表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/155

37話 「セレナ・バレット」

 

 ――その出会いは突然だった。


 授業終わり、神様を探しながら廊下を歩いていた僕は、ふと視線を感じて後ろへ振り返る。


 すると赤い髪をしたとっても綺麗なお姉さんと目があった。


「「…………」」


 ……うん。素晴らしい。


 これぞ年上のお姉さま。同世代とは明らかに違う女性の体つき。成長過程でありながらもすでに大人の女性の仲間入りを果たしつつある艶っぽい色気。そして肩まで伸びた美しい赤い髪が、窓から差し込む日の光に反射してキラキラと輝いている。


「……ふふ」


 そんな美人さんが僕を見つめながら、にっこりと微笑んだ。


 釣られて僕も微笑んでみる。


 ははっ、なんだろう? 


 とりあえずこのままでは間が持たないと考えた僕は、当たり障りの無い文章を頭に思い浮かべながら――。


「今日はいい天気ですねっ」


 なんて、言ってみた。すると――。


「そうだねっ」


 と、白い歯を見せながら無邪気に笑うお姉さん。


 …………可憐だ。


 年上派な僕である。こうして平常心を保っているだけ大健闘だ。


 けれど、そんなお姉さんを眺めながら、ふと考える。


 誰だろうか? 少なくとも僕はこの綺麗なお姉さんとの面識は無い筈だ。


 いや、まてよ……もしかすると僕が覚えていないだけで、実は既に会った事がある……なんて事は考えられないだろうか?


 僕とて騎士家の三男である。これまで貴族の集まりに参加した経験が少なからずある。もしかしてその時に……。


 そう僕が考えていた時だった。お姉さんが微笑みを浮かべながら口を開く。


「ユノ・アスタリオ君、だよね?」


「はい! そうですっ!」


 僕がそう即答すると、お姉さんの顔に悪戯な笑みが灯る。


「そっかぁ……なるほどなぁ」


 そう言ってお姉さんは後ろ手に腕を組みながら、ゆっくりと僕へと近づいてきた。


「え? え?」


 僕は焦った。


 仕草から動きまで僕のドストライクを突きながら、【魅力】そのものが僕へと進行を始めたのだ。


 お姉さんが一歩進む。


 僕は震えながら一歩下がる。


 この繰り返し。


 そんな中――。


「ちょっと、逃げないでよっ」


 痺れを切らしたのかお姉さんの歩幅が大きくなる。


 僕の心臓はこの時信じられない程早くなっていた。


「……いてっ」


 突然、後頭部に痛みを感じた僕は後ろを振り返る。


 目の前に広がるのは白い壁。


 そう、気づけば僕は廊下の隅へと追いやられていた。


「まったくもう……」


 お姉さんが少しだけ不満そうな表情を浮かべながら、綺麗な顔を僕の目の前にぐっと近づけてくる。


 目と鼻の先には目鼻立ちの整った美しい顔と、神様とは少しだけ違う淡い赤を宿した瞳。


 それが僕の瞳を覗き込む。


 瞬間――ふわりと香る甘い香り。


「ちょ……っ」


 もう心臓が破裂しそうだった。


 互いの呼吸の音が聞こえてきそうな程の距離のまま、お姉さんが小さな声で囁いた。


「……綺麗な瞳。本当にそっくりだね」


 ……お姉さんの瞳も……綺麗ですよ?


 なーんて気の利いた事を僕が言えるはずも無く、全身から噴き出す汗を自覚しながら、やっとの思いで切り出した。


「な、なんですか?」


 僕がそう口にすると、ようやくお姉さんが後ろへと下がる。


「ごめんね。驚かせちゃって」


 お姉さんはそう言って再び悪戯な笑みを浮かべると、僕の瞳をじっと見つめる。


 僕はといえば、少しだけ冷静さを取り戻した頭で現状を理解しようと必死に頭を回転させていた。


 分かった事は一つ。


 お姉さんと僕は初対面だ。


「実はね……ユノ君にお願いがあるんだ」


 そう言って、後ろ手に腕を組んだままぐっと上体を下げ、僕の瞳を覗き込むお姉さん。


「……(ごくり)」


 ……可憐だ。それはもう間違いない。


 けれどこうも思った。


 普通、初めて会った人間にお願いなんてするだろうか?


