3話 「神様の為にできる事」
元野良神――アテナと契約してから数日が経った。
今、僕は学園でちょっとした有名人だ。
「おい、野良神と契約したのってアイツかよ」
「馬鹿だなぁ……絶対後悔するぜ? あいつ」
先ほど耳に入った声に返すなら、僕はまったく後悔していない。
それどころか、アテナという素晴らしい神と契約できた喜びを噛みしめている。
「す、すみません……私のせいで……」
理由その一。めちゃくちゃ可愛い。
一目見た瞬間から思っていた事だが、人間離れしたその美しさには未だに慣れない。傷んでいた髪の毛は僕との契約を境に白銀に艶めき、廊下をすれ違う男達の視線を釘付けにしている。
加えて何かと反応が可愛いのだ。今だって自分のせいで僕に好奇の目が向けられていると勘違いして、顔を赤く染めてあたふたとしている。
まぁ、実際それもあるのだろうが、どちらかというと僕が初日から暴力沙汰を起こして謹慎をくらっていたのが大きな原因だろう。
昨日でようやっと謹慎が解け、今こうして二度目の登校を行っているという訳だ。
「うわ、あいつだろ? 登校初日に伯爵家の次男をボコボコにしたのって」
「いくら身分が統一化されてるからって、普通するかぁ? ボコボコに」
いや、ボコボコにはしてないんだけどね。
どうやら、あらぬ尾ひれがついているらしい。
ワンパンだよワンパン。
「じゃあ、神様、僕、授業受けてきます」
「はい! 終わるまで廊下の前でお待ちしてますね!」
「……いや、結構時間かかるからどこかで時間でも――」
「私、お待ちしてます!」
そ、そうですか。
僕は背中から感じる熱い視線を振り切り、教室の扉を開け中へと入る。
「…………………」
教室中の会話がピタリと止んだ。
初日となんら変わらない反応に僕は苦笑いしながら席に着く。
「おはようアリス」
「ええ。おはようユノ」
それだけ言葉を交わすとお互い授業の準備に取り掛かる。
アリスと会うのは久しぶりだが、どうやら怒っている様子はない。めでたしめでたしだ。
謹慎明けの僕にとって今日が初めての授業となる。
今日は午前に魔法基礎を学んだ後、午後は闘技場で模擬戦の予定だった。
既に僕の意識は午後の模擬戦に向いている。
そこで僕は無能とは決して呼ばせない槍さばきを披露する予定なのだ。
今まで僕は暴発を恐れて実力を隠してきたわけだが、どうやら僕にもちょっと本気で頑張る理由ができたらしい。ヤル気満々というやつだ。
僕は廊下側に視線を移す。すると扉の隙間から覗く赤い双眸が爛々と輝いており、僕の方を凝視している。
あ、目が合った。すると途端に赤い瞳を潤ませる。
まだ実感が沸かないのだろう。契約した人間が、確かにここにいるという事実に。
「……ふふ」
よっぽど嬉しかったのだろうなと僕は思い、思わず頬が緩む。
「変な顔。バカみたい」
どうやらアリスに見られてしまったらしい。
少し恥ずかしく思いながらも改めて午後の模擬戦について考える。
アテナと契約した際に僕が授かったスキルは一つ。
その名も《槍術》という。
読んで字のごとく、槍を上手く扱えるスキルだ。
僕自身、今まで剣を使っての稽古が多かった為不安だったが、その点は昨日行った予行練習で解消済みだ。長年扱ってきた剣と遜色ないレベルで今では扱う事ができる。
そんな僕の狙いは一つ。まずはアテナが無能なんかじゃないと周囲に知らしめる事だ。
神というのは本来であれば自由に肉体を変化させることができるのだという。
しかし、僕の神様はそれができない。なんでも《アテナ》という神を知っている者が少なすぎるからだという。
つまり《アテナ》という名の神が有名になればなる程、その力は強くなっていき、間違っても扉の隙間から僕の様子を伺う……なんて目立つことはしないで済むようになる。小さな魔物になったり、教室内を透視したり、最終的に姿を見えなくすればいいのだ。
僕はそれを聞いた時、なるほどと素直に感心した。
高名な神の力が強大である理由もそれで説明がつく。
高名な神と契約した者は強いスキルを授かり、有名になる。すると、その人間と契約した神が更に有名になる。
何を言っているか自分でも混乱してきた。
つまり神にとってはメリットのないように見える《契約》は絶妙なバランスでウィン―ウィンを築いているという事だ。
ならばだ。僕が今日することは一つ。
神様から授かったこの《槍術》スキルを使い、模擬戦で勝つ。ただ勝つのではない。圧倒的な完全勝利を僕の神様にプレゼントしよう。
神、アテナは思うだろう……『私の与えたスキルで……ユノが飛んでる!』と。
それだけじゃない。無能と呼ばれていた僕が、模擬戦で完全勝利を収める。それだけで神アテナの有能さが浮き彫りになるというものだ。
僕が模擬戦で勝つ→アテナ神すごい→僕も私も契約したい。
この流れにもっていきたい。
どう動けばよりカッコいいか、どう勝てばより美しいか。それを重視して考える。
常人にはできない動きであっても僕ならば不可能じゃない。
幼少期ならいざ知らず、今の僕はある程度なら神の力を扱える……!
僕は午前中の授業をまるまる使って何度も模擬戦をシミュレートした。
その結果、授業が終わった後に、先生に呼び出されたのは言うまでも無い。
そして来たる午後、模擬戦が――始まる。
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