襲撃
流星は恐ろしいスピードで落ちてくると、バンのいた丘大きな音を立てて墜落した。
バンは本能的になんとか回避できたが、もしあのままボンヤリしていたら間違いなく直撃していただろう。
ぶつかっていたらタダじゃおかない。
バンは流星が墜落した穴を覗いてみた。
見事なクレーターを作り出しており、丘の形状をぐにゃりと変化させていた。
お気に入りの丘が…
穴の中心部には、少女が横たわっていた。
背丈はバンより少し小さいくらいだろうか。
華奢な体躯で薄くて白いワンピースを纏っている。
頭の先には光輝く輪っかが浮いており、くるくると回転している。
輪っか?
魔界には色んな奴がいるが、頭の上で光る輪っかを回してる奴なんて流石に聞いたことがない。
ていうかそもそも生きてるのか?
「おーい!大丈夫か!」
バンは声をかけてみたものの、ピクリとも反応がない。
死んでるのか?やっぱり。
バンは恐る恐る穴を降りていき、少女の顔を覗きこんでみた。
綺麗な顔をしていたが、どこか苦しそうな表情で眠っていた。
息があるか確かめるべく手を口元に伸ばしたその時、
「魔族、そこをどきなさい」
いきなり脳内に響くような声が聞こえた。
誰だ?
振り向くとそこには異形の存在が2体、音も無く浮遊していた。
腕を前で組んだ女性の裸体の石像から一対の白い翼が生えている。
そしてその頭上には少女と同じ、輪っか。
「何だお前ら!」
石像は何も答えない。
が、先ほどと同じ脳内に響くような声がまた聞こえる。
「どきなさい。貴方には関係のないことです」
「邪魔をするなら貴方も消します」
どこから聞こえているんだ…変な魔法でも使っているのか?
貴方「も」消す?
「お前ら…この子に何かするつもりなのか!?」
「邪魔をするというのなら…貴方ごと消します」
脳内にそう響くと、石像の一人が口を開ける。
その瞬間光の矢が放たれてきて、バンの脇腹を貫いた。
「ガッ…!」
バンは激しい痛みを感じ、その場に崩れ落ちた。
見ると脇腹の一部が消滅しているではないか。
傷口から、闇が漏れ出て消滅している。
魔界の住人…魔族の体は全て闇の凝縮体であるので、
闇が漏れ出るのは命に関わる大変危険なことである。
なんだ…っこれ…ッ!
いて…え…!!
「もう一発」
頭の中に響く。
やばい、やられる。
石像が光の矢を放った瞬間、突然バンの目の前にまばゆい光の壁が現れた。
光の壁は光の矢を飲み込むと、そのまますっと消えてしまった。
「させない…」
背後で倒れていた少女が起き上がって手を前にかざしていた。
その瞳は、震えるような殺意に満ち溢れていた。
「セラフィムが覚醒」
「早急な処刑を」
石像が狙いを少女に定めたのと同時に、少女は垂直に跳躍した。
そして両手に光の剣を持つと、石像達に向かって投げつけた。
石像はまばゆい光を放ち爆発した。
バンは眩しくて思わず目を瞑ってしまう。
目を開けると、石像の姿はもうどこにも無かった。
小さな光の粒子がふわふわと漂っているだけだった。
「良かった…」
少女の声が背後から聞こえると、どさっという音が聞こえた。
バンは痛みを堪えながら、少女のもとへ這う。
「くそっ…一体何だってんだ…」
バンはやっとの思いで少女の傍に寄ると、その肩に触れた。
一瞬で全身に焼けるような痛みが走る。
全身が発光し、肉体がじわじわと削られていく。
「ぐああああああああああッ!!」
バンの体から闇が溶け出していく。
生命の源が流れ出ていく。
この子はやばい。
関わるとやばい。
それでも、
助けてもらったんだ。
だから、今度は俺が助けなくては。
俺がかつて村のみんなに救われたように。
まだお礼も言えてないじゃないか。
バンは激痛をこらえながら少女を背負い、村に向かって歩き出した。
村はすぐそこだが体がいつまで保つだろうか。
あっ、ダメだ。
バンの意識はほどなくして、深淵に落ちていった。