るのじゃ!」
そう言うとルディールは背負ったミューラッカをアバランチ達に引き渡した。
「え?作らなくてもスノーベインにそんな戦闘狂の様な人はいませ……すみません、肉親にいました」
そう言うとアバランチ達はミューラッカを見て苦笑いをし、ノーティアは何が有ったのかを悟り、ルディールに何度も頭を下げた。
「はぁ、娘の前では強い母で居たかったんじゃろうな……しかし腹立つから顔に落書きしてやろうか」
「ルディール様、それをすると一生狙われますよ。異常気象はどうなったのでしょうか?守護竜様も気絶しているので……」
ノーティアは不安そうにルディールに尋ねた。
「ちゃんとお主の母が守護竜に勝ったから、異常気象は直っておるはずじゃぞ。そこの喧嘩っ早いドラゴンが言っておったわい」
ノーティアは気絶しているミューラッカの手を握り涙を流し礼をいい、アバランチ達は歓声の雄叫びを上げた。
そしてルディールが一息ついているとミーナ達がお疲れ様と言いながら近づいてきた。
「ルーちゃん、大丈夫?怪我とかしてない?」
「うむ、その辺りは大丈夫なんじゃが、いつも通り気分的に疲れたという感じじゃな……お主達は特に何もなかったか?」
「うん、大丈夫だよアバランチさん達が守ってくれてたから雪だるまを作ったりして、雪遊びしてたよ」
ミーナの言葉にルディールも女王と竜と雪遊びと呼ぶには凶悪すぎる内容を思い出し、ミーナ達を羨ましがった。
そして、魔眼が開眼したセニアを気遣い、守護竜を連れて城に戻るかどうか考えていると、よいタイミングでディスフィオラは目を覚ました。
「はっはっは!気持ちよいぐらいに綺麗に負けたな」
「お主、余計な事を言うでないぞ。わらわ達は氷城まで戻ろうと思うがお主はどうする?付いてくるか?人型にでもなれるなら連れて行くが?」
ディスフィオラは中央の首を左右に振り断った。
「我は竜である事を誇りに思っている、本当に必要な時以外は人型にはならんよ」
「うむ!その心意気や良し!それでこそドラゴンじゃな。ではわらわ達は戻るぞ」
「ああ、聞きたい事があればいつでもこい、歓迎しよう」
ディスフィオラがそう言ったのでノーティアは女王として守護竜に感謝をのべ、アバランチ達は膝をつき頭を下げた。
「そうだ忘れていた、ルディールよ。お前だけは少し残れ」
ディスフィオラがそう言ったのルディールは少し不思議そうな顔をしたが頷き、ノーティアに先に全員連れて帰ってくれと頼んだ。
ミーナ達も了承したので、ノーティアは雪の転移魔法を唱え、ではまた後でといい先に戻って行った。
ノーティア達が帰ったのを確認してから、ルディールはディスフィオラに話しかけた。
「もう一度、戦えとかじゃったら流石に怒るぞ?」
「いや、あそこまで二人で完封されては続けては挑もうとは思わぬ」
と笑いながらいいルディールを引き留めた事を話し出した。
「戦って分かったが……ルディールよお前はやはり魔王だ。しかも前魔王より遙かに強い」
「……そうなのか?」
「ああ、我も戦った事はあるがもう少し善戦はできたのでな、ミューラッカと組んで挑んだがお前には勝てなかったからな……」
「う~ん……じゃがわらわにも危ない所はあったし装備や指輪の力で回復してようやくという感じじゃしのう……」
「だが、全ての指輪の力を解放した訳ではないだろう?」
ディスフィオラの言葉通り、ルディールは古の腐姫の嫉妬の様な危険な指輪や、戦女神の指輪の様な自身に危険が及びそうな物、運命の女神の導き、王の鎮魂、などの様に直接戦闘に関係の無い物は力を解放せずに戦っていた。
「解放した所でっていう指輪もあるし、危ない指輪もあるからのう……そこまでかわるのか?」
「お前が道を間違えたら我らでは止めれぬな」
「古の腐姫の嫉妬は危ないが戦女神は使い方わからぬし……」
「あの堕天使とヴァルキリーか……お前が言うように世界は繋がって居るのは確実だな」
その事でルディールは深く考え込んだが、これ以上考えても答えは出そうに無かった。
