第三猫 飯って大事だよね、特に好物が夕食の日は・・・(以下略)
みなさんどうも、作者のMiyabiです。
投稿遅れてしまって申し訳ありません。諸事情によりなかなか書き進めることができませんでした。
その分今回は量が多くなっております。
今回も日常メインです。でもタイトル詐欺はしてません、多分。
三浦と末永の突然の襲撃をうけ、予定より10分ほどタイムロスしてしまった俺は雪の降る通学路を小走りで駆けていた。
これで家に兄弟姉妹でもいれば途中で電話でもして取り込んでもらうだけでもできたものを、幸か不幸か俺にはそんなものはいない。というか親戚も極めて少ない。両親は二人とも一人っ子だったらしいから”いとこ”もいないし、祖父母も一人っ子だったらしく俺は”はとこ”もいない。
なんだよ、うちの家系は一人っ子じゃないと入れないとかそんな決まりでもあんのか?
うちは別にそんなに裕福ではないのだが・・・・・・
でも、数少ない親戚の中でも俺の幼少期を支えてくれた人はたくさんいた。
血筋的には遠めだが何人もの人が助けてくれた。
それだけは小さいころの記憶としてしっかり残っている。
まあ、一番協力してくれたのはお隣の三浦の両親なんだけどな。
だからせめてもの恩返しにと、俺は今日の様に三浦の両親がいないときに飯を作ったりしてるのだ。
* * * *
幼少期のころの記憶に思いを馳せていると、あっという間にうちの近くの住宅街に着いてしまった。
そのころには雪もひと段落して、空は灰色ののべーっとした平たい顔を見せていた。
「これなら急ぐ必要はなさそうだな、買い物でもして帰るか」
俺は独り言を呟き、T字路を家とは反対の向きに歩き出そうとする。
その時だった。
「・・・ん?」
最初は雪が道の端っこに溜まったものだと思ったが、なにか様子が変だ。
なんというかそこだけおかしい、変に地面が盛り上がっている。
気になった俺は近づいてみることにした。
慎重に、ゆっくりと一歩ずつ近づく。
「なんだ、これ?」
ちょうど腕を伸ばして届くくらいの距離からツンツンとつついてみる。
すると白い塊の端っこがゆらりとこちら側に向いて、
「ニャァ・・・・」
と鳴いた。
「え・・・・?」
いま、『ニャァ』って鳴いたよな。
「・・・・ニャァ」
「え・・・猫・・・か・・・?」
「・・・・・・ニャァ」
よく見るとこちらを向いた白い塊の端っこは猫の頭であった。
体全体が真っ白な上、目は透き通った淡い空色だったので近くで見ても周りと同化してよくわからなかったがそれは確かに猫、白猫だった。
「お前、こんなところで何してんだ?」
「ニャァ」
「首輪してないし、野良か?にしてはやたらキレイな毛並みだな」
「ニャァ」
「どこかケガしてるわけでもなさそうだしな」
「ニャァ」
どういうわけかこの猫、猫の割にはやたらと反応がいい。
それに飼い猫ならいざしらず野良のはずなのにまったく逃げ出そうとしない、というかいつの間にか寄ってきて俺のスニーカーに頭を擦りつけては「ニャァ」と鳴いている。
普段なら野良猫を見たってこんな気持ちにはならないがこの白くきれいで人懐っこいのを見ていると段々とこう、庇護欲というか母性というか(男なんだが)そんなものがくすぐられて俺の頭の中にある一つの考えが浮かんだ。
「なあ、お前さ」
「ニャァ?」
「・・・・家に来るか?」
「ニャァ!」
「反応いいな・・・・・」
そういうことで俺はシロ(仮名)をサッと抱き上げ、買い物の予定を変更し、家へと進路を180度転換した。
