1話
~前回までのあらすじ~
陣内一葉。
東京都内の大学の文学部に8年通い卒業したのち、芸術学部に再入学した泥錆のアラサー1年生であり、学内で最高の権力を持ち、『演劇サークル』を率いる大学きっての奇人である!
そんな陣内先輩のもとに一通の手紙が届く!
「全日本大学奇人選手権? オリンピックのチケットが届くはずだったんだがな」
申し遅れました。陣内先輩に一番蔑ろにされている後輩の曾根崎です。
「陣内先輩にそんなものを送る人が一番変わってますよ。だって陣内先輩以上はいないじゃないですか、奇人大学生。それとももうオーバーエイジ枠ですか?」
良崎・リーベルト・アンナ! 学祭ミスコン3連覇の大学最高の美しさと大学最低の頭脳を持ち合わす、陣内先輩に最も優遇されている後輩!
「会場は新国立競技場か。フッ、しょうがねぇ。蹴散らしてやるか! 行くぞ! リーベルト! それからえぇーと……」
「あ……曾根崎忠です」
「……曾根崎?」
「えーと、ほら、心中ですよ心中! 陣内先輩が付けてくれたあだ名」
「……すまん」
何謝ってんだこのヤロウ。
「そんなインパクトあるあだ名忘れてるくらいだから多分俺はお前の名前覚えられないわ。今後はタカハシでいいか? もう覚えちゃったから。タカハシで」
曾根崎→心中→タカハシ。コイツ名前忘れたヤツは全員タカハシで上書きしてるだろう。陣内先輩の知り合いには何人タカハシがいるんだ?
「じゃあ行くぞ、リーベルト、タカハシ!」
【JxK】
【JxK】
@新国立競技場
「うわぁ人の皮を被った魑魅魍魎の田舎者たちがいっぱいいるぞぉ」
既に優勝を確信している陣内先輩、遠足気分で会場に到着。重役出勤の陣内先輩は浴衣に団扇、草履と涼しげな格好だが、日除けのない新国立競技場のグラウンドには各地からやってきた奇人大学生が即席テントの下でスタンバっている。
「おぉい! お前が東京の陣内か! お前が来ないと始まらないだろうが!」
「舐めやがって! 重役出勤ご苦労さん! あがいなやつぁ失格にしたらぁええのう!」
陣内先輩が腕を組み、眉を八の字にして心底見下した表情で嘲笑する。
「いいのか? 俺を失格にして一番困るのはお前らだろう? 俺がいなかったらお前らなんか何の見せ場もないぞ。優勝候補最右翼の千両役者、陣内一葉様を称えろ!」
バァーン!
181cm 66㎏ (??歳)
日本国 東京都 新宿区 出身
-陣内一葉-
「ちゅぅうがなびら。全日本大学奇人選手権にめんそーれー」
沖縄テントから革ジャン、ホットパンツ、ボーイッシュなショートカットでよく日に焼けた女の子とセルのタマゴぐらいトゲトゲしたエレキギターを背負ったロン毛のグラサンがやってきて陣内先輩に握手を求める。ショートカットの方は沖縄の人にしては厚着、ぐらいしか奇人ポイントがないぞ。
「沖縄人では奇人で通ってる沖縄シーサー大学の稲葉歌美よ。こっちは相方の松本奏子」
ギターをギャイィィイイン。稲葉と松本がロックの恰好を……?
「わたしたちは太古から沖縄を守ってきた守り神のシーサーファントムを呼び出す巫女なの」
太古からの沖縄の守り神の名前に英語入ってるのか……。
「は? エレキギターで呼び出すのか?」
「ええ。何もかもを捨ててわたしたちが己の全てを差し出した時、シーサーファントムは覚醒するの」
ヤバイ。何か嫌な予感がする。
ロックっぽい稲葉と松本のコンビが、何もかもを捨てて己の全てを差し出した時!? ファントムが目覚めるのか!?
「イントロがメッチャ長そうだな」
「ええ。祈りの歌は4分40秒でそのうちイントロが1分18秒あるわ」
「『ラブ・ファントム』じゃね? B`zの」
♪~
イラナイ何モ 捨テテシマオウ
君ヲ探シ彷徨ウ MY SOUL
STOP THE TIME, SHOUT IT OUT
我慢デキナイ 僕ヲ全部アゲヨウ
※(一部加工しています)
から始まるB`zの名曲『ラブ・ファントム』! 1分以上にも及ぶ壮大なイントロと爆発的に求めるキャッチーな歌詞、ボーカルの爆音が印象的な曲だ。
「ただの沖縄から来たB`zのコピーバンドじゃねぇか。B`zのコピーバンドで目覚めるのか? シーサーファントム」
「本戦ではいい試合をしましょう!」
「ああ、わかったぜタカハシ!」
青春っぽいいい握手をしたのにB`zのコピーバンドだった衝撃で名前を忘れられるB`zのコピーバンド。
沖縄代表!
沖縄シーサー大学!
稲葉歌美&松本奏子!
