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第12話 神経根ブロック注射

ヘルニアとはどんな病気(怪我?)かと問われれば、

それは痛みとの闘い、そしていつかこの痛みから解放される日が来ると信じて、ひたすら安静という名の引きこもり(何もしない)生活を過ごすそんな病気である。

そしてここにアラフォーが一人、この長い痛みから解放されるのだと5日間を過ごしていたのであった。

とても大切な用事?で注射を金曜日に引き伸ばしたおっさんにその日はやってきた。

夜の20時頃、整形外科医院訪れたのである。

いつもは人でごった返している待合スペースには人っ子一人おらず静まり返っており受付にいるおばちゃんだけがいつもの様相を醸し出し、おっさんを安心させるのであった。


受付を済ませると、待合の椅子に座る暇も無く診察スペースに案内されるという今までに無いVIP待遇にビクビクしながら、小心物のおっさんは最初にレントゲンを撮影した部屋にいきなりフェードインするのであった。

レントゲン室にはいつもの賢そうな先生がやけにでかい前掛と給食のおばちゃんがしているような帽子をかぶってスタンバっていたのであった。

「おっさん、早速ですが。注射をはじめさせていただきますので、レントゲン台に横になって下さい。」

受付を済ませてからここまで数十秒程度であろう、心の準備もままならない状態のおっさん。有無を言わさすレントゲンの撮影台に寝ころがるおっさんはまさにまな板の鯉、いや乙女の純潔を奪われる少女の気分キモイであった。

「宜しくお願いします。お手柔らかにお願いします。」

撮影台に横になると目30cm先にはなぜかオシロスコープのようなモニターが配置されていた。

「先生これは…」

(まさか)

「そうです先ずはレントゲンを○○〇モード(何モードかは恐怖のあまり忘れました、すいません。)にします。」

「そしてモニターで脊椎と針の位置を確認しながら注射を行います。」

(まじか、目の前のモニターで自分の背中に針が入っていく瞬間を見させられるのかよ。この先生賢そうな顔してなんというドS。やっぱり賢いやつはどっかぶっ壊れてるんだな。)

なんて目をつぶれば見ずに済むのに、失礼極まりない事を考えてしまうおっさんであった。

そんなバカな事を考えている間にモニターが切り替わり黒い魚の背骨の映像が映し出させる。

(これが俺の背骨の写真かよ。)

「まずは痛み止めを注射します。これはただの注射です。」

(このドS先生焦らすね。)

背中にチクリとした痛みを感じると同時に目の前のモニターには背骨に針が向かっていく映像が映し出され、背骨の手前で針が止まる。

「麻酔を注入しますね、気分が悪くなれば言って下さい。」

(こんな映像見させられて既に充分気分は最悪だよ。)

「だい、じょう、ぶ、です。」

しかしこの時点でおっさんの心は完全に折れており、そんな悪態をつけるわけもなく

「じゃあ次に神経根に注射を行いますが、どこが痛いが教えて下さい。もしくはその痛みが普段痛いところと同じがどうか教えて下さい。」

(こんな状態でそんな高等な受け答えできねーよ。)

少しパニック状態になるおっさん。

「今回は3か所の神経根に注射を行いますが、どこか痛いによってどこの神経根に負荷がかかっているかも同時に調べらますので頑張って下さい。」

(まじか、3か所もするのかよーー。)

まさかの神経根の連続注射に心はノックアウト状態のおっさんであった、そしていよいよ

「まずは一番疑いの低いところから行きます。」

(ええー、疑い高いところからやってそこが痛ければもう残りは注射しなくてもいいんじゃ…。)

反論する間も無く目の前のモニターには針が背骨の隙間にスルっと入っていく様が映し出され。

「そろそろ痛くなりますよ。」

と先生が言った瞬間にビリっとした痛みを足のふくらはぎ?あたりに感じたのであった。

「あっ、なんかビリっと感じました。」

確かにビリっとした痛みが走るが泣くような痛みではない。

この痛みの感じ、おっさんには経験があった。


そうそれは仕事の試験(耐電圧試験)で若かりし頃に誤って感電したときの痛みに近いものであった。

危険なので会社にばれれば滅茶苦茶怒られるので、皆さんは真似しないように。

(なんだ、痛みってこの程度かよ、ネットの奴らめ大袈裟な、全然大した痛みじゃ無いじゃないかよ。)

痛みに対する安心感とネット情報の誇張に対する少しの怒りにより心に余裕の生まれた瞬間であった。

そうしている内にいよいよ最後の注射である。

「次が一番怪しい神経根に対して注射を行います。」

背骨に針が入った瞬間にいつもの箇所に痛みを感じる。

「ここです、いつもの痛い箇所です。」

心に余裕のできたおっさんは適格な受け答えでついに痛みの原因となる神経根を探りあてるのであった。

そして、

「以上で注射は終了ですので、そのままで30分安静にして下さい。」

先生がレントゲン室を退室する。


神経根ブロック注射の痛み、それはおっさんがまだお兄さん?だった頃に社会人として試験室で受けた洗礼、若気の至り、そんな思い出を思い起させる、懐かしくも痺れるような痛みであった。


そんなバカ頃の事を考えていると30分もあっという間であった。

先生がやってきて。

「気分はいかがですか。」

懐かしい気分ですと答えるとまずいので、なんの問題も無い旨を伝えるのであった。


「30分経過しましたので、一度立ってみてもらっていいでしょうか。慎重にお願いします。」

先生に促され、おそるおそる立ち上がると。

(凄すぎる、痛みが消えてるよ、やったぜ。前のブロック注射なんて目じゃないくらい痛みが消えてる。)

何と、今までに無いくらい痛みが消えていたのであった。

「大丈夫です、痛みも全くありません。」

「そうですが、とはいえこの注射も個人差がありますので、しばらく様子を見ましょう。また完全に治ったわけではないので必ず安静にして過ごして下さい。」

前回はこの後調子に乗って走って悪化したおっさんは二度と同じことは繰り返すまいと心に固く誓いながら家路に着くのであった。

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