* * * *
さっき、シロ(仮名)に出会ったT字路から歩いてだいたい30分。
俺はやっとのことで家の玄関までたどり着いた。
「はあ・・・」
俺は重いため息をつく。
なぜため息なんかつくか、その原因はこの歩いてきた20分にある。
本来ならばあそこからここまでは早くて5分、信号待ち数が最大のときでも10分で帰れる道のりだ。
今回30分かかってしまったわけは俺がこいつと出会ってしまったのが住宅街ということにある。
なんと、こいつを拾って少し歩いていると向こう側から近所の親子に出会ってしまったのだ。
子供の方が「あ、ユイくんがネコもってる~」なんて笑顔で近寄ってきて一瞬困ったが仕方なくシロ(仮名)を渡し、そのあとから来たおばさまと「すいませんね、うちの子が~」「いえいえ~」なんて挨拶から始まった主婦&主夫(学生)の井戸端会議が展開されたため20分ほど普段より長くかかってしまったのだ。
しかも今日は運悪く道にある信号機に見事に引っかかってしまいかなり時間を食ってしまった。
疲れ切った体で重くカギを開ける。
「ただいまー・・・」
もちろん、返事などは帰ってこない。
たまに三浦のお母さんが合い鍵で様子見に来ていたり、その鍵を使って三浦が勝手に入ってたりはするが今日は両方ともそれぞれの用事でいない。
まあ、この家に一人で住み始めてもう二年、さすがに一人というのには慣れた。
二年というのは中学の途中まで「一人だと心配だから」という三浦の両親の優しさで三浦の家に住んでいたからである。
あえて言うがその間特殊なイベントは全くなかった。これは本当に事実だ、信じてくださいお願いします。
「ほら、こっからは自分で歩け俺はもう疲れた」
子供から返してもらった後からずっと抱きかかえていたシロ(仮名)をそっと離す。
シロ(仮名)は「ニャァ」と一回鳴いた後すたすたとリビングの方へ歩いていった。
「おお、賢いなシロ・・・」
俺もそのあとを追い、リビングに入り荷物を下ろす。
ソファに座って時計を見ると時刻は5時10分をまわったくらいだ。
三浦と末永が来るまであと2時間は余裕である。
「さてと・・・・・」
俺はこのままあと15分はだらだらとしていたい気持ちを抑え、キッチンの方に向かった。
晩飯の献立を決めるためである。
三浦にハンバーグと言ってしまったがシロ(もう本名でいいや)を拾ってしまい買い物に行ってないため材料のひき肉やその他もろもろがないのだ。
「うーん・・・何にすべきか・・・」
冷蔵庫の中身を確認した後俺は考える。
「あるのはいつものサラダ用の野菜、アジが二尾、貰い物のかぼちゃと、ニンジン二本とかか・・・」
ハンバーグができないのはほぼ確実なので他のものを考えなければならない。
そろそろカボチャも使っておきたいしな、明日の弁当のことも考えにいれると・・・・
『ピンポーン』
突然に鳴ったインターホンの音が俺の思考を強制的に停止させ、玄関へと急がせた。
「はいはーい、今出ます」
通販か?いや、何も頼んでないはずだ。
保険か?いや、うちにはこないはずだ。
新聞・・・・はとってるしな。
思い当たる節がないが、一々確認するのも面倒なのでそのまま鍵を開ける。
「はーい、どちらさまで・・・・」
ガチャリとドアを開けると、
「よう、唯。来ちゃったぜ」
「先輩・・・・『来ちゃったぜ』じゃないっすよ・・・・」
そこにいたのは『先輩』と俺が言った通り俺より学年が一つ上の男子生徒、「月見里 楓」だ。
ついでだが「月見里」と書いて「やまなし」と読む。