「でも思ったよりも和気あいあいとしてますね。奇人選手権なんだからもと殺伐としてると思ってましたよ」
「そうだなリーベルト。俺が遅刻したってのに待機時間にくつろぎすぎて風呂入ってるやつもいるぞ」
あ、本当だ! 自分の待機エリアに湯舟を持ち込んで入浴しているヤツらが何人かいるようだ。こんなに暑いのに湯気をもうもう立てて……。奇人選手権優勝候補最右翼の陣内一葉に一発かますまで、のぼせようと風呂に入り続けることを選んだ奇人大学生がいるのだ。なんてアツい戦い!
「おう、よく来たな、陣内一葉。俺が鹿児島代表、指宿大学の桜島火山灰だ。こっちが弟の火炭たい」
桜島大根のようにまるまると太った九州男児が湯舟からバシャっと立ち上がり、ビシッと人差し指で魂の挑戦状を叩きつける。
鹿児島代表!
指宿大学!
桜島火山灰&桜島火炭!
「オホホホ! よぉく来たわね陣内一葉! わたしが宮崎代表、知略のスーパーフェニックス大学、木花鳳! 優勝はいただいたわ! 優勝トロフィーは、温泉施設も完備! フェニックス・シーガイア・リゾート、旧・宮崎シーガイアの大浴場に飾って差し上げるわ!」
隣のテントでも風呂に入っていたふんわり髪のお姉さんがザバっと湯船から立ち上がる! だがタオルでバッチリガードしてたので立ったのはお姉さんだけだ。陣内先輩の気持ちはいきりたたない。
宮崎代表!
スーパーフェニックス大学!
木花鳳!
「ばっはっは! ほんなこつ面白かことば言うやつもいたもんや。優勝はこん俺、町全体が温泉宿になったような風情のある黒川温泉学園大学の番長、藤山焔に決まっとるやろう!」
隣のテントからザバッ!
熊本代表!
黒川温泉学園大学!
藤山焔!
「温い温い温い! お前らなんぞドイツ語において0を意味する“null”たい! わがどお、着替えは用意しちょんか? 必要ねえど。すぐに地元に帰るんやけん! 優勝はこん俺、大分代表湯布院温泉学院大学の炉暖翼や! 湯布院はいいところ! 寅さんがウィーンと間違えち知り合いぅ連れち行ったところだ! 帰りにいっぺんな寄っちいけ!」
隣のテントからザバッ!
大分代表!
湯布院学院大学!
炉暖翼!
「あのう……おそらくわたしが優勝やと思う……。きゃっ、言うてしもうた! 本当は『わいは体も気も小さかね』って言わるるくらいなんやけど……雲仙温泉の愛娘、こん長崎水産大学ん城島釣が一番の奇人ばい!」
隣のテントからまた女の子がザバッ! をするが今度はフリフリした水着。ちょっと陣内先輩ものぼせる。
長崎代表!
長崎水産大学!
城島釣!
「地味って言うちゃ嫌ぁ! お肌も試合もツルッツル! “三大美肌ん湯”ん一角、嬉野温泉で鍛えたこん力! 佐賀県代表、江頭七海に決まっとーわ! 新入生募集中! 佐賀デジタルメディア大学は定員割れたい!」
隣のテントからまたもや女の子がザバッ! だが陣内先輩はもう飽きちゃったのかスマホにイヤホンを繋げて指パッチンしながらB`zの『ラブ・ファントム』を聴いている。よっぽど退屈しているのだろう。
佐賀県代表!
佐賀デジタルメディア大学!
江頭七海!
「元気しとォーか!? 福岡が生んだ若鷹、福岡家康大学ん祈里光葉や! みんな愛しとォーじぇ!」
「お前は温泉じゃないのか?」
「福岡んよかところは温泉だけやなか。いっぱいあるけん好いとっちゃん!」
「よかったよ。南から順に追っていって九州が全員温泉だったらもう俺は帰ってたよ。アイツらババ抜きだったら温泉かぶりでもう退場だもんな。いい試合をしようぜ、えぇとぉ、タカハシ! さぁ、いよいよ本州上陸だ!」
え、全部やるのか? もっと重要な人物いるはずだろう!?
「その前にトーナメント表見るか」
「おぉーい! 福岡んよかところ聞いてくれ! なんで福岡が好きなんかば!」
チッ。陣内先輩が舌打ちをする。
「五月蠅ゑ! もう足りてんだよ!」
「大丈夫ですかぁ陣内さん! 傾いてますよ!?」
「もう足りてんだ、いろいろと! 今回の分は! なんていうか、こう、わかるだろ?」
九州のお風呂好きたちももう余計な口を叩かないだろう。これが東京で奇人大学生を9年もやってる人間との格の差だ。
「俺たちは東京Aか。……」
「……九州の人たち、みんな向こうのブロックでしたね」
「なぁに、決勝戦があればどっか一つとはぶつかれるさ!」
九州、出番終了!
近藤先輩とシラタキさんのレンタルを許可してくださった王生らてぃさんに感謝いたします。