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48話 「男の子」

 


「負けた……」


 私のそんな独り言は会場を覆う歓声に混ざって溶ける。


「負け……ちゃった……」


 …………。


 あはは……でも、よくがんばったわたし。


 準決勝。ここまでこれた! えらい。えらいぞ! 


 なんて。そう何度も自分を励ましてはみるけれど。


「負けちゃったよ……ユノ……アテナ様……お姉さま」


 あふれ出すその言葉が、とてもみじめで。悲しくて。


 私は涙を堪え切れずに、目をつよくこすって、歯を食いしばる。


 決勝まで勝ち進めば、ユノと戦える。


 そうすればきっとアテナ様の名も広まるし、何より自分に自信がもてる――筈だった。


 無能なんかじゃない。しぼりカスなんかじゃないよって。


 そう思える――筈だったのに。


「……」


 悔しい……悔しいよ。


「……ぐすっ」


 泣くな私。完敗だ。


 実力の差が出た試合だった。


 きっとユノなら、お姉さまなら負けていない。


「……」


 ぎゅっと槍を握りしめた右手が震えている。


 この槍を天高く掲げたかった。


 努力の証明と、女神アテナ様の為に。


 それから、それから、ユノに感謝の気持ちを込めながら――。


「――おいお前っ」


 そんな声を聞いて我に返る。


 目の前の男、確か名前はマロ・バーン。彼が突然私に声をかけてきた。


「逃げ、ろっ」


「……え?」


 言葉の意味が理解できなかった私の口からは、反射的にそんな言葉が飛び出した。


 それからすぐの事だ。


「ちょ、ちょっと!」


 マロ君が突然、苦しそうな表情をしてその場でうずくまったのだ。


 焦った私はマロ君に近寄ろうと一歩前へと足を踏み出す――その瞬間。


 突風が私を襲った。


「……っ!」


 目も開けていられない程のその風に、私はなぜだか怖くなって一歩後ろへと下がる。


 そして何が起きているのかを確認しようとして――


 ――――私は固まった。


「なに……それ――……?」


 黒。


 黒、クロ、くろ。


 真っ黒だ。


 マロ君の体からあふれだすその黒色が広がっていく。


 それと同時に、今までわたしを囲んでいたはずの魔獣達が空で一つに混ざり合って――。



「……あ……えっ……?」



 二つの赤い瞳が私を見つめていた


 ただの瞳じゃない。大きくて、怖くて、それから、それから……っ!


 ドクドクと心臓が早くなるのが分かった。それと同時に頭の中が真っ白になる。


 それだけじゃない。


 体が勝手に震えだした。


「やめて……」


 分かってしまった。()()は私を見ている。


 怖い。


 動いたら襲ってきそうで。


 怖い。怖い。


「おいしくないよ……?」


 黒い翼が、ばさり、ばさりと動くたびに、私の髪が頬を叩く。


 目が――合っている。


 ずっと、ずっと、私を見ている。


 怖い、怖い、怖い……っ!


「……動いて……お願い……つ!」


 足が動かない。


 ガクガクと震えるばかりで、ちっともいうことを聞いてくれない。


 いや、足だけじゃない。腕も、首も、(まぶた)も。


 ――大きな黒い魔獣の体勢が変わる。


 その瞬間、私は嫌な予感を覚えた。覚えてしまった。


 だめだ。だめだよ。このままじゃ、私……っ!


 体から力が抜けていく。手に持っていた槍がぽとりと落ちた。


 何をやっているの……! それだけは離しちゃダメなのに……っ!


 頬に何かが伝う。


 わたしはそれが汗なのか涙なのかが分からない。


「……助けて」


 口だけが動いた。


 けれどきっと誰にも聞こえない。


 会場内は大勢の人の声で溢れている。


 それに風の音。


 立っているのもやっとな強い風の音がいつまでも鳴りやまない。


 それでも私は口にした。


「助けて……お姉様」


 頬を伝って落ちていくそれが、涙だと気づいたのはこの時だった。


 情けない。けど、怖いの。


 怖くて、怖くてたまらない。


「助けて……ロイド様……神様……っ」


 そう私が願った時、ずっと目が合っていた筈の黒い鳥が消える。


 瞬間――今まで以上の突風がわたしを叩いた。


 ……わかってる。わかってるっ! 消えた訳じゃ無い!


 速すぎて見えないんだ……っ! 


 助けて……! 助けて……!


「……っ!」


 ――見えた。黒い塊がもう目の前まで――。


「助けて……ユノっ!」



 ――もう、駄目。



 そう、思ってぎゅっと目をつぶった瞬間だった。


 ふわりと、感じる浮遊感。


 驚いたわたしは、ゆっくりと目を開いた――。


 目に飛び込んできたのは、風を受けてなびく黒い髪と男の子。


 体が温かなぬくもりを感じ取る。


 沸き上がる歓声。


 ……きてくれた。


 助けに……きてくれた……。


「ユノ……っ!」


 そう言った瞬間、ユノがわたしを見つめながらにっこりと微笑んだ。



「――お待たせ。ティナ」




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― 新着の感想 ―
[一言] マロからクロが出た
[一言] そんなん落ちるやん笑笑
[一言] ユノの活躍が楽しみです❗️
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