「山がないから月がよく見える里って意味だと思う」と本人は以前言っていた。
この人は『来ちゃったぜ』とか言って人んちに来る割には一応我が高校の生徒会長である。
それに加えてルックスはかなり良いし、小さいころから武道をたしなんでいるとかで運動もできるし、聞くところによると成績も良いらしい。
要するに完璧超人なのである。ただし、ここに来るときを除いて・・・・・
「まあ、いいから上がって下さい」
「おう、お邪魔しまーす」
いきなり来られたので驚き半分あきれ半分だったが別にいつものことなので普通に家に上げる。
先輩はリビングに入るとすぐさまシロを見つけて「おお、猫だ!!」とか言って撫でたりしていた。
「唯、この猫どうしたんだ?」
「ああ、それ帰るとき拾ったんです」
と言い、シロを拾った経緯を説明する。
説明している間、先輩はシロを撫でまわしいつもは見せないようなだらしない顔をしていた。
「へえ~・・・いいな、この猫。野良にしてはきれいだし」
「欲しいんですか?よかったらお持ち帰りしてもいいですけど・・・」
「いや~そうしたいんだけど、うちのアパートペット禁止でさ」
「そうですか、それは残念ですね」
「ああ、非常に残念だ。こんな猫が飼えるお前を見て羨ま死しそうだ」
そこまでなのか・・・この猫の価値は
「先輩、なんで家来たんですか。今日は月曜じゃないですよ?」
そう言うと先輩は『ああ、そのこと』と言った。
「くだらから聞いたんだ、『今日の夕食はハンバーグらしいです』って」
と言ってスマホのメールを見せる。
メールは末永から送られてきたもので題名の所に『緊急連絡』と書いてある。
おい末永何やってんだ・・・なんでこんなことするんだよ。
っていうか今日もうハンバーグじゃないんだけどなあ。
「あー・・・先輩。そのことなんですけど今日ハンバーグじゃないんですよ」
「へ・・・・・?」
「猫拾ったら、買い物する時間無くなっちゃて・・・・すみません」
「な、なん・・・・だと・・・・!」
いやそんな深刻そうな顔しないでくださいよ。
ハンバーグひとつでそこまでショック受けるか?
あ、でも確かに学食で翌日のメニューが好物で行ってみたら材料の関係で変更なんてことがあった日はショックだったなあ。
「時間はあるんで、材料さえあればいいんですけど・・・」
「材料さえ・・・?あれば作ってくれるのか?ハンバーグ」
「ええ、まあ。でも、今日はアジの開きにしようと思ったんですけど?」
「な、なん・・・・だと・・・・!」
え、またそれですか。それ好きなのかよ・・・・・
そういえば先輩は魚も好きだったな。なるほど、悩んでいるわけか。
俺としては買い物とか行かなくて済むし、生ものは早めに使っておきたいからアジの方が良いんだけどな。
「どっちにしますか?ハンバーグとアジ」
先輩は依然として「うーん・・・ハンバーグかいやアジも・・・・」とか言ってうなっている。
というか猫離さないのな、ずっと撫でまわしてるし・・・・
「あ~!!もういいや、俺が代わりに買い物行こうかと思ったけどめんどいからアジで!!」
「・・・・・ホントに、いいんですかぁ?」
「んなっ・・・・!」
ここで揺さぶりをかける。
もとはと言えば三浦が来るからという理由で俺がハンバーグという予定にしたのだが、この際理由を話せば三浦も末永も許してくれるはずだ。
でも、ハンバーグがあった方が奴らの反応がいいだろうと考えた上での揺さぶりである。
これで先輩が材料を買ってきてくれれば・・・・・と思ったのだが、