「ルディールよ、一つだけ覚えておけ」
「ん?何をじゃ?」
「永遠の眠りについた死者をおこしてまで答えを求めてはいけない。王達はようやく眠りについたのだ。それを妨げてはいけない。お前が真実を知りたくても死者に答えを聞くのは間違いだ。命ある世界で得たヒントで答えを作れ」
「……それが間違っていたら?」
「いや、世界は命ある者が作る。命ある者が作った嘘ならそれは本当の事だ」
「なるほどのう……忠告ありがとうじゃな、心に刻んでおくわい」
「年寄りの戯れ言と思っておけばいい。後、少し気をつけろ。何匹かの魔神はこの世界に来ているぞ」
その言葉にルディールは少し驚いたが狂乱の猛毒をディスフィオラに使った奴がいるのは確実だったのでその事を尋ねた。
「お主にかかっていた狂乱の猛毒を使っていた奴と、それ以外がおるんじゃな?」
「ああ、そういうことだ。我にその毒を使った奴はカエルの様な奴だったが、姿は見えなかったが数匹の気配がしたからな……」
(ゲームでも狂乱の猛毒を使う奴はカエルじゃったのう……)
「やはり魔神は強いのか?」
「ピンキリだ、お前を最上位にミューラッカも上位に入るだろうが、我を毒にしたカエル程度なら今の我なら倒せる。毒にされた時は首は一つだったからな」
「なるほどのう……有益な情報ばかりありがとうじゃな」
「はっはっは、命の雫の価値に比べればお釣りがくるな、ルディールよ困った事があればいつでも呼べ、我でよければいつでも力を貸してやろう」
ディスフィオラがそう言ってくれたのでルディールは丁寧に礼をいい、少しあの不器用な親子を気にかけてやってくれと頼み、再度礼をいってから氷城へと戻った。
「面白い奴だ……あれほどの力がありながらその力に飲み込まれんか……太陽と月の魔神よ。あの小さな魔王の旅を、太陽は明るく照らし月は静かな安らぎを」
ルディールは氷城へ飛ぶとミーナ達は応接室に居るようで、あの無駄に強そうな執事に案内されそこに向かった。
(とりあえず、魔神の事はミューラッカには伝えて置く方がええじゃろな、ノーティアに伝えるかどうかは任せよう、政治的な事もあるじゃろうしな)
ルディールが案内されミーナ達の所に案内され、ふと窓の外を見ると雪が止んでおり太陽が静かに沈み始めていたが、来た時よりは温かな空気が流れていたので執事はルディールに静かに頭を下げた。
そうしている内に応接室にたどり着いたので、中にはいるとミーナ達はくつろいでおり、何故かノーティアもいた。
「ルーちゃん、おかえりー」
「うむ、ただいまじゃな」
「守護竜様は何か言っていましたか?」
「ちょっとした世間話じゃな」
「えっと……ドラゴンとの世間話って何を話すのですか?」
「ん?カエルが出たーとかじゃったぞ。ノーティアがここにいると言う事はミューラッカはまだ起きてないのか?」
「はい、守護竜様との戦闘が激しかったようで、怪我等は無いようですが魔力がほとんど無いので目覚めるのにしばらくかかるそうです」
ノーティアにそう教えてもらうと、あれだけ高威力の魔法を撃てば魔力もなくなるのうといい、ソファーに腰掛けスナップに温かい紅茶を入れてもらった。
そしてミューラッカが起きるまで少しゆっくりしておこうと思っていたら、ノーティアといつの間にか仲良くなっていたミーナとセニアが城を案内してもらえることになりダレているルディールを誘いに来た。
「ノーティア様に氷城を案内してもらえるんだけどルーちゃんも行く?」
「いや、ルーちゃんはお疲れじゃからここでのんびりしておるから、お主達で遊んで来るとよい」
そう言ってミーナ達を送り出して、紅茶を一口飲んでからルディールはスナップとスイベルを近くのソファーに座ってもらい、狭間の世界での事を話した。
話し終わるまでスナップもスイベルも一切、話さずにルディールの話を丁寧に聞いた。そして話し終えるとスナップが静かに話し始めた。
