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第2章 殺戮と救済のカウントダウン 第10話 双子星

「そうだね、この世界は君たちで言うところの、ゲームだと思ってくれればそれが妥当だと思う。」


「ゲーム?」


「そう、君はさっきも見たと思うけど、私たち3人をみんな助けつつ、あの少女も助け、あの悪魔達を乗り切るか殺すかをしなくてはいけない。でも、それはあくまで私がその時感じていた感覚であるから君は今までの記憶をその時持っていない。不思議な感覚だけどね。」


「面白そうではあるが……なんでそんなことが出来るんだ?」


「それは、ちょっと難しいんだけど、……霊となった者は異時空とやり取りができるんだ。例えば君たちの世界や私の世界はたまたま宇宙が存在して星や生物が生きていける環境を貰っているけど、中には宇宙すら、空間すら、与えられてない世界だって存在するって想像できるかい?」


アテナは裕希に問いかける。

裕希だって、宇宙がどれだけ広くて、壮大で、果てしないことなんだって分かってはいる。ただ逆に、そんな広い世界が存在しなくてただただ意識や概念だけが飛び交うような世界は全く想像がつかない。


「USBメモリってあるだろ?あれならわかりやすく説明できそうだ。」


「いや知ってるけど、むしろなんでお前が知ってるんだ…?」


「言っただろ?私は君の世界の全ての記憶を一度吸収したんだよ。その中から君に関わる記憶だけを取り出してこの世界に保存してある。ちなみに私の世界には120ZB(ゼタバイト)まで保存できる。」


「なんの単位だよ。」


「10の乗算の単位だよ。わかりやすくなるか分からないけど、10の22乗MB(メガバイト)の容量だから…2テラのps4が5000京台分ある感じだね。」


「いらねえだろそんなに………。」


「まあまあ……。君が今から体験するのは空っぽのUSBメモリの中に一つだけ取り込んだゲームとおもってくれればいい。さっきも言ったように、私は近くにある時空とやり取りができて、手を加えることも出来る。霊が他の時空に干渉することを俗に“接続”って言うんだけど私たちの世界のような大量に飛び交ってる情報世界から私の記憶だけをコピーして、何も存在しない世界に私が接続し、ペーストした感じだね。」


「なるほど、まさにゲームだな……。」


「君はもし、あっちの世界で死んだらこの場所に一度戻ってきて、記憶も戻ってくる。そしてまた、私の記憶に戻っていく、ということだね。君がフェリスのいる時空に戻った時、君は私の世界で感じた全てを記憶することになる。だからこそ特訓なんだよ。」


「俺にできるかなあ……」


「まあ何度もやり直せるから、頑張ってよ。ちなみにもちろん痛みはあるからね?それじゃあいってら~。」


「あ、おい待て。心の準備が………」


言うまもなく、裕希は深い夢の中へと落ちていった。





何も言わずにアテナは彼女の手を掴み、そして引っ張りあげた。アテナはそのまま彼女を背負って悪魔のいる場所の逆へ走る。


「マルコ!少女は助けた!この子背負ってアリシアと一緒に守って欲しい。」


「了解!」


走りながらマルコに声をかけ、近づいてきた彼に少女を渡す。

アテナはその先へ悪魔を行かせないように立ちはだかる役目を果たさなくては行けない。


「お前ら人間がなぜここにいる?」


「さあ?なんでだろう。私にもわからないよ。」


低く重いトーンで威圧をかけてきた悪魔達に全く動じないアテナはアイギスを使い、イーリスの盾とグラウクスの槍を出した。


「その女をこちらへ返せ。お前らには全く関係ないだろ。」


「まあ言われてみれば関係ないけど………、道で襲われてた女の子を見つけたらさすがにたすけるでしょ。」


「言ってわからねえなら力ずくで取り返すまでだ!」


そう言うと、悪魔はアテナに次の言葉を言う暇も与えずに襲いかかってきた。

ただ、アテナは強がりつつも、自分自身の体に異変を感じていた。どうすればうまく戦えるのか、どうすれば相手の攻撃を避けたり防御したり出来るのか、そこの辺りが微妙な雲に隠れているようだった。

しかし、アテナにはそんなことを考えている余裕もない状況だった。2人の悪魔を相手にするならどう立ち回るべきだ?