「いや、アジがいい。あいつら二人のためだけに歩くなど言語道断だ、絶対行かん」
と、ムスッとした顔で言い放った。
先輩そんなにあいつら嫌いだったんですか。
いつも見てると普通に仲良さそうに話しているのに。
特に末永とは仲良さそうなのにな、今日だってメールで連絡もらってたし。
「そうですか、じゃあ今日はアジにしましょう」
「ああ、そうしてくれ」
そういうと先輩はシロを自分の頭より高く抱き上げ、
「できるまで俺はこいつで癒し成分を補給するからさーー!!」
と、ニコニコと心底楽しそうな笑顔でまたじゃれあい始めた。
『まったく、この人は・・・・』と思うがこうやってみんなが見ていないところで息を抜いているからこそ見られているところではキリッとした立派な姿でいられ、生徒の多くから尊敬されるのだろう。
それに、その息を抜ける場所がこの家だと思うとなぜか誇らしい気持ちになるのでついついきつく言えなくなってしまうのだ。
やっぱり、頑張っている人が頼りにしてくれてたりするのは凡人としてはいい気分である。
そんなことを考えながら俺は再度キッチンへ向かい夕食の準備に取り掛かった。
* * * *
キッチンで準備を始めてからだいたい一時間がた経過した。
先輩はシロを抱いて「お~」とか「へ~」とか言いながらテレビを見ている。
俺は調理がほとんど終わり後は盛り付けを残すところとなった。今は食器を選んでいるところだ。
「先輩、今何時ですか?」
「あん?いまは・・・・あ、もう7時になるくらいだわ」
「んじゃあ、そろそろあいつら来るんで用意手伝ってください」
「え~・・・俺まだ癒し成分足りてないんだけど~」
「もう小一時間は休んでますよ。料理運ぶだけでいいんで手伝ってください」
「・・・・・・はいよ」
俺が頼むと先輩は「はぁ~」とため息をつき名残惜しそうな顔でシロを見つめると、その重い腰を上げた。
「あ、動物に触ったんですから手は洗ってくださいね?」
「んなこと言われなくても常識だよ・・・」
シロと離れて暗い表情の先輩だったが、俺がアジの塩焼きを長方形の皿に盛りつけているのを見ると子供みたいにパッと明るいさっきまでと同じ表情になった。
食い物ってのは人を幸せにする最も簡単で、最も良い手段だと俺は思う。
腹が減った時に食うものは、たとえそれがそんなに高級品でなくとも『うまい』と感じるし、食えるだけ食って空腹が満たされれば自然と幸せな気持ちにもなる。
それに料理を作った人だって、自分の飯で幸せになれる人を見れば幸せな気持ちになる。
飯を作り、それを食うだけでこんなにも人は幸せを感じられるのだ。
中東の方なんかで紛争が起こる原因もこれじゃないかって俺は思う。
腹減ったらなんかイライラするし、そんなとき隣で幸せそうな奴見ればさらにイライラしてくる。
俺がどっかのお偉いさんだったら砲弾とか爆弾の代わりに食い物でも飛行機で飛ばしてやるのに。
まあ、そんな簡単に治まらないから争いが起きてるんだろうけどな。
「ほいっと、今日は四人だからこれでオッケーだな」
「はい、手伝いありがとうございました」
出来上がった料理を並べるだけだったので紛争国に食い物を届けるいいアイデアが浮かばないうちに作業は終わりあっという間にテーブルの上には四人分の食事が用意された。
時刻を見るともう7時を少し過ぎていた。
「あいつら、そろそろ来ますかね?」
「そうだな、さっきくだらから『今出ました』ってSNS入ったからそろそろ・・・・・」
『ピンポーン』
噂をすればなんとやらというやつでちょうどいいタイミングでインターホンが鳴る。
