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第1章 時空干渉と契約  第5話 愛

 未来を救う。

 簡単で、とても抽象的な言葉である。裕希の頭の中でも処理できる範囲内の言語であった。

 しかし、今のこの状況は裕希にとってとても理解不能な状態であった。


 「未来を救うって……、具体性が欠けているにも程があるだろ。俺はいったい何をすればいいんですか?スーパーヒーローにでもなって怪人と戦いでもするのか?それとも俺がどっかの国との戦争の指揮官にもなれって言うのか?あくまで伊波裕希という人間なんだから、やれることとやれないことがある。お前みたいに頭も良くないしな。」


 「っ…………………」


 何かを言いたくなったような顔をした。だがそれは言ってはいけない言葉だったのか、口から出てくることはなかった。

 

 「……そなたの言っていることにはおおむね同感する。じゃが、ここでもしこの話が断られた場合、詳しい内容を知ってしまったらそなたは非内通者扱いされる。そんな時に処理しきれなくなってしまうんじゃよ。同意のもとで、詳しい話はする。じゃから……」


 「その、詳しい話の内容によって同意できるかどうかが決まるって言ったら?」


 「―――――――――――」


 フェリスらしからぬ目の逸らし方だ。だが裕希は今、自分の精神状態の異常に気付いていないためか、フェリスの動揺に勘付けなかった。

 どう考えてもフェリスに関しても、裕希に関しても言動が過剰になっている。それに気づいている物はここには居ない。


 「わかった。必要最低限だけの話はしよう。」


 フェリスが負けたように話を切り出した。その行動に裕希は気の毒さを感じながらも、興味を示した。


 「そなたがこれからすることは、主に2つ。私の世界に再誕する大悪魔を討伐すること。もう一つが、その大悪魔を倒す上で、私とそなた、二人だけは何としても生きなくてはならないので、それを促す私への護衛と自衛じゃ。」


 「何度か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだが、大悪魔って………」


 「それは言えない。『禁則事項です』とかいうやつじゃな。」


 「やめろその言葉。どっかから苦情がきそうだ。」


 さらっとこっちの世界のネタ(主にアニメネタ)を入れてくるところあたりフェリスの性格が窺えるが、そのネタにいちいち反応できる裕希もなかなかだと第三者がいたら言われてしまいそうだ。

 だが彼女は笑っていないし怒ってもいない。とても真剣で、深刻な顔をしているように思える。

 守りたくないわけじゃない。むしろこんな可愛くてまだ幼い少女なんて、見つけたら声をかけてもらえるぐらいの関係でありたいとも思う。

 しかし、そんな思いのもとで彼女の願いを受け入れたら、逆に後悔させてしまうのではないかとも思うし、そっちの気持ちのほうが強い。


 「俺は得意なものなんてないし、力も強くない。何度も言うようで悪いが、頭もよくない。俺なんかが、その、大悪魔と戦っても勝てないと思うぜ?お前の護衛すらできないかも。」


 「大丈夫じゃ。そなたならできる。守ることができる、そういう力を持っている。」


 「―――――――」


 意味がわからない。なぜそこまで裕希にこだわるのか。裕希を見て何をそんなに気に入ったのか。なにがフェリスの心を打ったのか。

 そもそもフェリスと会うのは今日が初めてで、お互い初対面だった。フェリスもそんな顔をしていたし、俺が会ったなんて記憶はない。そんな人たちが普通守りあえるような関係になれるものなのか。本当は誰でもいいんじゃないか。

 いっそのこと機械で護衛してくれる兵器でも作ったらいいんじゃないのか。そうすれば「裕希」なんていらないはずだ。そう、裕希にしかできないことなんてあるわけがない。

 不安と不信感が募っていく。


「お前に俺の何がわかるって言うんだよ?」


 「―――――」

 

「俺が今までやってきた数々の素行を、怠惰を、誤行をお前はどれだけ知っている?やっと単位が取れて学校に復帰できて、それでも今までは学校サボってきたし、友達だって見捨ててどっか行っちまった。」


「―――――」


「そんな人間と付き合ってたら、もしかしたら話をしているだけで嫌われるかもしれないぜ?あんまり自虐ばっかしてんのもみっともないかもだけどよ、でもそれは紛れもねえ事実と必然的な予測だ。そうなるにきまってる。きっとお前だって死んじまうぞ。」


「―――――」


「人を間違えたんだよ。俺なんかができることはほかの人類誰にでもできる。お前は何かを間違えたんだ。俺はお前の顔なんか見たことない。お前が想像している自分を守ってくれるヒーロー的な何かは多分全部間違ってる。他人の空似だ。」


「―――――」


フェリスはずっと黙っている。その顔にはうっすら微笑があるような気がした。


「なあ、さっきから黙ってて、おまえ何なの?馬鹿にしてんの?そりゃ馬鹿にもしたくなるわな。でもなんか言ってくんねえと……」


「早く話を終わらせてほしいなあと思っただけじゃよ?」


「…………あ?」


やっとフェリスの口から言葉が発せられた。それも冷酷で辛辣な声だ。

彼女は裕希の話を肩耳でしか聞いてなかったのか。だとしたら真面目に話していた側としては彼女は人間として終っているとしか言えない


「ふざけてんじゃねえよ!!こっちは真剣に話してんだよ!お前みたいな頭のいい奴にはこんなことですら戯言なのか?それとも……」


「戯言、か。全く間違っていないな。じゃからな、いい加減にしろよ、このへたれが!」


「――!?」


話を途中で切るのはもはや癖なのか趣味なのか。でも今回は先ほどちょろっと見せた怒りの顔が出現していた。二度と見たくはなかった、あのおぞましい顔が。


「そなたの言っていることに間違いがないかどうかはずっと見てきたわけじゃないから知らん。て言うか興味ない。じゃがな、自分の力をみくびって馬鹿にしているということだけは間違いなく言える。」


「なに、言ってんだ……馬鹿にしてんのはお前のほうで俺じゃない。自分で自分を馬鹿にしたりしねえよ。」


「やってもいないことを今からぐちぐちと、お前に何が分かるだって?こっちのセリフなんだよ。自分の力も理解してないくせに、自分のことはわかった風に言ってんじゃねえよ。」


フェリスが顔をしかめてこちらを見ている。完全に怪訝な気持ちの時の顔である。

嫌われてしまった。そりゃそうだ。こんなくずみたいな人間、嫌われて当然だ。そんなこと、知っていたんだ。


「お前は結局、どう思うんだよ。そんな暴言めいた口調で俺を罵ってさ、何がお前をそんなに動かすんだよ?」


「決まってるじゃない。そなたを、あなたを愛しているからだよ。」


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--------------------どうやら裕希を嫌ってはいないようだ。



 訳わかんねえよ。


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