「なるほどですわ。ルディール様のもとの世界とこの世界は繋がっていたのは間違いないのはわかりましたわ。後は片っ端からその指輪と関係ありそうな所に行ってみるという感じですわよね?」
「うむ、それがいいと思う。ディスフィオラが言った様に指輪の持ち主達を起こしてまで真実を追究するのは止めておこうとは思うがのう」
そう言うとスイベルが静かに手を上げ質問してきた
「では、その指輪の持ち主を目覚めさせないと元の世界に帰れないのでしたら、ルディール様はどうしますか?」
「そうなってみんと何とも言えぬが帰らんじゃろうな」
そう言うとスイベルはあからさまにほっと息をはきだしたが、ルディールはまだ話を続けた。
「勘じゃし当てにはならぬかも知れぬが、別の方法でいくつか帰られる方法はありそうな気がするのう、希望的観測じゃがな」
「そうですか……お答え頂きありがとうございました」
(指輪の持ち主達に話を聞きたい所じゃがそれは叶わぬじゃろうな……)
これからの事をスナップ達と詰めていると城を案内されていたミーナ達が帰ってきた、今日はもう日も沈みミューラッカもまだ起きないのでルディール達は氷城に泊まる事になった。
「家具とは寝具は普通の物なんじゃが……氷でできてるおる城なんじゃろ?超豪華なかまくらって感じじゃのう……」
「ルーちゃん……かまくらって何?」
それからルディールはノーティアに凍死したりせぬか?等と失礼な事を言いながら皆で集まり夜も遅くまで雑談しその日は過ぎていった。
次の日ルディールは寒さで目を覚ました。
「さむっ!騙されたのじゃ普通に寒い!」
それから運んできてもらった朝食を取り、ゆっくりしているとミューラッカも目覚めたと知らせが入り、もう少し経ったら全員が謁見の間に集まるように指示があった。
執事がルディールを迎えに来たのでその後ろを着いていき謁見の間にいくと、まだ誰も来ておらず謁見の間にはルディールとミューラッカだけだったが、執事は頭をさげ他の人達を呼びに向かった。
「ミューラッカよ。もう大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。だが一つだけ聞かせてくれ」
「ん?なんじゃい」
「私は弱かったか?ディスフィオラと共闘したにもかかわらずお前に負けたからな」
「お主が弱いとか意味わからんわ!安心せい。わらわが今までに戦った連中の中では一番強いわい」
「……そうか?」
「お主にはごり押しなど通用せんかったしな」
「力に頼るばかりのお前だったら倒せていたんだがな……いい勉強になったよ」
そう話し二人で笑っていると少し遠くに執事達の気配を感じたので、ルディールはミューラッカに魔神の事を伝えた。
「先にお主には伝えておくが、ディスフィオラが魔神を見たから気をつけろと言っておったぞ、あやつを毒状態にしたのも魔神じゃ」
そういうとミューラッカは少し考えてから分かったといい今回の事の礼を素直にルディールに言い、終わった後にノーティアを先頭にミーナ達が謁見の間に集まった。
そして執事を下がらせてからミューラッカが話し始めた。
「この会談は私も女王もいるがそこまで畏まらずに楽にしていい。ルディールとその友人達よ、この度はスノーベインの為に助力を尽くしてくれた事に心からの感謝を」
そう言ってミューラッカは深く頭を下げノーティアも女王として礼をいい頭を下げた。
「本来なら国を挙げてする事だが、国民達にはまだ説明してないから後でいいだろう」
「今の礼だけで、わらわは十分じゃわい」
「そうか?大丈夫だ。お前にはちゃんと礼を用意してある」
その言葉に少し嫌な予感を覚えたがミーナ達をおいて逃げる訳にも行かないので話を聞くとミューラッカがとんでもない事を言い出した。
「スノーベインを救った英雄ルディール・ル・オントよ、お前をノーティア・ヴェルテス・スノーベインの婚約者として任命する!」
次回の更新は明日だと思います。もうすぐ五章も終わり。
誤字脱字報告ありがとうございます。