「っと、来たな。俺出てくるからお前エプロン脱いどけ。またからかわれるぞ?」
「どうも。じゃお言葉に甘えて」
先輩は玄関へあいつらを出迎えに、俺はキッチンへエプロンを脱ぎに戻った。
「さて、飯にすっかな・・・・・・あ、いっけね」
キッチンへ戻った俺はまな板の上に残しておいたアジの小さな切り身を目にして大事なことを思い出した。
その切り身は今日から増えた新しい家族のための夕飯だ。
先輩が買い物に行ってくれるならついでにキャットフードとかも頼めたのだが、行かなかったのでとりあえず切っておいたのだ。もちろん自分の分からである。
引き出しから小さなボウル状の器をだしてそれをチョンと乗っける。
「ほれ、シロ。飯だぞ~」
そう呼ぶとシロはテテテと寄ってきて、調べるようにクンクンと匂いを嗅いでからちまちまとゆっくり食べ始めた。
そこへ足音が近づいてきたかと思うと、先輩が顔を出した。
「おーい、うるさいのが来たぞー唯」
「もう!うるさいのとはなんですか。お、こんばんわだね唯」
「お邪魔します、先輩。あと、ソウさんうっさい」
先輩に連れられた三浦と末永がリビングに入ってきた。
三浦は部活帰りで直接来たのか制服のままだったが、末永は私服でゆるくふわっとした感じのベージュのニットとジーンズといういで立ちで袖から指をちょっとだけ出している。いわゆる萌え袖というやつだ。
華奢な指がちょろっとだけでていてどこか庇護欲をそそられる。
まあ、見た目に反してこいついろいろ強いから俺が守る必要もないんだがな。
鞄に常に金属製のロッド入れてるような奴だぞ?俺もなんでこいつと仲良くなれたか不思議でたまらない。
「おう、二人ともよく来たな。飯ならもうできてるぞ」
そう言うと二人は「ご飯だー!」「やったー」と言って一目散にテーブルに向かった。
だが、二人が笑顔なのはそこまでだった。
* * * *
現在時刻は7時15分をちょうど回ったところである。
本来ならば今頃は四人仲良く・・・・・ないかもしれんが夕飯にありついているところだ。
しかし、なぜか俺と月見里先輩の男子陣二人は床に正座し我々の前に立つ二人の仁王の一方的な説教を言い訳する暇もなくただただ受けていた。
ここまでの状況を知っている方ならすでにお分かりかと思うが、説教の内容はもちろん夕飯のことである。
「唯?もう一回聞くけど、なんで今日はハンバーグじゃないの??」
「ですから、その猫を拾ってしまって買い物に行けなかったからでありますと先ほどから申しているではありませんか・・・・・・・」
「ホントにぃ~~??」
三浦が俺の顔を覗き込むようにして疑う。
「はい、間違いありません。最初に説明した通りです」
「ふーん・・・・そうだねー・・・・」
説教が始まって約10分。一向に俺たちが解放されるというルートの鍵は見つからないままだ。
このままでは俺と先輩の足がっ!・・・・・・・ではなく俺たちの飯が冷めてしまう。
どうにかしないと・・・・・・・どうしよう・・・・・・
「ん・・・・真鈴さん真鈴さんちょっと耳を貸してもらっていいですか?」
末永がなにやら思いついたようだ。恐らく俺たちを説教するネタに違いない。
三浦がこれに応じ「え?何々??」と耳を寄せる。
そして二人は『ゴニョゴニョ』と小声で会話を始めた。
少したって末永が口を三浦の耳から離すと、向かい合いニッと笑った。
「くーちゃん、ナイスアイデア!」
「はい、これなら勝てますね!」
お前らはなにに勝つつもりだよ?
