第100話 吹雪の女王
ルディールが狭間の世界に行くと先に説明もなく送られたミューラッカは流石に少し戸惑っていた。
「ルディールよ、この世界はどこだ?さっきいた場所と形だけはそっくりだが」
その問いにルディールが答える前に、守護竜のディスフィオラが答えを言った。
「ここは狭間の世界だ……数百年ぶりか」
「守護竜殿は知っておるのか?」
「ここは元の世界と魔界を繋ぐ通路の様なものだ。魔王よ、魔界に行く時に使っているのではないか?」
「だから魔王ではないと言っておるじゃろうが、この世界についても全然わからぬしな。狭間の世界で色々壊しても元の世界には影響なかったのでな、お主とミューラッカが戦える様に連れて来たがもしかしてまずいのか?」
「いや、ある程度なら構わぬ。そこの小娘と決着を付けたら教えてやろう」
そう言ってルディールから視線を外すと物珍しそうに辺りを見ているミューラッカに向け力を解き放った。
するとミューラッカはすぐに戦闘に入るかと思いきや、もう一度ルディールに尋ねた。
「ルディールよ。この場所は本気で戦っても問題無いんだな?」
「うむ、そこまで詳しいわけではないが、守護竜殿も戦闘態勢に入っておるから大丈夫じゃろ」
そうか……と呟きディスフィオラと同じようにミューラッカも静かに解放し始めると、額に白い鬼の様な一本の美しい角が現れ、背中には4枚の氷で出来た翼が現れた。
「ミューラッカよ。その姿は?」
「本来の姿と言う訳ではないが、私も混血とはいえ魔神族だからな。お前と同じように角はあるぞ」
「なるほどのう。お互いに死なぬようにな」
ミューラッカとディスフィオラの戦闘が確認でき、尚且つ巻き込まれない位置まで移動すると魔神と竜は即座に力を解放させ色の無い灰色の世界を雪と氷で包み込み白く染め上げた。
そしてミューラッカが何か話したなと思った次の瞬間には雪崩がディスフィオラを飲み込んだが、咆哮で雪崩を吹き飛ばし家ほどもあろうかと思う巨大な氷の塊を大量に召喚し雨のように降らし反撃した。
「この距離におって巻き込まれそうなんじゃから、Xランククラスは凄まじいのう……ミューラッカも前にやり合った時より遙かに強いし……」
などと独り言を言っている間にもミューラッカとディスフィオラの戦闘の範囲はどんどんと広がっていった。
「守護竜と言うだけかなり強いが、そこで見ているルディールに比べればどうという事はないな。ホワイトノヴァ!」
ミューラッカはそう話しながら雪が爆発をおこす魔法を唱えたが、ディスフィオラも同じ魔法を使いすぐに打ち消し話しかけた。
「魔王に比べれば我など蟻に過ぎん、あれが本気を出して戦って居ればお前ごときは生きていることはないぞ。フリージングプリズン!」
次は此方の番だと言わんばかりに、ディスフィオラが魔法を唱えると、数十本の氷の柱がミューラッカを取り囲むように現れ動きを封じようとしたが、その氷の柱すらミューラッカは氷らせ即座に破壊した。
その事にディスフィオラは驚いたが、素直にミューラッカを褒めた。
「ほぅ。我の魔法を氷らすか、数々の女王を見てきたがお前が歴代最強なのは間違いないな」
「母が言うには魔神の血が濃いらしいからな。ディスフィオラよ、お前もかなり強いが相手が悪かったな」
ミューラッカは左手を突き出し魔方陣を発生させ、ディスフィオラ周辺を攻撃範囲内に指定し魔法を唱えた。
「フリージング・ホワイト・エッジ」
その魔法を知らないディスフィオラだったが、死の気配を近くに感じ即座にコキュートスウォールを唱え身を守ろうとしたが遠くからルディールの叫び声と七色に光る防壁が届いた。
「ミューラッカよ!殺す気か!オーロラ・セブンス・ウォール!」
ルディールの魔法がディスフィオラを守った後にミューラッカの魔法が発動されると、吹雪がさらに激しくその雪の一粒一粒が氷の刃となり、ディスフィオラを襲い、一瞬でコキュートスウォールは削り取られ、オーロラ・セブンス・ウォールの魔法障壁も残り二枚まで破壊され、ようやく無効化に成功した。
(あー焦った!まさか水氷系の最強の魔法を使うとは思わんかったわい!)
