表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/155

46話 「先制の槍」

 


 闘技大会――準決勝。


 鋭い眼光を向ける長身の男に向かい、槍を構える。


 瞬間、沸き上がる歓声を耳に入れながら、僕は一つ深呼吸。


「……ふぅ」


 もう、緊張は無い。


 あるのは歓声と同じく湧き上がってくる興奮と、それから、不安。


 マロの一戦を見た時に感じた嫌な予感が、絶えず頭の中を支配する。


 が、ひとまず、それは置いておくとして――。


「ユノさんー! がんばってくださいーっ!」


 歓声の中に混じって聞こえてくる、神様の可愛い歓声。


 僕は、まずその声に応えたい。


「行くぞ僕」


 もう何度目かになるそんな掛け声と共に――。


「始めっ!」


 幕は上がる。


「……っ!」


 がっちりとした体躯からは想像できない程の素早い加速で僕へと向かってくる対戦相手。


 だから僕も、同じく地を蹴り走り出す。


「「「おおおお!?」」」


 瞬間、驚きの色を宿した声が重なり合う。


 それもその筈。今まで僕が掴んだ勝利はどれもカウンターだ。


 こうして初撃から向かい合うのはこの大会では初めての事。


 既に僕へと向けられる歓声が完成されつつあるが(ゆえ)の選択だった。


 強すぎず、されど弱すぎず。


 そんな事を常に考えながら戦ってきた。


 恐らく、もう殆どの者が僕の実力を疑っていない。


 いや、正確にはユノ・アスタリオは【無能】ではない、という印象を抱かせる事には成功している筈だ。


 ――それでいい。


 けれど、きっと、もっと魅せられる。


 ユノ・アスタリオが無能では無くなった理由。それを女神アテナに紐づけたい。


 神様から貰ったこのスキル【槍術】を使って、もっと、もっと――。


「……っ!」


 先制攻撃。


 既に間合いへと入った相手に向かい、右から横薙ぎに槍を振るう――が、その一撃は同じく剣を振るった男に弾かれる。


 続いて二撃目。


 弾かれた勢いそのままに、体を右回りに回転させ今度は男の左わき腹目掛けて叩き込もうと槍を振るう。


 体術の内、裏拳に似たその二撃目も、男は剣を立てて受け止めた。


 ガンっという武器同士の衝突音。


 鋼の響くその音の余韻に浸る間もなく、今度は男が僕へと仕掛けた。


 鍔迫り合いを放棄した男が、剣を槍に滑らせるように前へと進み僕へと迫る。


 そのあまりの素早さに――剣と槍がこすれ合い火花が散った。


 ……いいぞ。最高だ。


 思わず僕は笑ってしまう。


 が、このまま指を落とされる訳にもいかない。


 槍の角度と体勢を変え、男の重心を正面に捉える。


 それだけでいい。


 結果として、上段から振るわれた剣を僕が槍を横にして受け止めた形になった。


 力での押し合い。再びの膠着。


 その最中、男の鋭い視線が僕を射貫いた。


「……できる」


 そう一言、ぽつりと呟いた男に応える様にして、僕は一気に槍に力を込め、前へと押し出す。


「……っ!」


 押し合いは不利と判断した男が自ら後方へと下がり、距離をとった。


 判断能力から剣術に至るまで、完璧だ。


 準決勝まで上り詰める実力を、この男は確かに持っている。


 そしてそれは、僕にとっては――好都合だ。



 いつもにも増して熱を帯びる歓声。



 当然だ。見栄え重視の、剣と槍との攻防戦。


 盛り上がらない筈が無い。


 それを冷静に理解する僕がいる――反面、確かな興奮と手応えを感じ取る。


 けれど、まだだ。もっとだ。


「……まだ、できる筈だろ。僕」


 喝采が必要だ。割れんばかりの喝采が欲しい。


 全てを塗り替える様な、神様を笑顔にできる様な、そんな喝采が――。


 僕なら……できる。


 ――槍を構える。


 同時に、男も剣を上段に構え、僕を見つめた。


 力の調整は完璧。


 暴発の恐れも確実に無い。


 まだ、魅せられる。


 そう僕が改めて決意を胸に刻んだ時。



「――エレン・イザークだ」


 突如として、男がそう僕へと告げる。


 その名乗りの意味を僕は正しく理解した。


「ユノ・アスタリオです」


 僕を認めてくれた男――エレンへと名乗る。


 すると、エレンは一瞬だけ嬉しそうな笑みを浮かべると、再び敵意を宿した瞳をして剣を構える。


 僕も同じだ。


 エレン、君を好敵手として認めよう。


 けれどそれは、きっと君が思うような意味じゃない。


 そう。僕は君を利用して、高みへと昇る。その為の好敵手。


 残酷に、冷たく、容赦なく。


 僕は、君を――


「踏み越える!」


 つま先に力を込めて加速する。


 エレンが走り出したのも同時だった。


 酷い話だろう。


 負ける筈が無い戦いを、僕はしている。


 けれど、それを後悔する事も、悲しく思う事も、申し訳なく思う事も、僕はしない。


 決めたんだ。やり切るって。


【無能】が霞んでいくと同時に、そんな決意を僕は固めた。


 止まる事は無い。


 神様が笑顔になるのなら、僕は何度だって槍を振るおう。


 女神アテナを最高神に押し上げる。その目標の為なら、僕はなんだってやってみせる。



「……っ!」


 上段から僕目掛けて振り下げられる斬撃。


 それに合わせる様にして僕は槍を振り上げる。


 瞬間――甲高い鋼の響きと共に、剣が激しく回転しながら空を舞う。


 その隙に僕はエレンの喉先に槍を突き付けた。


 これで、終わりだ。


 全てがゆっくりと動き、そして止まる。


 予感があった。


 成功だ。歓声が沸く。



 ――さぁ刻め、僕の名を。



「――勝者! ユノ・アスタリオ!」



「「「おおおおおおおおお」」」



 喝采だ。


 一回戦時とは、比べ物にならない、大きな歓声。


「やったー! やりましたよっ!」


 赤い瞳を輝かせながらルナへと詰め寄る神様がみえる。


 それを優しい笑みを浮かべて受け入れるルナの瞳が、一瞬僕へと向けられた。


 ――「満足かしら?」


 たぶん、そんな感じ。


 だから僕は首を横に振る。


 まさか。まだ、あと一回残ってる。


 それを勝ち切って、ようやく僕は満足できる。


 問題は決勝戦の相手。


 それによって僕の戦い方が変わる。


「…………」


 相手は、ティナかそれとも――マロか。


 ……予想は既についている。


 願わくばその予想が外れる事を願って。



 僕は槍を――空へと掲げた。



お待たせしました!!!


「おもしろい!」「がんばれっ!」と思っていただけましたら、↓にある☆を押して、この作品を応援していただけると作者の尻尾が揺れます( ᐢ˙꒳˙ᐢ )


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 盛り上がってきました! [気になる点] 何でも出来るのはいいねー でも・・・気になる。 鼻が・・・ ユノは花ある騎士なのに・・・ [一言] 気になる点で書きました。 ピノ木を知っていますか…
[良い点] 更新が早い! うれしい。記憶が新鮮なうち読めて最高!
[一言] ユノのほうは順調ですね。 問題はやはりティナの方ですが。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