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第22話

 その後、春生らは転移魔法によってルブニュスへと移送された。

 ルブニュスの人々が、遥か彼方の地へ人を飛ばすことが出来るという魔王の力をまざまざと見せつけられた瞬間である。

 春生ら三名は、その後、将軍との話し合いのテーブルへと着く。


「──ということで、約束の量の物資を毎年、魔物たちへ送る、という形で収まりました」


 春生が言う。



「……うぅん、あぁ~、そうかぁ」


 きちんと目的が達成されたにも関わらず、相変わらず、将軍は何やら不満げであったが、


「もうこれ以上はどうしようもないですね。この地を復旧させ、生産を安定させることができれば、なんとか賄える物資量ですし、やるしかないですよ」


 と淡々と述べるカリナの言葉には逆らえないようであった。


「魔王には到底かなわない。それは私もしっかり確認した。それしかないようだ」


 ヴィルもまた残念そうに言う。

 室内には、若干重苦しい空気が漂ったが、


「でも、そもそも、この地どころか国が制圧されようとしてたんですよね!? そんな相手に、ここまで引きだせたのは十分じゃありません!?」


 と春生が言うと、なるほど、確かに、という納得が広がる。


「……うーん、しかし、なぁ」


 けれども、将軍にはまだ何かわだかまりがあるようだ。


「どうましたか、将軍」


 カリナが問う。すると、将軍は、言いづらそうに答えた。


「このことをどうやって民に説明すればいいか……。ここから去った者たちを、魔王の脅威は去った、といって再び集めるのは簡単です。簡単ですが……うぅん、納得するかどうか……」


 そもそも、将軍が出した案だというのに、後処理のことを考えていなかったらしい。


「ぅう~ん、困りましたねぇ……」


 悩む将軍。カリナが言う、春生に。


「だそうです。何かいい案はないですかね?」


 にっこりと笑って言う。何か案を出せ、彼女はそう言っているのである。焦る春生。どうしたらいいんだ、と考えるが、この状況、何か似ていると思った。

 そう、それは、かつて春生が元いた世界。その世界で数週間置きに飽きもせずにテレビなどで流れていたニュース、その状況に似ている。それは、そう、政治家が問題を起こしたという状況だ。不祥事、問題発言、その他色々、彼らが立たされていた状況というのは、まさに、この将軍が立たされている状況なのである。

 そんな状況において彼らがするのは何か。

 それは、謝罪だ。


「……ありますよ」


 春生が言う。目の前のおっさん──いやいや、将軍と目を合わせて。


「その方法はたった一つです」


 確信をもって述べる。将軍が食い入るように注目する。


「それは──謝罪です。謝罪をすればいいんです。しましょう、謝罪」


 将軍やカリナらはあまりに予期していなかった内容に耳を疑い、そして、苦言を呈する。


「謝罪、謝罪ってねぇ……民がそんなことで許してくれるとは思えないなぁ……ほら、私はこれでも将軍でね。このルブニュスの防衛を任されているんだ。それなのに、魔王に勝つことは出来ないので、物資を毎年送ります、だなんて……」

「私も疑問です。そんなことで民が許してくれるでしょうか?」


 けれども、春生は、そんな二人の疑問を跳ね除けるようにして言う。


「確かに──ただの謝罪じゃダメでしょう。けれど、魔王に敵わないのは事実なんです。その事実をしっかりと嘘偽りなく話して、必要なら、二回、三回と話し合いを重ねる……誠実な対応をすれば、人々も分かってくれるんじゃないでしょうか? 魔王を倒せなかったという事実、責務を果たせなかったという事実は確かにあるかもしれないです、けど、これは嘘を言うためにする謝罪なんかじゃない。人々の気持ちを汲み取るためにする謝罪なんです。そのことを肝に銘じて、あるべき姿を見せれば、絶対に大丈夫なはずです」


 力強く断言する春生。




 かくして、ルブニュスに再び人々が戻ってきた。

 荒れたこの地を再びよみがえらせるため、人々はここで働くのである。そして──

 今、ルブニュスの一つの広場に、人々は集められていた。


「一体なんなんだろうな?」

「ルブニュスの地に戻ってきた人々に発表がある、だとかなんとか……」


 広場には老若男女ありとあらゆるルブニュスに住む人々が集まってきており、その視線の先には、一つの高い台がある。

 そこに立つの一人の男。

 名を、松尾春生。

 彼は、黒のスーツに身を包み、それはそれは申し訳なさそうに壇上に上がる。彼の顔は、実にしょぼくれていた。残念そう、悲痛な表情。

 そして、広場が静寂に包まれるまで、ただ、ただ、待った。

 彼が壇上に上がっているのは他でもない──謝るため。

 春生は深々と頭を下げて謝る。けれど、それは、要求でもなければ交渉でもない。謝罪。

 格好悪かろう、自尊心などなかろう、が、しかし、必要とされている。春生は間違いなく、この場で必要とされているのである。


 そして今、春生の謝罪が行われる。

 それは、人々の心から怒りを取り去るため、人々の心から憎しみを取り去るため、人々の感情に優しさを灯すために。

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