そしてすぐにディスフィオラに近寄ったが怪我も無く無事で、素直に敗北を認めた。
そしてルディールはミューラッカの方を見るとその姿に唖然とした。
「……お主、大丈夫か?」
「ああ、この状態なら使えるかと思ったが、流石にまだ無理だったようだな」
ミューラッカは軽い口調では答えて居たが、自身が使える魔法の限界を超えていた様で、左手は消し飛び、両足は凍り付いていた。
「ルディールよ、悪いが私のアイテムバッグの中からエリクサーを出してもらえるか?」
断る理由も無かったのでルディールはミューラッカに近づき、腰の辺り着いていた小さなアイテムバッグの中からエリクサーを取りだしミューラッカに飲ませた。
効果は絶大で無くなっていた左手は再生し、凍り付いた両足も綺麗に元に戻った。
「ほぅ、エリクサーとは凄い物だな、初めて使ったが、回復速度はロードポーションよりも上で魔力も即座に回復か」
「そんな感想いらんじゃろ……というか何故あんな無茶をしたんじゃ?」
「さぁな、私にも自分の事がわからない時があるさ」
と誤魔化したのでルディールはとりあえず何も言わずにミューラッカの頭に手刀を振り下ろした。
綺麗に決まったのでミューラッカが頭を押さえつつルディールを睨み付けたので、ルディールは文句を言った。
「お主、女王のくせに戦闘馬鹿なんじゃからあまり考え過ぎぬ事じゃな、どうせあれじゃろ?ノーティアがどうのこうのとかじゃろ?そう思っておるならお主が無事なのが一番じゃぞ」
ミューラッカは図星だったようで、頭を押さえてはいたがそれ以上は何もいわずに戦闘態勢を解き、角や翼をしまった。
「やはり人間は面白い……ミューラッカ・ヴェルテス・スノーベインよ、お前の勝ちだ。約束通りこの国の異常気象は止めてやろう」
ミューラッカはそうかとだけいい、静かに頭を下げると、ディスフィオラは全身を発光させ、大きな咆哮を上げると、光が粒子になって消えてゆき、これで良いだろうと言った。
「さて、魔王よ。再度助けてくれた礼だ。聞きたい事には答えてやろう」
「そうじゃな、まずはその魔王というのを止める所からじゃな、わらわの名はルディール・ル・オントと言う名がある、リベット村の便利な魔法使いさんじゃからな」
「そうか、ではルディールと呼ばせてもらおう」
「うむ、それでよいぞ。まずはじゃが……この狭間の世界の事について教えてもらえるか?」
そう聞くと、思い出すように考えてからディスフィオラは答えた。
狭間の世界と言うのは言葉通り元の世界の狭間にある世界で、元の世界には一切関与しない世界と話し、魔界と呼ばれるもう一つの世界へ行く通り道だ教えてくれた。
本来は高位の魔神族が元の世界に行く為に作り出した世界というか通路なのだが、狭間の魔道士という天才がその世界を乗っ取りその魔道士にしか通れない様に作り替えたと話した。
「魔界というのはお前達でいう死者の国の事だ。ここを通ればすぐに死者の国へいけると言う事だ、ここがあれば簡単に死者が蘇るからな。千年前の大戦で相手の戦力を封じるのに魔道士が封印した世界だ。だが、魔王や最高位の魔神になれば来れるがな」
「なるほどのう……便利じゃと思ったがあまり使わぬ方がよいか?」
「ああ、見つかれば魔神か、ろくでもない連中が出てくるぞ。気をつけろ」
「では、すぐ戻った方がよいかのう?」
「いや、そこまで気にする事はない、この世界の広さは元の世界と同じと聞いた。その広さで人一人を探せるか?無理だろう?」
ディスフィオラはそう言ったが、今後はこの世界に来る事はよほどの事が無い限り控えようと心に決め違う質問をした。
「こっちも重要なんじゃが太陽と月の魔神について教えてくれぬか?」
「懐かしいな……我の頭が一つだった頃に力をくださった方々か」
そう言ってディスフィオラは目を瞑り昔を懐かしんでからルディールに何処まで知っている?と問いかけたので、ルディールは図書館などで見た知識などを総動員して答えた。
「ああ、それで大方は合っているが他に何を聞く?」
ルディールはそう聞かれたので自身が異世界の人間である事を伝えないと話が伝わらなかったので前の世界と今の世界の繋がりが多く、その接点を探していると伝えた。
「そうか……指輪か。私が知る限りではだが千年前の大戦の時に魔王は消えた、その時より魔界には王は居ないと聞くが、大戦が終結した後に十個の指輪を集めた者が次の魔界の王だと聞いた事がある」
