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異世界転移? 迷っただけです  作者: クロニクル
6/7

狩り

 「スコルがそっちの藪にいったか....で、ハティは向こうの藪に待機して、退路を塞ぐつもりだな。なら....この位置で待っていればいいかな」


 僕が何をしているか? 狩りの手伝いだ。


 と言ってもまともに武器になりそうなものが果物ナイフ(肉の解体ばかりでもはや果物ナイフと呼べないが)一本しかない僕にトドメを刺すことは難しい。


 では、待ってどうするか?


 簡単に言えば罠である。


 僕を餌とする囮の罠作戦だ。


 この作戦は思いのほか成功している。


 今まで計4匹の狩りに成功しているからか、スコル達の行動をみるだけで僕がどのように逃げればいいのかが何となく分かってきたところだ。


 場所は見やすい河原。水飲み場で生き物が来やすいここなら空以外なら対処はできる。


 待つこと15分ぐらい。


 一匹の額に傷があるイノシシが現れた。


 相変わらずこの世界は何かがおかしい。


 イノシシのサイズは大型の乗用車ぐらいある。


 まあ、前日のカタツムリには驚いたが....


 あのカタツムリ、牙生えていたからなぁ....


 住んでいた世界ではカタツムリの寄生虫があったことを思い出してしまい、あれを食べることは出来なかった。あの時ほど、保存食作ってよかったと思ったことはない。


 さて、油断は禁物だ。このイノシシ、こっちに気づいて今にも襲い掛かろうと準備をしているように見える。イノシシは縄張り意識が高く、前の世界でも人を襲っていた生き物だ。


 当然、この世界でも人を襲うのだろう。


 まして、肉食の可能性もある。最もこの作戦で捕まえてきた生き物は全て肉食だったが....


 イノシシはこっちに向かって走り出してきた。


 イノシシの平均的な速さは時速50㎞が基本だ。これは前の世界で猟師さんから教わったこと。


 健康な若いイノシシだと場合によっては猟犬の追跡からも逃れることがあるらしい。


 この世界ではどれぐらいか分からないが、体のサイズから見てそれ以上の速さがあると考える。


 僕はハティが潜む森の藪に向かってダッシュする。


 やはり、イノシシは速い。足場が小石だらけの河原をものともせず、時には目の前の人間サイズはある岩を粉砕して進んでくる。


 が、こっちのコンビネーションだって負けてはいない。


 僕は逃げる途中にあらかじめ持っていた黒い団子状の木の実を地面に投げつけて、手で耳を塞ぎすぐに側を離れる。


 数秒もしないうちに甲高い高音が地面とぶつかった衝撃で辺りに響き渡る。


 最初、木に成っていたこの実を見つけた時に誤って地面を落としたら、この高音と共に実の中にあった種がはじけ飛んだのには驚いた。


 スコルたちも音が聞こえたのか慌ててこっちに来たぐらいだ。


 色々調べた結果、この木の実は一定の固さがある物体とぶつかると木の実が爆発し、中の種がはじけ飛んでいくことで繁殖していったようだ。


 すぐ近くにいても傷一つ負わないが、音が凄いので爆心地に近いほど効果は絶大。


 しばらくの間は耳がまともに機能しない。


 それはすぐに耳を塞いだのに近くにいた僕も同じ。


 猪突猛進の四字熟語になるほど真っすぐ進むイノシシだ。


 そのまま爆心地まで後を追って来て、音に驚いたからスピードを緩められずに前足で急ブレーキをかけた状態となり、大きな体を前転してひっくり返ってしまった。


 お互い耳がまともに機能しないがスコルたちはこの罠作戦で僕がこの木の実を使うことを知っている。


 そのチャンスを逃さずに音が鳴った瞬間に出てきたスコルが首を、ハティががら空きになった腹に噛みつく。


 だが、大型の乗用車サイズのイノシシ。暴れる暴れる。大きな体を右に左にと転がり、ゴロゴロと寝転がったものだから木々がどんどんなぎ倒されていく。


 しかし、スコルはずっと首に噛みついたままでハティはイノシシの皮膚の弱そうな部分を中心にイノシシの巨体の下敷きにならないように気を付けていきながら噛みついていく。


 イノシシとの死闘はその後も続いたが、やがて出血する量が多かったのか次第に動きが鈍くなっていき、日が傾くころにはイノシシはピクリともしなくなったが、用心深いスコルたちは日が完全に沈むまでイノシシに噛みついていた。


 あの分厚い毛皮に守られていても、スコルたちの牙は奥深くまで刺さるみたいで5㎝はあるだろう肉の壁を貫き、イノシシを窒息させたのを見ているとこいつらを敵にしなくて良かったと思える。