「ついて来れるかな?」


「くっ………!」


アテナはやはり余裕を見せ、相手を焦らせるようにした。グラウクスの槍は先端と根元を両方の悪魔へ向け、構えさせられている。

悪魔が向かってくると、アテナは左の方ほ悪魔をけりで突き飛ばし、その反作用で勢いがついた槍で右の悪魔へ刺しかかった。

右にいる悪魔は唸り声をあげ倒れた。そうすると言葉にならない声を上げて反対の悪魔が迫る。


「ダメだよ、感情的になっちゃ。」


「グおおおおお!!」


奴の声はもはや怪獣のようだった。理性を失った悪魔はもはや言葉は通じない、ゾンビになったも同然だった。

その状態であれば、アテナは余裕でヤツらなど倒せると思った。

確かに倒すことぐらいは余裕だったかもしれない。ただ、彼女には大きな盲点があった。


「…………やっば……!」


気がつけば向こうの方に集団の悪魔達が見回りに来ていた。






「この辺にいるとまずいかもしれない。どうにかして逃げ切らないと。」


「まさか仲間を連れてくるとはなあ……。」


「ねえマルコ、呑気すぎない?やばいよやばすぎだよ私、どうすればいい!?」


「お前はてんぱりすぎ。」


マルコとアリシアの茶番が始まったので、アテナは女の子の方へ顔を向けた。今は近くの小屋へ方針を決めるため隠れている。

彼女は今まで、少女とか、女の子、とか言っていたが、そこまで言うほど幼くはなさそうだった。むしろアテナの方が見た目は幼いかもしれないぐらいに。


「君は誰だ?人間か?それとも……」


「……助けていただいてほんとにありがたいんですが、私は悪魔です。」


彼女はきっぱり言い切った。自分が悪魔だと完全に認めたのだ。普通だったらこの状況で悪魔だと分かれば殺してしまうのが当たり前だが、アテナたちは落ち着いた調子で次の質問へ移った。


「じゃあ、なんで悪魔に追いかけられてたんだ?悪魔同士で喧嘩したって感じでもなさそうだったし。」


「私は………俗に言う【昇地悪魔】というやつです。堕天使の反対とおもってくれればいいです。要は脱国しようとしてたんです。」


「そりゃ追いかけられるよ……。私なんて城から出ようとしただけで城中のみんなが捕まえに来るから。」




「分かります……。私も大悪魔でしたから、それなりに規制は厳しかったものです…。」




彼女の言葉に一同は目を丸くした。


「え、大悪魔の権力と力を持っていてなんで脱国しようとしたの?絶対その場所にずっといてた方が良かったじゃん。」


アリシアが驚きつつも口を開いてそう言った。

彼女のその言葉は悪魔が健在していることを肯定しているともとられ、危険な発言だった。だが、今回ばかりは皆も同じ意見だった。


「たしかに……大悪魔とは驚きだね。私も今まで大悪魔をお目にかかったことは1度もないよ。そんな国家の最大危険人物の1人である君がなぜ脱国なんて……?」


「何か大きな事情でもあるのか?国民の批判が激しいとか、虐待を受けていたとか。」


「そ、そんなことはありません!むしろ私は国からも愛され、家族からも大きな恩恵を受けてもらってきてます。でも、私は悪魔のような人間を殺すことを使命とするような考えは生まれた時から全くありませんでした。教育を受けてもそれはおんなじ。だから、私はここにいるべきじゃないんだと、出てきました。」


「そんなあっさり出てきたのか……。」


要は、彼女には愛国心というものがなかった。国を建てる立場でありながらその国の良さに気づけず、分からないままでいるのだ

だが、彼女はそんなことを考えるなら抜け出してしまった方がいいと、そういう考えしか浮かばなかった。


「悪魔というのは幼い頃、大抵“人間の世界”というのに憧れるものなんですよ。その…延長みたいなものなんですかね……私はまだ子供ですけど、人間の世界の良さも、悪魔の世界の良さも分かりたいです。その為にも私は………」


彼女は言葉を詰まらせた。

その瞳は明るかった。…いや、明白や明らかだったと言った方が妥当だろう。

というのも、彼女のそれはほとんどが悲しみで埋まっていたように見えたのだ。

アリシアもマルコも彼女の話に耳を傾けている。とても誠実な姿勢だとアテナは思う。

だけれど、アテナはそれではダメだと思った。それは彼女に無理やりななにかを押し付けてるように感じるのだ。

アテナは思わず話を変えた。


「そろそろ行かないとまずいかも。その前に君の名前を教えてくれる?」


「なまえ?呼称のことですか?あんまりないんですよ。私たちの世間では2番目の娘さんとかってよばれてた気がしますね。」


「悲しいなあ……」


「親からもそう言われてたのか?」


マルコとアリシアは真っ先に彼女の回答に食いついて、質問をする。


その何気ない質問に彼女は、こう答えた。




「私たちは双子で生まれたんですけど、兄がポルックスで、私がカストル、という呼称は実際に親からも使われましたね。」




あとから聞くと、彼女は【神の糸】という霊子を纏っているらしい。

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