 怪しい……僕の中にはっきりとした疑念が生まれる。


 と、なれば僕がするべき返答は二つに一つ。


 ――断るべきだ。


「なんなりとお申し付けください」


 負けた。


 僕は少し芝居じみた動きでその場に膝をつくと、お姉さんの前に(かしず)いた。


「ふふっ、ユノ君おもしろいね」


 お姉さんは無邪気な笑みを浮かべながらそう言って楽しそうに笑う。


 ここだ。こういう所が年上お姉さんの魅力の一つだ。


 大人の色気を醸し出すお姉さんがふとした瞬間に見せる無邪気な姿。

 僕が大好きな一幕である。


「そうそう。自己紹介がまだだったね。私の名前はセレナ・バレット。三年生だよっ」


「セレナ・バレットさん……」


 ……バレット? それはもしかして四大貴族の一つに数えられているあのバレットの事だろうか?


 僕がそんな事を考えていると、お姉さん――セレナ・バレットさんが髪をなびかせながら背中を向けて、視線だけを僕へと向ける。


「じゃあ、早速お願いしようかな。ついてきて」


 どうやらこの場ではできない類のお願いらしい。


 けれど、僕にはまずやるべきことがあった。


「あの、すみません。実は今、神様を探している所でして……」


 普段であれば授業が終わるとすぐ、教室の扉からひょっこりと顔を出す神様なのだが、今日はなぜだか姿が見えない。


「アテナ様のことかな? 大丈夫。ついてきて」


 セレナさんは背中越しにそう微笑みながら僕を見つめると、ぐんぐんと前へと進んでいく。


 ……大丈夫……なのだろうか?


 果たして、何が大丈夫なのかも分からぬままに、僕はとりあえずセレナさんの背中を追った。


 ◆


「あの……一体どこへ?」


 たまらず僕はそうセレナさんの背中に問いかけた。


 付いてこいと言われて、とりあえず来てはみたものの……。


 足元に生い茂る長々とした雑草と、周囲に広がる緑色の木々を見ては、そう質問せざるを得なかった。


「あはは、ごめんね。あと少しだから」


 そう言って笑うセレナさん。


 その言葉を信じて、僕は黙ってついていく。


 何となくだが……僕は目的地を予想してみた。


 きっと向かっているのは学園から少し離れた先にある林なのだろう。


 正面出口を出てから学園の壁を添うように歩き進んだ先にある闘技場をも、更に超えた先に確か林があったはずだ。それを僕は思い出していた。


 しかし、それが分かっても目的が分からない。一体セレナさんは僕に何をさせる気なのだろうか。そもそも僕はその林に行った事が無いのだから予想も何もできる筈が無い。


「さてと、ここからは少しだけ、音に気を付けてね」


 そう言ったセレナさんの雰囲気が変わる。


「……っ!」


 僕は驚いていた。


 目の前にいる筈なのに……いない。


 足音が消えたのは勿論の事、セレナさんの存在そのものが消えたかのような錯覚を味わっていた。


 やはり、セレナさんは並みの使い手では無いらしい。


 セレナさんの視線が背中越しに僕へと向けられる。


「…………」


 僕はその視線の意味を理解すると、セレナさんに倣うように、足音を潜めた。


 そうして少しばかり歩き進んでいると、ふと、視界の先に銀色の光を見つける。


 僕はその光が何なのかを確認しようとして――。


 ――思わず息を飲んだ。


「……神様?」


 僕の神様が大木に向かい両腕を突き出しながら――。


「えいっ!」


 という可愛い声をだして体から光を放っている。


 いや、それだけでは無い。


 その神様から少し離れた先では、セレナさんと同じ髪色の少女が必死な表情をしながら、不思議な構えで剣を振っていた。


「ふふ……見えた?」


 僕と同じ方向を向きながら屈むセレナさんが、そう言って僕へと視線をよこす。


「はい……まさか神様がこんな所にいるなんて……」


 ビックリである。一体何をしているのだろうか?


 そんな疑問を抱くと同時に、僕はセレナさんへと問いかける。


「あの、もしかしてあそこで剣を振っているのって……」


 僕の言葉を聞いたセレナさんの顔がふにゃりと崩れる。


 ……この表情を僕は知っている。


「ええ。彼女の名前はティナ・バレット。私の可愛い妹なの」


 そう言ってセレナさんは我が姉――レイ・アスタリオに似た温かい表情をして妹さんを眺めていた。



年上のお姉さん……いいねっ


面白い!頑張れ!お姉さまっと思っていただけましたらブクマや評価していだけると作者の尻尾が増えます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 厨二病にしか見えないのにねぇ
[一言] この学園御生徒会は変人でないと入れないのでしょうかw そして新ヒロイン登場かな?
[一言] しゅき!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