4話
無味で凡でつまらないアタリガバヂモ餅を引き続けたクジ運で陣内先輩チーム勝利。ただし早食いには向かないハズレガバヂモ餅には飛騨牛、大トロ、フキノトウなど相当オイシイ食材が入っていたようで美味を満喫した近藤先輩チームもホクホクだ。しかも無味で凡なハズレガバヂモ餅の中身が何だったのかはいまだに不明だ。いろいろオイシイのは近藤先輩チームだった。
「次も俺が決めていいか? 最終決戦だけど」
「よくってよ」
陣内先輩が腕を組んで近藤先輩チームと自チームのリーベルトを見比べる。陣内先輩はやせているが180cm超の身長。リーベルトも165cm以上はある。
「じゃあムエタイ……いや、ムエタイはさすがにやめておくか」
มวยไทย!
「おほほほ、賢明な判断よ。わたしとシラタキさんはこれでも鍛えているもの。大恥をかくところだったわね。危なかったわね。ムエタイ勝負ならわたしのดินสอで真っ黒になっていた」
ดินสอー!? どんな技だ、ムエタイで真っ黒になるって。そしてそこ? お正月にムエタイやってるのか? 陣内家と近藤家は。
「ベーゴマでいこう」
第3回戦 ベーゴマ
「来たわね、コマ回し! これぞお正月の醍醐味!」
「予告する。俺は“オペレーション・ニンジャ”を使うぜ。白滝やリーベルトにもコマンドを教えなきゃいけないだろう。1時間の自習だ!」
自習。
(サービスシーン:ウェービーなロングの黒髪をシャワーにくぐらせる元レジェンドプロレスラー・天藤力龍さん(68歳))
「よし、再開するか」
1時間の自習と言いながらリーベルトにコマ回しの技術を教えることもなく、涅槃に達したかのように寝転がっていた。しかし頬杖はついているようでついていない! 微妙に頭を浮かしたエア頬杖で1時間寝続けた。頬と手もついていないし腕も微妙に浮かせていたので上半身はあばらしか地面についてなかった。そして秘密特訓を終えた近藤先輩チームが再入場する。
「バオバオバオバオォオオ!!」
近藤先輩、再入場と同時に九州勢がまだ入浴しているテント付近で雄たけび開始。
「敵の呼吸だッ! 倒すべき敵のオーラだッ! ウルティメイトスピーシーズ・ツカサは思ったッ! 敵の息の根を止めてやるッ!」
そして白滝さんが言葉を失った近藤先輩の慟哭をやたらと熱血に代弁する!
「ツカサ・バースト・ライトニング・スピリチュアル・エフェクト!!」
パン。白滝さんが必殺技名を叫んだ直後に近藤先輩が手を叩くと白滝さんが何も言わず棒立ちになる。また危険な催眠術で洗脳していたようだ。
「กาแฟโปรด?」
「ฉันขอโทษฉันมีแค่น้ำ」
熱血口調は治ったが催眠術でタイ語を!? タイ語を使えているうちは洗脳が解けていないのでは?
「お待たせしたわね。最終決戦の時間よ」
「ไม่มันไม่ชา!!」
バァーン!
珍しく白滝さんも乗り気だがタイ語の方も治してやってくれ。
「ここでの対決はベーゴマだ。だが相手は近藤先輩。期待しているぞ。うぉおおお! 俺のコマは! シンプル・イズ・ベスト! 初心者にも優しいがコマンドが幅広く、上級者が使えば一気に化ける『ファーストキッスはレモン味』だ」
バァーン! 陣内先輩の手には蛍光イエローのコマ! 今のところは普通だ。
「略してファッ……」
「略さず行きましょうか」
「略してファッジ!」
ジャモカアーモンドかな? 続いて近藤先輩もパイプオルガンを弾き終わった後のガノンドロフのような大胆な笑みを浮かべる。
「わたしはクセの強さとコマンドを増幅させる、素人が使えばゴミ同然のコマ、『せっかく来てくれたんだもん、ピリ辛スーラータン麺にする? それともジューシートウジャン麺?』よ」
ビャンと言い、中華料理の麺への異常なこだわり!
「略してセッ……」
「略さず行きましょう」
「略してセジュン!」
세준-2014年のポケモン世界大会チャンピオン。パチリスを起用しバンギラス、ボーマンダを翻弄した伝説の決勝戦はあまりにも有名。
燃えるような赤のコマだ!
