幕間 「ロイドの企み」
顔合わせと、任務の確認。
そのすべてを終えた後、解散したはずの円卓に二つの人影があった。
向かい合うようにして座っていたのは、暗部『影の月』を束ねるロイド・メルツと、その幹部であるジース。
まるで示し合わせたかのように、二人だけになった室内でジースは鋭い視線をロイドへと向けた。
「解せねぇな。別に野良神の捜査任務ってだけなら俺たちだけでも足りるはずだろ。それが突然の新入りときて序列1位ときたんもんだ。理由をきかせろよ」
その物言いを他の幹部がもし聞いていたならば、烈火のごとくジースを責め立てていただろう。しかし、ロイドはそうはしなかった。
これが、二人の当たり前なのだ。
「いや、そもそもだ。あんた、何を企んでやがる」
その問いに、ロイドはフッと笑みを浮かべて囁くように口を開いた。
「約束の時は近い」
その言葉をきいてジースの顔に歓喜の笑みが浮かぶ。
「へぇ? なんだよ。戦場が見つかったってか?」
「そうともいえる」
その釈然としない言葉にジースは眉をひそめた。
そんなジースをロイドは一瞥すると、うすく笑みを浮かべながら口を開く。
「貢物は多ければ多いほどいい」
「貢物……? 俺たちのことか?」
「いいや、俺を含めてのすべてを言っている」
ジースは目を見開いた。
目の前の男の強さを知っているからこその驚きである。
その言葉が意味することをジースはぼんやりと理解していた。
次第に胸の内にわきあがる小さな好奇心と、大きな不快感。
結果、ジースは不機嫌を隠そうとはしなかった。
「別にあんたが集めて、あんたが作った組織だ。どう使われようが誰も文句は言わねぇだろうよ。だが、おい、まさかあんた、誰かの下につこうってんじゃねぇだろうな?」
「……そうだと言ったら?」
探りあうようにして重なる視線。
最初に目をそらしたのはジースだった。
「……別に文句はねぇ。だが、どこのどいつだよ。あんたほどの男が自分自身すら捧げものだと言いやがる。王族連中の手足にでもなろうってか? だがそれはあんたの主義に反するはずだ」
「……王族か。うえのやっかいごとなど、兄上がうまくやるだろうさ」
「ますます分からねぇ。貴族連中の派閥争いが俺の求める戦場じゃねぇってのは知ってるはずだがな?」
その言葉にロイドは口角を吊り上げる。
「貴族程度の派閥争いなどに興味はない。そんな小さなものではないさ」
そして楽しそうに、嬉しそうに、目を輝かせながらこう問いを投げかけた。
――「ノアの箱舟を知っているか?」




