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始まりと思い出のエーデルワイス  作者: 尾久出麒次郎
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第四章その2

 翌日、翔は太一と一緒に登校する。始業時間まで時間があり、教室に入ると先に来ていた綾瀬玲子に声をかけられる。

「おはよう真島君」

「おはよう綾瀬さん……昨日は散々だった」

「先生に呼び出されたんでしょ? あたしたちなんか現行犯で捕まったわ」

 玲子は屈託のない笑みでさりげなく言うが、それで翔は凝視した。

「す、すまない綾瀬さん……あたしたちで現行犯って……どんな状況だったんだ?」

「先週の日曜日かな? 御幸と桜の三人で中学の頃の男子三人で下通に行ってカラオケに入ろうとしたのよ。そしたら補導員のおばさんに声をかけられて、スルーしようとしたら囲まれたのよ! そしてそのまま学校に連れて行かれたわ!」

「夜の時間帯だったのか?」

「ううん、それが午後一時頃だったわ! おかげで男子たちから細高ならもう遊べないって言われたし、親呼び出されて質問攻めに遭って反省文書かされたわ! おかげで月曜日は外出禁止を食らって遊べなかったらマジムカつく!」

 玲子は苛立ちと悔しさを露わにする、高校に入学してから繁華街には遊びに行ってないがそんなに補導員がいるのか? 翔はその時の状況を思い浮かべながら質問する。

「綾瀬さん、その時の補導員の人数とか覚えてる? その時私服だった? それとも制服だった?」

「四人くらいね。あたしたちは制服だったけど」

「……制服だったら見つかって当然だと思うよ、うちの制服……遠くからでも見つけやすいデザインだし」

「でもうちの制服可愛いし、これくらいしか着る服ないのよ。うちの学校バイト禁止だから服を買う金も稼げないのよ……それを聞いてどうするの?」

 玲子は怪訝そうな目で翔をジト目で見つめると翔は仰け反って言う。

「いや……今後の参考に、よさそうな情報を得たら教えるよ」

「わかったわ、それならアドレス交換しよう」

 玲子は納得したように微笑んで携帯電話を取り出す、もしかすると玲子が密告したという可能性は限りなく低いが可能性は決してゼロではない。そう思いながら翔は携帯電話を取り出してアドレスを交換した。

「それで? 真島君たちも呼び出されたんでしょ?」

「ああ、実は太一と中沢さんの三人で神代さんの家に遊びに行ったんだ……本当は中沢さん一人で遊びに行くはずだったんだけど――」

 ふとここで玲子の後ろに舞の姿が目に入り、禍々しい眼光とオーラを放っている。余計なことを話したら殺すと言わんばかりに睨みつけていて、翔は言葉が途切れて玲子は怪しいと言いたげな眼差しで見つめる。

「行くはずだったんだけど?」

「……成り行きで太一と僕も一緒に行くことになったんだ」

「成り行きで? まあそれで昨日呼び出されたのね」

「ああ、一体いつ? 誰が? どうやって情報を得てどの先生に情報を渡したかだ」

 翔は三連休の間、新水前寺駅まで言って豊肥本線に乗って武蔵塚駅に降り、彩の家に行き帰りする間何か思い当たる要素がなかったか考えるが見当たらない。

「それがすぐにわかれば苦労しないわ」

 玲子の言う通りあの日は彩の家に遊びに行くと浮かれていたから、思い当たる要素を思い出せれば苦労しない、と思ってると始業時間になっていた。

「だよな、ありがとう。何かいい情報があったらメールするよ」

「ええ待ってるわ」

 玲子が肯くと教室に高森先生が入ってきた。


 一時間目の授業が終わるとすぐに翔は太一の席まで行き、玲子から聞いたことを話すと太一は苦笑しながら言う。

「はははっ……そりゃあ見つかって当然だよ、街中で制服を着ることは森の中でマツケンサンバの衣装を着るのと同じさ」

「うちの制服は遠くからでも見えるようにデザインされてるしな……太一は?」

「収穫ありだ、さっき加藤君から聞いたんだが……この学校の公式サイトとは別に有志で作った非公式のサイトがある」

 太一はポケットから携帯電話を取り出すと目にも止まらぬ速さで操作し、画面を見せると『細/川/学/院/高/校/掲/示/板』とはっきり書かれていた。

「これだ、サイトとは言っても掲示板だけだが」

「なるほど……ここなら情報を集められそうだな」

「だが簡単に見つからないよう、検索はこんな風にしないとヒットしないんだ」

 太一はまた物凄い速さで携帯電話を操作すると、翔の携帯電話が震えて取り出して開くと太一がメールで送ってきた。画面を見ると『細/川/学/院/高/校』と文字の間にスラッシュを入れている。

