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幕間 「奔る閃光」

 

 炎のように熱い歓声が闘技場を包み込む。


 電光のような素早さで駆けまわるティナ・バレット。


 彼女が槍を高速で突き出す毎に会場が沸き上がる。


 と、同時に、その突きを紙一重で回避しながら、召喚した黒い鳥型の魔獣を駆使してティナ・バレットへと攻撃を繰り出すマロ・バーン。


「……くっ!」


 そのマロが操る魔獣達が空からティナを追い立てる。


 高速で迫るその魔獣を槍で突き刺し無力化しつつ、赤いサイドテールを揺らしながら闘技場を駆けるティナ。


 その様はまるで戦場で飛び交う魔法の中を駆け回る姫騎士の姿を彷彿とさせた。


 ――互角。


 それが会場にいて観戦をしている者の多くが抱いていた現状への感想だ。


 だが、そうとは考えていない者も僅かながらに存在していた。


「……厳しいね」


 そうぽつりと、呟いたのはティナの実の姉――セレナ・バレット。


 生徒会役員の為に設けられていた一階にある特別席では無く、全体を見渡せる三階席。


 そこで一人、潜むようにして試合を観戦していたセレナは、ティナが劣勢である事を疑っていなかった。


 確かに、現状はティナ、マロの両名が決め手に欠ける状態のまま試合が進行している。


 槍が当たらないティナと、使役する召喚獣を次々に落とされていくマロ。


 互角と思う者が多いのも当然だった。


 しかし――。


「マロ・バーンが高名な神と契約を結んだ、という情報は確かなようね」


 そう一人、呟いたセレナの背後に、人影が現れる。


「英雄神の一柱マルファスと契約した、というのがある筋から入手した情報だ」


 そう言いながら、セレナの横に来たのは、同じく生徒会で副会長を務めるロイド・メルツ。


 その黒い瞳がぶつかりあう後輩たちへと注がれる。


「……そう。マルファス様と契約を……」


 まだ入学して間もない新入生が、誰もが知っている高名な神と契約を結ぶ事は稀だった。


 もし噂としてセレナの耳にそんな情報が入ってきたとしてもセレナは信じる事をしなかっただろう。


 だが、その情報をロイドから告げられたとなれば話は別だ。


 情報に明るいメルツ家。その次男でありながら国の暗部【影の月】のリーダーであるロイドがもたらす情報は信じるに値する。


 それを理解していたセレナはいつの間にか独り言を聞かれていた、という驚きを胸に隠しつつも、ロイドへと問いかける。


「一体どうやってマルファス様程の神と契約を?」


 その問いを聞いてロイドは視線だけをセレナへと送る。


「オルフォード家が絡んでいる」


「オルフォード家が? ……そう」


 オルフォード伯爵家。


 昨今では最も大きな派閥を持つとも囁かれるオルフォード家は、四大貴族として名高いバレット家にとっても無視できない存在だった。


 これまで国に多くの益を生み出してきた一方で、汚職を始めとした悪い噂も絶えず存在している。中でも神々との結びつきに関してはバレット家を凌ぐといっても過言では無かった。