「よしセット!」
『パシフィック・リム』のチェルノアルファごっこに適したような巨大バケツの上に分厚いビニールを張り、最終決戦の舞台が整う。ベーゴマを構えた両先輩が中腰になってコマを引く。
「シュート!」
陣内先輩のファッジと近藤先輩のセジュンがバケツの上で激しくぶつかり火花を散らす。陣内先輩のファッジは軸が安定し、あまり動かないが近藤先輩のセジュンが激しく移動する。形だけだとセジュンのヒットアンドアウェイにファッジが耐えているように見えるぞ。
「オラァ!」
陣内先輩、バケツのボディに台パン! ファッジとセジュンに勢いが伝わり一瞬だが浮かび上がった。
「オラァ!」
再び台パン! 敗色濃厚だからってこんな露骨に台パンするのか……。だが奇妙な成果を得る! ファッジの回転が激しくなり、ジャンプしながらセジュンを襲撃する!
「オラララッラ!」
何かがおかしい。陣内先輩のこれは怒りに任せた負け惜しみの台パンなのだろうか? それにしては規則的で、ファッジの回転に効果を与えている。よく見ると陣内先輩の草履も細かくリズムを刻み、唇とよく見ると……
「アザヤカニ恋シテ忍者リ……オラオラ!」
きゃりーぱみゅぱみゅの『にんじゃりばんばん』を口ずさんでいるのだ! 陣内先輩は『にんじゃりばんばん』の「ばんばん」に合わせて台パンをしている! まさかこの『にんじゃりばんばん』に合わせた台パンこそが、さっき言っていたコマンド……? 『にんじゃりばんばん』のリズムに合わせてコマンド入力することが“オペレーション・ニンジャ”!?
Ⓟ……右掌でパン
①……右親指
②……右人差指
③……右中指
④……右薬指
⑤……右小指
P……左掌でパン
❶……左親指
❷……左人差指
❸……左中指
❹……左薬指
❺……左小指
「オララオラァ! 裁くのは俺のコマンドだ!」
“裁くのは俺のコマンドだ”
……③❺①①❶Ⓟ
「いいわね。わたしに汗をかかせるなんて! 熱くなってきたわ! ズガガンガガンガン!」
近藤先輩も台パンだ! そして察するに近藤先輩のリズムは『キン肉マン2世』のOP!
「“トリプルアクセル”よ!」
“トリプルアクセル”
……❶②❸④❺ⓅP
「フハハ! もう負けられないんでな! 食らいやがれ! “今年も夏、来ちゃうね”だ!」
“今年も夏、来ちゃうね”
……PPP①④❷ⓅⓅⓅ
「続けて“あの娘、もう恋しないってよ”だ!」
“あの娘、もう恋しないってよ”
……❺❺❺❺❺ⓅⓅ
「“今年も夏、来ちゃね”からの“あの娘、もう恋しないってよ”を!? 想像以上だわ! もう少しで伝説の大コンボ“J-POPサマーロマンス”が完成しちゃうじゃない! 阻止させてもらうわ。“近藤無限大エナジー”!」
“近藤無限大エナジー”
……❸①❺②❹Ⓟ❶③❺P
「うわあああ俺のファッジがぁ……! 畜生!」
近藤無限大エナジーが紫と赤のらせん状のエナジーを発生させ、ファッジがゴミのように排除される。台から排除されたファッジは回転の余韻で暴走し、熊本県代表テントに向かって転がっていった。
「首の皮一枚ってところね。危なかった……この近藤つかさがベーゴマにおいて危機を感じるなんて生まれて初めてよ!」
「畜生、ムエタイにしとけばよかったぜ」
だがなんて楽しそうな貌! 陣内先輩のこんな表情は初めてだ。何をしても満たされることのない奇人の才能。その奇にやっと並べる奇人が現れたのだ!
「陣内先輩、悔しそうですね。苦しそうです。でも、あんなにいい面構えになったじゃないですか。ねぇ白滝さん」
「ใช่ฉันเห็นด้วย.ฉันยังเห็นใบหน้าที่มีความสุขของรุ่นพี่เป็นครั้งแรกขอบคุณ.ฉันแน่ใจว่ารุ่นพี่ของฉันจะพูดอย่างนั้น」
白滝さんもいいこと言ってそうな空気は出ている。洗脳状態じゃなくて覚えていられるといいな。二人の先輩が、誰にも理解されず奇行を繰り返し、周囲を困らせるだけだったのが、逆に自分が困るほどの奇人に出会えた。きっと二人の先輩にとっても最高の思い出になっただろう。
先輩を慕う後輩にとっても、きっとこれ以上にない出来事だったんだから。