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第10話 昔のおもいで

 白い炎のボス猿とルディールが対峙し空気がピリピリと震える。その時、群れの一匹の炎毛猿がルディールに攻撃をしかけようとするがボス猿が止める。


「オ前達ハ、下ガッテイロ」


 その一言で炎毛猿の群れはルディール達から距離を取る。離れはするがこちらの様子を確認できる場所で待機していた。


「お主のようなのがボスならこの群れも安泰じゃな。では行くぞ?」


「来イ!」


 緊張していた空気が一気に破裂しルディールは、ボス猿の間合いに一瞬で入り込み、一撃で決めるつもりで冒険者に放った数倍の力を込め蹴りを放つ。


 爆発のような音がなり衝撃で埃や塵が舞い上がりボス猿の姿が確認できなくなったが、砂ぼこりの中から手が伸びルディールの細い足を掴む。


「ソノ小サナ体デ、コレホドノ蹴リヲ放テルノカ!」


「その蹴りを受ける奴がおるんじゃな!」


 視線が交差し二頭の獣は少し笑う。


「次ハ、コチラノ番ダ!」


 ボス猿の白い炎がさらに燃え上がり、ルディールの体を包み込み、足を掴んだまま地面に数回叩き付け、勢いを殺さずに大木に向かって投げる。


 投げた勢いで大木が数本折れ、ルディールだった白い炎の塊は止まった。


 しかしその塊は何事も無かった様に立ち上がり、海を切り取ったようなマントが白い炎を消していく。


「今ので決まると思って蹴ったんじゃがな…」


 体に付いたすすを払い少し笑いながら話すと


「今ノデ、決マルト思ッテ投ゲタンダガナ…」


 ボス猿は蹴られた所を掻き少し笑いながら答える。


(このボス猿かなり強いのう、蹴りだけでは倒せんか?)


 考えているとボス猿が行動をはじめ、近くにある木の枝を折り自分の炎で燃やし、ルディールを目掛けて投げてきた。


 飛んできた木や岩をかわしていると、足元が湿地のような沼のような水気を多く含む場所に来ていた。


 その瞬間にボス猿が急接近し体の炎を最大まで上昇させ、周りの水を一気に沸騰させ水蒸気にかえる。


「ぬ!視界を塞がれたか!」


 視界に広がる水蒸気を割き、ボス猿が蹴りを放つ。触れた瞬間に足の炎が爆発し炎がルディールを包む。


 湿地の上を数度跳ねてから止まりまた立ち上がる。


「オ前ノ、真似ヲシタガキカンカ?」


「いや、けっこう痛かったぞ」


 そういって前髪をかき上げると血が流れ出ていた。


「すぐに回復するんじゃがな」


 言葉通り傷はすぐ塞がり血は止まった。


「オ前、魔法ツカウダロウ?何故ツカワナイ?馬鹿ニシテイナイナラ本気デコイ!」


「そうじゃな、失礼したな。では本来の戦い方で行かせてもらうのじゃ!」


(かと言って広範囲魔法ぶっ放して森を吹き飛ばす訳にもいかんから難しいのう)


「では、行くぞ。クリスタルビット!」


 ルディールが魔法を唱えると、数十個の半透明なクリスタルが空中に出現し漂う。


「オールレンジ攻撃!」


 ボス猿を中心にクリスタルが展開し、高速で視覚内、視覚外から無属性の攻撃魔法を仕掛ける。


 ボス猿は器用にかわすが、さらにルディールの追撃で自由自在に動く爪が加わり、クリスタルビットだけなら躱していたが少しずつ被弾が増えていく。


「グッ!ガッ!オノレ!」


「そろそろ決めさせてもらうぞ?」


 ルディールの攻撃でイライラが爆発し体の炎を青く光らせ口を大きく開き、ルディールの後ろにいる群れの事も忘れ、ボス猿は自分が使える最大の攻撃の火炎弾を放つ。


 その攻撃にルディールが叫ぶ!