 そこからはもう慣れたものだった。ナイフでイノシシの頸動脈を切り、すぐに肉を解体を始める。


 スコルたちは他の生物から獲物を横取りされないように見張りで僕の近くにいる。


 手早く三等分。火はすでに起こしていたためそのまま野営となった。


 肉を確保し、毛皮をどうするか迷ったが、最近狩りをし過ぎて毛皮はたくさんあるため、そのまま燃やして薪代わりにすることにした。


 さて、本来なら刃こぼれがそろそろしてくるこのナイフ、これまで何度も解体してきたが刃こぼれをしていない。


 血はべっとりつくためすぐに洗っているが、こう毎日使っているとそろそろ切りづらくなって手入れが必要になるものだ。


 それなのに刃こぼれしないから、こういうサバイバルではとても便利で助かる。


 そして肉を枝にさして焼く。肉の焼けたいい匂いは今日一日狩りで疲れた体の空腹を促進させてくる。


 ただビタミン確保のため、少しだけ生肉を食べることにした。


 スコルたちは何の問題もなく肉が焼けるのを待っている間、内臓系を中心に食べ始めている。


 内臓系には手を出さない。これだけ守っていれば最悪の事態は免れるだろう。


 そう思って生肉をひとかじり。


 味は...鉄の味だ。そして口に広がる獣臭さ。


 オエッとしそうになるのを我慢しつつ、生肉を頑張って食べた。


 どこかに塩があれば、まだマシになるんだけどなあ….


 明日は岩塩でも探してみるかと決めて食事を終えた。




 深夜


 火のそばでスコル達に挟まれながら寝る。


 この方が温かい上に警戒心が強いフェンリルの近くなら猛獣が来てもすぐに逃げられるからだ。


 正確には記録をしていないから分からないが、なんだかんだ一週間は経過していると思う。


 ...元の世界からいなくなって一週間経過しているのか。


 空には月と昼間からずっと光っている赤い巨星、月から少し離れた位置に青く光る星がきらびやかに輝いている。


 夜空を見るのは何年ぶりだろうか。


 都会では空なんか見ても何も見えなかったし、住んでいた居住区では山の天気で曇っていることが多かったから、外に出て星を眺めながら寝っ転がることすら初めてだ。


 近くにいたハティが僕がまだ起きていることに気づいたらしく、顔を覗き込んでくる。


 思えば、この子たちも出会って一週間しか経っていない。


 にもかかわらず、こうして近くにいても襲うどころかいつのまにか一緒に寝る関係になっている。


 むしろ、食料をもらって養ってもらっている関係に近い。


 これは昔読んだ歴史の本に出てくる狼に育てられたローマの創立者ロームレスとレムスの双子みたいだ。


 この森の中で僕一人ではとっくに死んでいただろうと思える。


 ああ、分かった。もう寝るよハティ。


 最近だとこちらがジェスチャーせずとも言葉を理解し始めたのか意思疎通ができるようになった。


 もちろん、『水を持ってきてほしい』などの一方的で簡単な指示だけだが、囮の罠作戦を始めてする際、罠作戦の内容の絵を描いて二頭に協力してほしいことを伝えただけで、すぐに理解し、作戦を成功させている。


 だからこの二頭は恐らくだが相当賢い。それも、ペットが芸を覚えるみたいな賢さではなく、こっちの言葉を理解して数手先まで読むなど戦術的・知恵みたいな人間的思考能力が高い意味で賢いのだ。


 明日、スコルたちに岩塩を探すのを手伝ってもらおうかなと考えながら、僕はハティの毛に顔を埋めて寝ることにした。






 早朝。


 顔にまとわりつく森の冷気で目が覚めた。


 空気が澄んで、呼吸するだけで肺の中まで空気の冷たさが伝わってくる。


 猟師さんが言っていたが日が昇る前の朝方というのは夜行性の動物が寝床に戻り、昼行性の動物がまだ完全には動きが鈍い時間帯である。


 これは変温動物なら、なおさら動きが鈍くなる。


 顔を洗いに川まで行くか....


 夜中、ずっと見張りをしていたのかまだ寝ているスコルたちを置いて川まで歩いていく。


 野営していたところから川まではそこまで離れていない。


 護身用に果物ナイフだけを持っていくことにして、僕は川まで向かった。


 川の水はヒンヤリして気持ちがいい。


 すっきりとした空気の中にいると、丁度朝日が昇ってくるのが見えてきた。


 今日はできれば塩を手に入れたいなと考えながら、顔を洗い、ついでにと水を掬って喉を潤していた時だった。


 「そこにいる貴様は何者だ!!」


 この世界に迷って一週間。僕が初めて聞いた人の声だった。


 しかし、その姿は僕の知っている人型ではなかった。


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