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141話 「似ている二人」

 




 瞬間、とてつもない濃さの魔力が空間全体に広がった。


「……ッ」


 思わず歯を食いしばってしまう程の重圧。

 広がっていくそれは青白い光となって空間そのものを染め上げていく。


「クハハッ……!」


 聞こえてくる、ゴゴゴという振動音に混じるようにしてジースの笑い声がその混乱を更に際立たせた。


 ――狂気。


 その言葉が何よりもこの状況にあっている。

 勘違いでもなんでもなく、これは僕らに対しての挑発行為だ。


 ――『円滑な話し合いこそが俺の求めるワルプルギスでな』


 奴の……ベルフェゴールの声が頭の中に浮かび上がる。


「……いったい何を」


 思わず口からこぼれ出た言葉をそのままに僕は周囲に目をやった。


「……」


 まず目に入ったのは不気味な笑みを浮かべているジースの姿だ。

 笑い声もそうだが、あの楽しそうな表情……この圧倒されるような状況の中でも委縮していないことが窺い知れる。


 さすがは暗部のナンバーズ……そう捉えることもできるが、奴が例外であることを既に僕は知っている。


 隣のロイド先輩とドライと呼ばれていた大男。彼らを除いて、この場にいる多くの者の表情には、はっきりとした困惑と緊張が浮かび上がっていた。


 中には恐怖からか突っ伏すようにして頭を抱えている者もいるほどだ。

 ……あの女の子は……たしかノインという名前だっただろうか。


「……」


 暗部での顔合わせ会を思い返しながら僕が固唾を呑んでいると。


「ユノくん……こわいヨ~」


 そう猫なで声で言って絡みつくように僕の腕を抱くツヴァイ。

 一瞬ドキリとしてしまいそうな可憐な上目遣い……その表情の中には明らかな余裕が見て取れた。


 ……どうやら彼女も例外らしい。


「……ふざけた真似を」


 フィーアさんの苛立った声。

 それが合図になった。



「……ッ」



 あまりの強風に僕は自分の腕を盾にとっさに目を閉じた。


 耳元で鳴り響く風音。

 それが収まったと同時に目を開けた僕の視界に広がっていたのは暗闇だった。


 室内を照らしていたすべての蝋燭の炎が消えている。

 空気を震わせるほど膨大だった魔力も、今は鳴りを潜めていた。


 代わりに訪れたのは静寂だ。


 呼吸の音すらも聞こえてきそうな静けさの中、ロイド先輩の声が小さく響く。


「……演出としては及第点だな」


 パチン、と指をはじいたような音が空間に木霊する。


 いくつもの蝋燭に火が灯ると同時に、淡い光が彼らの姿を照らし出した。


「――――」


 恐らくノアを迎えるべく高い位置に用意されていた玉座ともいうべき椅子。

 空席だったはずのそれに足を組んで座るベルフェゴールと、その傍らに立ち黒い傘をさしたまま冷たい表情をしてこちらを覗く少女の姿。


 その光景に、思わず僕は息をのんだ。


 どう言い表せばいいのか分からない。

 ……あまりにも……現実離れした美しさだ。


 まるで傑作の絵画を眺めているような……そんな感想を抱かせるほどの特異な雰囲気が彼らにはあった。


「……へぇ」



 そうポツリと呟いたツヴァイに僕が目をやった瞬間、ベルフェゴールが可笑しそうに鼻を鳴らす。


「それはこっちの台詞だぜ? ロイド・メルツ」


 言って、僕たちを確認するように視線を巡らせると、最後にベルフェゴールは頬杖をついてロイド先輩に視線をやった。


「……まぁ……及第点ってところだな」


 そう言って小さくため息をつくと、ベルフェゴールは薄ら笑う。


「期待していたほどじゃないのは確かだが……落胆する程でもない」


「偶然だな」


 即答するように言ってロイド先輩はベルフェゴールによく似た薄ら笑いをその顔に浮かべた。


()()もそう思っていたところだ」


 言って、頬杖をつくロイド先輩。

 同じような格好と表情をした両者のにらみ合い。


 もしかしたら似た者同士なのかもしれない、なんて僕が思っていた時。



「……おい、我はどこに座ればいいのだ」



 聞こえてきたそんな囁き声。

 僕はベルフェゴールの傍らに立つ少女に目をやった。


 巻かれた黒色のツインテール。

 髪色と同じ漆黒のドレスを身に纏ったその少女は、傘をさしたままの格好で少しだけ不機嫌そうに眉をひそめている。


「……」


 ……なぜなのかは僕にも分からない。


 けれど、僕は彼女の姿にルナに似たなにかを感じとっていた。

 ……纏っている気品? それともどこか儚さを感じさせる点だろうか?


 疑問を抱きながら共通点を探そうと少女をじっと眺めていると、不意に赤い瞳がこちらを向く。


 つまり目が合った。


「……ッ!」


 瞬間、少女は焦ったように視線を泳がせると、恥ずかしそうに傘で顔を隠す。



「……ふむ」


 

 僕は顎に手をやりながらちょっとだけ思った。



 ……かわいい。





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