「この!ドアホウが!」


「コキュートスウォール!」


 まだ冬にはかなり遠い季節なのに雪が舞い、周りの木々よりも遥かに高い氷壁が出現しルディールとその後ろにいる炎毛猿と三人の冒険者を守る。


 炎と氷がぶつかり合い、すさまじい水蒸気が周りを飲み込む。


 その隙に乗じてルディールが接近する。


「これにて終いじゃ。ソウルバンカー!」


「ガフッ!」


 無属性魔法の杭が出現しボス猿の胸を穿うがち、吹き飛ばして決着がつく。





「怪我は治っておるのになかなか起きんのう……ほれ猿達よ水を汲んでくるんじゃ」


「ウキャ!」


「……いえ、だからどうやって魔物と会話を」


「言葉が解るからと言って会話ができるとはかぎらんじゃろ?その逆もまた然りじゃ」


 気絶している二人の冒険者を見ながらルディールはそう言う。


「……それはそうですが……」


「こういうのは心と心で会話するもんじゃ」


「……それは嘘ですね、顔がニヤついてますから」


「……お主、なかなかやるのう」


 ルディールと魔法使いがそんな会話をしていると炎毛猿達がウツボカズラを大きくしたような植物に水を汲んで帰ってきた。


 それを受け取りルディールは遠慮なくボス猿の顔にぶっかける。


「グッ……」


「お、起きたか?」


「負ケタノカ……ドウシテ殺サヌ」


「わらわが被害に遭った訳では無いしのう。と言うかそれはこっちのセリフじゃ。お主の強さがあればこの三人組ぐらいは瞬殺じゃったろうに……」


 ボス猿は少しだけ考えて答える。


「人間ニ関ワルト、メンドウダカラナ」


 そうじゃなとボス猿の答えに納得する。


「仲間ヲ助ケテクレタ事ニ感謝シヨウ。ソレト今カラ、オ前ガボスダ」


「え?嫌なんじゃが?」


「拒否権ハ無イ、ボス同士ノ戦イトハソウイウモノダ」


 拒否権の無さそうな問いにルディールは頷き答える。


「仕方あるまい分かったわい。普段はお主がこの群れをまとめよ。何か問題があったら村におるから、隠れて呼びに来るがよい。できる範囲で対処してやるわい」


 元ボス猿は思う所はあったが頷き答える。


「分カッタ。ボスノ命令ダ聞コウ」


 その瞬間新しいボスの誕生に群れが大きく雄叫びを上げる。


「では、わらわは行くぞ」


「分カッタ」


「そうじゃ、お主は何故、人の言葉を話せるんじゃ?」


「アア、大昔ニ人間ト森ノ入口デ、ヨク遊ンデイタ。ソノ時ニ言葉ヲナラッタ」


「なるほどのう~。よし魔法使いよ帰るぞ」


「……わかりましたが、私が二人を背負うんですか?」


「そうじゃったな……マジカルハンドよ!二人を掴み運べ」


 ルディールは自分の後ろに白い大きな手を出現させまだ気絶している二人の冒険者を持ち上げる。魔法使いはその魔法を観察するように見ていた。


 ではな。と炎毛猿達と別れ、ミーナの父と村長が待つ場所に向かって行く。その道中でルディールは魔法使いに少し気になった事を聞く。


「魔法使いよ。なぜお主はわらわの強さが戦ってもいないのに解っておったんじゃ?」


「……ああ、私の目は片目ですが魔眼なので相手の魔力や魔力の流れがわかります。私はハイウィザードですが、貴方の魔力は私より遥かに上ですし、魔力の流れも見た事がないくらい精練されていましたから」


