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118話 「反逆の狼煙・中」

 







「……と、その前に、だ」



 もったいぶるようなロイド先輩の言葉で、室内の空気が一瞬にして変わったのが分かった。


 なぜなのかは僕には分からない。

 けれど、言葉を止めて黙り込むロイド先輩とは対照的にセレナさんの雰囲気が鋭いものに変化している。


 つまり、セレナさんはロイド先輩がこれから何を言おうとしているのかを察しているのだと分かった。


「……会長。この先は暗部の機密事項に該当する。退室願いたい」


「それはつまり、私には聞かれたくない話をこれからするって意味で……あってるかな?」


「いいや? 言葉の通りだ。あくまで暗部の機密に該当する……というだけの話だ」


「……」


「会長も知っての通り我々は国の暗部にして最高機密に該当する組織だ。例え公爵家の令嬢と言えども知ることのできる情報には限りがある」


「……まぁね。私も理解しているよ。そんなことは」


 互いに顔を見合わせないまま言葉だけが行き交う室内。

 穏やかな声色。それなのに増していく緊張感に、僕はたまらず視線を泳がせた。とりあえずななめに。



「クク……では不満そうに見えるのは俺の勘違いか?」


「おどろいたよロイド。あなたちゃんと人の顔色伺えるんだね」


「「「…………」」」



 怪しく笑うロイド先輩と、にっこり笑うセレナさん。

 二人とも笑顔なのに、漂う空気はひどく冷たい。



「……」



 ……なんだかセレナさんの笑顔……表情に既知感がある。

 …………思い出した。怒ってるときのアリスにそっくりなんだ。


 ……もしかしてセレナさんは怒っているのだろうか? 

 だとしたら……なぜだろう? 今の会話だけに限ればロイド先輩の言っていることは筋が通っているように思う。たぶん。


 つかの間の静寂を裂くようにしてセレナさんは小さくため息をつくと、腕を組んでロイド先輩に片目を閉じながら視線を向けた。


「……そうだね。白状するよ。正直不満かな。だって私が一番知りたいことをまだ教えてもらってないからね」


「と、言うと?」


 言ってロイド先輩は視線だけをセレナさんへと向けた。


「とぼけないで」


「……ッ」


 肩を震わせたのは僕だ。

 セレナさんのとてもとても綺麗な顔に、怒りの表情が浮かびあがる。


「私はまだ、()()を知らないままだよ。私にも知る権利はあると思わない?」


「なぜそう思う?」


 そのロイド先輩の問いに、セレナさんは悔しそうに眉をひそめた。


「……そもそも私が間に合ってさえいればそれでよかった。違う?」


「……クク」


 ロイド先輩が微かな笑い声をあげたと同時、セレナさんは鋭い視線をロイド先輩へと向けた。



「……なにがおかしいの? ロイド」


「いや、なに。その責任感には尊敬の念を抱くが――同時に、セレナ……おまえにしてはあまりにも傲慢な物言いだと思ってな」


「……傲慢? 私が?」


「ああ。そうだ」


 怪訝そうに眉をひそめるセレナさんにロイド先輩は言い放った。


「セレナ・バレット。おまえは今こう言ったんだ。『誘拐現場に私が駆けつけてさえいれば、女神アテナはもちろんのこと、妹もアリス・ローゼも傷つかずに済んだ』……とな」


 セレナさんは一瞬目を見開くと、遅れて小さく首を振った。


「……それが傲慢っていうならそれでも構わない。私は、そのつもり」


「相手が英雄神だとしてもか?」


「……」


 そのロイド先輩の言葉に、セレナさんは考え込んでいる様子だったが、最後は真面目な顔で頷いてみせた。


「…………なるほど。一理あるか」


「ロイド先輩」


 僕はたまらず声をあげた。

 いいや、本当はもっと早くそうするべきだった。


 セレナさんの言葉を認めてしまうわけにはいかないのだ。その話をするなら、責められるべきは――。


「まぁ、待て」


 ロイド先輩ははじめに僕に視線を向けると、次に向き直るようにしてセレナさんを見た。


「いま責任の所在をはっきりさせることに意味は無い。俺は言ったはずだぞ。お前の言うそれは、『無かったこと』として処理すると。それに……」


 そこで言葉を止めて、ロイド先輩は鋭い視線をセレナさんへと向けた。


「そもそも俺の答えなど最初から分かりきっていたはずだ」


「…………どういう意味?」


 ロイド先輩は「クク」と笑うと、肩をすくめた。



「ティナ・バレットはおまえになんと言って答えた?」


「……ッ」


 セレナさんは悔しそうな表情を浮かべると、ロイド先輩を睨みつけた。


「なにも、覚えていない。そう答えたはずだ」


「……」



「それが答えだ。どんな矛盾をはらもうと実の姉にすら真実を告げることが許されていない。それでもお前は口にしてみせるか? 真実が知りたいと。妹の言葉など――」


「もういい。分かってるから」


 セレナさんは小さな声でそう口にすると、重い足取りで歩き出す。

 その背中に、ロイド先輩は告げた。



「……知らないほうがいいこともある。これは本心だ」



 セレナさんはその言葉に足を止めたが、振り返ることなくふたたび足を進めた。



「ピリピリしちゃってごめんね。またあとで」



 そう言って痛々しい笑顔を浮かべて僕の肩に触れると、セレナさんは生徒会室を後にした。



「…………」




 …………気まずい。



 そんな僕の胸中を知ってか知らずか、ロイド先輩はおもむろに立ち上がると僕へと向かって歩き出して…………追い越して……止まった。



「……」



 形としては背中合わせのような状態になる。



 ロイド先輩はダンディな声色で言った。




「――時は来た。本題に入ろう」






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― 新着の感想 ―
僕は思った。 「何故後ろに回ったんだろうか?話し辛い………」と。
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