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異世界転移? 迷っただけです  作者: クロニクル
7/7

遭遇 1


 僕が出会った人は額と両肩に角、そして尻尾が生えていた。何よりも髪は銀髪でゲームとかで出てくる戦士とかの服装だ。そして槍をこっちに向けている。


「もう一度問う。貴様は何者だ!!」


「僕の名は...あれ? なんだっけ?」


なぜだ? いつも当たり前のことなのに自分の名前が出てこない。


「答えよ。さもなければ、貴様を殺す」


「ちょっと待って、今思い出すから...」


「思い出す?...貴様、よく見れば人間か?」


「え?」


「この森は弘生の森(ダムネゼル)と呼ばれる危険な森だ。一人では生きるのが不可能。人間が入れば一時間もしないうちに骨となる。何よりもこの森の特徴は人の名を奪い、帰り道を失くす力を持っている」


「名前を奪うって...君も一人じゃないか」


「私はこの場所から少し南にある森の野営地であるものを調査するために仲間と共に来ている。それに今は早朝。この森での貴重な安全な時間帯だ。それで私はパーティーの水を補給しに来た。貴様もそれを知っていてこの場所に水を補給しに来たんだろ?」


「まあ、そうだけど...」


 弘生の森(ダムネゼル)って初めて聞いた。やはりこの世界だと白神の森という名前では呼ばれていないみたいだ。だけど...調査って何を調べているんだ?


「僕は実を言うとこの世界の種族ではないんだ。正確には別世界から迷った感じかな」


「ふむ...別世界から来たというのは信じ難いがその服装を見るとあり得るかもしれん。いつぐらいからこの森にいるんだ?」


「一週間ぐらいかな? 日にちを数えているわけではないから正確ではないけど5日以上は確実にこの森にいる」


「...お主、本当に人間か? そんな服装でどうやって生きてきたんだ」


「他の荷物は別の場所にある。後は狼と一緒に行動しているからかな」


「...訳が分からん。ともかく、この場所から離れるぞ。もうじき安全な時間が終わる」


「なら、せめて僕の荷物だけでも取りに行かせてくれない?」


「悪いがその時間は無い。また別の機会にしてくれ」


そう言いながらその戦士は僕の右腕を掴むとポケットから石みたいなものを出した。


「その石は何?」


「これは栄光の石(ラパーズ・ストーン)。私が一度訪れたことがある場所に私の魔力を込めた特殊なマーキングをすることで、どんな場所でも一瞬にして移動することが出来る石だ。私を含めた調査隊は全員持っている。見たことないのか?」


「全然見たことない」


「そうか...まあ、この石は貴重だから仕方がないかもしれん。では、移動するぞ」


 そして、戦士は何かを呟いた後に祈り始めると石が輝き、僕は光に包まれた。目を開けるとテントが見えた。どうやら野営地に着いたようだ。


「おかえり、シュザイナ....その人間は?」


「この森での迷子だ。本人は自覚があまり無いみたいだがな」


「そんな服装でこの森を彷徨っていたの? 嘘でしょ?」


「悪いが事実だ、コネギット。水を汲んできた。まず朝飯を食べてから話そう」


 仲間がいるのは本当のようだった。ところで...


「名前、奪われていないのだが...」


「一人では迷うって言っただろう? それは自分の関する情報が森の魔力で抜き取られてしまうからであって、例えば他人の名前などは憶えられるし、森を生き抜く技術や知識もずっと覚えていられる」


