第2章 殺戮と救済のカウントダウン 第6話 記憶の始まり
話に聞くと、重魔子治療というのは回復属性を持つ人が直接患者に干渉して治療するこの時空で一番一般的な治療法ならしい。
中へ入ってみるとそこは明らかに病院という感じだった。受付やロビーの長いイス、所々に点滴のようなものを付けた方などがそれを思わせている。
「フェリスはどこにいる?」
「フェリス様はですね………」
アルテミスが場所を知らせようと声を出した時
「………ユーキ…」
「ーーどうした?」
後ろから不機嫌そうなフェリスが抱きついてきていた。
「体調は大丈夫そうか?」
「うん。心配しなくてもいいくらいにはね。」
フェリスはいちばん広い病室001を借りていた。まあね、王様の娘さんだからね、仕方ないね(寛大)。
今、一応病人であるフェリスが元気が有り余っている裕希に裕希が買ってきたリンゴを剥いてもらうというなかなか謎な構図が繰り広げられている。
それになんのツッコミも入れずに裕希はフェリスの話を聞く。
「さっきの女はなに?」
「なにじゃなくてだれだろ。それにあいつは俺が倒れたところを助けてくれた命の恩人だ。女呼ばわりはやめてあげてくれ。」
「ふーん、そうなんだ。ふーん。」
「ご機嫌斜めすぎだろ……。」
これはいわゆる嫉妬というやつか。あの女とか言ってるところあたりとかは本当にそれっぽい。
やばい、フェリス可愛スギィ!自分、萌えていいすか?
「今はそれどころじゃないだろ?今、お前の母さんがカーリの軍と戦争中だ。奴はお前を狙ってる。何故かわかんねえけどな。」
「…………………。」
フェリスはカーリの名を出した途端、黙り出した。
フェリスはカーリの事を恐れているように見える。だが、それは殺されそうだからということからだけではないようだった。
そこには僅かながらの迷いが混じっているように見えるのだ。
「…カーリは、何らかの形で大悪魔と絡んでいから私を殺しにくる、と思う。元々フランソワ教急進派にはそうやって今の王族を殺して自分達が政権を握ろうっていう考え方があった。例え信じている神が同じだとしてもね。」
「そういうもんだろ。仏教にも似てるようで違う宗派がたくさんあるからな。」
「でも、今回彼がいきなりこういう大きな行動に出たのはこれ以上の意味があると思う。それが、…………そなたじゃ。」
「俺?」
自分が指されたことに裕希は驚いた。
まだここに来てからそんなにも経ってない。確かにフェリスと共に過ごしてはいるが、それが彼らの殺意になるとは到底考えられない。
「私の護衛に回ったということに、どういう形でかは知らんが、気づいたんじゃろうな。つまりは皮肉なことに、今回危険に晒されるのは私だけじゃなくてそなたもなんじゃよ。」
「まあなんとかギリシャまで避難してきたわけだし、しばらくは大丈夫だと思うけどね。」
「は?ギリシャ?そんな場所まで来たの?」
「ああ。まあ色々あってな。」
アテナにここまで移動してもらったとは言えないので、裕希は言葉をにごらす。
だが実際ここまでなんの報道もなしに個人的に来たとなると、カーリ達に見つかるまでにはかなり時間がかかると思う。
その間に出来ることは山のようにある。
「俺は、お前を守れるようにここでしばらく技術でも磨いてるよ。魔法もまだろくに使えねえからな。」
「あんまり期待してないけど頑張って。あと、彼女と戯れるのは程々にね。」
「別に戯れねえけどな……。あとあいつの名前はアルテミスだ。覚えとけ。」
裕希はフェリスが剥いたりんごを何個か貰って、病室001から出た。
「で?俺はどっから練習すればいいのか全く分からんのだけれども?」
『この前も言った通り、やっぱ基本的なところからだね。彼らと対等に戦うには集団戦で強い力も結構必要になってくる。私はどちらかというと個人同士よりも雑魚を倒していく方が得意だったんだけど…』
「相手を敵キャラクター見たく言うな。」
裕希はあの後、田んぼの隣にある広場でアテナの指示に従いつつ、剣技や魔法の特訓をすることにした。アテナによれば剣技だったら1ヶ月で人並み程度にはできるようになるらしい。
魔法の方は今まで裕希達の元の世界で過ごしてきた上で全く使わない感覚器官の一つを使うことになるので、日常生活で全然魔法が使いこなせないようじゃ戦いどころじゃないらしい。
だから魔法の方は慣れさせておくとして、まずは剣の方だ。
『まあでも、敵キャラクターと思ってやるのも悪くないと思うよ。その方がモチベーションも上がるしね。』
「人殺すんだぞ……、やっぱお前サイコパスだわ…。」
『それがこの世界の常識なんだから受け入れなよ。ま、どちらにしろ慣れた方がやりやすいよね。実践って大事じゃん?』
「ーーー内容聞いてないけど断っていい?」
実践ということは、実際に臨場感をもって相手と戦うということだと思われる。なれていない裕希がいくら誰かと戦ったところで死ぬのは目に見えている。
『大丈夫。いつもみたいに君は私の動かしている体を味わうだけだから。』
「なるほどならまあいいか。」
『戦いの舞台は私の記憶の中ね。』
そう言われた直後、裕希の意識はふわっと池の奥底に沈んでいく石のごとく消えて、見えなくなった。
その石がしばらく見つからなくなるということも知らずに。