途中まで俺らが一方的に攻められていたんだが・・・・・・・
『途中まで』とは別に俺らが説教の途中で反撃に出たとかそういうわけではない。
というかそんなことやっても結果は見えているのでやらない。
なぜ『途中まで』かというと、説教が始まってすぐに先輩が「いやでもさ・・・」という感じで言い訳をしたことにある。
先輩は仁王二人に対してユーモアを含んだ軽い感じのギャグ的な言い訳をかまし・・・・・あとは言うまでもないな、うん。
そんなわけで今は俺一人で仁王の説教を食らっているわけである。
んで、その仁王はいま新しい作戦を練ったみたいなのでこちらは少し緊張している。
いままで『猫が・・・』の一辺倒でくぐり抜けてきたが、この感じはそれも限界かもしれない。
「ねえ、唯先輩?」
「お、おう。なんだ?何でも聞いてくれ」
俺が答えると末永は「そうですか・・・・」と不敵な笑みを浮かべ、口を開いた。
「猫を拾ったから材料が材料が買えなかった。で、先輩の主張は合ってますね?」
「あ、ああそうだ。買いに行こうとはしたんだが、こいつを家に一匹置いとくと何をしでかすかわからんからな。だから今日はアジということになった」
「そうですよね、では私から一つ質問をいいですか?」
「おう、いいぞ。なんだ?」
「はい。失礼ながらそこに寝ているソウさんは私たちより先に来たんですよね?」
「ああ、その通りだ。それが?」
「ではソウさんが食材を買ってくるという案は出なかったのですか?」
「な、な・・・・・・」
隠していたところを突かれて思わず動揺してしまう。
まさかそこを突いてくるとは・・・・鋭い。さすが末永、めっちゃ鋭い。
なぜわかったのだろうか。すごい着眼点だ、こいつ探偵になれるんじゃないか。
「その動揺っぷり、やっぱりそう考えたんですね?」
「・・・・まあ、な。でも先輩が『めんどくさい』って言うから行かなかったんだ」
ここまで来て嘘をつくのは無理があるし、さすがに二人に悪いので真実を伝える。
ごめん先輩、俺でも女子には勝てなかったよ。
「ふーん、そうですか。どう思います?真鈴さん」
「そうね~・・・・確かにハンバーグじゃないってのは不満だけど~・・・・」
そう言うと三浦はなにやら考えるように顎に手を当てる。
「まあ、アジも悪くはないですよね・・・・」
同じように末永も顎に手を当てて悩むようにする。
「「うーん・・・・・」」
飯一つでそんなに真剣に悩む必要はあるのだろうかと、こちらが真剣に悩んでしまうほど二人は真剣に悩んでいる。
確かに食料というのは人間、いや・・・生きとし生ける者すべてに対して大事なものである。
人間が生命活動を行うにおいて必要なのは食料、水、酸素であるがその中で最も大事なのは酸素であるはずだが・・・・・こいつら二人にとってはどうやら食料らしい。
まあ、「〇っぱい食べる君が好き~♪」なんて歌もあるからな(〇の位置に悪意はない、たまたまです)
作ってるこっちとしてもそこまで悩んでもらえるのはありがたいというか、そこまで俺の飯が奴ら二人にとって重要だと思うと料理人冥利に尽く。
「その~・・・なんだ、やらかした身で差し出がましいんだが今回は本当にすまなかった」
「ううん。別にそんなに気にしてないよ?」
「え・・・そうなの・・・か?」
「はい、そこまで気にしてません。それに私はそんなにハンバーグ好きじゃないんで」
「・・・・・んじゃ、なんで俺は正座して説教されてたわけ?」
「ええとー・・・・・?」
「んー・・・・?」
二人はまた考えるようにして顔を見合わせる。
少し考えるようにしたあとクルッとこちらを向くと、
「「ん~・・・流れ?」」
え、ええええええええええええええええええええ!?
本人たちも曖昧な理由で俺と今は亡き(一応、まだ生きてます)先輩は正座説教されてたわけか?
その衝撃でバタッと両手をついてしまう。
なんというかすごい悲しいというか、むなしいというか・・・・・
そんな表現のしようがない感情が俺をジワリジワリと染めるように支配していった。
その衝撃から立ち直った俺と生き返った先輩、それと女子二人が飯を食い始めたのは予定を大幅に超えた20時であった。
いかがでしたでしょうか。「タイトル詐欺だー!」と思った方もいらっしゃると思います。
でも一応「猫」は拾いました。次話からこそはこの猫を中心とした「剣と魔法のファンタジー(?)」が始まります。あ、それと次話からはなるべくウィークリー投稿になるようにしていきたいと思います。
そうじゃない週もあるかもしれませんが、ご了承ください。夏も終盤になってきてなかなかこちらに時間をさけなくなるのが残念です。
あ、あとこちらでも確認はしているのですが誤字や分かりにくい表現などありましたらバンバン指摘してください。お願いします!
それではまた次話でお会いしましょう。失礼します。