「なるほどのう……」
「我も太陽と月の魔神に指輪の事を尋ねたが、作ったとまでは教えて頂いたがどんな形をしているかまでは教えてもらってないな」
と言ってルディールの角飾りと手にはめている指輪を見てから続きを話した。
「その角飾りは太陽と月の魔神の物だろう?我と似た気配を感じるぞ、それにその指輪は全ての指輪が集まった指輪だ、中に懐かしい気配もするのでな」
「この指輪は前の世界で手に入れたものなんじゃがな?なんで関係あるんじゃろうな?」
「それは分からない。だが双子の聖女や狭間の魔道士、それこそ太陽と月の魔神の気配を感じるから、ルディールが次の魔王でほぼ間違いないだろう」
その話を聞き少しの間考えてから、まずはその話を信じてから話を進めた。
「聞いてばかりですまぬがわらわが魔王だとすると何かあるか?」
「いや、何もない。ドラゴンが移動するのを蟻に止められるか?力ある者は自分の好きに生きればよし。世界がその存在を認めないなら前の魔王の様に排除されるだけだ」
「なるほどのう……では二人にお願いじゃ。わらわが魔王かも知れぬと言う事はすまぬが黙って置いてくれるか?」
「我は構わん。魔王いやルディールには数回助けて貰っているからな」
ディスフィオラがそう言うと、ミューラッカも頷きこれで貸し借りなしだと言ったので、ルディールもその方がありがたいといい二人から了承を得た。
「そんなものかのう……っと、そうじゃミューラッカよ」
「どうした?」
「さっきのフリージング・ホワイト・エッジじゃが、魔方陣が若干間違えておったぞ。わらわは使えぬが正確にはこうじゃぞ」
そう言うとルディールは正確な魔方陣を描きミューラッカに見せると、すこしだけ戸惑いながらも熱心に自分の魔方陣との違いを目に焼き付けた。
「この魔法もお前がいた世界にあったのか?」
「うむ、そういう事じゃな。その辺りも前の世界と繋がりがあるんじゃがその辺りは追々じゃな。さてとミーナ達やノーティアが待っておるじゃろうからそろそろ帰るぞ」
ルディールはそう言って帰ろうとしたが、ミューラッカから少し待ってくれと声がかかった。
「ルディールよ少しまて、向こうにはアバランチの精鋭達もいる何かあってもすぐに対応できるさ」
そう言ったのでルディールは首を傾げ魔法の練習でもするのか?と聞いた瞬間にミューラッカから氷の刃が飛んで来た。
「お主、何をするんじゃ……その不気味な笑顔はやめい」
「いい女というのはよく笑うものだ。短い付き合いだが分かると思うが私は負けず嫌いだ。だから全力が出せるここで再戦だ」
「嫌なんじゃが?」
「安心しろ。拒否権はない」
ミューラッカはそう言うとディスフィオラと戦った時の様に角と翼を生やし、しょっぱなから先ほど教えてもらったフリージング・ホワイト・エッジを問答無用でぶっ放した。
ルディールが教えたのでその魔法は完成しており自身にダメージがかえって来る事は無かったのでミューラッカは素直に礼を言った。
「礼を言うなら止めんか!」
「はっ!私程度ではまだ全力を出さないか。私はな、お前の本気がみたいのだよ」
「いや、常に本気で生きているんじゃ……が!」
ルディールがいい終わる前に今度はディスフィオラがルディールに向かって絶対零度に近いブレスを放った。
「ほう、不意打ちにも対応するか……さすが魔王ルディールか」
「お主まで、何をするんじゃ!」
「いつの間にか守護竜などと呼ばれてはいるが、本来は吹雪の国の女王と共に戦うのが我の役目だ。ルディールよ、胸を借りるつもりで挑まして貰おう。ミューラッカよ良いな」
「ああ、構わんよ」
わらわは一言も納得していない!とルディールは叫んだがその声が開戦の合図となり戦いが始まった。
「ルーちゃん、遅いね?ミューラッカ様たちまだ戦ってるのかな?」
「お母様は負けず嫌いなので、ルディール様に戦闘を仕掛けてるかもしれませんよ……」
「ありえそうですわね……ルディール様も巻き込まれやすいタイプですし……っと、出来ましたわ!」
「うわっ!可愛いですね。ウサギですか?スナップさん上手ですね」
ルディール達がドンパチやっている間にミーナ達とノーティアは仲良くなり、雪だるまなどを作って帰りを待っていた。
次回の更新は明後日かな?五章の終わりは近い。
誤字脱字報告ありがとうございます