 翔は同じように検索、ブックマーク登録して保存する。

「なるほど、これなら簡単には見つからない……さしずめ学校裏サイトか」

「ああ、気をつけてくれ。そこの掲示板の連中は匿名性を利用して毎日相手の本名を名指しで誹謗中傷の書き込みをしている、おまけに嘘か本当かわからないことまで書き込んでるから安易に信用しない方がいい……加藤君はこう言ってたよ、嘘は嘘であると見抜ける人でないと掲示板を使うのは難しいって」

「わかった、扱いには気をつける……パソコンでも検索できるか試してみるよ」

 翔は肯いて携帯電話を閉じる、舞の方はどうだろうと思ってると二時間目のチャイムが鳴った。


 四時間目が終わって昼休みになると翔は太一と、いつものように昼食にしようと弁当箱を取り出すと今日は彩を連れて舞の方から席にやってきた。

「柴谷君、真島君、一緒に食べましょう。抗議の念を込めてね」

「抗議ね……いい提案だ」

 太一は微笑みながら肯くと手近な席から椅子を手繰り寄せる。昨日と同じように翔から見て向かいに太一が座り、左右に彩と舞が座って弁当を広げると太一は午前中のことを話した。

「――とういうことなんだ、僕は加藤君からこの学校の非公式ネット掲示板の存在を知ってアクセスしてみたよ……情報を集めるにはいいかもしれないが、何しろ嘘か本当かの書き込みが多過ぎるのが欠点だ」

「綾瀬さんも捕まってたのね、いくら服がないからと言って制服で外出するのは間抜けとしか言いようがないわ」

 舞は遠慮なく辛口コメントすると、彩が擁護するかのように言う。

「でも舞ちゃん……細高の制服って、ブレザーで可愛いから着て行きたくなるのもわかる気がすると思うわ」

「でも彩、休みの日にまで制服ってなんか着るとなんとなく目立つから……周りの視線とか気にならない?」

「ああ……そうか、舞ちゃんは可愛いから制服似合うもんね」

「なっ! わ……私はそんな……そんなつもりで言ったんじゃないのよ」

 舞は彩に思わぬところで可愛いとか言われて照れてるのか、頬を赤らめて否定するとすかさず太一が追い打ちをかけるかのように茶化す。

「照れてる照れてる、可愛いって言われたのがよっぽど嬉しいんだね」

「あんた……それ以上言ったら喉を潰して二度と喋れないようにするわよ」

 舞は赤熱してプルプル震えながら太一を睨むと、彩は舞をなだめながら意見する。

「まあまあ舞ちゃん落ち着いて……掲示板の情報が玉石混交ならあたしたちで地道に集めるしかないわね」

「それじゃあ……今日の放課後、ちょっと寄り道して行くか?」

 翔は少し考えて意見すると太一は賛成する。

「いいね、少々危険だけどいい案がある。聞いてくれる?」

 何かいい案があるのか? 翔は彩と無言で肯き、舞も真剣な表情になる。

「いいわ柴谷君、どんなの?」

「今日の放課後……四人でだ。放課後のダブルデートを装って目立つように振る舞う。そして補導員やら先生やらを誘い込むんだ。四人でそれぞれ性別や人数、大まかな年齢、特徴、声をかけられた場所を覚えておくんだ。僕は特徴を覚えておくよ」

「それじゃあ私は年齢ね、彩は性別と人数を覚えておいて」

 舞はそう言うと彩は「うん」と肯く。

「とすれば僕は声をかけられた場所か」

 メモ帳を買っておいた方がいいだろう、そう思ってると太一がオーダーを追加する。

「それと翔、記録係を頼むよ元生徒会役員」

「わかった……帰りにコンビニに寄ってメモ帳を買うよ」

 翔は財布の中がまた寂しくなりそうだと肯いた。

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