吉継 死す デュエルスタンバイ!
で、酔いが覚めたと思ったら、俺、杉本吉継は死んでいた。何故死んでいると分かるのか?それは両端に天使がいるからだ。そして俺はパトラッシュとネロの様に運ばれているからだ。
唯一の違いと言えば、その天使は俺みたいな中年男性で、しかも真冬の夜の寒さに鼻水を垂らしながら震えている事だろう。
「すいません、俺って死んだんですか」
「ぞ、ぞうだとおもひまずぅよぉ」
昨日の俺の様な姿に同情が湧き、俺は何も言わずに遠ざかっていく地面を眺めた。
俺は社畜だった。イカの墨よりも黒いブラック会社で働いていた。毎日十九時間働き、貰える金は雀の涙、貯金して会社を辞めようとしても、給料が少なすぎて全く堪らない。
そんな生活を送っていたある日、俺は目の前を通り過ぎる電車の風を体に受けながら、ふと思った。
今、足を一歩踏み出せば、俺は救われるのではないかと。
勿論、そんなことを実行する気は無かった。
しかし今、俺は天使と共に宙に浮いている。そして下に見えるのは、電車の隙間から飛び出た、見覚えのある白い腕。最後に記憶にあるのは、亀頭みたいな顔の上司に無理やり何杯も焼酎を飲まされた事だけだ。
酔った勢いで残りの人生を棒に降るなんて、なんて馬鹿らしい事なんだろう。後悔しても、もう遅すぎる。俺は自分のことを強い人間だったと思っていたけど、まぁ、知らないうちに追い詰められていたんだろうな。
そんなセンチメンタルなことを考えても、視界に映る震えた生肌はやけに気持ちが悪い。俺は耐えきれずに口を開いた。
「おっさん、死んだばかりで結構感傷的になってんのに、そんな鳥みたいな肌見せられたらさぁ、こっちの気分も萎えるっていうかさぁーーー…」
すると突如、天使が叫び声をあげた。
「ざ、ざみぃ、もう無理だぁあああ!!!!」
次の瞬間、天使が俺のシャツの内側に手を入れた。止める間もなくおっさんの冷たい手が俺の腹に当たる。
「あっったたたけえぇえええ!!」
「おっ、おい!!何してんだよ!気持ち悪りぃ!!!」
おっさんが絶叫を聞いたのか、他の仲間が血走った目で振り返る。震えた天使がゾンビの様に俺に近づいてくる。
「ニンゲン、サワル、オレラ、アタタカク、ナル」
ヒィ、と俺は悲鳴をあげた。
「俺に触んじゃねぇええーーッ!」
俺は絶叫し、俺の腹を触っていた天使にパンチを入れた。通信教育で習った何とか拳が、天使の腹に直撃する。中国四千年の歴史の力をくらい、天使は下界に落ちて行った。
「おらッ、全員潰してやる!!かかってこいや!」
そう叫ぶと共に、天使との戦いが幕を開けたーーーーーー。
二分でボコボコにされた。
天使:
自殺した死者が、本来の寿命の時間、幽霊になるか天界で働くか選択肢を迫られ、天界で働くことを選んでしまった末路。
昔ながらの伝統で、冬場でもシルク一枚で仕事に励む、24時間サービス労働戦士。
中年男性が多いが、稀に若い女の人もいるので、出会えたらとてもラッキーである。