なるほど、だから僕の名前は取られてしまったのか。スコルとハティも僕が名付けた名前で他人だったから覚えていた。


それに加え、この一週間で起きた出来事の記憶も残っている。


だが、僕は一回もスコル達の前で自分の名前を名乗っていない。最も、自分の名前を言っても彼等は喋れないから状況は同じだっただろう。







 朝食をごちそうとなった後、僕は今までに起きた出来事話した。自分がどこから来たのかも含めて包み隠さずだ。


「訳が分からん。フェンリルと一緒に暮らしていた? フェンリルは人を嫌う生き物だ。一緒に行動できるわけがない」


「白神の森? 聞いた事が無いな」


結果は信じてもらえなかった。フェンリルは人に懐くどころか人を嫌う生物。フェンリルと一緒に生活はどんな凄腕の戦士でも無理。ましてこの森ではなおさらだと…


「だが、久しぶりに人間を見た。お前、年は結構若いな。体力には自信があるのか?」


「いや、全然だ」


「なら...シュザイナ、あのことを話してもいいか?」


「...いいだろう。恐らく無関係だ」


「数日前、私達の村の側にある川から巨大な蛇の頭が流れてきた。この地域には生息していない種類の、それもかなりの魔力と猛毒を持つ蛇だ」


 それって....あのフェンリルが倒した大蛇だ!? そうか、この森の下流にこの人たちの村があるのか。


「そこで我々は調査隊を結成し、村の中で腕の立つ4人でこの森に来た。もちろん、この森が持つ魔力に対抗するため、お互いに自分の魔力を込めた石を持つようにしてな」


「その石って、栄光の石(ラパーズ・ストーン)のことか?」


「そうだ。さっき使った栄光の石(ラパーズ・ストーン)の本当の持ち主はコネギットで、コネギットは私のを持っている」


ほかの二人も栄光の石(ラパーズ・ストーン)を首からかけていたみたいで見せてくれた。なるほど、何も対策をしていないと僕みたいな感じになるのか。改めて、この森の神秘さに衝撃を受ける。


「そして、最新の注意を払って調査をしていた我々に見つかったのがお前さ」


「その大蛇、仕留めた相手なら知っている」


「「「「!?」」」」


「フェンリルさ」


 一斉に驚いた様子を見せたが、シュザイナと呼ばれていた戦士以外の3人は答えを聞くと急に素に戻り、一瞬だけ時間が止まると呆れてため息をつきながら、コネギットと呼ばれていた一人が切り出してきた。


「それはお前が見た幻だ。フェンリルは用心深い。奴らならこの蛇を倒せるが人間嫌いの奴らはそもそも人の気配をするようなところで争いはしない」


「いや、正確には母親が倒した。僕がこの森で最初に過ごした日だ。川で水を飲みに来たフェンリルは3頭おり、その内の2頭は子供だ。大蛇は親よりも先に来ていたその内の1頭を丸飲みにしたことで、フェンリルと大蛇は争うことになった」


「その話は聞いた。そんでもって、何とか倒した大蛇に母親は油断をし、毒が回って死んで、人間であるお前が丸飲みされた1頭を救って、2頭とこの森で我々と遭遇するまで生活していた話だろ? つまらん作り話だ。第一、シュザイナと会ったときは一人だったと聞いているぞ」


「僕の荷物にはその時に採集していた蛇の皮がある。それを見れば分かるだろう」


「悪いがお前の作り話に付き合う気は無い。私は一刻も早くこの森から去りたい」


 コネギットの意見に同意するように野営地にいた二人も賛成しているようだった。子人たちにとってフェンリルがいかに特別な存在であることが反応からすぐに読み取れる。


「だが、あながち間違いではないかもしれん」


「シュザイナ、正気か?」


「あの大蛇の頭は数日経っていたとはいえ、大きな首が引きちぎられていた。この人間の見た母親のフェンリルならそれを噛み千切ることは可能だろう」


「付き合いきれん」


「なら、コネギット。この人間の話が作り話なら、あの蛇の死に方をどう説明する? お前も戦士なら死因が何なのか分かるだろう」


「チッ...分かった。だが、私はまだフェンリルだとは信じていないぞ」


「...ところで人間、その話が本当だとしてどうして死のうとしていたんだ?」


コネギットは納得していなかったが、渋々荷物を取りに行くことを了承したと同時に野営地にいた一人がこの森に来た最初の目的を聞いてきた。今となっては、意味のない質問だ。めんどくさいが後々変な噂を流されるのは御免だから、全部話すことにした。もちろん、ばあちゃんの話も含めてだ。反応は様々だったが、苦労していたのは伝わったようだ。


「実は今言った話で出てきたナイフは持っていて、この小さいナイフなんだ。これで何でも捌いてきた」


「...そのナイフ見せてくれないか?」


 シュザイナと呼ばれていた戦士はナイフを見た瞬間、目つきが変わり、ある一点を見続けていた。


「いいけど、形見だから丁寧扱ってくれ」


 ナイフを渡し、シュザイナは念入りにナイフを調べ続けた後、突然驚きの表情でシュザイナは衝撃の事実を話した。


「このナイフ、ただの鉄ではなくミステレム鉱石で出来ている」


「ミステレム鉱石? 聞いたことが無いな」


「ミステレム鉱石。どんな固い物でも持ち主の意向のままに斬ることができる刃物に最も適した鉱石だ。しかし、60年前に採掘ができた鉱脈が火山活動で地下の奥深くまで沈み、今では採掘が不可能と呼ばれているとんでもなく貴重な鉱石として市場で取引されている」


 この果物ナイフ、どうやら本当に訳ありのナイフだったみたいだ。



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