 そんな良くも悪くも有名な家の名を、セレナが知らない筈は無い。


「たしか、聖フェリス女学園の新入生にオルフォード家の一人娘がいたわよね?」


 そのセレナの言葉を聞いてロイドが満足気に口角を吊り上げる。


「そういう事だ」


「……なるほど、ね」


 言葉にするまでも無く、セレナは理解する。


 セシリア・オルフォードの騎士こそが、マロ・バーンなのだという事を。


「しかし、マルファス様か……」


 新入生闘技大会に出場した生徒の内、セレナの知る限りでは神と契約している者はこれで三人。


 女神アテナと契約したユノとティナ。そして新たに神マルファスと契約を結んだマロ・バーン。


 その三人が闘技大会の頂点を競っている。


 その事実だけで、いかにスキルが有用かという事が分かる結果になっていた。


「……無事に終わるといいがな」


 そう突然囁くように言ったロイドへとセレナは鋭い視線を向ける。


「どういう意味?」


「マロ・バーンの三回戦をお前は見たか?」


 そのロイドの問いにセレナは小さく首を横に振る。


「……魔力暴走の兆候がある。手に入れた力の扱い方が未熟だ」


 そう言って同じく鋭い視線をマロへと注ぐロイド。


 その険しい横顔を見た瞬間、セレナの額を冷たい汗が伝う。


 魔力暴走――主に魔法の天才と謳われる者や、高名な神と契約した者が体験したと言われる、一種の衝動のようなものだ。


 それを思い返しながら、不安気にセレナが闘技場に視線を流した――その瞬間だった。


「く……っ!」


 ティナの小さな呻き声。


 試合の形勢が傾いた。


 今までさばき切れていた鳥型の魔獣がティナの頬に小さな傷をつける。


 それを好機と捉えたのか今まで槍をかわす以外の動きをしていなかったマロが動き出す。


「…………」


 マロがその場で地面へと右手をついた――その瞬間。


 走りながら魔獣へと槍を振るっていたティナの進行を妨げるように、壁が地面から生えるようにして現れた。


「なっ!?」


 衝突を避けようと、ティナは足に力を込め、上へと飛びあがる。


「……詰みだな」


 ロイドの低い声色。


 それと同時に、逃げ場の無くなったティナ目掛けて魔獣達が突撃していく。


 それを必死にさばこうと槍を振るうティナではあったが、足場がない空中では分が悪い。


 一体を叩き落としては、他の魔獣にキズを増やされていく。その繰り返しの中でとうとう戦況が完全にマロに傾いた。


「……どうやらそのようだね」


 既にティナの体の至る所から、少なくない出血が見て取れた。

 身に纏う制服はボロボロで、淑女としての体面を(たも)つのも難しい有様だ。


 それでも諦める気の無い妹の必死な表情を見て、セレナは不思議な気持ちに包まれる。


 妹――ティナが苦しんでいた事には気づいていた。


 妹へと向けられる罵声――【無能】【搾りかす】他にもある。


 それを耳にした瞬間、憤怒の情が湧き上がると同時に、その原因は自分にもあるという事にもセレナは気づいていた。


 人は比べられる生き物だ。姉妹なら尚更の事。


 もしも、もしも私とティナの立場が逆だったのなら――そんな事を考えた事も少なくない。


 その度にセレナは思うのだ。


 私なら、耐えられなかった。私なら、くじけていた。でもティナは違う――。


 ティナの心の強さをセレナは誇りに思っていた。


 だから、勝敗の行方を頭では分かっていても、気づけばこう叫ぶのだ。


「「ティナぁぁぁ! がんばれぇぇ!」」


 声が重なる。


 それが誰のものなのか、セレナにはすぐに分かった。


「……ユノくん」


 可愛い後輩であり、ティナの友人。


 そして、謎めいた少年。


「ティナさん! がんばれぇ!」


 少し遅れて聞こえてきたのは、かわいらしいそんな声援。


 それが誰のものなのかも、セレナには分かっていた。


「……良かったね。ティナ」


 そうポツリと呟いたセレナの瞳から涙が零れ落ちる。


 そしてそれを見ていたロイドは――目をくわっと見開き動揺した。


「ど、どうした? 体調が悪いのか?」


 生徒会副会長――ロイド・メルツ。この男は他人――中でも女性の感情の機微に疎い男であった。


 焦ったように懐からハンカチを取り出すとセレナへと差し出す。


「あはは、違うよ。目にゴミがね」


 そう泣き笑いの表情を浮かべながら、涙をぬぐうセレナ。


 同時に、とうとう戦いは終幕を迎える。


 マロの操る魔獣の一体がティナの持つ槍を、はじき飛ばしたのだ。


 荒い呼吸を繰り返しながら悔しそうに歯を食いしばるティナ。


 それとは対照的に、マロに消耗の様子は無い。それどころか、ティナの周囲をぐるりと囲むように魔獣を配置し、勝敗を決めに行く。


 審判役の男が、そんな二人を交互に見ながら、右腕をあげた。


「勝者! マロ・バーン!」


 その宣言と同時に――。


「「「うおおおおおおおおお!」」」


 会場が沸いた。


「頑張ったね……ティナ」


 悔しそうにするティナを眺めながらそうポツリとセレナが呟いた――瞬間。


 ドッと会場が沸いた。


「おい! なんだあれ!」


 驚きの色を宿した多くの歓声。


 その理由は、明白だった。


 突然、マロが苦しそうにその場にうずくまる。それと同時に召喚されていた魔獣達が混ざり合うようにしてその体積を大きく増やしていく。


「……まさか……っ!」


 セレナに衝撃が走る。


 それとは対照的に、ロイドは冷たい表情をして鋭い視線をそれに向ける。


 猛烈な風だった。

 嵐のような爆風がセレナの赤い髪を大きくなびかせる。


 その風は時間の経過――魔獣たちが混ざり合い、大きくなっていく毎に更に強くなっていく。


「なんだよ……あれ」


 そんな呟きを誰かが零した。


 混ざり合った魔獣が一つの大きな黒い鳥型の姿となって姿を現す。


「なんて……魔力なの……!」


 セレナはすぐに動く事を決める。


 腰に差していた剣を抜き飛び出そうとする――が、その肩をロイドが引き留めた。


「なんのつもり!?」


 巨体を持つその魔獣の赤い瞳がティナへと向けられる。

 完全に魔獣の狙いはティナだ。


 そんなティナは何が起こっているのか分からない様子で呆然としてその場で肩を震わせている。


 いいや違う、間違いなく(おび)えていた。


 それをただ黙ってみているセレナではない。


「なぜ止めるの……?」


 そのセレナの小さな叫びにロイドは真面目な表情をして口を開く。


「……見ろ」


「? 何を言って――っ!」


 ――「ユノ……くん?」



 セレナの瞳に映ったのは、観客席から飛び出し、閃光のように(はし)るユノ・アスタリオの姿だった。





無事書けました。


次話のユノ君は漢です。


「おもしろい!」「がんばれっ!」と思っていただけましたら、↓にある☆を押して、この作品を応援していただけると作者のモチベがぶち上がります( ᐢ˙꒳˙ᐢ )



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[一言] 全く、お前はいつも、誰かを守るんだからよォォォォ!!
[一言] 次回のユノの活躍が楽しみです!
[一言] ユノの活躍に期待!
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