狼? 3
フェンリルと会ってから、一日が経過していた。
それに関していろいろ分かったことがある。
まず一つ目はフェンリル。
この二頭、蛇の肉を食べて俺が寝た途中でどうやったかは知らないが、親犬の亡骸を消してしまったようだ。
夜の森は危険と判断して川辺の火の近くで寝てみたら、朝には二頭が既に起きていて目の前にあった亡骸を毛一本残さないのは驚いた。
まあ、あのサイズを埋めるのは大変だと思っていたから手間が省けたと思えばいいと考える。
二つ目。二頭のうち横たわっていたやつはもうピンピンして動き回っていたのにも驚いた。
生命力...いや、治癒能力恐るべしと思った。
で、この二頭とおさらばしようと思って別れようと思ったが、離れない。
むしろ、付いてくる。
しょうがないと思って今度は走ってみる。
やはり付いてくる。
「そんなについていきたいのか?」
と、問いかけても目立った反応はしない。...尻尾はめっちゃ振っているが。
三つ目。それで諦めてその日の食料探していると、二頭がどこかに行って数十分後に一頭が僕を呼びに来た。
ついていくと鹿を仕留めたようだ。
....鹿でいいと思う。だって3本角生えているし...
で、呼びに来た理由はすぐに分かった。
これを捌けというみたいだ。
もしかして、僕が寝ていても食べられない理由はこれがあるからなのか?と疑問に思うがそれで食事ができるんだから文句は言わない。
川まで鹿を運ぶ。
それからナイフで捌いていった。
内臓は全てフェンリルにあげた。
処理の仕方が分からないうちは食べてもらったほうが肉の無駄がなくなる。
捌いて肉を三等分。
で、焼けと目線で訴えてくる。
焼いてもいいが内臓はすぐに食べたほうがいいと言ってみたが、やはり言葉の理解はできないみたいだ。
で、肉を焼いていった。
鹿の肉は...美味いが獣の生臭さがあった。
まあ、しょうがない。
4つ目。食べた後は二頭がいなくなった間に見つけた木の実や葉っぱを調べてみる。
食べられるか食べられないものか、それとも危険な食べ物なのか...
全部をパッチテストするわけにはいかない。
どうしようか悩んでいると、一頭が採取した赤い木の実を一つ食べた。
それ食えるの?と思っていると、数分経ってもフェンリルの体には異常は見えない。
ならばと、木の実を石ですり潰して肘の部分に塗ってみる。
何も起きない。
今度は口に含んで見る。
やはり何も起きない。
最後に食べてみる。
ほんのり甘い。
味は梨を水で薄めたと言えばしっくりくる。
そして体調も変化は起きていない。
どうやら肉以外で食べられる食材を見つけたようだ。
お手柄だと一頭を褒めた。
....触らせてくれるのか。
それほど信用されているのか? それともいつでも勝てる相手だから好きにさせているのか?
まだまだ分からないことが多い。
とりあえず、この赤い木の実はもっと採取してくる。それ以外はしまっておこう。
それが昨日のことだった。
さて現在。
二頭それぞれが獲物を咥えていた。
一頭はウサギ。
ただし、こちらは元の世界と違って角が生えている。
この世界は基本的に動物には角が生えているのだろうか?
もう一頭は蟹だ。
川なのにそれなりにでかい。
サッカーボールぐらいはある。
蟹を受け取ると、すぐにどこかに行った。
と思ったらすぐに帰ってきた。
もう一匹仕留めていたようだ。
そのままこの蟹このままもらっていいのか?と何とかジェスチャーで伝える。
いいらしい。
ありがたく頂くとする。
ウサギは捌いて焼いてほしいみたいだ。
火を起こしてそのまま朝食を済ませることにした。
現在の持ち物。
紙、ボールペン、ナイフ、半分になった荒縄、火起こしセット、ラップに包んだ保存食(蛇の肉)、水(川の水)、数種類の野菜の種、昨日採取した木の実と葉っぱ。
そして蛇の皮と鹿の毛皮だ。
蛇の皮は硬くて何かに使えそうだから、毛皮はなめしたら加工できそうという理由で持っている。
ただ、なめし方は分からない。
とりあえず、内側にくっついていた肉を剥がして洗った後に毛皮を干して乾燥はさせた。
今日のメニューを見てみるとウサギの毛皮と器代わりに蟹の甲羅が使えそうだ。
持ち帰ってみるとしよう。
そして、今日一番最初にやることがある。
二頭の名付けだ。
いつまでも横たわっていた方とかだと呼びにくい。
一匹をスコル、もう一匹をハティだ。
フェンリルの子供だから北米神話にちなんで名付けた。
スコルが雌、ハティが雄。
ちなみに横たわっていたやつがスコル。
ああ、わざわざ近づいて来なくていい。
ちゃんとお礼はもらっている。
今日の蟹も君が捕ってきてくれたんだから、気持ちは十分だ。
感謝のしるしに頭を撫でてみる。
ハティも撫でてほしいのか近づいてきた。
分かったよ、君もあの赤い実の毒見をしてくれたのだって感謝している。
一時間ぐらい二頭の頭を撫で続けた。
二頭の気持ちが分からない。
そもそも、フェンリルとは決まったわけではないからなぁ...
この世界の謎はまだまだ多い。