常夏の嵐
前話の続きです。
話の編成が悪くて、ちょっと中途半端な所で終わってます。
近いうちに続きを上げますので、よろしくお願いします。
一か月程前、スフィアの外で嵐の起きた日。
外で雨が降ると、海に面した展望デッキで外を眺めるのが、わたしの習慣になっている。
スフィアの、毎日味気ないほど同じ風景をちょっとだけ変えてくれるそれが好きで、ガラス越しの安全な雨風と波濤を楽しんでいた。
その波の間に、ちらちらと赤いものが見えて、注意がそちらに向く。
よく見ると、赤いTシャツにジーンズ姿の人影が、デッキの外にあるスフィアの保守点検用のバルコニーに引っかかっていた。
人だ。スフィアの点検員にしては、耐水服を着ていない。スフィアの住民たちは、スフィアの外で起こる事、増してやただの雨風などには滅多に興味を示さず、少なくともわたしの周りには、スフィアの外に出ようなんて酔狂な人間は聞いたことはない。
もしかしてー地上民?
同じ人類でありながら、見たことのない存在に、胸の鼓動が高まる。
意識があるのか無いのか、その人影は、バルコニーの端にTシャツが引っかかったまま、波風に翻弄されている。
わたしは咄嗟に、デッキの非常ドアを開け、その人の両脇を抱えて、全力で持ち上げた。
スフィアの中ではおよそ感じたことのない、むっとするほど暑く湿った空気と激しい雨が頬を叩き、一瞬息が詰まる。
しばらく悪戦苦闘していると、やがてその人の身体の重みが感じられなくなった。見ると、両の手でしっかりと、バルコニーの柱にしがみついている。
「気がついたの。よかった」
その人がわたしを見上げる。中性的な、綺麗な顔立ちの少年だった。
「…スフィア民か。さっさと引っ込んだほうがいい。お前たちみたいな温室育ちに、この嵐は耐えられないだろ」
綺麗な、テノールというよりかはアルトの響きを持つ声が、嵐を潜り抜けて耳に通る。
「でも、あなたが」
「オレは平気だ」
「いいから上がって!」
嵐に負けないように大声で叫ぶと、彼の腕を掴んで、力一杯引っ張り込んだ。
彼は暫く、何が起きたかわからないようで、猫を思わせる大きな、けど切れ長の目を瞬かせていたけれど、急に笑い出した。
「お前、案外力持ちだな」
「温室育ちの割にね」
別に意地悪な気持ちを持っていたわけじゃないけれど、ちょっとだけやり込めてみたくなって、言い返した。
「…悪かったよ。ありがとう」
少し照れ臭そうに、彼が笑う。
とくん
…あ、あれ?…わたし。
なんで、どきどきしてるの?意味がわからない。
続く
いかがでしたか?
ミカは当初、アキラを少年だと思っていました。
ときめいちゃってます(笑)
続きもどうぞよろしくお願いします