「なるほどのう」


「……私からも質問いいですか?」


「答えられる範囲でならばな」


「貴方のお名前は?」


「ルディール・ル・オントじゃ。偽名ではないぞ」


「ルディール・ル・オント……」


 その名前を聞いて魔法使いは深く考え込むが心当たりはなかった。


「高名な魔法使いの方かと思いましたが、知らない名前ですね」


「まぁ、そうじゃろうな」


 それ以上余計な会話はせず。目的地が近くなってくると森を切り取ったように開けた場所に出た。


「あっ……ここは最初にいた所か……」


 そこは数日前に目が覚めたらいた場所だった。感傷に浸っていると遠くから声が聞こえ二人の男が走ってきた。


「おーい!ルー。無事か!?」


「オントさん。無事でしたか?」


「うむ!特に何事もなく無事に見つけてきたわい」


「……何事もなく無事……ぶじ?」


 ルディールのセリフに魔法使いは、未だ起きない仲間をみる。


「おいおい、二人ほど気絶してるじゃねーか……」


 そう言ってミーナの父と村長は冒険者の様子を見る。


「この砕かれた剣はミスリル製ですね…この材質の剣をこんな折られ方をするなんて……よほどの戦闘があったんですね……オントさん本当にありがとうございました」


「雌のボス猿にでも蹴られたんじゃろ。ではわらわは先に戻るからそこの魔法使いに説明を頼んだぞ」


「分かった。後は任せとけって村長?森の方を見てどうした?」


「あっいや……今、炎毛猿を見た様な気がして…少し懐かしいなと」


「……懐かしい?」


「はい、お恥ずかしい話ですが、子供の頃は友人がおらずよく森の入り口で子の炎毛猿と遊んだり勉強したりしていたので……それを少し思い出して」


 村長は笑いながら『元気にしてるといいんですけどね』と付け加えた。


「あれじゃ、今頃Bランク冒険者が束になっても敵わないぐらい強うなって、立派な森の主になっとるわい」


 村長はさらに大きく笑い『きっとそうでしょうね』と言って笑い涙を拭く。


 では先に戻っておくぞと言いルディールは来た時と同じように影の中に消えていった。


 ルディールが消えた後、ミーナの父と村長は冒険者を背負い村へ戻りながら魔法使いに説明した。


「……分かりました。仲間が起きしだい話しておきます」


 冒険者の了解をえて二人は胸をなで下ろした。





「はぁ~」


 大きなため息が宿屋の中に響く。


「こら!ミーナ!もう何回目だよ!心配なのは解るけど私らは祈るしかできないよ!」


「お母さん……そうなんだけどね……」


 またしばらくして大きなため息がでる。


「はぁ~」


「なんじゃい、大きなため息じゃな」


「ルーちゃんが心配で……」


「なるほどのう……『はぁ~、ルディールの奴、森で死んでくれないかな~』とかの、ため息じゃったら流石に泣くぞ?」


「いやいや!私そんな事言わないよ!しかも声真似しないで!……って!ルーちゃん⁉」


「うむ、ただいまじゃ」


「あっおかえり~。じゃなくて!いつ帰って来たの⁉」


 今じゃな。と森であった事を余計な事は言わずに二人に説明した。


「はぁ~、ルーちゃんが無事でよかったよ。後はお父さんに任せておけばいいんだね?」


「そうじゃな。もう会う事もないじゃろうし、それでええじゃろ」


「オントさん何言ってんだい。あの三人の冒険者さんだろ?ウチのお客様だよ」


「あ!……ミーナよ。すまないが今日の夕食は部屋にまで持って来てくれぬか?」


「えっ?いいけど何かあったの?」


「うむ、何もなかったのじゃ?ほんとじゃよ?」


 ミーナと女将さんに絶対に何かしたな?という顔で見られたが、ルディールは誤魔化し切ったな!という顔をしていた。


 それからミーナの父と冒険者達が帰って来て、一泊だけして遅れを取り戻すように次の日の昼には中央都市に向かって出発した。特にミーナの父や村長から何かあったという話は聞かなかったので、予定通り話が進んだ様だった。

いつも誤字脱字報告ありがとうございます。


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★1でも★5でも評価してもらえると今後の展開や新作の参考にできるのでぜひぜひよろしくお願いします!

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